西村悠史の手記は、愛娘・頼子が殺されたことがきっかけで書き始められていた.
警察の通り魔犯行説に疑念を抱き、自らの手で犯人にを突き止め、真犯人の胸にナイフを突き刺し復讐を遂げる一部始終が克明に書き留められていた.
本懐を果たした父親は、覚悟の自殺を決行する.
この手記に疑念を抱いた探偵・法月綸太郎は独自に調査を開始する.調査を始めていくと様々な事実が発覚し、それにあわせて手記の綻びが一つ一つ焙り出されてくる.そしてことの発端が14年前に西村一家を襲った交通事故に辿り着いた.
読み始めて直ぐに引き込まれてしまった.だいたい1冊1週間以上で読了するペースが、2日間で読み終えてしまった.
この作品は、いわゆる「新本格派」の多くに見られる突拍子もないトリックや大仕掛けの建造物は一切出てこない.密室もなければ叙述もない.人間関係の複雑さもない.あるのは登場人物各々の心理的葛藤と駆け引き、人間の表と裏、そして心の奥底に眠るドロドロとした、いやオドロオドロシイ屈折した愛.
法月綸太郎は事件を解決するためにトリックを見破るのではない.
彼は人間の心を紐解くのだ.