goo blog サービス終了のお知らせ 
goo

舞田十一

ミステリー系作家さんだけど、
タイトルから本格でないのは想像出来る。



=============================
焼け跡から金貸しの老婆の死体が発見された。
体には十数ヵ所の刺し傷があり、焼け残った金庫からは
お金も債務者の記録も消えていた!
事件を捜査する浜倉中央署の刑事・舞田歳三。
彼にはゲームとダンスが好きな11歳の姪・ひとみがいた。
行き詰まった事件の謎を、彼女の何気ない言葉が解決へと導く。
キャラクターの魅力と本格推理の醍醐味が詰まった傑作推理小説。
=============================

タイトルが内容に全く合っていないんだなぁ・・・。
この表紙絵、タイトルなら「ひとみ」が主人公と思いきや、
主人公は浜倉中央署の刑事である叔父の舞田歳三(としみ)。

独身の歳三は仕事終わりに兄・理一の家にしばしば立ち寄る。
離婚し父娘生活を送る兄は仕事が忙しく帰宅時間もまばら。
そんな兄が帰宅するまでの時間を姪のひとみの相手をして過ごす。

理一が帰宅し、ビール片手に雑談を交わしていると、
ついつい事件の話題や捜査の進展が口に出てしまう。
そんな大人の会話に意味ありげな言葉で参戦するひとみだが、
就寝時間だと言いくるめられ、すごすごと自室へ退散する。

そのひとみの何気ない言葉に勘を働かせ、
歳三は事件の真相に近づいて行くという・・・微妙な展開。
タイトルにあるとおりダンス趣味もあるけれど、
そこまで本格的に描かれている訳でもなく、
ときどき探偵という「探偵ぶり」もほとんど出てこない。

ミステリー仕立ての連作短編形式だけど、
全体的に軽い感じで、物事の真相明かしもライト。
想像していたのとまるで異なる内容でがっかりしたけど、
この続きとなる14歳のものも確保済みなんだよなぁ・・・
読みやすい事は読みやすいので続けて読んでしまおう。
ほんの微かな期待をこめて・・・
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

僕僕隠事

このシリーズも5巻目。
前作を読み終えてから間があいてしまっているのと、
その間に「千里伝シリーズ」を続けて読んでいる事もあって、
ちょっと読み始めは混乱してしまった。



=============================
ボクはラクスの妻になることにしたよ・・・。
蛮族と蔑まれ、虐げられる人々にとっての理想郷・ラクシア。
その国を治める英雄王の突然の求婚に、僕僕が応じてしまった。
王弁は混乱するが、劉欣の助力を得て、光の国の謎に迫る。
明かされる僕僕とラクスの関係。秘められた過去。
先生、俺とあなたの旅は、ここで終わりですか…?
急転直下のシリーズ第五弾!
=============================

蚕嬢たちの呪いも解け、峰麓両国は活気を取り戻す。
そんな仲、蚕嬢こと碧水晶と茶風森の結婚が決まるのだが、
そのめでたい婚礼の席に突然「理想郷」の使者が現れる。

僕僕の意向で一行が立ち寄ったのは理想郷・ラクシア。
若き王「ラクス」が導くすべてが平等で諍いが存在しない国。
そこかしこに漂う不自然な空気に警戒する王弁だったが、
肝心の僕僕はラクスの言葉に賛同をみせている・・・

ラクスの招待を受け、僕僕が留守になる中、
王弁たちは個々にこの国の謎を解明しようと調査するのだが、
ラクスの求婚に僕僕が応じたことが分かって意気消沈する王弁。

失意の王弁を残し、劉欣は黙々と調査を進め、
やがてラクシアに潜む「影」に気付くのだった。
旅の途中で知り合った蒼芽香と薄妃は、住民の衣服に注目し、
同じ衣服を纏うラクシアの女性たちのために、蚕嬢から授かった糸で、
綺麗な衣を作って女性達に配り好評を得るのだが、
やがてラクスの手下たちの横槍が入ることになる。

新婚の師匠に愛想をつかし、気力を失った王弁だったが、
劉欣の報告を受け、背中を押され、自分なりの行動を起こし、
理想郷の陰に潜む汚い部分に足を突っ込む事になっていく。


王弁の隠れた魅力・才能が生かされ、
あいかわらずのグジグジっぷりも健在。
僕僕の婚姻という衝撃的な流れもびっくりだけど、
そこに僕僕の秘められた過去の一端が垣間みられる。
謎多き仙人の真の目的が何なのかは、
まだまだ先の事になりそうな気がします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

光媒蝶話

この作家さんのホラー系以外は古本屋で見つけ次第確保。
薄めの本で連作短編ということもあってサクッと読了。



=============================
一匹の白い蝶がそっと見守るのは、光と影に満ちた人間の世界。
認知症の母とひっそり暮らす男の、遠い夏の秘密。
幼い兄妹が、小さな手で犯した闇夜の罪。
心通わせた少女のため、少年が口にした淡い約束…。
心の奥に押し込めた、冷たい哀しみの風景を、
やがて暖かな光が包み込んでいく。すべてが繋がり合うような、
儚くも美しい世界を描いた全6章の連作群像劇
=============================

一章に出てきた少年が二章の主人公になっていたり、
そこに出てきた兄妹と関わる中年男が三章の主人公になっていたり、
その中年男が幼い頃に恋した女性が四章の主人公になっていたり、
四章で軽く描写される場面が五章で出てきて六章にも繋がる。

それぞれが独立した1つの物語でありつつも、
人物の繫がりが意図的に巡らされ、階層が広がっている。
そういう趣向に凝った連作短編として面白味があるのだが、
楽しめたわりに記憶に残りにくい印象も残った物語。

いつものように読者に勘違いさせる流れはあるけれど、
長編の時のような騙された感は弱い感じ。

薄めの一冊なので、気楽に読めるのはいいけど、
この作家さんは長編もののほうが好きだなぁ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

能力兄弟

続編にあたるモダンタイムズを読み終え、
前作の記憶がほとんど無かったことで再読してみた。



=============================
会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。
念じれば相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、
その能力を携えて、一人の男に近づいていった。
五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、
何気ない日常生活に流されることの危うさ。
新たなる小説の可能性を追求した物語。
=============================

「魔王」と「呼吸」の連作二編が納められている。

「魔王」では兄・安藤が自分の思ったことを
相手に言わせる事が出来る「腹話術」能力に気づき、
その能力をつかうべく世間を賑わせている国会議員に近づく。
演説現場を訪れた安藤は能力を放とうとするのだが、
その議員の側近に別の力を持つ能力者がいて・・・

「呼吸」は前作の5年後の話。
安藤の弟・潤也とその恋人・詩織の物語。
仙台に移住し猛禽類の調査をする仕事をする潤也は、
兄の死後、自分にある能力が芽生えている事を知る。

数年ぶりに再読したけど、やはり記憶に残りにくい印象だった。
主人公の兄弟が能力を使って何かをするわけでもなく、
(多少の何かはするけど、大きく物語を動かすことはない)
誰が 何のために 何をして どうなったか 
そういうのを説明しにくい物語なのかもしれない。

いろいろ会話を通して考えさせられるような事も挙がるけど、
それが決定的な核となっているかといえば微妙で、
人それぞれの受け止め方で色合いが変わるような感じ。

本作の「?」な部分がモダンタイムズでは描かれていたし、
登場人物が魅力的で面白かった。本作は再読してなお微妙な印象。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

迷働偽者

主婦復讐物語が読みやすくて面白かったので、
別作品にも興味の矢印を向けて数冊確保。
ちょうど仕事が忙しい時期もあって、
タイトルに背中を押されつつ励み、就寝前に読み続けた。



=============================
ヤクザに借金返済を迫られていた三川哲司は、
電車の中で中学時代の同級生だった伊部に偶然出会う。
これから入社する会社に嫌気がさしていた伊部。
彼とうりふたつだった三川は、代わりにその会社で働くことに。
しかし、入社した会社では派閥争いがあり、
リストラが行われようとしていて、新入社員はお荷物扱いだった。
伊部と偽って会社に職を得た三川だったが、
知略と要領の良さを発揮して、続々と大きな仕事をものにしていく。
実家が裕福な伊部とは口裏を合わせて、順調にいくかに見えた
偽会社員生活だったが。読むと仕事をするのが楽しくなる小説。
=============================

高校卒業後、実家の塗装業を手伝い始めたものの、
地味な作業と客への応対に嫌気がさし家出した三川哲司。
職を転々とし、気儘なフリーター生活を送っていたのだが、
賭博の借金を抱えてヤクザに追い込みをかけられて夜逃げ寸前。

持ち金も微々たる有様で、運も底をついたかに思えたが、
たまたま乗った電車で懐かしい顔を発見する。
中学時代の同級生である伊部は、なんとなく自分に似た面立ちで、
当時もよく間違えられたりしたこともあって親近感があった。

そんな伊部に話しかけ、場所を変えて近況を話していると、
彼は有名大学を卒業後、大手会社のエリートコースを歩むものの、
得意にしていた経理から営業に回されたことで人間関係に苦しみ、
精神に変調をきたして退職したのだという。
父親のコネで新しい会社への再就職が決まっているのだが、
そこでも営業をやらされるらしくノイローゼ状態だった。


三川はそんな伊部の替え玉となって就職することを提案する。
幸いにも昔から面立ちが似ていると言われてきた仲、
おそらく就職先も替え玉だと気づかないに違いない・・・。
三川の調子のいい話は伊部にとっても有り難い話だった。
親の顔を潰さず、自分の精神療養も出来る。
そんなこんなで三川は伊部のマンションに住み込み、
彼のスーツを着込んで意気揚々と就職先に出社する。

とりあえず働けば給料がもらえる。給料が出れば借金が返せる。
窮地に追い込まれた現状に光明が射したかに思えたが、
職場は業績不振でリストラが行われようとしていた。
コネ入社は伊部の父親の面子を立てただけの処置であって、
早々に退職を迫られることになると告げられてしまう。

この現状を打破するには大口契約を取ってくるしか方法は無い。
職を転々とし、綱渡り生活をつづけてきた三川は、
会社が契約を断られつづけている企業の常務宅を調べ、
入念な計画の元に、奥様が運転する車に轢かれようとするのだが、
その日は別の誰かが運転して、ひき逃げされてしまう。
しかし、その一部始終を見ていた通行人の通報や証言があり、
その事故はちょっとした騒ぎになっていた。

病院に運ばれたものの特に目立った怪我もない三川の前に、
常務本人が憔悴し切った表情でお詫びに訪れた。
車を運転していたのは彼の息子なのだという。
息子の未来を思う親心を切に語り始める相手に、
軽い口調で自分の事情をさりげなく話しつつ、
相手の非を何とも思っていない懐の深さを示す三川。

どっちみち自分はリストラされる身という三川の言葉に、
常務は大口の発注を約束し、息子を許して欲しいと言う。
リストラ対象の馬の骨新人がいきなり大口契約を受注し、
社内での三川の立ち位置が少しずつ変わっていく。


三川はいつか伊部が不調を脱して入れ替わる時を想定し、
社内で起きた事、自分が行動したことの詳細を伊部に語る。
三川の飄々とした振る舞いに、伊部もアイデアを出し始め、
大胆な発想は三川が、緻密な駆け引きの策は伊部が考えていく。
そんな2人が敬愛するミュージシャンの歌詞の一節が、
2人にとっての啓示となり、大胆な発想が芽生えていく。

社長が愛人と揉めているという噂を聞くと、
愛人の元を訪れて、示談交渉を取りはからい解決する。
その際に自分の借金もその示談金に含めて絡めとり、
三川はヤクザを呼びつけ借金を全て払い終え、
晴れて自由の身になる。社内での評価も急上昇し、
役員達の相談にも乗るようになっていく・・・。

すべての社員の心を掴み、居場所を確保した三川だったが、
ついにその時がやってきた。伊部の父親が訪れたのだ。
三川は自分が替え玉である事を伊部父と役員に告げ、
退社を申し出、代わりに伊部を社員にするよう取りはからう。
常に社内の事を聞かされていた伊部も仕事の面白さに目覚め、
三川の代わりに会社で働くことを決意する。

退職した三川はかつて飛び出した実家へ戻り、
父親に詫び、塗装業を継ぐ意志を示して働き始める。
三川は伊部とともに奮闘した日々を財産として、
精力的に動き回り、実家の塗装業を盛り上げていく。
そして彼が生み出した画期的な製法が注目を浴び・・・



経営不振を脱却する一番の解決方法は売り上げを伸ばす事。
リストラ第一候補の新人・三川は現状打破のために、
捨て身の知略・策略を巡らせ大胆な行動に出る。
それが次々と上手く行ってしまうサクセスストーリー。

命の危険や生活の窮状が迫っている事もあるし、
替え玉という気楽さも相まって三川は躊躇せずに、
どんどん相手の懐に踏み込んで知略&話術を披露し、
会社の利益とともに自分の地位を確立させていく。

トントン拍子に成り上がっていく様子が分かりやすいし、
ちょっと反則的な展開も多かったりするけれど、
どうしたら相手と自分に利益がもたらされるかっていうのは、
ビジネスの基本でもあるわけで、その点は魅力的である。

やがて嘘がバレ、地位が無くなってしまうけど、
様々な経験が三川の肉となって残っているから、
実家の塗装屋に戻ってもやることは一緒。
そしてその熱意が波紋を広げて何かが起きる。
仕事とはそういうものであってほしいなぁ・・・。

そんな風に思いつつ、トントン表紙の今作と、
先に読んだ主婦復讐物語と足して二で割ったのが、
世の中なんだろうな~と現実に戻される。

分かりやすい展開で読みやすいので、
とりあえずこの作家さんの作品は次々読んでみたい。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

復讐黴女

下のイラスト表紙デザインではなく、
カバー表紙として写真がデザインされているものを見かけ、
その表紙構成とタイトルに惹かれて手を伸ばした。
(そのカバー写真は歌手の福山が撮影した写真だった)



=============================
幼稚園の送り迎えでの些細なトラブル、
ねちっこく繰り返される姑のいやみ、飲食店員の態度。
日日の怒りを呑み込み、波風を立てずに生きてきた主婦・友希江。
しかし勤務中に脳梗塞で倒れた夫を退職に追い込もうとする
会社のやり口に、ついにキレた!
主婦一人、地元の大企業相手に、手段を選ばぬ報復を開始!
誰にでもある日常の不満から、嫌がらせの応酬や不法侵入など、
しつこくえげつない闘争へと突入していく様は、あまりにリアル。
人間誰しもが孕む狂気を、緻密に描く「巻き込まれ型小説」。
=============================

友希江は幼稚園児の娘を持つ35歳の主婦。
夫は化学製品を扱う地元大企業「ヤサカ」の研究員で、
毎日帰りが遅く、すれ違い生活を送っていた。
友希江も元ヤサカ社員である。

孫を溺愛し用事を見つけては突如訪れる義母にイラッ、
幼稚園の保護者間での人間関係に子供同士のトラブルにイラッ。
仕事内容を聞いても極秘と教えてくれない夫にイラッ、
過去には夫に恋した女のストーカー事件も忘れられない。

小さなストレスを抱え込みつつ日常を過ごしていたが、
夫が激務と不摂生が要因で脳梗塞で倒れ緊急入院してしまう。
ヤサカの役員からは労災申請をしないよう示唆され、
相手が何を意図しているのか分からないままでいると、
今度は元社員の男から電話があり、会社に切り捨てられると、
今のうちに労災申請をして戦うべきだと告げられる。


寝たきりで微かな反応しか見せない夫の見舞い、
厄介払いをしようとする会社側の態度に不満が募っていく。
そんな中、応募していたパートの面接の連絡が入り、
状況を伝え断るものの、説得され仕事をするようになってしまう。
気持ちを切り替えられる時間が出来たことに安堵するが、
職場の先輩女の愚痴に付合うのにストレスが溜まっていく・・・


体良く不要社員を切り捨てようとするヤサカの実情を、
新聞社へ投稿して訴えようとするものの、
ヤサカの権力で友希江の些細な反乱は握り潰され、
挙げ句に友希江の兄妹たちの職場にまで圧力をかけられてしまう。

元社員の忠告を胸に録音機を潜ませヤサカ役員と交渉し、
復帰後の処遇などについて話し合い証拠を残すのだが、
友希江が在籍していた時の女性友人が突如家に遊びに来て、
愚痴を言い合い、疲れて居眠りした隙に、
その女は録音テープを消去して姿を消していた・・・。

精神的に追い込まれる友希江は抗鬱剤を服用し始め、
その影響なのか気持ちが大きくなって行動的になっていく。
パート先の愚痴女にキレ、社長を殴って暴言を吐き捨て、
友希江の頭の中にはヤサカへの復讐心が燃え滾る。

ヤサカの社長の住居を調べ上げ、家族構成を探り、
かつて夫にストーカー行為を働き続け、
自宅に不法侵入までした女の居場所を探し出し、
金に困っていたその女を金をちらつかせて雇い、
ピッキング技術と道具まで買い取る執念を見せる。

社長の娘へ、娘の婚約者へ、社長の愛人への嫌がらせ、
度重なる問題毎にヤサカ側も友希江の仕業と思うのだが、
決定的な証拠が無いことで、甘い言葉で誘惑して来たり、
時には脅しも交えて警告をしてくるのだった。
しかし友希江の暴走は留まる事を知らず・・・やがて・・・



些細なイラッに共感し、ちょっとした復讐にニヤッとし、
巨大な企業相手に一人立ち向かう主婦像に拍手を送りつつ、
でも、ここまでやると犯罪だよなぁ~とも思いつつ、
どこまでやりきるのかに物語の興味が移っていく。
そこまで夫を愛している風でもないけれど、
復讐心の深い部分に着火しちゃったんだろうなぁ~
エンターティメントとして充分楽しめた物語でした。

初めて読んだ作家さんだったけど、
気がつけば次々と古本ハシゴして作品を集めていた。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

社長器人

ビジネス書っぽいタイトルだけど文庫棚にある。
単純な表紙絵にも惹かれて手を伸ばした。



=============================
社長が不在の中、会社が火事になったと連絡を受ける西村。
PCデータ復旧を営むベンチャーは窮地に立たされる。
理不尽なクレーム処理に奔走する中、現れた謎の起業家。
密かな企てを試みる僕はやがて、社会を揺るがす
一大事件に巻き込まれていき・・・
「仕事の本質・裏側」を暴く痛快エンターテインメント!
=============================

PCデータ復旧を営むベンチャー企業で働く西村の元に、
ある朝、社長秘書から緊迫した連絡が入る。
会社に車が突っ込んで火事を引き起こしたらしい。
社長は出張で不在中、会社にいち早く駆けつけた西村は、
被害状況を見極め、部下に早急な対応の段取りを伝えていく。

警察の話では事故を起こした運転手は死亡が確認されたという。
保険にも加入していないことが判明し被害請求出来ない事も分かる。
損害の影響により彼らの会社は窮地に立たされてしまう。

火災の影響で客から預かっている品に被害が出ているため、
技術部長で現場の責任者でもある西村は、
ひたすら顧客たちのクレーム処理に当たることになる。
社長の阿部は会社がそんな状況だというのに社に顔を出さず、
客の損害について法的な賠償責任は無いという根拠から、
客からの一時金を見舞い金として返納するように指示を出すのみ。

社長のそんな態度に憮然としつつも顧客に事情を説明し、
部下には回復見込みのある品の移動や作業継続などを指示していく。
そんな中、何を言っても聞き入れないクレーマーの藤原と出会う。
藤原は自販機会社を経営する男で、社長の阿部とも面識があるらしい。
何度か時間を指定されてクレームに対する見解を述べていると、
藤原は西村という男の能力を認めたと言って食事に誘ってくる。

藤原は阿部の会社を買収しようと画策していたのだが、
それを諦めて、新たにデータ復旧会社を起こそうと計画していた。
ついては西村にその会社の社長になって欲しいと告げる。
金銭面は全て藤原が援助、西村には優秀な人材の引き抜きを頼む。

藤原の自販機会社起ち上げ時の苦労話に感動した西村は、
阿部社長の最近の動向(出張不在が多い、放任主義)に、
不満を募らせ、西村は妻に相談した上で決心するのだった。


自販機会社を立ち上げ順調に業績を伸ばした藤原だったが、
ある時期を境に業績に停滞が見られるようになっていた。
今の事業を継続するためにコスト削減で対応していたものの、
売り上げ回復の打開策も見当たらず、業績が落ち込む前に、
阿部の会社を乗っ取って、自販機経営から手を引こうと思っていた。

羽振りが良くなった時に覚えた賭博の悪癖も残っていて、
西村に話した新事業計画は瀬戸際での一縷の希望でもあった。

西村が阿部社長に退社する意向を伝えていたその時、
藤原の自販機で販売していた格安飲料が問題を起こしてしまう。
法令違反として報道で大きく取り上げられた藤原は失踪・・・
社長の阿部に会社を辞めると告げてしまった西村は・・・


登場人物の器が物語の進行と共に一転二転していく。
社員としては有能だからといって、経営者として有能とは限らない。
仕事が出来る人間が、社長になったとたん駄目になる・・・
そんな話は現実にもたくさん散らばっているもんなぁ。

また事業が成功したからといって安泰とも限らない。
継続は力なりという言葉通り、売り上げ増加は永遠に続かない。
停滞したとき、下降したときの行動や分析も重要である。

本質を見極める能力が大事。いろいろ勉強になった。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

霹靂晴天

そういえば映画ニュースになってたな。
そういうのは古本屋にあってもすぐ売れるだろうし、
まぁそのうち見つけたら読んでみようかな?と古本屋へ行くと、
普通に置いてあった。タイミングいいぞ!という思いと同時に、
この時期に普通においてあるという事は・・・面白くない?



=============================
学歴もなければ、金もなく、恋人もいない35歳の晴夫。
一流マジシャンを目指したはずが、
17年間場末のマジックバーから抜け出すことができない。
そんなある日、テレビ番組のオーディションではじめて
将来への希望を抱く。だが、警察からの思いもかけない電話で、
晴夫の運命が、突如、大きく舵を切る―。
人生の奇跡を瑞々しく描く長編小説。
=============================

主人公・轟晴夫の自暴自棄な独白体で始まる物語。
35歳になって金も無く、彼女もいない、楽しみの無い晴夫。
一流の手品師を目指したものの芽が出る事もなく、
マジックバーに勤めつづけて酔い客相手に17年。
時折、老人ホームで手品を披露する寂しい日々をおくる。

後輩はチャンスをつかんでテレビにも出るようになり、
晴夫が密かに恋心を寄せていた美人客にも人気である。
その後輩からも蔑んだ眼差しを受けタメ口をきかれ・・・。
自分なんて生まれてこなきゃ良かったんだよ。

母は晴夫が生まれてすぐに家を出て行ったらしく、
父はそのことについて詳しく話してくれたことがない。
その父とも随分と長い事あっておらず、
風の噂ではホームレスをしているのだとか・・・


落ち込み塞ぎがちな晴夫は意を決して、
テレビ番組のオーディションを受けてみる事に、
上手くいけば後輩のようにモテるようになるかもしれない。
自分なりの感触を掴んで会場を後にした晴夫は、
携帯電話を握りしめ、合格者だけの通知を待っていた。
そして電話が鳴り響く・・・。

喜び勇んで電話に出た晴夫だったが、
掛けて来た相手は警察だった。
身元不明のまま焼却されていた遺体が、
路上生活者の情報により晴夫の父だと判明し、
署に骨壺を引き取りに来て欲しいという。


骨壺を引き取ったあと、父が生活していたという、
ダンボールハウスの場所を訪れてみると、
そこには見覚えのある段ボールの家があった。
幼少時、父と一緒に作った手作りの家・・・
晴夫が父相手に手品として使って見せていたものだ。

幼稚な手品を父はいつも大げさに驚いてくれたっけ・・・
そんな懐かしい思い出に耽っていた時、突如雷鳴が轟き、
気がついた時にはダンボールも骨壺も消えていた・・・
呆然と歩き始めて聞こえて来た会話の違和感、
晴夫は40年前にタイムスリップしたことを悟るのだった。


金もないし、住処もない。
晴夫は興味本位で浅草ホールを訪れ、
支配人に手品師として自分を売り込む。
今や定番となった手品も、その時代では新鮮である。
しかし支配人の顔色は鈍いまま。そこで晴夫は、
まだ誰も知らないスプーン曲げを披露する。

支配人に認められ、住み込みで舞台に出る晴夫。
そこで大御所の助手をしていた美人女性・悦子と出会う。
大御所が入院して、彼女が舞台に立っていたのだが、
腕が無いため、晴夫の助手を務めるようになる。

しかし、大御所の病気が結核と分かり感染の疑いで、
検査を受けた悦子は劇場に姿を見せなくなってしまった。
悦子も入院したと知り、晴夫に新たな助手がやってくる。
その男こそ、晴夫の父であり若き頃の轟新太郎だった。

2人はコンビを組んで舞台に上がるようになるが、
それも束の間、新太郎は姿を見せなくなってしまう。
やがて彼には彼女がいて、その女性が妊娠している事を知る。
時期的にいっても、その女性が身籠っているのは自分だろう。

彼の元に怒鳴り込んで来た巨体の女が母親なのか?
長く思い続けた母親像が失墜していく気分を覚えつつ、
晴夫は溜めていたお金を生まれる子のためといい新太郎に渡す。


劇場に度々顔を出していた少年ノブキチは、
マジックバーの店長の幼き姿。
ノブキチは悦子ファンで彼女の心配をしていた。
少年に急かされて一緒に悦子の入院している施設を訪れ、
そこで新太郎と会うが、軽く挨拶して隔離病棟へ向かう。

悦子は結核を患っていながら治療薬を拒否していた。
彼女の体内には新しい命が宿っていて、
治療薬を投与すると子供の命が絶たれてしまうらしい。
そこへ正太郎が現れ、悦子との関係を知る事になる。



一日で読める頁数、読みやすい文章、分かりやすい展開。
「生まれてこなきゃよかった」と自暴自棄な主人公が、
タイムスリップして若き両親に会って心を通わし、
自分の存在意義の尊さ、命の重みに気づくという物語。

芸人小説家という部分がどうしても浮かんでしまうけど、
本業小説家でも酷い構成のものがたくさんあるから、
ありきたりな「生きる意味」のテーマを独自の表現で、
重すぎず、軽すぎず、ほのかな温かみを帯びた物語でした。

映画はどうなんだろう?本人が監督だから、
読み物とは違った思いを込められたのかな?
一作目の小説も機会があれば読んでみたい。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

情報操作

これ読んじゃうと出ている文庫本読み切っちゃうなぁ。
なんとなく勿体ない思いが強くて積冊のままにしていたけど、
読了本も増えてきたし、処分前に読もうと手に取った。
(超・気に入れば処分しないけど・・・)



=============================
(上)恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が
請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。
けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。
そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚に不幸が襲う。
彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
=============================
(下)5年前の惨事―播磨崎中学校銃乱射事件。
奇跡の英雄・永嶋丈は、国会議員として権力を手中にしていた。
謎めいた検索ワードは、事件の真相を探れと仄めかしているのか?
追手はすぐそこまで…
大きなシステムに覆われた社会で、幸せを掴むには・・・
問いかけと愉しさの詰まった傑作エンターテイメント。
=============================

ずいぶん前に発売された魔王の続編にあたる作品。
魔王は読んだな・・・ん?どんな話だっけ?
腹話術の能力男が次期首相の演説に行って謎の死を遂げ・・・
で、何が起きて、何がどうなったんだっけ?・・・記憶に無い・・・。


主人公の渡辺拓海は29歳のシステムエンジニア。
世界は50年後という設定だけど、突飛な未来観はほぼ皆無。
現在とほぼ同じような世界に身を置いている。
そして主人公の彼が拷問を受けている場面から物語は始まる。

身に覚えの無い拷問を受ける拓海だが、
思い当たる節が無いとも言えなかった・・・。
恐妻の佳代子は彼の浮気を疑って、そういう連中を雇うのだ。
案の定、拷問をしている男は妻の使いの者だった。

妻には離婚歴があり、その前夫は謎の死を遂げたという噂がある。
男の脅迫に無実を訴える拓海であったが、胸にはある女性の名が・・・
でも大丈夫、彼女は今、有給休暇で海外へ行っている。


どうにか窮地を誤摩化し切り抜けた拓海。
彼の務める会社では有能な先輩社員・五反田正臣が失踪し、
五反田が担当していた「ゴッシュ」という会社の案件を、
拓海たち後輩3人が担当する事になる。

加藤課長の理不尽な言葉に憤りを覚えつつ、
後輩の大石倉之助、工藤とともに仕事を始めるが、
仕様変更する予定のプログラムには不明な点が多く、
発注元すら分からない。ゴッシュには連絡がつかない。

違和感を抱きつつプログラムを調べて行くと、
どうやら特定の検索ワードが浮かび上がって来る。
それと同時に大石が婦女暴行の濡れ衣で逮捕されたり、
検索ワードを教えた加藤課長が自殺したり・・・
恐喝者の岡本猛の家が火事になったり・・・
背後に大きな組織の存在を知るが、目的が分からない。


拓海の知り合いという事で女好きで口達者な作家が出てくる。
その名も井坂好太郎・・・自己犠牲の精神?裏の顔?
まぁ、本人のイメージとは似ても似つかないキャラだけど、
その軽薄かつ誘導的な会話が物語を引っ張って行く重要キャラ。


5年前に起きた播磨崎中学校銃乱射事件。
当時、用務員だった永嶋丈は犯人逮捕へ活躍し、
奇跡の英雄として名を馳せ国会議員へ成り上がり、
今や巨大な権力を手中にしていた。

その事件が映画となり世間を賑わせているのだが、
拓海たちが見つけた検索ワードには、播磨崎中学校もあった。
背後に潜む巨大な何者かと繫がりがあるのだろうか・・・
そしてもうひとつのワードが安藤商会。資産家らしいが・・・

そんな相談を井坂好太郎に打ち明けると、
彼の新作小説が安藤商会に関わる内容なのだと言う。
自分は門前払いされたが、拓海の祖母姓が安藤とうことで、
もしかしたら繫がりがあるかもしれないと、
新作原稿を渡し、岩手の安藤商会を訪ねろと告げる。

この安藤商会を作ったのが、魔王に出て来た安藤潤也である。
10分の1ぐらいの確率のもとは的中させれる能力者。
潤也の兄・は思った事を相手に喋らせる腹話術の能力者で、
前作、魔王で亡くなっている。潤也の妻、詩織も登場する。
で、拓海が潤也の親戚という事が判明し、腹話術能力が発現する。


拓海の不倫女性が行方を眩ましたり、
井坂の身に危険が及んだり、岡本の拷問映像が送られてきたり、
失踪していた五反田と合流したり、敵に軟禁されたり、
そんな中、上巻では恐妻として描かれていた佳代子が活躍。
後半は一気に物語が加速して面白くなる。
何の役に立つの?という腹話術も効果的に使われる。

情報社会の中で、仕事として作業している人達は、
それで何が行われているのか把握などしていない・・・。
真面目に行っている日常作業が悪事だったら?
事実と認識している事柄が意図的に作られたものだったら?
なんだか分からない社会という枠組みに対して、
どんな抵抗ができるのだろうか・・・そんな物語だった。

同時期にゴールデンスランバーを描いていたようで、
あちらも巨大な敵に濡れ衣をかけられ奔走する物語だったなぁ。
こちらは見える敵、あちらは見えない敵。情報操作は同じ。
ゴールデン~はこの作家さんの作品で一番好き。

魔王の記憶は失われていたけど、充分楽しめたし満足。
もう一度、魔王を読み直そうかな・・・。
処分しちゃってるから、古本屋で安価棚を探してみよう。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

前木村後

書店で文庫本を見かけてから古本屋に行く度に、
探すようになって、あちこちの古本屋に足を運んだ。
その甲斐あって、なんとか見つけることができた。
格闘技ファンには堪らない豪傑偉人伝だった。



=============================
(上)5年不敗、13年連続日本一。
「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし」
と謳われた伝説の柔道家・木村政彦。「鬼の牛島」と呼ばれた、
戦前のスーパースター牛島辰熊に才能を見出され、
半死半生の猛練習の結果、師弟悲願の天覧試合を制する。
しかし戦争を境に運命の歯車は軋み始めた。
GHQは柔道を禁じ、牛島はプロ柔道を立ち上げるが……。
最強の"鬼"が背負った悲劇の人生に迫る。
=============================
(下)牛島と袂を分かち、プロレス団体を立ち上げた木村政彦。
ブラジルやハワイ、アメリカ本土で興行ののち帰国し、
大相撲元関脇の力道山とタッグを組むようになる。
そして、「昭和の巌流島」と呼ばれた木村VS力道山の一戦。
ゴング―。視聴率100%、全国民注視の中、
木村は一方的に潰され、血を流し、表舞台から姿を消す。
木村はなぜ負けたのか。戦後スポーツ史最大の謎に迫る。
=============================

初代タイガーマスクが登場したと同時にプロレスを見始め、
その華麗な動きに魅了されつつ、プロレス全般のファンになった。
当時、ウルトラマン大百科のような小型で厚めの書籍があり、
プロレス大百科や、必殺技大百科などを買ってもらっては、
レスラー名やら技名などを小学生の頭に染みこませていった。

漫画プロレススーパースター列伝も全巻読んで、
猪木、馬場の誕生話や、外人選手の伝記的物語に嬉々とした。
レスラー名鑑みたいなカラー写真本も毎年購入していて、
馴染みの国内外選手だけじゃなくルチャドールも覚えた。

ブルースリーやジャッキーチェンの大百科も持っていて、
あの頃の男の子は、中国拳法の真似事をするのが当たり前だった。
男兄弟なので、弟とは日常的にプロレスごっこをしていたし、
とにかく強い男に憧れる少年で、相撲にも詳しかった。
日課は照明ヒモを的にローリングソバットという小学生である。


プロレススーパースター列伝の猪木・馬場の巻で、
力道山の事が描かれていたけれど、全盛期を知るわけも無く、
気性の激しい人、戦後のヒーロー、白黒の人という認識だった。
外人を空手チョップでなぎ倒す傍らに、そういえばもう1人・・・
木村というレスラーがいたな、ぐらいにしか知識がなかった。

それでも「木村の前に木村なく、木村のあとに木村なし」
という言葉だけは覚えていて、強い柔道家だというのは知っていた。
でも、それがどういう強さなのかは本書を読むまで知らなかった。

数年前まで格闘技ブームで、様々な武術が世間に認識された。
立ち技系では空手やキックボクシング、ボクシングが注目され、
寝技系では柔道というより柔術家が強さを誇っていた。
日本発祥の武術でも外国人の方が圧倒的に強かったりして、
国内レスラーや柔道家などが次々と敗残していった。

そんな中で、耳にした和名の決め技「キムラロック」
その技の使い手こそ、本書で取り上げられた木村政彦なのである。
物語は木村の後継者が馬場の全日入団契約の揉め事で始まる。
そのごたごたの要因にあるのが昭和の巌流島と呼ばれた、
無敗の柔道王・木村雅彦VS力道山の結末にあった。

プロレスにはブックと呼ばれる台本があり、
(この事実を知った時には、かなり落ち込んだものだ)
事前に勝敗が決められて試合が組まれるのだが、
その決戦で力道山がブック破りをして木村を一方的に潰す。
力動はスター街道を走り、木村は失墜し表舞台から姿を消す。
木村の弟子達が積年の恨みを糧に馬場にブックを強要するのだが、
結果的に木村の後継者がマットに上がることはなかった。


貧しい出の木村は父親の力仕事を手伝うことで、
強靱な肉体の基礎が作られていく。
柔道で才能の片鱗を見せると、その腕を見込んで、
柔術家として名を馳せる牛島辰熊がスカウトにやってくる。
牛島は天覧試合での敗北を背負って後継者を探していた。
木村の素質を見込むと、自分の全てを叩き込もうと、
半死半生の猛練習を弟子木村に課していく・・・。

1日10時間という過酷な練習漬けの毎日で、
木村の強さは極まっていき、念願の天覧試合をも制す。

柔道にも本流、亜流のような体系があり、
現在の講道館柔道は戦後GHQの影響下で、
スポーツとして生き残る道を選んだ柔"道"だった。
戦前までは柔道は柔術、剣道は剣術というように、
スポーツでは無く武術という概念が強かったらしい。

その柔術の中にも様々な流派があり、
打撃のような当て身や、寝技が主流だったという。
今の総合格闘技そのものが柔術だと言っても過言ではない。
当て、極め、締め、落とす、そういう柔術だったため、
負傷者も多く、それ故、卓越した強者が存在したのだろう。


木村は他人の何倍もの鍛錬を課し、自身の柔術を高め、
どんな相手でもねじ伏せられるだけの心技体を誇り、
不敗記録を伸ばして日本一の柔術家と認められていく。
しかし、戦争により木村の人生は混沌としてしまう・・・

プロレスがまだ日本に存在していなかった終戦直後、
木村は師・牛島に誘われプロ柔道家として興行に参加するが、
瞬く間に資金がなくなり興行が出来なくなってしまう。
木村は知人の誘いもあってハワイでレスラーになる。

不敗の強さを誇る木村にとって、プロレスはお遊び感覚。
しかもファイトマネーがすこぶる良く待遇も悪くない。
木村と数名の柔術家たちはレスラーとして各地を巡業し、
大金を稼ぎ、本能の赴くままに豪遊を繰り返す。

その当時、木村の妻は結核を患っていたのだが、
木村がプロレスで稼いだ金で高価な治療薬を買っては、
日本へ送っていた。その甲斐あって妻は回復する。

そんな木村と平行するように力道山の物語や、
極真空手の始祖と言われる大山倍達の物語も描かれる。


レスラーとしてハワイ、アメリカ本土を渡り歩いた後、
地元新聞社の誘いを受けて日系人の多いブラジルへ渡る。
そんな中、日本一の柔術家の噂を聞きつけ、
無敗で人気を博していたグレイシーが対戦を要求してくる。
木村が出るまでもないと加藤という柔術家が試合を受けるが、
押し気味に進めつつも、下三角締めにより失神負けを喫す。

引けなくなった木村がエリオ・グレイシーの対戦を受け、
サッカーの聖地マラカナンスタジアムは3万人の大観衆。
そこで木村はグレイシーを子供扱いして勝利する。
この時に木村がこだわって使った技こそが、
後にグレイシー一族によって世界に広められた
キムラロックという腕絡みの決め技だった。
○この映像はユーチューブで見る事が出来る(編集版らしい)

後年、ほとんど実戦に触れていなかった木村だったが、
エリオ・グレイシーの弟子のリターンマッチを受けるため、
ブラジルへ渡り、これを退けている。2人と対戦し、1人は完勝。
もう1人は膝を負傷していながら片足で圧倒しての時間切れ。


圧倒的な強さもさることながら、物語の中では、
木村という豪傑無比な人間像が描かれている。
強さを求める真面目さと対比するように、
豪快な痴話なども描かれ人間・木村の魅力を伝えている。

戦争の影響、レスラー転身、力道山との駆け引き、
ブックありきという気の緩み、失墜、苦悩・・・
木村政彦という不世出の柔道家、格闘家の生涯と、
日本柔道の歴史、武道・格闘技の歴史が丁寧に書かれていて、
読み応えのある質量だったにも関わらず、夢中で読み終えた。

当時の写真や、新聞記事などの資料も多数掲載されていて、
著者の熱意によって、木村の精気や覇気を感じられた気がする。
格闘技ファンは必読の書ではないだろうか・・・。

素晴らしい一冊に出会えた事に感謝したい。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ 次ページ »