*** june typhoon tokyo ***

近況注意報 0425 音楽篇


 2020年に気になったR&B系シーン楽曲10選+ワン。

 コロナ、コロナ、コロナ! センセーショナル・コロナ!(ひょうたん三銃士〈柳沢慎吾、光石研、岡竜也〉「SENSATIONAL HIROKO」風に)……と、まだまだコロナウィルス感染拡大の影響に苛まれている今日この頃こそ、かえって音楽を聴くチャンス、チャンス、You Gotta Chance! ということで、先日、久しぶりにエントリーした「近況注意報 音楽篇」シリーズ(→「近況注意報 0416 音楽篇」)の続編を。今回も引き続き、楽曲単位でのピックアップ。10選にするはずが、どうしても削れずに(選別するのが面倒くさかった)1曲を加えた11選。2020年に気になった、といっても、リリースは2020年とは限らないので、悪しからず。

 では、早速、どんと見据えて!(Don' miss it!)

◇◇◇

AUDREY NUNA / Time
Ayanis / Lil Boi(Big Talk)feat. Queen Naija
Berhana / I Been(feat. Crush)
Camille Munn / Eighteen
Ego Ella May / Girls Don't Always Sing About Boys 
Flwr Chyld / AuraBlu feat. MIA GLADSTONE, Elujay
Jade Novah / Newness feat. Eric Bellinger
Leven Kali / 12345(Get Real)
Lil Halima / Glue
Mokina and EyeLoveBrandon /Lazy Mornings
Pink Sweat$ / Ride With Me

◇◇◇

■ AUDREY NUNA / Time



 米・ニュージャージー出身のコリアン・アメリカンで、オードリー名義で活動しているオードリー・ヌナ(オードリー・チュー)。16歳の時に〈ロック・ネイション〉のプロデューサーのアンワー・ソーヤーに見出され、ニューヨーク大学で学ぶ20歳。2020年に入ってからジャック・ハーロウの客演ラップと自身の脱力系ラップをドープなビートに乗せた「コミック・サンズ」(Comic Sans ft. Jack Harlow)を発表しているが(曲風は異なるがディーライトのようなサウンドアプローチにも感じる)、ここでは2019年にヒットした「タイム」を。退廃的なムードのなかで漂う官能的なヴォーカルとグルーヴが、トラップやソウルを配合したアンビエント/チルなR&Bへと昇華している。ジワジワとクセになる中毒性も秘める注目株。


■ Ayanis / Lil Boi(Big Talk)feat. Queen Naija



  米・ジョージア州アトランタ出身のアイヤニスは、2018年に「F.I.Y.T.」(Fuck Is You Thinking)でシングル・デビューし、デビューEP『ディレクション』(Direction)を発表した歌手兼ダンサー。インスタグラムを機にアトランティック・レコードとの契約を勝ち取る展開は現代風だが、幼少には教会の合唱団でゴスペルを歌ってきたという素地も。シンガー・ソングライターでYouTuberのクイーン・ナイジャを迎えたこの「リル・ボーイ(ビッグ・トーク)」は、ヒップホップ的な要素も含めたクールなフューチャーR&B路線だが、EPではガーリーなナンバーも披露しているところから、ティナーシェやサマー・ウォーカーに近い存在か。ややハスキーなハイトーンとスウィートな声色と音数の少ないトラップ的なビートとの相性も抜群。


■ Berhana / I Been(feat. Crush)



 こちらも米・ジョージア州アトランタ出身のR&Bシンガー・ソングライターのアメイン・ベルハネ(Amain Berhane)は、2016年にバハナ名義でのセルフ・タイトルEP『バハマ』(Berhana)でデビュー。エチオピアにルーツをもつアフリカン・アメリカンで、サム・クックやエリカ・バドゥ、スティーヴィー・ワンダーを聴きながら育ち、マイケル・ジャクソンの『ムーンウォーカー』や「ロック・ウィズ・ユー」に大きな影響を受けたという(なのに、EP『バハマ』に収録されている曲名は「ジャネット」)。2018年にはフジロック・フェスティヴァルにも出演。何年間か日本料理のシェフだったこともあるようで、「ワイルディン」(Wildin')のPVの冒頭には、咥えたばこの黒人男性がバリカンで髪を切りながら流暢な日本語で「大人なんやから、もう子供みたいな事止めや。」と言ったり(日本語字幕が出る)、過去の事故(?)がフラッシュバックする場面で「悲しませないで~」という日本語曲(1987年発表の清水香織のシングル「サイコソルジャー」のカップリング曲「傷だらけのブルームーン」の一節)が使われていたりと、なかなかの親日家ぶりを発揮。

 それは2019年のアルバム『ハン』(HAN)に収録されたクラッシュをフィーチャーした本曲「アイ・ビーン」でも同様で、モニターの中でバットを持ちながらベースボールユニフォームで海に入っているシーンが流れるのだが、そのユニフォームには“球美”と漢字で胸にネームが入っていたり(野球が美しい=Baseball is Beautifulの略なのか、よく分からず)と細かなネタに意識がいってしまう。だが、楽曲自体はAOR/シティポップ・テイストも汲んだ美メロ・ソウルポップで、甘く薫る“ナヨ系”の優男ヴォーカルも耳に馴染んで心地よい。おそらくIkkubaru好きにも響くはず。


■ Camille Munn / Eighteen



 英・ロンドンを拠点とし、グッチやリーボックほかファッションモデルとしても活躍しているシンガー・ソングライター、カミラ・モン(カミーユ・モン・フランシス、Camille Munn-Francis)。なかなか情報が掴めないのだが(ただ、モデルゆえか身長173cm、バスト80、ウエスト61、ヒップ88、シューズ6.5=25cm、髪色・黒、目・ブラウン、カップBといった情報にはありつける)、ゴールドスミス・カレッジ(ロンドン大学)出身の才媛で、この楽曲「エイティーン」は2019年のデビュー曲。2020年には「サンセッツ・ウィズ・ユー」(Sunsets With You)というシングルをリリースしている。

 モデルとしての活躍が目立っていたが、音楽はずっと作り続けてきていたらしく、この「エイティーン」を皮切りに、音楽へと傾倒するつもりとのことなので、今後はEPなりアルバムなりも期待出来そう。「エイティーン」はタイトで乾いたドラムが引率するブーンバップ(サンプリング・メインのトラック)・スタイルのトラックや酩酊をいざなうジャジィなサックスと艶やかなヴォーカルがほどよく溶け合った、スムーズ&メロウかつドープなネオソウル・マナーに耳が惹かれる。ラフなヒップホップのビートが走るオーガニックで冷温な作風は、エリカ・バドゥやジョージア・アン・マルドロウあたりの親和性もあるか。



■ Ego Ella May / Girls Don't Always Sing About Boys



 エラ・メイといえば「ブード・アップ」(Boo'd Up)でグラミー最優秀R&B楽曲賞を受賞し、エラ・フィッツジェラルドから名付けられたという英・ロンドン出身のエラ・メイを思い出すが、こちらは南ロンドン出身のネオソウル・シンガー・ソングライターのエゴ・エラ・メイ。どちらもロンドンの出でややこしくもあるが、知名度では負けるものの、2013年にはデビューEP『ザ・トゥリー』(The Tree)を出していて、2015年にソロ活動を開始した“エラ・メイ”よりも活動自体は早い。

 南ロンドンのジャズ・シーンを往来しながら、独創的なネオソウルを構築し、レーベルメイトで日本でも人気の米・ロサンゼルス出身のジャズ/ネオソウル・バンドのムーンチャイルド(Moonchild)やUKソウルのレジェンド的存在のオマー(Omar)とも共演。Bandcampの2019年9月度ベスト・ソウル・アルバムとなった初作『ソー・ファー』(So Far)を経ての一曲がこの「ガールズ・ドント・オールウェイズ・シング・アバウト・ボーイズ」(Girls Don't Always Sing About Boys)で、UKらしい哀愁を帯びたムードのなかをコリーヌ・ベイリー・レイのやわらかい肌当たりとエリカ・バドゥ風の仄かなアンニュイを合わせたようなヴォーカルで紡ぐ、アンビエント/チルなジャズ・ソウルに仕上がっている。ミッドナイト・ソウルといえるようなディープな質感が美味。


■ Flwr Chyld / AuraBlu feat. MIA GLADSTONE, Elujay



 ソングライター/プロデューサーのフラワー・チャイルド(でいいのか)もアトランタ出身。バンド・ディレクターの父のもと、ジル・スコットやエリカ・バドゥ、ディアンジェロ、ファレル、ミュージック・ソウルチャイルド、ドゥウェレ、ロバート・グラスパー、ア・トライブ・コールド・クエストなどネオソウルやジャズ近辺の音楽を聴きながら育ち、小学6年からトロンボーンの演奏を始め、ジョージア州立大学音楽学校ではキーボードやピアノを弾き、ジャズ・アンサンブルを演奏。その後、ヤング・ベイビー・テイト(Yung Baby Tate)、ナイ・ブリックス(Nai Br.XX)、ジェイムス・バンブ(James Bambu)らアトランタを拠点とするアーティストと仕事をするようになり、2008年にカニエ・ウェストを迎えてヒットしたエステル「アメリカン・ボーイ」をハウシーなリミックスにして注目された。

 その後、2018年にデビューEP『リフレクション』を発表。翌年の『イリデセント・ラヴ』(Iridescent Luv)を経て、2020年にリリースされたのがこの「オーラブルー」。『イリデセント・ラヴ』収録の「フライ・ミー・アウェイ」でも客演したミア・グラッドストーンとオーランドのラッパー/ソングライターのエルジェイ(エルジェイの2018年の曲「ブルー」(Blu)をモチーフにしたのかも)を迎え、ザラつきのあるサウンドとバウンスビートをもってディープソウルやアンビエントR&Bのムードを湛えた楽曲に仕立てている。
 近未来的ながら深淵なディープネスも感じさせる音色は、ジ・インターネットのシド(Syd)近辺ともいえそうで、今後どんな共演やコラボレーションが生まれるのか楽しみな存在だ。


■ Jade Novah / Newness feat. Eric Bellinger



 米・オハイオ州クリーヴランド出身のR&Bシンガー・ソングライター、リンゼイ・フィールズ(Lindsay Fields)によるソロ・アクトがジェイド・ノヴァ。幼少より教会やフィメール・ヴォーカル・グループで歌い、ミッシー・エリオット『ディス・イズ・ノット・ア・テスト!』のバックアップ・シンガーやタイラー・ペリー作コメディのツアーのバックシンガーなどを経験。その後、マイア(Mya)、メラニー・フィオナ(Melanie Fiona)、クリスティーナ・ミリアン(Christina Milian)らの作家グループにてソングライターを務めた後、2012年よりシンガーとして活動。一方で、リアーナやビヨンセらのカヴァー動画などでも注目され、リアーナやレディー・ガガのツアーにヴォーカリストとして帯同している。

 「ニューネス」は、2018年のデビュー・アルバム『オール・ブルー』(All Blue)に続く2020年作『ステージズ』(Stages)に収められた楽曲で、クリス・ブラウン「ファイン・チャイナ」(Fine China)やジャスティン・ビーバー feat.ドレイク「ライト・ヒア」(Right Here)、ジェニファー・ハドソン&ニーヨ「シンク・ライク・ア・マン」(Think Like A Man)、アッシャー「レミー・シー」(Lemme See)ほか数多くのヒット作を手掛けるソングライター/プロデューサーのエリック・ベリンジャーを迎えた、コンテンポラリーなR&B。ナイーヴとクールなテンションで展開するミディアムR&Bだが、ノヴァの清廉なヴォーカルとハートウォームなベリンジャーなの声色によって、必要以上にダウナーにさせない、オーセンティックながらほどよい具合のディープ・メロウ作風に仕上がっている。


■ Leven Kali / 12345(Get Real)



 レヴェン・カリは米・ロサンゼルスを拠点に西海岸シーンで活躍するプロデューサー/シンガー・ソングライター、というよりは、タキシードの3rdアルバム『タキシード・3』(Tuxedo III)収録の「OMW」にバトルキャットとともに客演している歌手といった方が分かりやすいか。ドレイク「ドゥ・ノット・ディスターブ」やスノー・アレグラ「タイム」などを手掛けており、K-POPに明るい人なら、NCT 127、EXO、Red Velvet作品にクレジットされているのを覚えているかもしれない。2019年にアルバム『ロー・タイド』(Low Tide)を発表し、シドを迎えた「ドゥ・ユー・ロング」(Do U Wrong)でも話題となっていたが、そのカリの新曲が「12345(ゲット・リアル)」。

 なんといっても煌めきとチルなムードに包まれながら、軽やかに“GIMME 1 2 3 4 5~”と紡がれるフックが魅力的で、耳を捉えて離さない。爽やかな夏の夜の海辺、あるいは心地よいラウンジ・ポップが流れるチルアウトな時間が想起されるリラクシンなヴァイブスが横溢する、サバービア感も垣間見えるポップ・チューンだ。3分に満たない尺も、センチメンタルなひと夏の終わりを思わせるような刹那を感じさせている。


■ Lil Halima / Glue



 個人的になかなか注目しているのが、1998年生まれ、ノルウェー・オスロを拠点に活動しているクリエイターのリル・ハルマ。95年にケニアからノルウェー北部のバルドゥに移った父のもと、スティーヴィー・ワンダー、2パック、アリーヤらを勧められるとともに、SZA、ノーネーム、エリカ・バドゥ、FKAツイッグスらを好んで聴いてきたという。商業的な成功よりも作品のクオリティを重視して選定される「北欧音楽賞」やノルウェー版グラミー賞といえるスペルマン賞にノミネートされている新鋭の実力者で、ソングライティングはもちろん、ピアノ、ヴァイオリン、プロダクション、ヴィジュアルアートまでをこなすマルチな才能の持ち主。2018年よりコンスタントに楽曲を発表するも、2018年の『ラヴ・ソング・フォー・バッド・ラヴァーズ』(love songs for bad lovers)、2019年の『フォー・ザ・ダーク・デイズ』(for the dark days)・『フォー・ザ・ブライト・デイズ』(for the bright days)とEPサイズの作品とシングルで占めており、まだフル・アルバムは未発表のようだ。

 4月にリリースされたシングル「グルー」は、スウィート&スムーズなグルーヴで魅了するキャッチーでアップビートな楽曲。彼女から発せられる声には“ハニー・テイスト”とでも呼べそうな甘美な芳香が宿っていて、実にスウィートネス。可憐なハイトーンのネイオ(Nao)の感じにも似ているなと思ったが、そのネイオやマヘリア(Mahalia)、スノー・アレグラ(Snoh Aalegra)らを担当するソングライター・チームが制作したということで納得。ルックスはどことなくレイラ・ハサウェイを思わせる表情もあったりと好物な要素も多く、今後に大いに期待したい。


■ Mokina and EyeLoveBrandon /Lazy Mornings



 「レイジー・モーニングス」はカナダ・モントリオール出身のミュージシャンのモキナと、米・フロリダ州タンパ出身のソングライター/ミュージシャンのアイラヴブランドンことブランドン・クランブリーとの共作曲で、2019年リリースのモキナのEP『サンデー』(sunday)に収録されている。

 モキナはムーンチャイルドのメインヴォーカルのアンバー・ナヴラン(Amber Navran)を彷彿とさせるピュアなハイトーンが快く響くソフトタッチのヴォーカルが特徴で、エレピ使いのコード進行との相性もいい。アクがないという取り方も出来るが、エレガントな音鳴りを上品のままにして気高く止まるのではなく、人懐こさをもたらすポップスとしてまとめているのが奏功。明澄で清潔感のあるソウル・ポップスで、タイトル通りウィークエンドの怠惰な朝のムードにピッタリだ。
 アイラヴブランドンはR&Bやヒップホップ、ジャズのほか、アニメに影響を受けているようで(ジャケットのアートワークでもそれは明白)、アニメ『スター・チャイルド』(STAR CHILD)の共同クリエイターも務める。過去作には「Hikari」というタイトルのインスト曲やNujabesのトリビュート作も発表するなど、日本にも縁がありそうだ。


■ Pink Sweat$ / Ride With Me




 最後に紹介するのは、米・フィラデルフィア出身のソングライター/プロデューサー、ピンク・スウェッツことデヴィッド・ボウデン(David Bowden)の「ライド・ウィズ・ミー」。スタジオ作業の時にピンクのスウェットをいつも着ていたことから、ピンクを自身のメインカラーに設定してこの名義に。19歳から楽曲制作を始め、デモシンガーやソングライターとしてのキャリアを積んだ後、2018年にソロ・アーティストとして始動。デビューEP『ヴォリューム・ワン』(Volume 1)がメディアでも支持されると、2019年の注目すべきアーティストに選出。髭を生やしたファットな黒人男性というルックスながら、なかなか愛らしく褐色の彩りを擁した歌声というギャップも魅力か。

 「ライド・ウィズ・ミー」は軽快なリズムで展開するポップ・ファンクの要素も入ったグルーヴィなR&Bで、声質やサウンドともにシティポップ・マナーを醸し出すミュージック・ソウルチャイルドといった雰囲気(奇しくもミュージック・ソウルチャイルドもフィラデルフィア出身)。スウィートでナイーヴな歌唱を湛えたチル/スロー・ナンバー「オネスティ」(Honesty)でブレイクしたスウェッツだが、「ライド・ウィズ・ミー」のようなポップ・グルーヴにも多くトライしてもらいたい。

◇◇◇

 今回は10曲+1曲としたが、探っていくとをさまざまな楽曲に辿り着いて、新たな発見もある(もちろん取るに足らない楽曲にもぶつかるが)。これらの楽曲が音楽ライフのひとときに加わることになれば嬉しい。


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