
ポップ・シーンを彩る女性ヴォーカリストたちの饗宴。
多くの好イヴェントを企画している代官山LOOPが、幅広いアプローチでさまざまなアーティストをフィーチャーするライヴ企画〈LUMINOUS〉を開催。脇田もなり、YANAKIKU、西恵利香の女性アーティスト3組によるスリーマン・イヴェントに足を運んだ。ウィークデーでの開催とこの日の夜は雨も降り、集客には好条件ではなかったが、それでもグッド・ミュージックを愛するファンたちが代官山LOOPのフロアに集った。
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トップバッターは、先日(9月8日)に初のソロ・ワンマンライヴ(脇田もなり@clubasia)を盛況のうちに終えた脇田もなり。ライヴハウスでの対バン・イヴェントながら約40分のステージとファンには嬉しいセットで、1stアルバム『I am ONLY』収録曲から「IN THE CITY」「Boy Friend」「I'm with you」のシングル3曲を含む8曲を披露した。
この日は途中で水が喉につかえたのか、高音が出なくなるというアクシデントがあり、万全のパフォーマンスとはいかず。何とかハイトーンをファルセットで凌ごうとするものの辛そうな様子だったが、「高音が出ないかもしれないのでよかったら歌ってください」とオーディエンスに投げかけてフロアからのレスポンスを取り込むなど、多少のトラブルにも対応する機転を利かせる。心配されていた喉の調子も「I'm with you」になる頃には解消され、再び伸びやかなハイトーンを取り戻すと、安堵の笑顔が溢れる。その表情にオーディエンスもホッとしたのか、心配を払拭したファンからは熱のこもったコールも飛び出し、ラストはライヴでのコール&レスポンスが定番となった「Boy Friend」でエンディング。“恋をしようよhoney”が心地よくフロアにこだました。

喉の不調はあったものの、楽曲それぞれの世界観を多彩な声色で表現しようとするアティテュードはワンマンライヴの時と同様。イヴェントを重ねて経験値を積んでいる効果も確実に垣間見られ、このクラスのステージでは全体を見渡す余裕も出始めるなど、ステージ度胸もついてきたようだ。ポップ・シンガーとしてはヴォーカルワークやパフォーマンスなどを含めてまだ発展途上だが、とはいえ、ソロデビューから約1年。Especia時代からではなくソロシンガーとなってからの新たなファンも掴み、コンスタントにリリースを続けているのは、順調な出だしといえる。ヴォーカリストとしての資質や才は既に知るところゆえ、今後どれほどの伸びしろを広げられるかは楽しみなところだ。歌を歌える喜びからの充実感も存分に伝わってくるパフォーマンスだった。
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続いて登場したのが、本人たち曰く“またまた最年長”というガールズ・デュオのYANAKIKU。これが初見のステージ。YANAKIKUは夏木マリ感もチラつくクールビューティなモデル/女優ライクなYANA(柳めぐみ)と松井玲奈っぽさも窺える天真爛漫なKIKU(菊井彰子)によって2012年10月に結成。“日本”をテーマにエンタメ性を重視したパフォーマンスを繰り広げ、海外でも活動しているという。着物をイメージしたコスチューム“きもコス”を身に付けた“ゲイシャ”的なヴィジュアルも煌びやか(いわゆるクラシカルな“日本”のイメージを凝縮している感じ)で、なるほど海外でのウケも良さそうだ。
一見“キワモノ”的な印象を持つ人もいるかもしれないが、その実は明確なコンセプトの下でエンターテインメント性を追求した完成度の高いパフォーマンスを繰り広げる二人。語尾に“鶴(つる)”を付けるなど芸者をモチーフにした風の話し方やオーディエンスを巻き込んでのMCなど、フロアとの一体感に気を配る“ライヴ”性に労を惜しまない姿勢も好感。「Welcome to Tokyo」「FUNK★JAPAN」「フジヤマ△デスコ」などで見られる、“スシ”や“フジヤマ”など日本を端的にイメージしやすいワードをファンキーなダンスビートで繰り出していくアプローチは、キャッチーで耳に残る中毒性も備えているし、「HACHIKO↑DANCE」での“8の字”ダンスや「KANPAI NIGHT」での“乾杯”のジェスチャー、「フジヤマ△デスコ」での文字通りの“富士山ポーズ”といった一連のダンスでの瞬間的な解かりやすさも小難しくなく、訴求力も高い。

肝心のサウンドはダンスビートを軸に、テーマとなる“日本”を想起しやすい“和”(琴などの和楽器の音やメロディ)を採り入れたスタイル。そういったコンセプトは特段珍しくはなく、寧ろ発想としては“ベタ”な部類に入ると思うが、単純に“和”の要素を足してみたというのではなく、しっかりとダンス/クラブ・ミュージック・マナーを活かした音を構築。ダブステップやプログレッシヴ・ハウスのようなEDMスタイル、高らかに弾けるホーンやギターをリズミカルに投入したファンキー・シンセ風のトラックなど、ボトムの厚さも備わった曲調を創出。また、JBマナーのファンクやダンクラ、ホーンズ・ビッグバンド的な要素をちらつかせたグルーヴが身体を揺らせることに奏功。曲調は異なるが、以前に米米CLUBが「Shake Hip!」や「FUNK FUJIYAMA」などで提示したスタイルを、ダンス・ミュージックを下地にガールズ・デュオで再現したというような相似性(米米CLUBもヴィジュアル面やコンサートでの寸劇などを特色としていた)を感じた。
歌唱力も高いレヴェルにあって、何より速いテンポで展開しながらも歌詞やフレーズが耳にスッと入ってくる闊達なヴォーカルが見事。「FUNK★JAPAN」の曲中に“生麦生米生卵”などの早口言葉でのコール&レスポンスを組み入れても、全く不安にならない。

東京オリンピックには、秋元康プロデュースのアイドル・グループとかE一族などのパフォーマンスを“呼びもの”とするかといったような噂話がされて久しいが、確かに大所帯感覚で魅せるには一理ある。しかしながら、海外へ日本をアピールするという観点から言えば、YANAKIKUのようなアーティストこそフィーチャーすべきだと思う。おそらくフランスなど欧米で開催されるジャパン・エキスポなどのようなイヴェントではウケもよくステージ映えしそうだ。それはやはり、日本を表現するために単に「“和”を持ってみました」ではなく、歌詞やサウンドから日本の“カルチャー”がダイレクトに伝わってくるからだろう。さらにはコミカルな要素も添えたハッピーなヴァイブスが心躍らせるはずだ。
12月にはワンマンライヴ、近日には全国流通となるアルバムもリリースされるとのこと。まだ初見ゆえ不明なところも多いが、第一印象は予想以上だった。今後もっとフックアップされていいアーティストだと思う。
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トリは西恵利香。彼女を見たのは脇田もなりのソロ初お目見えとなった2016年9月の代官山UNITでの〈星野みちるの黄昏流星群Vol.5〉、今年4月に六本木Varit.で行なわれたレーベル〈para de casa〉主宰のパーティ〈Parade!〉以来。赤のトップスと黒地に白いドット柄風のパンツのスタイルで登場し、安定性の高いヴォーカルを披露してくれた。
以前にも言及したかと思うが、もうアイドル出身という過去には触れる必要もなく、彼女は質の高い濁りのない正統派ポップ・シンガーの体を擁していて、ハーフっぽい美形なヴィジュアルも重なり、惹かれる要素を多く持っている。今回は「刹那的前夜」や「常花」、ワンフレーズだけを披露した脇田もなりの「Boy Friend」を含め、ア・カペラから入って歌唱力の良さを強調する演出もあった。「Boy Friend」を歌い終えると、したり顔で「ドヤッ」と茶目っ気たっぷりに発していたが、オリジナルを凌駕する安定した歌唱力には自信も窺えた。
ただ、彼女はどうしても器用貧乏的なところが感じられて仕方ない。おそらくさまざまなジャンルの楽曲を歌いこなせるユーティリティが十分にあるのだが、どれも“こなせてしまう”以上のインパクトが欲しいところ。一種のクセのようなとっかかりが中毒性をもたらすアーティストもいることを考えると、故意にクセを出す必要性はないが、何かしらの刺激的な要素があれば、より多くから注目されると思う。ア・カペラ導入演出も“聴かせる”という点では非常に有効だが、あまり頻度が高くなると、リスナーはそれに慣れてしまうリスクもない訳ではない。
この日は新曲も披露。ヴォーカルエフェクト(トークボックス?)を用いた夏らしいシティ・ポップ、ラップを導入したファンキー・ポップといった曲風だったが、彼女がポップ・シンガーとして辿るべき道はどのようなところかというのが、やや揺らいでいるのかもしれない。アンコールで披露した新曲は曲調は爽快で耳当たりもよいが、ラップを駆使して新たな西恵利香像を見出したいのか、単なる目先の変化なのかがいまいち読み取れなかった。もちろん、当初の予定になく、オケを聴いて初めて歌うというステージゆえ今後は歌唱に熟成を増してくるはずだが、何か腑に落ちないところがあるのは気のせいだろうか。

彼女の歌唱のクオリティを考えると、ブレない軸を据えれば、よりリスナーに届くポテンシャルを秘めているだけに、彼女にとっての最適解をいち早く見つけてもらいたいところ。仮に彼女がバンドやグループのヴォーカリストであったとしたら、今以上に注目度が高まっているのではないかと思う。ソロ・シンガーとして訴求力を持つために、そのポテンシャルに見合ったところまで到達するためには何が必要なのか。詞世界にどっぷり浸かれるように自作詞を手掛ける頻度を高めるとか、自身がやりたいテイストの曲に貪欲にチャレンジするとか、あらゆることに目を向けるうちにきっかけの種を生み出せるといいのだが。手っ取り早く言えば、「MUSICを止めないで」以上の名曲、ヒットを生み出すことなのだろうが……。資質の良さが伝わるだけに、そのジレンマを感じてしまう。
とはいえ、そうはいいながらも(あくまでも個人的な見解ゆえ)、全体としてはオーディエンスをたっぷりと魅了したパフォーマンスには相違なかった。フレンドリーな性格もファンには好感をもたらしているようだ。二日後の30日に川崎ラチッタデラで行なわれるフリーライヴの宣伝の際に会場名を“川崎クラブチッタ”と言い間違えた後、「クラブチッタは大きいや……」と自虐的に呟いていたが、そのキャパシティ級でのオーディエンスを前に彼女がどのような心に“刺さる”歌唱を披露するかには興味があるところ。ステージを重ねながら、成熟と多彩な表現の深化に期待したい。

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<SET LIST>
≪脇田もなり≫
01 IN THE CITY
02 IRONY
03 EST! EST!! EST!!!
04 祈りの言葉
05 ディッピン
06 夜明けのVIEW
07 I'm with you
08 Boy Friend
≪YANAKIKU≫
00 INTRODUCTION
01 Welcome to Tokyo
02 FUNK★JAPAN
03 HACHIKO↑DANCE
04 KANPAI NIGHT
05 オトナノオンナトオトナノオトコ
06 KIRA KIRA TOKIO
07 FUJIYAMA△DISCO(JPN ver.)
≪西恵利香≫
00 INTRODUCTION
01 バタフライエフェクト
02 予感
03 刹那的前夜
04 NEW SONG #1
05 Boy Friend(a cappella short ver.)(Original by 脇田もなり)
06 常花
07 MUSICを止めないで
≪ENCORE≫
08 NEW SONG #2

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