父は、私の息子が生まれた1974年に亡くなりました。当日父は70歳でしたが、胃潰瘍を患っておりました。父が亡くなって間もなく、胃潰瘍によく効く薬がたくさん市販されまいた。『市販されるのがもう少し早ければ、あんなに苦しまずに済んだのに...』と思うといたたまれない気持ちになりました。父は5人兄弟の長男でした。すぐ下の弟は日本軍として徴兵され、戦争が終わってからは帰国せずに広島の近郊で生活を始めました。その下の2人の弟は太平洋戦争で出兵したまま梨のつぶてです。父は2人が生きて帰ることを信じて待っていましたが、いまだに消息不明のままです。末の弟は朝鮮戦争で戦死しました。3人の弟を戦争で奪われた父の顔には常に悲しみの影が絶えませんでした。その深い悲しみを分かち合える人すらいませんでした。