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僕と彼氏と猫の日々

吉野朔美「記憶の技法」

2007-08-01 | そのほか
恩田陸の小説は冒頭がとても苦痛だ。
キャッチが弱かったり魅力的な文言が足りないとかではなくて、
自分の乗り出した船はどこに向かっているのかわからない、
もしかするとこの船はどこにも発つことがないのではないだろうか、
そんな不安感が故だ。
暖かい地方に向かうのであれば、涼しい服装が必要だし、
寒い地方に向かうのであれば、暖かい服装が必要になる。
そんな用意が全くできないまま、物語が始まる。
残りページ数を気にしながら読み進めていくしかない。
船はすでに出発しているのだ。

吉野朔美の漫画も同じ様に読み始めが苦痛だ。
ただ、暖かい世界が描かれることが多い恩田陸と異なって
吉野朔美の場合は、暖かい世界が描かれることがほとんどないからまだ気楽だが。
そして「記憶の技法」。
ずっと読みたかったが絶版で在庫切れ、古本屋でも見つからず、
オンラインで買うしかないと思いながら早数年、やっと文庫化。
やっと買って読むことができた。
相変わらずの船出。
日常からの逸脱。成長や克服とは無縁のできごと。
たどり着いた場所は地図に載っていない。
そもそも人生という地図には誰もあんな場所は用意していないはずだ。
「いたいけな瞳」や「恋愛的瞬間」で培ったさりげない致命傷。
さりげない絶望。
「ECCENTRICS」の主題はここでも主人公の言葉となる。
あんな過去を抱えることになってしまった主人公を
この先、どんな人生が待っているのだろう。

ベッドサイドに放り出しておいたらM君が読んでいて
「うわあ、これはすごい」としきりに関心していた。
今は「ピリオド」をどこかで連載中だったはず。
まだ第一巻しか読んでないが、もしかするとこの人は
漫画家としての活動にピリオドを打つ気なのかもしれない。
当然ながら漫画以外のエッセイや文章の仕事のほうが、
まだ容赦があるというか、人の家では大人しくしているかのような印象があって、
吉野朔美本人が一番楽なのかもしれない。

AX

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