「監査事務所検査結果事例集(令和6事務年度版)」の公表について
金融庁の公認会計士・監査審査会は、「監査事務所検査結果事例集(令和6事務年度版)」を、2024年7月19日に公表しました。
監査事務所の検査で確認された指摘事例等について、年次で取りまとめています(全205ページ)。全56ページの要約版もあります。
審査会検査の「傾向と対策」のためにどうぞ。
以下のような内容です。
監査事務所に求められる対応
取締役、監査役等、投資者等の皆様へ
Ⅰ.業務管理態勢編(根本原因の究明)
Ⅱ.品質管理態勢編
Ⅲ.個別監査業務編
Ⅳ.その他
以下、要約版から、「個別監査業務」に関する検査結果概要を抜き出しました。
1.財務諸表監査における不正
以下のような不備がみられる。
・実施した監査手続を通じて識別した通例でない又は予期せぬ関係が、不正による重要な虚偽表示リスク(以下、「不正リスク」という。)を示す可能性があるかどうかを十分に検討できていない。
・収益認識のうちリスクが特に高いと考える部分のみに不正リスクを識別し、その他の部分について十分な検討を行うことなく不正リスクはないとしている。
・収益認識の項目について不正リスクを識別していながらリスク対応手続が十分でない。
・経営者による内部統制の無効化に関係したリスクに対する監査手続が形式的な内容にとどまっている。
・通常の取引過程から外れた関連当事者との重要な取引や通例でない取引を識別していながら、不正の可能性を考慮した慎重な検討が実施されていない。
2.リスク評価及び評価したリスクへの対応
以下のような不備がみられる。
・被監査会社の会計方針を評価していない。
・重要な業務プロセスの内部統制を理解・評価していない。
・期中において被監査会社の企業環境や業績が悪化した場合などに、監査計画の修正について適切に検討していない。
・評価したリスクとリスク対応手続の適合性を検討していない。
・重要な虚偽表示リスクを識別しているにもかかわらず、実証手続を実施していない。
・情報システムやIT全般統制の理解を十分に行っていない。
・財務諸表の表示及び注記事項の妥当性を十分に検討していない。
3.監査証拠
過年度から引き続き以下のような不備が多数みられる。
・特別な検討を必要とするリスクを識別しながら、当該リスクに個別に対応する実証手続を実施していない。
・他の監査証拠との矛盾や異常点を識別しているにもかかわらず、追加的な監査手続の必要性を検討していない。
・分析的実証手続において、利用するデータの信頼性や推定値の精度の検討を実施していない。
・監査サンプリングにおいて、十分な数のサンプル抽出となっているか検討していない。
・特定項目抽出による試査において、母集団の残余部分に対する実証手続の要否を検討していない。
・被監査会社が作成した情報の信頼性を評価していない。
4.会計上の見積りの監査
幅広い会計上の見積りの監査において、以下のような不備が数多くみられる。
・監査基準報告書540の要求事項に対する理解が不足していたことにより、過年度の会計上の見積りの確定額の検討や経営者の見積方法の理解等のリスク評価手続を適切に実施していない。
・監査基準報告書540の要求事項に対する理解が不足していたことにより、また職業的懐疑心を十分に発揮していないことにより、経営者に対して企業環境等を質問するのみの定性的な評価にとどまり、会計上の見積りに利用された事業計画の実現可能性等、経営者が会計上の見積りを行う際に使用した見積手法、重要な仮定及びデータの適切性を検討する手続が不足している。
5.グループ監査
以下のような不備がみられる。
・構成単位の監査人による監査結果を過度に信頼し、十分に評価することなく利用している。
・構成単位の財務諸表に特別な検討を必要とするリスクが含まれる可能性を考慮していないなど、グループ監査チームとして十分なリスク評価を実施していない。
・構成単位の監査人が実施すべき監査手続を明確に伝達していないなど、構成単位の監査人とのコミュニケーションが不十分。
・連結プロセスや連結仕訳を検討していない。
6.専門家の業務の利用
以下のような不備がみられる。
・専門知識が必要な場合において、専門家の業務を利用する必要性について検討していない。
・専門家の作業結果を過度に信頼し、十分に評価することなく依拠している。
・監査チームと専門家との間で、利用する業務の範囲や目的についてのコミュニケーションが不十分。
・利用した専門家の業務の適切性の評価が不十分。
7.財務報告に係る内部統制の監査
以下のような不備がみられる。
・内部統制の評価範囲の妥当性、内部監査人等の能力及び独立性の評価、サンプルの妥当性、評価方法等の妥当性を検証することなく、被監査会社の内部統制の評価結果を利用している。
・被監査会社に、新規ビジネスの開始等の環境の変化が生じている中、内部統制監査上の対応が形式的なものにとどまっている。
・内部監査人等の作業を利用する際、特別な検討を必要とするリスクに関連するプロセスでありながら監査人自らが実施する作業範囲の拡大の必要性を検討していない。
・財務諸表監査の過程で発見した不備について開示すべき重要な不備に該当するかを検討していない。
・不備の改善状況を具体的に示す監査証拠を入手していない。
8.監査上の主要な検討事項(KAM)
以下のような不備がみられる。
・KAMに記載された財務諸表における注記事項への参照が不正確。
・KAMに記載した監査上の対応のうち、一部の手続を実施していない。