1974年にザイールで行なわれた“ブラック・ウッドストック”とも呼ばれる音楽祭、“ザイール'74”の舞台裏とステージを捉えたドキュメンタリー映画『ソウル・パワー』を観賞。新宿、渋谷でも上映していたが、7月2日の21時からの上映が爆音上映(ライヴ用のスピーカーを使用するらしい)ということで、吉祥寺バウスシアターへ向かった。1日(映画の日)ということもあって、1000円で観られた。
当初、アフリカ系ミュージシャンらの音楽祭とその後“キンシャサの奇跡”と呼ばれた“モハメド・アリ対ジョージ・フォアマン”のボクシング世界ヘビー級王者決定戦との同時開催を計画するも、試合の方がアクシデントで延期に。黒人の解放運動のために是が非でも開催させたい関係者が“キンシャサの奇跡”に先駆けて音楽祭の開催に奔走する姿を描く。アカデミー受賞作品『モハメド・アリかけがえのない日々』の制作後にお蔵入りしていた貴重な映像を34年を経て公開したものだ。
ザイール(現・コンゴ民主共和国。コンゴはコンゴ共和国もあり、一時期、コンゴ民主共和国の方もコンゴ共和国を正式名称としたこともあり紛らわしいのだが、それは、元来コンゴ王国だったものを、ポルトガルの征服後、19世紀にベルギーとフランスとポルトガルでそれぞれ領地を分け合ったという“列強の都合”が原因)での世界的なブラック・ミュージックの祭典に駆けつけたのは、“ソウルの帝王”ジェームス・ブラウン、“ブルースの神様”B.B.キング(ちなみに、アニメ『ちびまる子ちゃん』エンディング曲としてブレイクした「おどるポンポコリン」を歌ったB.B.クイーンズは、彼の名前が由来)、“サルサの女王”セリア・クルースとファニア・オールスターズ、“南アフリカの闘士”ミリアム・マケバ、“フュージョン界のスーパーグループ”ザ・クルセイダーズなど、錚々たるメンバー。とはいえ、スポットを多く浴びるのはもちろん、ジェームス・ブラウンだ。映像は、“蝶のように舞い、蜂のように刺す”モハメド・アリとジェームス・ブラウン、解放を求める黒人がルーツ回帰を目指して興奮する姿と祭典を取り仕切るビジネスライクな白人という対比で展開していく。
フォアマンのアクシデントでボクシング・タイトルマッチと音楽祭が同時に開催出来ない旨を「仕方ないこと」と割り切って冷淡に告げる主催関係者と“バック・トゥ・ザ・ルーツ”の瞬間に胸踊る黒人たち。そして、開催のために運営の成功のための準備にのみに執着するように見える出資者と現場監督。神を超えたものとして世界へアピールする使命があると豪語するモハメド・アリと、世紀の祭典にジワジワと宿る興奮を内包するジェームス・ブラウン。ステレオタイプといってはそれまでだが、ブラックとホワイト、リッチとプア、支配者と被支配者……という対立構造を描きながら、モハメド・アリの高ぶりとジェームス・ブラウンの圧巻のパフォーマンスが迫るクライマックスへと向かう。
印象的な場面は、ザイールに到着し「犯罪の数々が跋扈するアメリカなんかよりも、この街(ザイール)のなんと平和なことか」と強い眼差しで語る1コマと、街中での食事の場面で「俺は自由だ、お前も自由だ」と言われたアリが、「俺は自由じゃない!」と声を荒げる場面。その後、「(音楽祭に悪気はないが)音楽では叶えられないものを、俺の試合で実現する」という高圧的な発言へと続く。しかしながら、現地の子供とキスをする場面で「英語とフランス語で会話してみろよ」とはやし立てられたアリが「今は解からなくても将来解かるようになるさ」と答えた場面に、アリの優しさと揺るぎない意志が垣間見られた。
一方、ジェームス・ブラウンの印象的な場面は、ザイールへ向かう道中で「もうすぐ戻れるんだ」と問われたJBが「俺は戻るんじゃない、すでに(魂は)“いる”」と応えた1コマと、ステージが終了しバックステージへ戻ったJBについてきたカメラが退室する際に、何度もお辞儀をし手を振り感謝を表わした場面。
自分を高めながら黒人解放に対して並々ならぬ決意の感情をむき出すアリ(それは五輪で金メダル獲得後に差別を受けた影響がずっと離れずに残っていることが原因だろう)と、音楽を通して訴えれば、人間は誰もが“何か”を持っていて、そこに障壁はないんだと行動で示すJB。どちらもアフリカ、ブラックネスの解放という悲願への生々しい熱情のほとばしりを感じさせた。
モハメド・アリがジョージ・フォアマンを倒し“キンシャサの奇跡”が達成された6週間前に、もう一つの“キンシャサの奇跡”があった……というドキュメンタリーだが、単純にJBたちのパフォーマンスを観るだけでも価値はあると思う。JBを中心に展開するが、B.B.キングの悲しげにも安堵にも読み取れる表情での演奏も感慨深いものがあった。
混沌とした世界に、もう一度、世界とは、人間とはという根本的なことを考えさせるのに充分な映像といえるかもしれない。
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『ソウル・パワー』
?93分
監督: ジェフリー・レヴィ=ヒント
出演: モハメド・アリ、ジェームス・ブラウン、B.B.キング、ビル・ウィザース、ミリアム・マケバ、ザ・スピナーズ、セリア・クルーズ、スチュワート・レヴィン、ザ・ファニア・オール・スターズ、ドン・キング、シスター・スレッジ、ザ・クルセイダーズ、トリオ・マジェシ他
字幕監修: 中田亮(SHOUT!/オーサカ=モノレール)
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JBといえば、やっぱりコレ!
JAMES BROWN “MISOPPA”
日本にわざわざ来させて(来させたのか?)“ミソッパ!”と言わせた関係者に拍手。(笑)
父親がインディアン・アパッチ族、母親がアフリカン・アメリカンとアジア人の系統とも言われており、JBが日本人の系統らしいということが、日本への親和に繋がっているのかもしれない。
JBがいなければ、世界的エンターテイナーのマイケル・ジャクソンも生まれていない訳で(マイケルのステップや“アオッ”“ダッ”などの掛け声は、明らかにJBの影響であるし)、そのマイケルが最大の影響を受けたアーティストは(それでなくても充分スーパーヒーローなのだが)やはり偉大なのだ。
“グッゴッ!”