ルートヴィヒ美術館展
20世紀美術の軌跡 市民が創った珠玉のコレクション
2022年6月29日〜9月26日
国立新美術館
ドイツ・ケルンに所在するルートヴィヒ美術館のコレクション152点(うち10点は京都会場限り)で辿る「20世紀美術の軌跡」。
【本展の構成】
序 ルートヴィヒ美術館とその支援者たち
1 ドイツ・モダニズム
新たな芸術表現を求めて
2 ロシア・アヴァンギャルド
芸術における革命的革新
3 ピカソとその周辺
色と形の解放
4 シュルレアリスムから抽象へ
大戦後のヨーロッパとアメリカ
5 ポップ・アートと日常のリアリティ
6 前衛芸術の諸相
1960年代を中心に
7 拡張する芸術
1970年代から今日まで
ドイツの美術館なのだから、期待はやっぱり、ドイツ近代美術。表現主義や新即物主義!
本展では、第1章「ドイツ・モダニズム」がそれら作品に充てられている。
1作家1作品を基本として、絵画が18作家19点、彫刻が5作家5作品、版画1作家1点。
(プラス、写真21点がある。)
【第1章の絵画・彫刻・版画の出品】
絵画:18作家19点
パウラ・モーダーゾーン=ベッカー
マックス・ペヒシュタイン
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー
エーリヒ・ヘッケル
カール・シュミット=ロットルフ
アクセレイ・フォン・ヤウレンスキー
マリア・マルク
フランツ・マルク
アウグスト・マッケ
オスカー・ココシュカ
ジョージ・グロス
オットー・ディクス
マックス・ベックマン(2点)
パウル・クレー
ワリシー・カンディンスキー
パウル・アドルフ・ゼーハウス
ハインリヒ・ヘーレ
ヴィリ・バウマイスター
彫刻 5作家5点
ヴィルヘルム・レームブルック
レネ・ジンテニス
エーヴァルト・マタレ
エルンスト・バルラハ
ケーテ・コルヴィッツ
版画 1作家1点
オットー・ミュラー
主要な作家はほぼ網羅している印象。
エミール・ノルデの名が見当たらないくらいか。
初めて名を知る作家も3割ほど。
ドイツ・モダニズムの作家の油彩画を見る機会は、クレーやカンディンスキーなどを除けば、非常に限定的。
まとまった数の作品を見る機会というと、私が見た範囲では、2016-17年の上野の森美術館「デトロイト美術館展」以来。
今回は、それを大きく上回る数の、かつて「退廃」とされたことのあるドイツの作家の作品が、1つの展示室にて、四方から鑑賞者を取り囲む。貴重な鑑賞機会。
だからこそ、オットー・ミュラーの油彩画がないこと(代わりに版画の出品)が、非常に残念。
第2章「ロシア・アヴァンギャルド」
第1章と比べると、展示作品数は少なくなるが、これも貴重な鑑賞機会。
カジミール・マレーヴィチ《スプレムス38番》は実に素晴らしいし、ナターリヤ・ゴンチャローワ《オレンジ売り》も面白い。
第3章「ピカソとその周辺」
私的には、まずアメデオ・モディリアーニ《アルジェリアの女》。
大阪で回顧展を見て間もないタイミングで、また別の作品を見ることができて嬉しい。
見応えがあるのは、パブロ・ピカソ《アンティチョークを持つ女》。
195×133cmと大型の作品。
制作時期は1941年。
会場内解説では、本作品の不穏な雰囲気に着目し、1937年制作の《ゲルニカ》や、中世の打撃用の武器モルゲンシュテルン(アンティチョークがそれに見える旨)の名を出すなど、戦争との関係が示唆されている。
第4章〜第7章
20世紀後半以降の現代美術。
この辺りは疎いながらも、次の作品などを楽しむ。
第4章:ウィレム・デ・クーニング
第5章:アンディ・ウォーホルほかのポップ・アートとリチャード・エステスのスーパーリアリズム絵画
第6章:ギュンター・ユッカーの大量の釘をカンヴァスに打ちつけた作品
私的には、第1章「ドイツ・モダニズム」を堪能する展覧会となる。
ドイツ・モダニズムの作品の多くは、ケルンの弁護士ヨーゼフ・ハウプリヒに由来するという。
氏は、1923年からドイツ近代美術の収集を本格的に始める。第二次世界大戦中も、ナチが退廃芸術としてドイツの公立美術館から没収した作品をナチの御用画商から購入するなど細々と収集を続ける。戦後すぐの1946年、ケルン市に寄贈する。
ケルン市立ヴァルラフ=リヒャルツ美術館に所蔵されていたが、1987年のルートヴィヒ美術館の開館に伴い、氏のコレクションを含む1900年以降の作品についてはルートヴィヒ美術館に移管される。
アウグスト・ザンダー
《菓子職人》1929年
ドイツの写真家ザンダー(1876-1964)による、あらゆる階層や職業の人々の肖像写真にてドイツ社会を包括的に描き出そうとしたプロジェクト「20世紀の人間たち」からの1枚。
写真家は新即物主義の作家たちと親交があり、写真における新即物主義の実践として本プロジェクトを始めるが、社会情勢の激変もあって未完に終わる。