*** june typhoon tokyo ***

ESPECIA@渋谷Club asia


 トランスフォーマー、ESPECIA。

 2016年2月末にメンバー3名卒業と一時活動休止を発表したガールズ・グループ、Especia。約4ヵ月を経て、対バンイヴェント〈Squid Master #7〉での再始動がアナウンスされたということで、会場の渋谷・クラブエイジアへ足を運んだ。

 当初は“4月を目処に活動再開”としていたが、その後は情報が皆無で多くのぺシスト&ペシスタ(Especiaのファン)はヤキモキしていたのではないか。残った二人組として再開するのか、新たにメンバーは加わるのか、作風は継続するのか……等々、それぞれが思いを巡らせて待ち続けた瞬間は、一組目のTaiko Super Kiksがステージアウトした十数分後に訪れた。

 キーボード、ベース(スタインバーガー?)、ドラム、サックス、ウインドシンセ(リリコン?)、ギターを配したバック・バンド、Hi-Fi Cityが位置に着くと、高揚する感情を抑えきれずにところどころから声が上がる。そして、冨永悠香のキーボード演奏によるイントロダクションから「海辺のサティ」へ。センターへ歩みを進めた冨永に続いて、右から森絵莉加がステージイン。間をおいて、新メンバーのブラジル人、ミア・ナシメントが登場して、新生ESPECIAの容貌が明らかになった。

 まず、大きく変わったのはそのヴィジュアル・イメージ。これまではそれぞれが持つイメージカラーをベースにした配色の衣装を身に付けていた彼女らだったが、3人の全員の衣装が黒に統一され(おそらくネイルも黒)、ヒールという出で立ちに。続いて、披露された楽曲のほとんどが冨永(HARUKA)のリード・ヴォーカル、森(ERIKA)とミアがコーラスというスタイルで、曲風は極めてアダルト&ジャジー/フュージョンな色合いとなった。過度にオーディエンスを煽るようなキャッチーなコール&レスポンスも消え、楽曲を軸としたパフォーマンスで“聴かせる・酔わせる・感じさせる”というステージングに軸を定めたようだ。

 新生ESPECIAの新曲として唯一披露された「Savior」は、異国情緒を感じさせるオリエンタルなムードに包まれたアシッド・ジャズ風のサウンドで、妖艶でミステリアス。ヴォーカルやコーラスにおいても少女性を完全に取り払い、大人の楽曲で勝負するという狙いも見えてきた。
 全編英語詞というのもそれを示唆するもので、ラストで披露した既存曲「Boogie Aroma」も英語ヴァージョンだったことを考えると、今後は英語詞を中心とした楽曲を送り出してくるのだろう。従来は“アイドルながらもアイドルらしからぬ良曲を歌う”というギャップを含めた立ち位置で注目されていたが、元来よりアイドルではなく“ガールズ・グループ”を表明していたことを考えると、ようやく“ガールズ・グループ”として活動する下地が整ったということかもしれない。

 とはいえ、これまでは“アイドル”のカテゴリーと見なされてきたのも事実で、その目線で彼女らを追ってきたファンにとっては、少なからずショックを受けたとは思う。彼女らの活動に存在していた“アイドルでありながら楽曲は大人びている”という着想には、ある種の醍醐味があったことは否定出来ない。それらを支持し魅力を感じていたファンと、どちらかといえば楽曲とそのパフォーマンスに重きを置くファンとでは、ある程度の賛否が生まれそうだ。

 黒で統一された彼女たちだが、そのコンセプトにも思慮の後が感じられた。ライヴ直後に公開されたヴィジュアル・イメージはヘジャブ(ムスリム女性が着用する頭髪を覆い隠すスカーフ地の布)に黒マスクというムスリム・スタイルという謎めいたものだが、その構図はPerfume「ポリリズム」を想わせたし、ステージ上の衣装も、HARUKAがロングスカート、ERIKAがミニスカート、ミアがショートパンツと黒一色の中にもアクセントをつけていたのも同様。意図してのものか偶然かは解からないが、テクノ・ポップ路線に変更して羽ばたいた彼女らのように、アイドル性と楽曲のギャップだけで展開するのではなく、楽曲のクオリティに相応しい路線で成長していきたいという強い思いが、無意識のうちに“成功例”とリンクしたのかもしれない。


 以前、メジャー・デビュー作『プリメーラ』に寄せた金澤寿和のライナーノーツが一部ファンの間で物議を醸したことがあった(詳細はこちらを参考→「音楽ライター:金澤寿和の音盤雑感記」。また、これまた物議を醸した「We are Especia~泣きながらダンシング~」をプロデュースした若旦那とのツーマン・イヴェント〈バーサーズー〉では、若旦那に“(アイドル・シーンに留まってなんかいないで)こっちの土俵に上がってこい”と挑発されたこともあった。“楽曲は素晴らしい、面白い”と言われてきた彼女らが、ようやくパーマネントなガールズ・グループとしてシーンに存在をアピールするために選んだのがこのスタイルだとしたら、少なくともアイドルという視線ではなくガールズ・グループとしてどう成長するかということに興味を持っていた自分としては、この決断と勇気に対して拍手をしたい。

 しかしながら、その道は非常に険しいと言わざるをえない。この日披露されたパフォーマンスの完成度は久しぶりのステージということを差し引いても、ヴォーカル、ダンスの面で共に満足たるものではなかった。メインパートのHARUKAはもしかしたら英語詞を歌うために語学トレーニングをしていたかもしれないが、以前より英語の発音はスムースになっていたとしても“歌”として機能するにはまだまだで、英語詞を意識し過ぎてかヴォーカルのピッチも不安定さを露呈。全体的に抑え気味のヴォーカル・ワークゆえ気になるほどではないが、強いトーンで主張するところなどではピッチの乱れが生じていて、少なからずブランクの影響も感じられた。
 そして、これまでソロ・パートが与えられていて成長株だったERIKAは、コーラス・パートがメインに。これは、HARUKA中心の構図を端から設定していたというよりも、ERIKAの英語での歌唱の不安定さを鑑みてひとまずコーラスを主とするとした向きが強いのではないか。それに、従来曲でのERIKAは脇田もなりとはまた違ったパンチ力も見せてはいたが、若々しさや瑞々しさは有していたとはいえ、翳りを帯びた声色とその濃淡で描写するという表現力まではまだ備わっていなかったから、再始動のコンセプトとのズレを考えての決断なのだろう。

 また、ダンスもあくまでもリード・ヴォーカルとコーラス二人という図式に則ったもので、従来のそれぞれがソロ・パートで派手なフリで主張するという場面はなし。ERIKAこそ滑らかな曲線を意識したダンスの表現力で成長を感じさせたものの、新加入のミアには(最年少?だからか)そのマチュア(成熟)した“しなり”は見えなかったなど、グループとしてのパフォーマンスの統一感においても詰めていかなければならない課題が大いに残っているようだ。



 後にSoundCloudにて新曲4曲(タイトルは「Mirage」)を聴いたのだが、全て英語詞。「海辺のサティ」のフレーズを想起させるイントロからインコグニートをはじめとする〈トーキング・ラウド〉派やMonday満ちる在籍時のMondo Grossoらのアシッド・ジャズ・モードへと展開する「Savior」、エリカ・バドゥ、レイラ・ハサウェイらネオ/オーガニック・ソウルあたりのR&B/ジャズ・クロスオーヴァー「Affair」、明らかにロバート・グラスパー・エクスペリメント『ブラック・レディオ』を意識した「Helix」、和製シティ・ポップから出来るだけ歌謡曲要素を抜いたようなフュージョン・ポップ「Nothing」と、どれもアイドル色とは無縁だ。
 それゆえ楽曲的な期待は高まるが、一方でこれらを如何に具現化するかに今後は懸かっている。これらの楽曲を聴いて、「ビルボードライブやブルーノートへの道も近づいた」と思うファンもいるかもしれないが、そう早合点するのは禁物だと言っておきたい。路線はそうかもしれないが、それを表現するレヴェルにはまだまだ。あくまでもスタートラインに立ったというところだ。元来懸念されているピッチの問題と(英語詞をなぞるだけでない)心を揺さぶる歌をどこまで歌えるか。立ち向かう壁は見上げるほど高いが、多くの音楽を浴びるように吸収して表現力を高め、唯一無二のESPECIAワールドを築き上げていってもらいたい。

◇◇◇



【Squid Master #7】
<SET LIST>
≪Taiko Super Kicks≫

≪ESPECIA≫
00 INTRODUCTION(included in phrase of“Gymnopédies〈Lent et douloureux〉”by Erik Satie)
01 海辺のサティ
02 Savior
03 Aviator
04 Mistake
05 Boogie Aroma(English ver.)

<MEMBER>
ESPECIA are:
Haruka(vo)
Erika(vo)
Mia Nascimento(vo)

Hi-Fi City are:
PellyColo(g)
Schtein&Longer/横山佑輝(b)
Tomomi Kase/加瀬友美(ds)
Ai Kakihira/カキヒラアイ(key)
Yoshihiro Nakagawa/中川悦宏(sax)
Junichi Shiratori(wind syn)

≪Enjoy Music Club≫

≪LUCKY TAPES≫



◇◇◇











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