*** june typhoon tokyo ***

Eric Benet@BLUENOTE TOKYO


 極上のエスコートによる珠玉のR&Bワールドへのいざない。

 ラフなジャケットにデヴィッド・ボウイのTシャツ、ボトムはジーンズ、そしてハット&サングラスという洒落たカジュアル・スタイルで登場したエリック・ベネイが、今回も“愛と魂(ソウル)の伝道師”の名に違わぬセクシーなステージでオーディエンスを魅了した。

 「ラヴ・ドント・ラヴ・ミー」で幕を開けたこの日の2ndショウは、全編超絶ファルセットの「サムタイムズ・アイ・クライ」こそリストに組み込まれなかったものの、「ユーアー・ジ・オンリー・ワン」や「チョコレート・レッグス」「スピリチュアル・サング」などでも人肌をなめらかに伝うような包容力とあたかも時を緩やかに刻ませるような濃密度を帯びたファルセット&フェイクを展開。メイズ「ハッピー・フィーリング」のフレーズを拝借した「ニュース・フォー・ユー」や、極上ネオソウルの王道的なミッド「フェミニニティ」などでも上質な楽曲性と表現力を遺憾なく発揮。時折“アリガトゴザイマース”“イロッポーイ”などの日本語を挟み込んで、オーディエンスのハートをさらに掴んでいく。

 後半には彼が敬愛するアーティストの名前を挙げた後、来日公演では定番となったプリンスのカヴァー「ハウ・カム・ユー・ドント・コール・ミー」を、紫のライトに照らされた椅子に腰掛けながら熱唱。現在のエリックの妻君(マニュエラ・テストリー二)が元プリンスの妻という事情を聞くと、自分のような凡庸以下な男は何とも苦虫を噛み潰したようになりそうだが、さすがは愛と魂(ソウル)の伝道師。プライヴェートとは一線を画して、プリンスの功績や名曲を讃える渾身のパフォーマンス。世にはさまざまなカヴァーが溢れているが、真にリスペクトを伴ったカヴァーは、時にはオリジナルを凌駕し、また、オリジナルとは異なる新たな命を授かった、演者にとってのオリジナリティをもたらしたりするようだ。エリック・ベネイの公演では定番のカヴァーで、馴染みがない訳ではないのだが、聴くほどに感化されるのは、曲を手掛けたプリンスの才能とエリック・ベネイの圧倒的なという言葉も陳腐に聞こえる五感を揺るがすヴォーカルワークの融合ゆえか。加えて、プリンスの命日(4月21日、2016年)が近かったということもあるのかもしれない。



 バンドは、キーボードのジョナサン・リッチモンド、ベースの“AJ”ことアフトン・ジョンソン、ドラムの“スティックス”ことジョン“スティックス”マクヴィッカーという近年お馴染みの布陣。それほど長いソロ・パートはないが、十二分に気ごころが知れた面々ならではの過不足ない、痒い所に手が届くようなさりげないサポートでエリック・ベネイのパフォーマンスに麗らかなアクセントを添えていく。
 彼らが奏でる音は本当に“出しゃばらない”。かといって、音圧や音量が足りない訳では決してなくて、エリックのヴォーカルと絶妙な距離感覚で音を鳴らしていく。互いに勝手知ったる盟友だからこその演出ということなのだろう。願わくば、打ち込みとの同期ではなくバンドメンバーとコーラス隊を増やして、より生音オンリーに近づけたいところだが。

 本編もクライマックスへ近づくと、“ボクのベスト・ヒットだ”“とても美しい女性のタミアと歌ったんだけど、今ここに彼女はいないから、ボクが歌う”といって切り出したのはグラミーノミネートにもなった「スペンド・マイ・ライフ・ウィズ・ユー」。さらに、“ボクはさまざまな血が入ってるんだけど、ノー・スパニッシュなんだ。それでもラテン・ミュージックが好きだから、この曲を歌うよ”とのフリから哀愁のラテン・ソウル「ホワイ・ユー・フォロー・ミー」へ。ここでもファルセット、フェイク、さらにマイクを口からかなり遠くへ外して歌唱するなど、ヴォーカルスキルを存分に堪能させてステージアウト。

 興奮冷めやらぬまま、アンコールの拍手に応えるようにステージへ向かう前に“もう1曲聴きたい?”とマイクから語り掛けながら客席フロアからステージへ。存分に噛み締めるようにバラードを歌い終えると、ラストは定番中の定番曲「ジョージー・ポージー」。それまで彼の美麗ファルセットや濃厚なフェイク・ヴォーカルに耳を澄ましてきたオーディエンスも、この曲ばかりはスタンディングでグルーヴに身体を任せていた。


 濃厚なスウィートネスで愛を説いたかと思えば、多彩なヴォーカルワークでシンガーとしての懐の深さを見せるエリック・ベネイ。エレガントな品性と成熟した艶やかな世界観でオーディエンスを圧倒したステージは、今回も健在。もちろん、セットリストには定番曲が多く、やや新鮮味を欠く構成ではあったが、それでも絶品ファルセットと大きく包み込むようなハートウォームでエロティックなヴォーカルを聴いてしまうと、もはや抗えない説得力や訴求力にただ頷くばかり。衰えるどころか年々深みを増していく“R&B界のネオソウル紳士”だけに、次回はフレッシュな選曲を期待したい。


◇◇◇
 
<SET LIST>
01 Love Don't Love Me
02 Sunshine
03 You're The Only One
04 News For You
05 Chocolate Legs
06 Femininity
07 Love of my Own
08 Pretty Baby
09 Spiritual Thang
10 How Come U Don't Call Me Anymore?(Original by Prince)
11 Spend My Life With You
12 Why You Follow Me
≪ENCORE≫
13 When You Think Of Me(?)
14 Georgy Porgy(Original by TOTO)

<MEMBER>
Eric Benét(vo)

Jonathan Richmond(key, back vo)
Afton Johnson(b, vo)
John "Stixx" McVicker(ds)



◇◇◇

【エリック・ベネイのライヴに関する記事】
(※リンク先で該当公演の記事が読めます)

・2005/10/02 ERIC BENET@BLUENOTE TOKYO
・2007/09/19 ERIC BENET with MICHAEL PAULO BAND@BLUENOTE TOKYO
・2009/02/21 ERIC BENET@Billboard Live TOKYO
・2009/12/25 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2011/09/19 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2012/05/17 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO 
・2014/05/13 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2015/10/16 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2017/02/17 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
・2018/04/24 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO(本記事)

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コメント一覧

野球狂。
ラストは…
やはり「ジョージー・ポージー」でした。「同期」できたと思います(笑)。

たしかに、エリック・ベネイの公演は定番曲のセットリストが多いですね。安心して酔える分、新たな刺激という意味ではやや物足りなさもありますね。かといって、刺激によりすぎると、公演ごとに波というか選曲に賛否も多くなるでしょうから、難しいところではありますが。

ただ、その点があったとしても、CD以上のクオリティで歌唱するスキルが満開なので、不満にまではなりませんが。
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あの夜は…💨
野球狂。さん、こんばんは🌛
あの夜は部屋でERICの歌声を流しながらHOTな夜を過ごしました。
デヴィッドボウイのTシャツ着てましたか👍
自分も最近よく着ているので嬉しい情報です。
ERICの私服はPV見ていても参考になりますよね。

ライヴはお馴染みのトラックが並んでますね。
何回見ても彼のライヴはスルメのように飽きませんが、やはり新作からの楽曲も聴きたいですね。
しかし個人的には最新作は、あまり気に入っていません。
幅を拡げすぎているような気がしてます。

いつか野球狂。さん、ERICのライヴ一緒に行きたいですね😁
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