「ダムが遠州灘の未来を変えた」
長い梅雨が空け眩しい日差しが照りつける8月5・6日、私は所属ゼミの勉強の一環として日本環境ジャーナリストの会主催のスタディーツアー「遠州灘の砂丘が消える」に参加した。
中田島砂丘の海岸侵食の現場から、その原因の一つとされている天竜川流域のダム開発の現場までを川を遡りながら目の当たりにしていった。中でも流域最大のダムで水力発電量日本一を誇る『佐久間ダム』の大きさにはただ唖然としてしまった。
佐久間ダムは昭和31年に発電用のダムとして完成し、当時日本一の大きさを誇っていた。現在では治水・利水用ダムとしても利用されており、“暴れ天竜”と呼ばれ度重なる洪水被害をもたらしてきた天竜川を落ち着かせ、また日本最大の水力発電量で高度経済成長期から現在に至るまで、中部地方は元より首都圏にまで電力を供給してきたなど功績は大きい。
しかし、そのダムが後々になって河口に広がる遠州灘の砂浜を奪ってしまうなど一体誰が想像しただろうか。いや、正確に言えば、ダムが砂浜に必要な土砂をせき止めてしまったのである。
遠州灘全体を潤してきた砂の多くはダムの底に堆砂として眠っている。佐久間ダムを管理している電源開発の本間さんのお話によると、総堆砂量は1億1,720万㎥で総貯水容量に占める堆砂の割合(堆砂率)は約35.9%に達する。ここ10年での平均年間流入土砂量は約130万㎥である。浚渫(しゅんせつ)船により湖外へ搬出している約40万㎥の土砂を差し引いても、毎年90万㎥は上流から土砂が流れて溜まっていくのである。それ以外の土砂に関しては、ダムの下流部へ砂を移動させているというのが現状だ。
この堆砂にもいろいろな問題が隠されている。洪水時に上流部での浸水被害の原因となったり、また土砂の湖内移動や浚渫による湖外搬出によって水が濁り、それが下流域に流れることによって生態系に悪影響を及ぼしたりしているのだ。
今まで私は水力発電というものが環境に影響を与えないものだと思っていた。現に化石燃料を使わず、佐久間ダムの発電量に関しては膨大な量の二酸化炭素排出を抑制していると言えるだろう。しかし、ダムが完成してから約半世紀が経ち、たくさんの環境に関わる問題が浮上してきた。今ここで関係各署が連携を取り、天竜川水域の未来、そして遠州灘全域の海岸の未来を考えていかなくてはならない所にきていると私は思う。
写真は
佐久間ダム(Wikipediaへ)
天竜川(Wikipediaへ)