*** june typhoon tokyo ***

CICADA@LOOP ANNEX




 

 2016年5月の渋谷CLUB QUATTROでの初のワンマンライヴ〈CICADA One man show"Absolute"〉へ向けてマンスリーで開催する対バン・イヴェント〈“DETAIL”〉の第2弾は、前回の代官山LOOPから場所を変えて、同系列のライヴハウス渋谷LOOP ANNEXでの開催。開演時間の19時30分には間に合わなかったが、約30分ほど遅れて会場に到着。対バン相手のおかもとえみのステージの終盤から金曜の夜を音楽で愉しんだ。

◇◇◇

【CICADA 関連記事】
・CICADA『BED ROOM』(アルバム・レヴュー)
・2015/01/25 Mixed Up@代官山LOOP
・2015/11/04 CICADA@WWW
・2016/01/08 CICADA@LOOP

◇◇◇



 まずは、おかもとえみ。彼女のことは全く知らなかったのだが、メジャー・バンド“THEラブ人間”の元ベーシストとのこと。2015年11月に発表した1stソロ・アルバム『ストライク!』には、オカモトコウキ(OKAMOTO'S)、岡本啓祐(黒猫チェルシー)、リヨ(クウチュウ戦)、ベントラーカオル(クウチュウ戦)、町田昌弘(100s)、EVISBEATSとこれまでの交遊などで培ったテクニシャンが参加しているとのこと。ソロになった経緯は知るところにないが、おそらくバンドのベーシストという立ち位置だけではなく、ソロ・シンガーとして歌える場所を見つけたいということなんだろうと思う。

 曲風はエレクトロやフレッシュ、ミニマルなトラックなどさまざまなアプローチをしているが、基本はポップ・サウンド。そこに日常の等身大の思いを遠すぎず近すぎずの絶妙な距離から語りかけるヴォーカルワークで親近感を生み出している。大きなスケールや迫りくるパンチ力ではなく、街中やリスナーの日常のどこかに潜んでいそうな感覚ながら、触れてみるとその意志や思いの強さにハッとするような“身近にありそうだけど個性的”なスタンスが魅力なのかも。

 この日はバンド・セットだったのだが、鍵盤系とドラムという組み合わせでギターやベースといった弦楽器がなかったのも面白かった。彼女の歌唱を引き立てるのには最良の選択だったように思う。
 シンセとサンプラーを担当していた中村遼とは“科楽特奏隊”(特撮を愛し、特撮の素晴らしさを伝えるため日夜出動する正義と怪奇のダンスフロア対応型特撮リスペクトバンド)のメンバー同士で、彼女はエミソンヌ名義でキーボードを担当しているとのこと。そのように持ち合わせている個性的な面がソロ・シンガーというフィルターを通してより表現出来ると、彼女の楽曲の浸透度も高くなっていくのではないかと感じた。

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 先月の〈CICADA presents“DETAIL”act.1〉についての記事では「成長期というよりも“確変”期に入っているような彼らが、短期間でいかなるスキルアップという名のカードを手に入れるのか」ということを記したが、この〈“DETAIL”〉シリーズは自らそのさまざまな可能性を図る“番勝負”的なものとして、彼らの今後の血となり肉となるものを得ようとしていたのだろう。ヒップホップ・マナーを随所に挟み込んだジャズ、R&B、エレクトロなどを横断する時流のコンテンポラリー・ブラック・ミュージックにスタイリッシュというアクセントを加えたCICADA流サウンドは、前回にも増してその輪郭を色濃く映し出していた。

 前回でも見せた序盤の「eclectic」から「ふたつひとつ」への流れは、ヴォルテージを一気に頂点まで上昇させる起爆剤として充分過ぎるほど効果的で、音と歌という最小限の演出でもフロアに大きな多幸感の渦を創出。微笑みと艶やかとのギャップが繊細と芯の強さを往来する城戸あき子のヴォーカルワークと重なり、歌詞が本来持つエネルギーを倍加させる一方で、バンド・メンバーそれぞれがその存在を主張するようにいきいきとした音を生み出していく。特に印象的だったのが若林ともの演奏アレンジで、サンプリングのセレクトやフロアのうねりを読みりながら繰り出すコードワークが新鮮に聴こえた。

 そして、若林が繰り出す鍵盤とは別のアプローチで対峙しているのが、フロアのグルーヴの渦をさらに加速させるような“煽り”の上モノを鳴らす及川創介。彼のその場の流れを掴むセンスは、非常に感覚的ながらも、快感を高めるのに充分。「夜明けの街」では先日のイヴェント共演時にカヴァーを披露したEspeciaの「アビス」のフレーズを挿入。Especiaへのリスペクトや思いが溢れた粋な演出に、その場にぺシスト&ペシスタ(Especiaのファン)がいたならば、感慨もひとしおだっただろう。
 また、ヴォーカルと上モノが心地良く空間を舞うのも、さざ波から水煙を上げるような風浪までを生み出すドラムスの櫃田良輔と、汗を噴き出しながらも寡黙に分厚い低音を鳴らすベースの木村朝教のボトムがしっかりと機能しているからに他ならない。これら5人5様の音と熱が螺旋のようにうねり合い、極上のグルーヴを生み出している。それが彼らの強みだ。

 後半には「閃光」「FLAVOR」「YES」と4月に発表するEP『Loud Colors』からの楽曲を惜しみなく披露。特に本編ラストの「YES」の演奏前では、“CICADAの決意表明”と城戸が目を潤ませながら夢への道程を築くと語れば、及川が「若林が詞曲を手掛けたのがムカつく」と言いながらも嫉妬と楽曲の出来に涙する場面も。夢を持つ全ての人たちへ贈るメッセージ・ソングだが、自身たちがさらなる高みを掴むための“ブースター”として投下した楽曲でもあるのだろう。そのような熱い思いを乗せた楽曲は、思いの強さゆえメッセージ性に注力するあまり時に自身の持ち味を削いでしまうことも少なくないが、彼らのエモーションを巧みにグルーヴへと昇華させたCICADA的なエッセンスとミディアム・スローながらも推進力を備えたものに。今後の彼らの音楽的振幅の広がりと多彩性の向上を予感させるようだった。

 「今はまだスタートラインにさえ立っていないかもしれないが、立つべきステージへ向けて走り続けるのでついてきて欲しい」と城戸は言う。それについては、敢えて口を挟みたい。“ついてきて欲しい”ではなく“ついて来させる”だと。彼らは大地を飛び出し、ロケットのように天空へと突き進もうととするなかで、今回のステージで「YES」というブースター(追加エンジン)を噴射した。「大きな壁にぶち当たるかもしれない」とも吐露した心境には自身たちの弱さも見えたが、弱さを知ることは強さを得るための大切な武器にもなる。その自身を省みる姿勢があれば、恐れることはない。“ついて来させる”くらいの面持ちでグイグイと牽引していくタイミングこそ、今なのではないかと。CICADAの楽曲やパフォーマンスには他に代えがたいオリジナルな魅力が豊富に詰まっているとアピールすべきだし、その自らを焚き付ける想いや勢いとともに大気圏というネクスト・ステップへと突入してもらいたい。

 アンコールは櫃田の高速ドラムンベースが炸裂する「stand alone」。メンバー同士にアイコンタクトや緊張感のなかでも楽しいという表情が生まれるなど、経験してきた刺激と苦悩が身となって楽曲や演奏へと繋がる好循環も感じた。ただし、これまではあくまでもコアなファンが集う空間での話。さらに大きな海原へ出て勝負出来るか。その勝負すべきステージは、まだ先の先だ。

 CICADAは蝉の意味するが、昆虫は言ってしまえば人間の力で握りつぶせるくらいに弱い。一方で、あの小さなサイズや軽さで猛暑や寒冷に耐え、強い生命力を発揮する生物は皆無で、人間の最新の技術力でも生み出せえないほど精巧でタフネスだ。弱さや脆さを抱えながらもそれを知ることで強さに変える力を蓄えている、それがCICADAだとすれば、トップレヴェルのシーンで抜群の“生命力”を発揮することも全く不可能なことじゃない。3月、4月と残り2回の武者修行を経て、5月の初のワンマンへ。高みへと突き抜ける勢いをさらに増すべく、次々と難問にトライしていってもらいたい。ナイス・グルーヴの追求に終わりはないのだから。



◇◇◇

<SET LIST>
≪おかもとえみ≫
ストライク!
moonwalk
HIT NUMBER


≪CICADA≫
00 Introduction
01 No Border(New Song)
02 eclectic
03 ふたつひとつ
04 Colorful
05 back to
06 夜明けの街(including phrase of“アビス”by Especia)
07 Bomb tracc
08 アウトライン
09 閃光(New Song)
10 君の街へ
11 リコールミー
12 FLAVOR(New Song)
13 YES(New Song)
≪ENCORE≫
14 stand alone

<MEMBER>
CICADA are:
城戸あき子(vo)
櫃田良輔(ds)
若林とも(g & key)
木村朝教(b)
及川創介(key)

おかもとえみバンド are:
おかもとえみ(vo,key)
にしのえみ(key)
中村遼(from 科楽特奏隊)(syn,sampler)
山本晃紀(from LITE)(ds)

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