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自衛隊の「AAV-7」大量調達は世紀の無駄遣いだ (JBpress)

2014-09-15 | 国防

自衛隊の「AAV-7」大量調達は世紀の無駄遣いだ

老朽化した米国の水陸両用強襲車をなぜ52両も?

2014.09.11(木)  北村 淳

 多くのアメリカ軍事関係者たちは、安倍晋三首相が内閣を改造しても国防路線には変化がなく、集団的自衛権行使をはじめとする安倍路線が継続されるものと考えている。ただ、筆者の周辺で自衛隊の水陸両用能力取得の努力をよく知る人々の多くが極めて不思議に思っていることが2つある。

 1つは、機体購入費の数倍もの整備施設建造費、維持整備費、搭乗員整備員養成費などが必要となるMV-22Bオスプレイ中型輸送機を、自衛隊がいきなり17機も調達することである。

 そしてもう1つは、老朽化のためアメリカ海兵隊が「作戦にも維持延命にも限界が近づきつつある」(「連邦議会調査局R42723」2014年7月30日発行)と主張しているAAV-7水陸両用強襲車をこれまた52両も自衛隊が調達することである。

 本稿では、AAV-7問題について考えてみたい。

     上陸したアメリカ海兵隊AAV-7(写真:筆者)

海兵隊が切望した「三種の神器」

 アメリカ海兵隊は、すでに1980年代には「陸地から発射される対艦ミサイルの性能の進化に伴って、沖合から陸地への接近は、将来的には水平線より沖合から実施する必要性がある」と考え始めた。

 そこで、アメリカ海兵隊の水陸両用作戦における移動手段の“三種の神器”であったCH-46E中型輸送ヘリコプター(海兵隊員を強襲揚陸艦から空を経由して陸地に送り込む)、AAV-7水陸両用強襲車( 海兵隊員を強襲揚陸艦から海を経由して海岸に送り込み、そのまま内陸へと陸上をも突き進む)、LCACホバークラフト(戦車、装甲戦闘車、各種車輌それに海兵隊員ならびに各種資機材、補給物資などを強襲揚陸艦から海を経由して海岸に送り込む)の新型化の構想を練り始めた。

 それらの新型化構想はすべて実現化が難航した。

 日本でも“有名”なMV-22Bオスプレイ中型輸送機は、この“三種の神器”新型化構想の一環として研究開発が重ねられた結果、ようやく誕生した航空機である。そして、MV-22Bだけがアメリカ海兵隊が手にすることができた唯一の“三種の神器”である。

 海兵隊が切望した、水平線の沖合から発進して海岸線に殺到するための新型水陸両用強襲車と新型ホバークラフトの開発は、いずれも頓挫し、技術的・経済的に大きく妥協した形で、初期の構想とは大きく姿を変えて開発が続いている。

          AAV-7の後継EFV

 10年間近くの初期研究段階を経て、国防総省がゼネラルダイナミックス(GD)社に新型水陸両用強襲車の開発・製造を発注したのは1996年であった。当初は、AAAV(先進水陸両用強襲車)と命名され、途中からEFV(遠征戦闘車)と名称が変更されて開発が進められた。

 アメリカ海兵隊が希望したEFVの主たる性能は以下のものであった。

・陸上での最高スピード: 時速45マイル(約83キロメートル)
・海上での最高スピード: 時速25ノット(約46キロメートル)
・波高3フィートの海上での最高スピード: 時速20ノット(約37キロメートル)
・陸上での行動距離: 400マイル(約643キロメートル)
・海上での行動距離: 65マイル(約105キロメートル)
・収容人員: クルー3名 + 戦闘員18名
・武装(主): 30ミリ機関砲(弾丸200発装填 + 400発予備搭載)1門
・武装(副): 7.62ミリ機関銃(弾丸800発装填 + 1600発予備搭載)1門

 これらの性能はアメリカ技術陣にとってはハードルの高い要求であった。しかしながらアメリカ海兵隊としては、これらの性能が達成されない限り、ミサイル技術の進展により陸地からの各種ミサイル攻撃が避けられない21世紀型の水陸両用戦闘に投入する水陸両用強襲車としては不十分であると判断した。

失敗に終わったEFV開発

 EFVの開発は極めて難航し、開発コストも当初予測をはるかに超えて巨費が投入されていった。この辺りの事情は、MV-22Bオスプレイの開発経過と酷似している。要するに、水陸両用作戦とりわけ水陸両用戦闘というのは、軍事作戦の中でも最も複雑であり、かつ過酷な条件下で実施されるため、それに投入される強襲車輌や輸送機に必要な性能は、極めて実現難易度が高いものが多くならざるを得ない。開発製造メーカーにとっては、開発に成功すればまさに“大手柄”であるが、開発失敗のリスクも極めて高いことになる。

 現に、米国民の税金を湯水のごとく投入したにもかかわらずEFVの開発は難航に難航を重ねることとなった。ようやく、海兵隊の要求をぎりぎり満たすEFV試作車が完成したものの、様々な実用上の問題点が生じた(試作段階では特別なことではないが)だけでなく、1両あたりの価格が22億円以上というとんでもない額になってしまい、とても量産を開始することはできない状態となった(ちなみに、兵員輸送車両である水陸両用装甲車よりも強力な武装と装甲を施す必要がある戦車の価格は基本的に極めて高価なものだが、例えば陸上自衛隊10式戦車は1両が9億5000万円)。

 加えてアメリカの国家財政が厳しくなるに伴い、民間の研究機関や連邦議会内からEFV開発に巨額の投資を続けることに対する疑義が呈され始めた。結局、2011年1月、ゲーツ国防長官はEFVの開発を正式に中止した。これによって、開発費だけで3000億円の税金を投入した大プロジェクトは失敗に帰し、単なる税金の無駄遣いということになってしまった。

 もっともGD社は、決して開発に失敗したわけではなく、もう少し開発費が上乗せされれば成功させることができた、と主張している。

          海上航行テスト中のEFV試作車(写真:米海兵隊)

AAV-7に代わる新型車輌が必要な理由

 EFV開発は頓挫したが、アメリカ海兵隊としては、1972年に登場したAAV-7が次第に老朽化してきているという理由だけでなく、できるだけ上記のような性能要求を満たした新型水陸両用強襲車でなければ21世紀型水陸両用戦闘では勝利はおぼつかない、という理由で、EFVに代わるAAV-7の後継車輌の開発に固執した。


 そこで海兵隊は次のように考えるに至る。つまり、EFVのように海兵隊にとって理想の水陸両用強襲車ではなくとも、40年前の設計である旧式AAV-7に取って代わる少しでも近代的な車輌ならば少なくともAAV-7よりはマシ、ということだ。

 このような妥協の産物として誕生したのがACV(水陸両用戦闘車)というAAV-7の後継車輌開発プロジェクトであり、再びGD社が開発を開始した。

 しかし、巨額の開発費をかけられないACVは、EFVに比べると期待される性能が大幅にダウンした。例えば水陸両用車にとって最も大切な海上での最高スピードは時速8ノット(約15キロメートル)(EFV: 時速25ノット)である。そして、波高3フィートの海上では航行可能であればそれでよい(EFV: 時速20ノット)と現行のAAV-7と大差ない。ただ、“あまりにも旧式”な通信システムなどが現代兵器のスタンダードに置き換えられるために、「AAV-7よりはマシ」というレベルの新型水陸両用強襲車ということになってしまった。

 そのようなレベルを格段に落とした新型車両であるACVの開発すらも、国防費の大幅削減と強制予算カットの影響ならびにアメリカ技術陣の問題によって難航の兆しが見え始めた。そのため、2013年にアメリカ海兵隊はACVの開発も凍結する決定を下した。

 しかし、ACVを手に入れないと、40年も使い続けている“完璧に時代遅れ”となってしまったAAV-7を今後何年も使い続けなくてはならず、21世紀型水陸両用戦闘には参加することもできなくなりかねない。そこで、1年も経たずに2014年になると、戦闘用のACV-1.1と兵員輸送用のACV-1.2という奇妙な名称の、海兵隊が本当に手にしたかったEFV構想から見ると奈落の底のような低い性能要求で妥協した新型水陸両用車ACVプロジェクトを復活させた。

 ただし、AAV-7を近代化した程度のACVでは、とても21世紀型水陸両用戦闘で勝利することは困難である。とりわけ中国軍のような強力な対艦ミサイル戦力を身につけている相手に対しては、これまでの水陸両用ドクトリンでは勝利は不可能である、と考えられている。

 そこで、アメリカ海兵隊は、そのような敵に対する水陸両用戦闘では、正面作戦は避けて敵の「隙間(縫い目)」(要するに弱点)を見つけて、素早くその「隙間」に接近する戦法に頼らざるをえないと考えている。したがって、水陸両用ドクトリンそのものの見直しが必要になっているのである。

国民の税金をドブに捨ててはならない

 アメリカ海兵隊はすでに15年以上も前から、AAV-7の後継車種であるEFVを手にしなければ21世紀型水陸両用戦闘に打ち勝つことはできないと考えていた。しかし、海兵隊が切望したEFVの開発は失敗してしまった。だからといって、老朽化したAAV-7を使い続けることはできず、妥協の産物であるACVでなんとか急場を凌ごうとしている。

          海兵隊基地にずらりと並ぶAAV-7(写真:筆者)

 このように、これまで40年もAAV-7を使い続け、その全てを知り尽くしているアメリカ海兵隊が、「ともかくAAV-7の交代車両ならなんでもよい」と言っている状況にもかかわらず、なぜ防衛省・陸上自衛隊はAAV-7を52両も調達しようとしているのか? 極めて不思議である。

 幸か不幸か、自衛隊が21世紀型の水陸両用作戦を実施できるようになるには、陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊から水陸両用作戦用部隊を抽出して完全な統合任務部隊として編成し、ドクトリン作成から部隊編成、補給計画、作戦計画、戦闘段階までの全ての教育訓練を開始しなければならない。したがって、老朽化したAAV-7は、教育訓練段階で必要な数両の調達だけにとどめておくべきだ。国民の血税を40両以上のAAV-7を調達(アメリカからの輸入)するために“ドブに捨ててしまう”のではなく、EFVに迫る新型水陸両用強襲車の開発に投入すべきである。

 幸いなことに、日本には少なくともACVなどよりははるかにEFVに近い水陸両用強襲車を開発製造する技術力が存在しているのである。少なくとも国防費の倍増なしでは日本防衛はおぼつかない国際情勢に直面している現在、52両もの老朽AAV-7という“世紀の無駄遣い”だけは絶対に避けなければならない。

(詳細は元記事へ)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41690



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