*** june typhoon tokyo ***

『BAILE TOKYO』


 FC東京の激動の2015年シーズンを追ったドキュメンタリー映画『BAILE TOKYO』(バイリ・トーキョー)を鑑賞。劇場は渋谷HUMAXシネマ。2月13日からのTOHOシネマズ府中での先行公開は盛況だったようだが、一般公開は2月20日。その翌日の21日に渋谷へ足を運んだのだが、日曜の19時過ぎより上映開始の1回のみという時間設定も影響したのか、劇場内の観客はまばらだった。

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 首都・東京のサッカークラブとして、未だリーグ優勝の経験がないFC東京。首都のクラブの名に恥じないチームになれるのか。そして、その可能性は? 普段は窺えない選手やスタッフ、関係者たちの本音を拾い上げながら、2015年シーズンを通して、FC東京の存在意義と未来をドキュメンタリーで問うというのが本作のテーマだろうか。

 映画鑑賞後の感想は大きく分けて二つ。
 まず、FC東京のファン・サポーターにとっては、愉しめる映画となっていると思う。2015年のリーグ最終節、味の素スタジアムでのサガン鳥栖戦から幕を開けるが、そのような苦々しい思いや、選手たちが食事をしながら本音を語ったり、ドイツ遠征での微笑ましい映像などを挟みながら、FC東京がリーグ制覇へ向けて戦った一年をもう一度振り返ることが出来る。応援や思い入れの濃度が高ければ高いほどその一場面一場面を思い起こし、笑い、興奮し、涙することもあるだろう。映像やスタジアムの観客席からだけでは窺い知れない場面も数多く登場するため、選手や関係者たちの表情や仕草などに注目するなど、別の角度からの楽しみ方も出来そうだ。その意味では、リーグ開幕前に2016年をFC東京とともに戦う(応援する)思いをさらに強めてくれる。

 一方、映画作品という意味で言うと、正直なところ非常に物足りない部分が多過ぎる。ところどろで“日本サッカー界の発展のため、Jリーグの首都のサッカークラブが強くならねばならない”というテーマを掲げているのだが、“育成型のクラブとして成長する”という社長やGMなどの発言だけで終わってしまい、それを裏付けるインパクトのある映像がなかった。ヨーロッパや世界では首都のクラブが強豪であるというのが前提にあるという状況を示したり比較する映像などもなく、世界を表わす映像はドイツ遠征でフランクフルトのホームスタジアムを見渡す場面くらい。それもスタジアムが立派だと発言するくらいのものだ。
 次にストーリー展開。一つ挙げるなら、シーズン途中で怪我をした石川直宏がリハビリをしながら語る場面が多く、彼がストーリーテラーの中心として展開しているといってもいい。ただし、FC東京のファン・サポーターにとっては石川が怪我をして戦列を離れたというのは周知の事実ではあっても、FC東京の事情を知らないサッカーファンや単純に映画作品として鑑賞する人にとっては、何故石川がその立ち位置にいるのかが当初から語られていないから、彼の状況が掴みづらいのではないか。途中でようやく松葉杖をついてスタジアムのサポーターの声援に応える場面が映し出されるのだが、そこへ辿り着くまでは彼が怪我をした瞬間の映像もフィーチャーされてないゆえに分かりづらいなどだ。
 
 さらには、東京の2015年シーズンをダイジェストを含めた戦績で追いながらシーズンの紆余曲折を描きたいのか、首都クラブとしての現状と進むべき道筋を描きたいのか、サッカークラブの知られざる内幕や選手やスタッフの心境を伝えたいのか、視点が定まらないまま入り組みながら展開していくので、純粋なサッカー映画として期待した人たちには“蚊帳の外”な感覚にならないか。
 たとえば、渋谷などで一般人にFC東京の印象などについてインタビューをする場面があるのだが、「サッカーを見なくても他に娯楽がある」「日本代表は見るが、FC東京は……」などといったありきたりの回答を数人分流すだけで“FC東京はあまり知られていない”と結論付けているのは少々稚拙すぎやしないか。そこから一歩でも深く切り込むことで、日本のサッカー界が持つ課題や首都クラブとして欠如している部分などを浮き彫りにするくらいにまで迫らないのなら、そのようなチープなインタビュー場面などは全く要らない。
 加えて、(一応)一旦エンドロールが流れた後ゆえ、オマケ的な映像になるのかもしれないが、それまで全く登場しなかったRIP SLYMEのレコーディングや味の素スタジアムでの観戦風景がエンディングで唐突に現れるのは、脈略がなさすぎる。付け加えるのであれば、完全にエンドロールが流れ終わった後に2016年への戦いへ向けてという体裁で付け加えて欲しかった(もっといえば、城福監督の2016年へ向けての「見たことがない頂に立ちたい」という決意表明の場面も2016年の出来事としてエンドロール後にまとめてもらいたかった)。



 しかしながら、FC東京のサポーターにインタビューする場面には本作で掲げたテーマに言及出来るようなところもあった。たとえば、FC東京の存在を広めるため、FC東京のファン・サポーターの憩いの場として中目黒に店を構えたサポーターのインタビューでは、応援する側の思いやその気持ちの浮き沈みを語っている場面がある。応援する側の思いと選手、クラブ側の気持ち、それぞれを対比させながら、クラブとしての在り方や葛藤を描くことで、本作の主題を明確に展開することも可能だったはずだ。高橋らの「万年中位と言われてきた……」などの発言と絡めて、そのあたりに重きを置いて展開すれば、FC東京ではないクラブのサポーターやサッカーファンにも同じように共感する部分を提供出来たと思う。

 ここまで言うのはなぜかと言えば、一番大きいのは曲がりなりにも全国ロードショーの映画作品だということだ。多くの人に見てもらいたいのならばなおさら、エンターテインメント性を高め、さまざまな嗜好を持つ人たちに対して訴えかけられる内容でなければ注目されないのは当然。映画自体が厳しい時代ではあるが、公開二日目ながらも渋谷という好立地のシアターでさえ“閑古鳥が鳴く”ような客入りであるのが、一部分ではあるにしてもこの作品が“内輪”ばかりにしか届かない理由でもあるのではないか。批判を恐れずに言えば、SOCIO(ファンクラブ会員)の特典DVDのスペシャル・ドキュメンタリー・ヴァージョンの域を出なかったということになろうか。興行作品としては訴求力に欠けていると言わざるをえないのは、残念な限りだ。

 ただ、逆を言えば、勝手を知っているFC東京のファン・サポーターにとっては、非常に感情移入しやすい作品にもなっている。選手たちのこれまでの知られざる生の声や思いを聞くことで彼らとの距離を埋め合わせること、2016年シーズンへの期待を高ぶらせることが出来るだろう。一度ではなく二度以上観ることで、より選手やクラブとの“一心同体”化も図れそうだ。長くも短いシーズンで選手やクラブを一つでも上に押し上げたいという思いがある人は是非本作品を観て、心の拠りどころにしてもらいたい。そうすれば、スタジアムでの歓喜のヴォルテージもこれまで以上に高まるはずだ。もちろん、上述をもろもろ含めて、FC東京のファン・サポーター以外の人にも観てもらいたいところ。このドキュメントを自身が応援するクラブや自身が抱える現状に照らし合わせてみるのも一考だ。



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