週刊経営財務の8月3日号にASBJの前委員長と現委員長の対談記事が掲載されていました。そのうち、IASBにおける金融商品会計基準見直しに関する部分が興味深かったので紹介します。(OCI=その他包括利益)
「本誌 金融商品会計の動向については、いかがでしょうか。
斉藤教授 金融商品会計の問題は、リサイクルという概念がキーワードだと思います。株式を公正価値評価して評価益や評価損をOCIとしたときには、リサイクルさせないという話ですが、たとえば事業提携などで株式を保有するときは、株式の保有に伴うコストが生じます。事業提携の成果は営業の利益に含まれますが、その成果をあげるのに株式を保有する以上、保有している間に株価が下がった分は投資のコストになりますね。株価が上がれば、コストがマイナスだったということです。それがOCIに行ったまま純利益に戻らないということは、コストの一部がどこかに消えたまま成果だけが出ている状態です。どの期のコストかは決められませんが、清算時にまとめて調整されるべきものでしょう。」
「西川委員長 ・・・一つ一つの基準開発で積み重ねていく中で、アメリカでOCIをリサイクルさせていないものは一つとしてない。日本も同じような状況だと思います。それに対して、IASBがOCIをリサイクルさせていないのは、再評価とか退職給付の一部に選択処理としてあります。それは、ほとんどの国で使っていない処理です。ですから、少なくともよほど新しい考え方が出てこない限りは、OCIをリサイクルさせておかないと、財務報告の根本の仕組みに相当な影響を与えるのではないかと懸念しています。・・・」
国際会計基準の改正案は、債券については満期保有という条件をなくし、償却原価法を適用する範囲を広くする一方で、株式などの持分証券については時価評価(評価損益は損益計算書を通す)を原則としています。ただし、トレーディング目的でないものは、評価損益、売却損益、受取配当金について、損益計算書を通さず、直接その他の包括利益にもっていく(日本基準的にいえば資本直入する)方法も認めており、その場合、いわゆるリサイクルは行いません(したがって売却損益の計上や減損処理はなくなる)。
新旧の委員長は、リサイクルをしないという点を特に問題視しています。これは損益計算書のボトムラインである「純利益」を重視しているからでしょう。評価損益をその他包括利益に(一時的に)もっていくこと自体には反対していないようです。
一方で、「その他包括利益」自体に対する批判的な見方もあります。
企業会計2009年8月号「国際財務報告基準のアドプションと会計教育・研究に対する影響」(IASB理事・スタンフォード大学教授 メアリー・バース)より
「最後に、「その他の包括利益」を支える概念は存在しないということを強調したい。その他の包括利益項目は、過去の基準設定者が、主に政治的な理由によって、損益計算書に含むことができずにかわりに資本の部に含むことにしたものにすぎない。
それらの項目にかけられている圧力の形が似ているために、多くの項目が共通した性質を有していることは事実である。たとえば多くの項目は価値変動に関する項目である。多くの人々がそれらの項目を含めることにより、利益の変動率が大きくなりすぎるからと考えたため、資本とされるようになった。
しかし、仮に概念として価値変動が付随する項目が、その他の包括利益項目に該当するのであれば、それら全ての項目が含まれなければならないが、明らかにそのような事実は存在しない。多くの価値変動項目は損益計算書に含められている。であるから、価値変動に関する項目が、その他の包括利益を支える概念とはなり得ない。その他の包括利益を支える概念などは存在しない。それらに関する探求は、明らかに実りある作業とはいえないであろう。」
今回の改正案などはまさに「政治的な理由」で、評価損益などを損益計算書からはずしたものといえるのでしょう。時価評価という原則は守りつつ、減損処理による損益の変動をなくすこともできる、しかも、包括利益重視という立場からは、その他包括利益できちんと開示されているのだから文句は出ないはず、ということなのかもしれません。
このように理論的にはおかしいのかもしれませんが、前にも書いたように、減損処理の判断で悩む必要はなくなるなど、実務的なメリットはあります。最終的にどうなるのか注目したい論点です。
それにしても、なぜ「サプライズ」対談と銘打っているのでしょうか。前委員長と現委員長が対談するのは、常識的に考えれば、全く普通のことだと思うのですが・・・。全体を読んでみても、あまり意見の相違は感じられませんでした。
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