日本公認会計士協会は、経営研究調査会研究報告第65号「近年の不正調査に関する課題と提言」を、2019年7月2日付で公表しました。
「不正調査業務において、「不正調査ガイドライン」が不正調査人に十分尊重されていない事例もあると思われる」とのことで、「アンケート調査結果や公表物等を参考にしつつ、「問題がある不正調査」に関する課題が分かるように事例を創作し、提言として解説」したものです。
(「不正調査ガイドライン」:2013年公表の経営研究調査会研究報告第 51 号)
背景としては...
「残念なことに公認会計士が実施する不正調査業務において、「不正調査ガイドライン」が十分に尊重されず、独立性・中立性等のない者が第三者委員等と名乗り不正調査を請け負う事例、経営者の意向に沿う余り重要な不正事実を隠蔽する事例、火事場泥棒のように過剰な調査の対価として高額な報酬の請求が行われる事例など、不正調査人の側にも問題がある事例が報じられることもあるようである。 」(報告書1ページ)
18件の事例を取り上げて解説しています。事例を読むだけでも、雰囲気はわかります。
そのうちのいくつかをピックアップしました。
「事例1-1 第三者委員会の独立性・中立性等の欠如
上場会社A社において、役員の関与が疑われる会計不正が発覚した。この会計不正に関し、同社の役員は、自身の誠実性をステークホルダーに示すため、第三者委員会を組成することとし、その委員として、長年会計コンサルティング業務を依頼してきたB会計事務所の公認会計士を選任した。これを受け、当該公認会計士は第三者委員会の委員になることを受嘱した。 」
「事例1-3 不正調査の範囲の縮小
D社の外部調査委員に任命された不正調査人及び当該不正調査人が所属する会計事務所(調査補助者を担当)は、不正調査の依頼者である経営者から調査範囲を限定してほしいという不当な圧力を受けた。その結果、多額の報酬と引換えに、不正調査の範囲を不当に狭め、D社の現経営者に責任が及ばないように配慮した。 」
「事例1-4 不正調査の限界の理解
不正調査人E氏は、日頃から不正調査の専門家であることを吹聴している。不正調査人E氏は自身の能力を過信し、不正の発見を確約して企業から不正調査業務を受嘱したものの、結局、不正は発見できなかった。 」
「事例1-7-1 不適切な計画管理
I社から不正調査の打診を受けたJ会計事務所は、事案の複雑性に比して報告期限が近い案件で、かつ、不正調査の経験豊富な人員が他の案件対応のため関与できない状況であったにもかかわらず、若手に経験を積ませたいと考えて当該不正調査を受嘱したため、若手の不正調査チームは試行錯誤しながら不正調査を実施することになった。結果、報告書の提出期限に間に合わず、I社の適時開示は延期されることになった。 」
「事例1-8 不正調査の範囲の決定
M社は、子会社N社で粉飾決算が発覚したため、不正調査を実施した。しかしながら翌期、同じく子会社であるO社にて子会社N社と同様の手口の粉飾決算が発覚した。子会社N社の不正調査を担当した不正調査人P会計事務所の報告書を改めて確認すると、調査範囲の決定につき、「子会社N社に対して徹底的に調査をした」と記載があるのみであった。子会社O社の不正調査は、別の不正調査人を選任することになった。 」
「事例2-1 インタビューの結果に過度に依存した結論付け
T会計事務所は、インタビュー対象者を選定するに当たり、調査委員であるS社役員によりインタビュー候補者を通知され、これに従ってインタビューを実施し、その結果のみに基づいて不正行為はない旨結論付けた。
これに対し、U会計事務所の調査においては、インタビューのみならず、書類の査閲・分析、取引先に対する反面調査等の調査手続を追加で実施した結果、実態を解明することができ、不正行為の特定に至った。」
「事例3-4 不正実行者の実名が公表されたケース
会計不正が発覚したY社の経営者は、第三者委員会から調査報告書を受領した後、非開示措置を施すことなく原文をそのまま公表した。調査報告書には、不正関与者であるZ氏の名前が実名で記載されていたため、Z氏はマスコミに追われ、自身のプライベートや親族のプライベートにまで重大な支障を来すこととなった。 」
添付資料も含めて、全36ページです。
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