会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

「令和元事務年度監査事務所等モニタリング基本計画」の策定について(金融庁)

「令和元事務年度監査事務所等モニタリング基本計画」の策定について

金融庁の公認会計士・監査審査会は、「令和元事務年度監査事務所等モニタリング基本計画」を、2019年7月5日に公表しました。

以下のような内容の10ページ強の文書です。

1 監査事務所をめぐる環境
2 令和元事務年度監査事務所等モニタリング基本計画の考え方
3 オフサイト・モニタリングに係る基本計画
4 検査基本計画
5 モニタリング情報の提供

1の「環境」では、業界の動向についてまずふれています。

「我が国の景気は、輸出や生産の弱さが続いているものの、緩やかに回復している。平成 30 年における金融商品取引所の新規上場会社数は 90 社と引き続き高水準で推移しており、上場会社数や上場会社の平均監査報酬額も微増とはいえ増加傾向にある。

上場会社の会計監査は、公認会計士又は監査法人(以下「監査事務所」という。)が行うが、大手監査法人が9割超(平成 30 年末時価総額ベース)と圧倒的なシェアを占めている状況にある。最近の監査人の交代状況をみると、交代件数は増加の傾向にあるが、その中で大手監査法人における監査関与先の構成の見直しや、それに伴う大手監査法人から準大手監査法人や中小規模監査事務所 への交代の動きがみられている。

また、高水準が続く M&A や、企業の海外進出、経済取引の複雑化・専門化などに対応して、大手監査法人においては、国際人材の確保・育成、IT・テクノロジーの活用、監査補助者の採用強化などを一層進めている。他方で、最近の海外経済の不確実性の高まりを受けた不安定な経済環境、我が国の低金利環境の長期化や人口動態の変化などによる企業収益への影響等に関して、適切に理解したうえで監査対応が求められる状況にある。」

「低金利」をマイナス要因に挙げているというのは、銀行を意識しているのでしょう。普通の企業にとっては、低金利はプラス要因のはずです。

不正会計等への対応については...

「ここ数年、不適切な会計処理等に関する適時開示を行った上場会社は増加の傾向にある。これは上場会社において適時に情報開示を行うという意識が高くなっているほか、監査人からの指摘によるものもあると考えられるが、会社の内部統制が十分に機能していない事例や、海外を含むグループ会社に対する管理が十分でない事例もみられている。

財務諸表の作成責任及び内部統制の整備・運用責任は経営者にあることは当然である。監査事務所においても、被監査会社の内部統制を評価する際には、海外事業を含めた事業の特性や企業の置かれた環境を深く理解した監査手続の実施が一層重要となっているほか、内部統制の不備を発見した場合には、被監査会社に適時に報告することが求められる。 」

品質管理については...

「最近の検査の結果をみると、大手監査法人については、品質管理の主体を本部品質管理部門から、より監査現場に近い事業部へ移していく傾向にあり、一定の効果を挙げているが、本部品質管理部門と事業部との十分な連携等が課題となっている。」

IT化やセキュリティについて...

「大手監査法人を中心に、監査の品質の確保・向上のため、監査業務の IT 化を一層進めており、このような動きは監査業務の実効性の確保だけではなく、効率性の向上による監査現場の負担軽減等につながり、リスクのある領域に対する深度ある監査の実現に資するものとして期待される。

一方で、上記の動きや、被監査会社とのデータの交換が進んでいく中、海外において監査法人が保有するデータ等を標的としたサイバー攻撃による被害の事例も発生している。サイバーセキュリティ問題は監査法人にとって経営上の大きなリスクとなっており、IT化の進展に併せて、サイバーセキュリティの強化を確実に行っていく必要がある。」

海外監査事務所におけるサイバー攻撃の事例というのは、あまり報じられていないように思われますが...

海外で問題となっている監査部門と非監査部門の関係などについては、重視していない模様です。

2の基本計画の考え方では、海外子会社への監査や監査人交代についてふれています。

「上場会社においては、国内市場の成熟化に伴い成長の源泉を海外の事業展開に求めている中、海外子会社における会計問題が引き続き発生している。こうした状況を踏まえ、海外子会社に係るグループ監査については、監査チームによる海外事業の管理態勢を含む内部統制の評価海外子会社の監査チームとのコミュニケーション及び監査事務所の組織的な対応状況などについても、重点的に把握する。」

「近時、監査人を交代する事例が多くみられるため、大規模上場会社又はリスクの高いと思われる上場会社の監査契約を新規に締結した監査事務所において、当該監査契約に係るリスク評価等が適切に行われているか検証するほか、当該監査契約が監査事務所全体の監査品質に及ぼす影響も把握する。」

「環境」でもふれていますが、IT化やセキュリティについて、見るといっています。大手監査法人が宣伝しているとおりの実態なのか、よく調べてほしいものです。

「大手監査法人や一部の準大手監査法人では、加盟するグローバルネットワークが IT 化の研究開発等を一括して行うことにより投資の効率化やメンバーの負担の軽減を図っている。また、被監査会社の会計処理に係る仕訳データの分析や、監査事務所と被監査会社とのデータ交換について IT を活用するなど、監査業務の IT 化が進展している。さらに、一部の大手監査法人では、試験的に人工知能(AI)を監査手続に活用する取組も始まっている。

このような動きは監査の品質の確保・向上を目指すものと考えられるため、その進展状況を大手監査法人等へのモニタリングにより継続して把握する。あわせて、IT 化の進展に伴うサイバーセキュリティ対策の状況を確認することとし、監査手法の深化、複雑化に応じた、人材の確保・育成ができて把握することとする。 」

3の「オフサイト・モニタリング」では、特に金融機関の監査について、情報収集するようです(金融以外の業種についてはふれていない)。

「監査業務において高度な専門知識や IT の理解等を要する上場金融機関に対する監査態勢や審査態勢等の実態把握を行う。 」

協会の行うレビューとの関係については...

「審査会と協会は、審査会検査と協会の品質管理レビューとの適切な役割分担に関して、大手監査法人に対する品質管理レビューの在り方や中小規模監査事務所に対する協会の指導・監督機能の充実等を中心に議論を行っている。」

また、監査事務所に対しては「監査事務所自らが開示する品質管理に係る情報の一層の充実や、積極的な情報発信を促すこととする」と、情報開示の充実を求めています。

「4 検査基本計画」では、大手、準大手、中小に分けて、重点検証項目を示しています。

そのうち大手については...

「・トップを含む経営層の品質管理に係る認識や対応及びそれらが監査事務所の業務管理態勢や品質管理態勢に与える影響等の検証

・監査法人のガバナンス・コードを踏まえて構築・強化した態勢(特に監督・評価機関)について、監査事務所の品質管理の確保・向上に資するものとなっているかの観点から、その実効性の検証。

・監査現場まで品質管理を浸透させているかの観点から、監査事務所の業務管理態勢、特に本部品質管理部門と各事業部等との連携の状況の検証

・監査契約の新規の締結手続(特に大規模上場会社及びリスクの高いと思われる上場会社に係るもの)の適正性、大規模上場会社に関する監査契約の新規の締結等に伴う監査実施体制の編成が、監査事務所全体の監査品質に及ぼす影響の検証

・経営者等とのディスカッション及び監査役等とのコミュニケーションの状況の検証

・海外事業を含めた企業の内部統制の評価、海外子会社を含むグループ監査の状況の検証

・財務諸表監査における内部統制の評価及び内部統制監査の状況、監査における不正リスク対応基準の運用状況を含む不正リスクへの対応状況の検証

・グローバルネットワークによる監視活動への対応状況の検証」

関連報道。

地銀への外部監査を検証、大手監査法人に報告命令へ=監査審査会(朝日)

「昨事務年度は監査法人の経営管理体制などの報告を求めていたが、今事務年度は上場金融機関の監査体制についての報告を追加する。

背景には、低金利の持続などで収益環境が厳しさを増す地銀に対して監査が適正に行われているかとの懸念がある。監査審査会は、大手監査法人の本部が地方事務所に監査業務を任せ切りにしていないか、本部が地方事務所を統制し、監査の質を維持できているか検証する。」

外部監査の面からも地銀への締め付けを強めようということでしょう。会計監査を銀行検査の下請けに使うなといいたいところですが...

具体的には、大手監査法人の地方事務所がやっている地銀監査について、繰延税金資産の回収可能性、店舗やシステムの減損会計、ちょっとあやしい海外金融商品の評価などの監査手続が甘ければ、がつんと指導し、その一罰百戒効果で、地銀の監査全体を厳しくしていこうということなのかもしれません。その結果、統合や整理に追い込まれる地銀が出てきても、監査法人の責任にすることができます。
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