![Time Is Illmatic Nas_timeisillmatic_00](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/38/eb9d9a0d8c44b912b2f63e85e6c3e148.jpg)
ヒップホップ/ラップ・ミュージックはもちろん、音楽シーンに少なくない影響を与えたナズの歴史的名盤とされる『イルマティック』。そのリリース20周年を記念して製作されたドキュメンタリー映画『タイム・イズ・イルマティック』を、渋谷シネクイントのレイトショーで観賞。
ナズは本名をナーシアー・ビン・オル・ダラ・ジョーンズ(Nasir bin Olu Dara Jones)といい、1973年9月14日にアメリカ・ニューヨークのブルックリンに生まれ、クイーンズ南部のロングアイランドシティで育つ。本名にも窺えるように、ジャズ・ミュージシャンのオル・ダラを父に持つ。貧困、暴力などが蔓延る荒廃した“ゲットー”の中心にいたナズが如何にしてシーンへ飛び出し、ヒップホップ史に燦然と輝くクラシック『イルマティック』を誕生させたかを解き明かしていく。
ナズの独白を中心に、父のオル・ダラ、同じくヒップホップMCで弟のジャングルらが当時を振り返りながら、ナズの音楽的歴史をはじめ、社会情勢、特に貧困から発生する銃社会や薬物問題などアメリカの闇の部分を通して、ナズという存在を、『イルマティック』が誕生した必然性を浮き彫りにしていくドキュメンタリーだ。
ナズは中学を中退し、ストリートでドラッグディーラーとして生活をするが、独学で勉強を続け、シーンへ大きな爪痕を残すべくデビューの機会を窺っていた。1991年、メイン・ソースの楽曲「ライヴ・アット・ザ・バーベキュー」でその雄姿を披露すると、しゃがれた声にリリカルなフロウで一躍脚光を浴びることになる。この時16歳。その3年後の1994年、ナズのデビュー・アルバムにして歴史的傑作となる『イルマティック』を世に解き放つこととなる。
周囲と比べれば、家を離れることが多かった音楽家の父、愛情に溢れた母の元で育ったナズ。だが、一歩外へ出れば、犯罪から抜け出せず路頭に迷う若者で溢れ返る劣悪な環境に身を置き、親友を亡くし、死と背中合わせとなる場面を潜り抜けながら、大いなる名盤を生み出し、ついには有名大学のプロフェッサーに招へいされるまでになる。その自分の生き様を、当時のライヴ映像などを挟み込みながら、終始ダークでシリアスなトーンで描いていく。
この手の映画は必要以上の賛辞や誇大表現、ヒップホップ/ラップ・ミュージック風に言えば“セルフボースティング”と呼ばれる自画自賛的な劇場型な展開が多いが、本作はそのような暑苦しさは無い。もちろん、アルバム『イルマティック』の20周年記念という題目を掲げてのフィルムという性質上、第三者や対立軸の視点から積極的に語られることはないが、ナズの回顧録というか、古くから伝わる“語り継ぎ”のような独白の展開が、生々しさを伴いながらジワジワと伝わってくる。
その一方で、ナズの功績や影響を語る著名人のコメントが挟み込まれる。ラージ・プロフェッサー、ピート・ロック、DJプレミア、Q・ティップ、バスタ・ライムズらヒップホップ好事家には馴染みの面々も登場するが、彼らを知らずとも、ナズが醸し出すヒップホップの背景にある苦悩や闇などは充分に伝わってくると思う。それだけに、アリシア・キーズやエリカ・バドゥ(エリカなどは声のみ)、ファレル・ウィリアムスらのコメントは正直要らなかったのかなとも思った。ヒップホップの傑作『イルマティック』、ニューヨークが生んだ史上最高のラッパー“ナズ”というキャッチに偽りはないが、一般層にもそのような意識があるかどうかは解からない。それゆえ、一般層にも知名度が高いアリシア(アリシアはジェイ・Zに客演した「エンパイア・ステイト・オブ・マインド」に引っかけてのピックアップなのか?)以下のコメントを加えて広い層にアピールしたかったのかも知れない。
また、ところどころにライヴ・シーンがインサートされるのだが、全てのシーンではなくとも、一つくらいはフル・スタンスで導入してくれたら、より当時の熱気やリアリティを感じられたのではないか。終盤、ナズがマイクを前におもむろにラップをし始めるシーンがあるのだが、そのままカットアウトして終わるのではなく、違う表現方法でも良かったのかもと。劣悪で荒廃し、親友のイル・ウィルの死をも受け入れなければならなかった“最低”の場所でありつつも、人生のルーツであり、仲間たちがそれぞれの想いを秘めながら集う公営住宅。そこへ集った仲間たちの想いをも背負ったナズの心底からの叫びを当時のライヴ映像へとフラッシュバック、フェードインさせたらもっと説得力もあったのかなとも感じた。
あくまでもナズという青年の半生から垣間見たアメリカの貧困社会の闇、病理ではあるが(これらの社会問題を一つの視点、テーマ、角度から描き切ることは到底不可能なので)、ヒップホップの存在意義や何故ストリート出身の若者たちの支持を受けるのかなど、その社会の一端を感じるという意味でも、観ても損はない映画だろう。
タイトルの『タイム・イズ・イルマティック』は「ライフズ・ア・ビッチ」にある“Time is illmatic, keep static like wool fabric”というラインからの拝借だが、イルマティックが“最高にヤバイ”という意味も含みながら、常に“病理”(=ill)と背中合わせであることを端的に示したものでもある。ヒップホップのマスターピースが生まれた背景を覗きながら、家族、社会、平和などについても考えさせられる74分間であった。
![Time Is Illmatic Nas_timeisillmatic_01](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/49/c8bbee77d62323e38a83c0785eb4b744.jpg)
![Time Is Illmatic Nas_timeisillmatic_03](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/a1/7dd25fdb83529d98d353287a21d1ea61.jpg)
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余談だが、当時はナズではなくて“ナス”と表現されたことが多く、本当は“ナズ”か“ナス”かどちらが正しいのかという“ナズ-ナス論争”が周りにもあった記憶が。(笑) 「“ナス”ってなんだよ、茄子って野菜かよ!」「本名がナーシアー(ナスール)なんだから、濁らずに“ナス”になるのが本当だろうがよ!」という言い合いも、20周年となり解決したのか? 映画では“ナズ”に統一されていたけれども……。そんな言い合い、言うことナス!みたいな……(え、結局“ナス”なのかよって?)。えー、誰か詳細知っている人がいたら、教えてください。(笑)
言語によってマイケルがミッチェル、ミハイルにも、ヘンリーがアンリにもなるんだから、そんなに目くじら立てなくてもいいのかも知れないし。微妙ならば、それこそヒップホップ的なフロウで、“エヌ・エー・エス”とか“エヌ・トゥ・ザ・エー・トゥ・ザ・エス”(N to tha A to tha S)とでも言えばいいのではないかと。ユナーミーン?(You know what I mean)(爆)
ちなみに、自分はヒップホップはあまり詳しくないので、悪しからず。“ヘイター”でもないので、攻撃は止めてください。“ビーフ”には応じません。(笑)
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![Time Is Illmatic Nas_timeisillmatic_02](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/9a/0b5b3c71625a6eec0c5c73fc8d037bbb.jpg)
![Time Is Illmatic Nas_timeisillmatic_04](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/39/0cbe077af5c73b741d5aff3e2d1f4d21.jpg)
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