自らの形を作れず苦しむも、松木の先制点を守り切って中断明け初戦に勝利。
プロ野球・野村克也監督が口にした名言として世に知られている、肥前国平戸藩藩主で剣術流派の心形刀流(しんぎょうとうりゅう)の達人、松浦静山(まつら・せいざん)が剣術の心技を解説した剣術書『常静子剣談』のなかに遺した「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉が当てはまる試合というのは、それなりに見受けられたりするのだが、この一戦もそれに当たるといっていいのではないだろうか。
シュート数はC大阪12本に対して、FC東京は8本と劣り、ボール保持率はC大阪が圧倒。ボール保持率が高ければ、勝利に近づくとは必ずしも言えないが、印象としてもC大阪が数多くのチャンスを演出した。FC東京は支配率のみならず、パス成功率もC大阪の80%台に対して70%に届かないなど、ほとんどのスタッツでC大阪を下回ることに。順位でいえば、C大阪が上位陣の5位、FC東京が2試合勝ちなく12位に甘んじていることを考えれば、C大阪の優位は予想通りなのかもしれないが、それでも、前半8分に長友のFKの浮き球をディエゴ・オリヴェイラが収めるなかでゴール方向へボールがエリア内へこぼれたところに走り込んだ松木が左脚で決めて先制したことで精神的に優位に立つと、森重や長友らヴェテラン勢が随所に粘り強い守備を見せたこともあって、90分間粘り切り、リーグ中断明け初戦のアウェイゲームで勝ち点3を獲得することができた。
しかしながら、課題は山積みだ。松木の先制ゴール後、17分にC大阪陣内の高い位置でボールを奪取し、渡邊凌磨が右脚で惜しいシュートを放つなど攻勢が続いたが、20分にそれまでも何度かピッチで倒れる場面があったディエゴ・オリヴェイラが再び倒れ込み、21分にペロッチとの交代を余儀なくされると、縦のボールを収めていたディエゴ・オリヴェイラの不在による痛手が露わになる。それに対してC大阪は香川が左右に、縦にパスを供給していくと、28分にC大阪陣内からのロングボールに抜け出した上門が飛び出してきたGK野澤大志ブランドンをかわすも、シュートまで持ち込めず。後半はカピシャーバのエリア内左からの強烈なシュートがGK野澤大志ブランドンに止められると、ジョルディ・クルークスのミドルは枠上、ハーフウェーライン付近からの上門のパスに抜け出した渡邉りょうがGKと1対1となった場面では枠の右へ外すなど、ことごとく決定機を活かせず。50分に小泉がピッチを去ってからC大阪の攻勢がさらに加速していったが、酷暑のなかで途中に雨が降るなど体力面に厳しいこともあってか、C大阪もおそらく通常では決められるシュートを決め切れずに時間が過ぎていく。
FC東京は特に左サイドのカピシャーバからの攻撃にSB白井が対応出来ず、ハイラインの裏のスペースやロングボールの浮き球の処理などでエンリケ・トレヴィザンが後手を踏み、最終ラインの不安定さが幾度もピンチを招いてしまう。中村帆高の長期離脱、そこへ入り込めなかった鈴木準弥の移籍にあって、京都から移籍した白井には多くの期待が寄せられていたかと思うが、天皇杯の熊本戦、そしてこの試合での出来を見ると、FC東京においてフィットするのはまだ時間が掛りそうだ。もちろん白井だけの問題ではなく、その前方の渡邊凌磨、CB陣との連係の問題もあるが、しっかりと任せられるパフォーマンスは見せられていない。
FC東京は攻撃面でもなかなか糸口を見いだせず。前半途中から投入されたペロッチは、ディエゴ・オリヴェイラとはタイプが異なることを差し引いても、効果的な場面を生み出せず、小泉に代わった塚川も難しい立ち位置ではあったが、存在感なく終わった。ペロッチは比較的出場機会を与えられているが、そろそろ期待値の賞味期限も終わりに近づいているか。渡邊凌磨はクロスバーにあたる惜しいミドルを放つなどもあったが、好機となりそうな場面での判断にやや遅れがあり、パスミスやボールを奪われるなど、チャンスへの流れを止めてしまうプレーや、守備においても上手くエリアを埋められない場面が散見。蓄積された疲労なのか連係なのか、そのどちらもなのか明確なことは分からないが、好調時のキレのようなものは影を潜め始めている。
運動量豊富に動き回る松木のパフォーマンスが奏功して先制点を奪ったが、それに連動するような運動量でフォローしていた安部柊斗の穴を埋める対策がなされていないため、最終ラインがハイラインを意識していながらも中盤にスペースが出来、そこを突かれていく。この試合では野澤大志ブランドンの再三再四の好セーヴで難を逃れ、不思議なことにリーグでは前節の鹿島戦では3失点したものの、それ以外は(5戦中)4試合無失点となったが、天皇杯の熊本戦ではなすすべなく2失点を喫しており、クラモフスキー体制移行は交代策においても効果的なものは見せられておらず、この”不思議の勝ち”を嬉々として受け取るのは非常に危険だ。
ポジティヴな面で言えば、リーグでは絶対的な守護神としてポジションを占めていたヤクブ・スウォビィクに代わって出場したGK野澤大志ブランドンの奮闘か。カップ戦で出場した経験を成長に活かした形だ。まだ飛び出しなどに安定性は欠く部分もないことはないが、足元はヤクブ・スウォビィクよりも上回るものを持っているため、GKでの競争度が一層激しくなることで、さらなる強化が見込めそうだ。この試合でサブに入ったGK児玉のアドヴァイスの力も少なくないと思われる。
もうひとつは、新加入のジャジャ・シルバ。ペロッチに代わって78分にピッチに入ったが、前へドリブルで突破していく推進力は見どころあり。アディショナルタイムに突入し、試合時間残り僅かとなった際に、FC東京自陣からの右サイドへのラフなロングボールへ走り出し、C大阪DFからボールを奪ってエリア内へ進入、シュートがGK、DFと二度防がれて得点には至らなかったが、アダイウトンとはまた違ったタイプで、ゴールへ向かい積極的へ仕掛けるという姿勢には期待は持てそう。FWはディエゴ・オリヴェイラが替えの効かない存在となっているが、ペロッチが現状のままだと、熊田を含め、それ以下の序列に変化も生まれそうだ。
リーグ戦は約3分の1弱となる12試合を残すのみとなった。C大阪に勝利したことで順位を1つ上げて11位となり、勝ち点は29に。1桁順位も見え、今季の降格枠1を逃れる戦いを強いられる残留争い(16位・横浜FC=勝ち点18、17位・柏=勝ち点17、18位・湘南=勝ち点16)に巻き込まれることはなくなりそうだが、その一方で15位・京都(=勝ち点23)とは勝ち点6差。次節の京都戦に敗れるようなことがあると、その後は、横浜FM、神戸の上位陣、福岡、鳥栖の鬼門の九州勢、その合間にアウェイで多摩川クラシコと、一気に失速も考えられる日程が続く。途中で退いたディエゴ・オリヴェイラや小泉の状態次第では難しい展開も考えられるゆえ、その意味では次の京都戦は順位に関わらず、重要な一戦となりそうだ。
◇◇◇
明治安田生命J1リーグ 第22節
2023年8月6日(日)19:03KO ヨドコウ桜スタジアム
入場者数:18,596人
天候:晴一時雨 / 気温:32.1℃ / 湿度 59%
主審:御厨貴文 / 副審:浜本祐介、西村幹也
第4の審判員:岩田浩義
VAR:池内明彦 / AVAR:松本 大
C大阪 0(0-1 / 0-0)1 FC東京
【得点】
C大阪:
FC東京:松木玖生(8分)
〈試合経過〉
08分 得点 東京 松木玖生
21分 交代 東京 ディエゴ・オリヴェイラ → ペロッチ
41分 警告 東京 ペロッチ
47分 警告 C大 喜田 陽
50分 交代 東京 小泉 慶 → 塚川孝輝
65分 警告 東京 エンリケ・トレヴィザン
67分 交代 C大 渡邉りょう → 北野颯太 / ジョルディ・クルークス → 柴山昌也
78分 交代 東京 東 慶悟 → 木本恭生 / ペロッチ → ジャジャ・シルバ / 俵積田晃太 → 徳元悠平
90+3分 警告 東京 ジャジャ・シルバ
【FC東京】
〈スターティングメンバー〉
GK 41 野澤大志ブランドン
DF 99 白井康介
DF 03 森重真人
DF 44 エンリケ・トレヴィザン
DF 05 長友佑都
MF 37 小泉 慶
MF 10 東 慶悟
MF 07 松木玖生
FW 11 渡邊凌磨
FW 09 ディエゴ・オリヴェイラ
FW 33 俵積田晃太
〈控えメンバー〉
GK 01 児玉 剛
DF 17 徳元悠平
DF 04 木本恭生
MF 35 塚川孝輝
FW 15 アダイウトン
FW 20 ジャジャ・シルバ
FW 22 ペロッチ
〈監督〉
ピーター・クラモフスキー
◇◇◇
【明治安田生命J1リーグ 2023シーズン FC東京試合日程・結果】
第01節 02月18日(土)14:00〇FC東京 2-0 浦 和(H・味スタ)
第02節 02月26日(日)15:00△FC東京 1-1 柏 (A・三協F柏)
第03節 03月04日(土)14:00✕FC東京 0-2 京 都(A・サンガS)
第04節 03月12日(日)15:00〇FC東京 3-1 横浜FC(H・味スタ)
第05節 03月18日(土)14:00△FC東京 0-0 名古屋(A・豊田ス)
第06節 04月01日(土)15:00✕FC東京 0-1 鳥 栖(A・駅スタ)
第07節 04月09日(日)15:00△FC東京 2-2 湘 南(H・味スタ)
第08節 04月15日(土)16:00✕FC東京 1-2 C大阪(H・味スタ)
第09節 04月22日(土)14:00〇FC東京 2-1 広 島(A・Eスタ)
第10節 04月29日(土)15:00〇FC東京 2-1 新 潟(H・味スタ)
第11節 05月03日(水)15:00✕FC東京 0-1 福 岡(A・ベススタ)
第12節 05月06日(土)14:00✕FC東京 1-5 札 幌(A・札幌ド)
第13節 05月12日(金)19:30〇FC東京 2-1 川 崎(H・国 立)
第14節 05月20日(土)15:00△FC東京 1-1 鹿 島(A・カシマ)
第15節 05月27日(土)14:00✕FC東京 2-3 神 戸(A・ノエスタ)
第16節 06月03日(土)15:00✕FC東京 2-3 横浜FM(H・味スタ)
第17節 06月11日(日)18:00✕FC東京 1-3 G大阪(A・パナスタ)
第18節 06月24日(土)19:00〇FC東京 2-0 名古屋(H・味スタ)
第19節 07月01日(土)19:00〇FC東京 1-0 柏 (H・味スタ)
第20節 07月08日(土)19:00△FC東京 0-0 浦 和(A・埼 玉)
第21節 07月16日(日)19:00✕FC東京 1-3 鹿 島(H・味スタ)
第22節 08月06日(日)19:00〇FC東京 1-0 C大阪(A・ヨドコウ)
第23節 08月12日(土)19:00 FC東京 ✕ 京 都(H・味スタ)
第24節 08月19日(土)19:30 FC東京 ✕ 横浜FM(A・日産ス)
第25節 08月26日(土)19:00 FC東京 ✕ 神 戸(H・国 立)
第26節 09月02日(土)00:00 FC東京 ✕ 福 岡(H・味スタ)
第27節 09月16日(土)00:00 FC東京 ✕ 川 崎(A・等々力)
第28節 09月23日(土)00:00 FC東京 ✕ 鳥 栖(H・味スタ)
第29節 09月30日(土)00:00 FC東京 ✕ G大阪(H・味スタ)
第30節 10月21日(土)00:00 FC東京 ✕ 横浜FC(A・ニッパツ)
第31節 10月28日(土)00:00 FC東京 ✕ 広 島(H・味スタ)
第32節 11月11日(土)00:00 FC東京 ✕ 新 潟(A・デンカS)
第33節 11月25日(土)00:00 FC東京 ✕ 札 幌(H・味スタ)
第34節 12月03日(日)00:00 FC東京 ✕ 湘 南(A・レモンS)
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