じゅにあ★Schutzstaffel II

キン肉マンの2次創作。小説載せてます。(以後更新予定無し)

終着(1)

2019-06-13 21:56:00 | 小説/終着
 
 
 
大通りからホテルを右に。しばらく直進し、今度は本屋を左に曲がって、緩やかな坂を登る。
 
その道中の古びた雑貨屋で、水のボトル二本とたまたま目についた板状のチョコレート、レジ横にあった薄緑色の林檎もついでに買う。ズボンのポケットに捩(ね)じ込んでいた紙幣はスペインから持ち込んだものだが、そのままこの街でも使える。ヨーロッパの平和と安定を目的とした諸々の流れ。もちろんそんな人間の事情は興味の外(そと)だが、わざわざ両替しなくてもいい事だけは有り難かった。
 
店を後にし、再び歩き慣れた道を進む。
何度も訪れ、たまに迷って、気づけばすっかりこの街の道にも詳しくなった。
 
この坂を登りきったら右。その先の、古びた建物が俺の目的地だ。
 
 
 
 
 
 
あの、最後の戦いから何年経ったのだろう。
十年を超えたような気もするが、正確な数字を考えるのも面倒になっていた。
 
 
ーーそう、そんな事すら面倒な俺が、良くもまあこんなに長く、何度も足を運んだもんだ。
 
 
この、意味があるのか無いのかももはや分からない”様子見”もまた、十年近く続いている。
月に二度訪れた事もあれば、半年以上来なかった事もある。また、来てはみたものの、肝心の相手が不在というパターンも数え切れないほどあった。
 
 
ーーさて、今日はどっちだろうな・・・。
 
 
たどり着いた目的地の、重苦しい扉をまずは叩く。
しばらく待つも反応が無いのは何時もの事だ。
 
 
そして俺は扉を開ける。
鍵は掛かっていない。それは、この建物の主に会える確率が僅かに上がったことを意味している。
 
 
 
 
 
 
俺がこんな風にJr.の元を訪れるようになったそもそものきっかけは、奴からの電話だった。
 
 
そこに至る事情は未だーーこんなに何度も顔を合わせているにも関わらずーー詳しくは知らない。
だが、故郷を分断していた壁が崩れて以来、奴の一族はどうにもややこしい事態に陥(おちい)ったらしい。
 
その人間達の都合ーー思惑ーーに、一族の長(おさ)というそれだけの理由で付き合うハメになったかつての戦友。
馬鹿が付く程の実直さと真面目さ、そして世間を知らずに過ごしてきた経緯が災いし、結果、Jr.は取り巻く人間達に、いいように扱われた。
 
 
ーー辛いなら拒むなり放り出すなり、どうとでもすりゃあいいもんだが・・・。
 
ーーでも、まあ、あの性格じゃあそれも無理・・・だよな。
 
 
耐えて、耐えて。だが、不意に心が悲鳴を上げたのだろう。
その時奴が助けを求めた相手が、何の因果か俺だったのだ。
 
 
 
そして俺は奴の屋敷を訪ねたーーが、ここで我ながらとんでもない事をやらかした。
 
憔悴し、自暴自棄になっていた奴を、あろうことか抱いてしまったのだ。
 
 
何とか気持ちを楽にしてやりたい。その一心だった。
だが、後から考えれば考えるほど、何故そんな手段を選んでしまったのか、己の事ながら全く分からなかった。
 
 
ーー愛情・・・?いや、少なくともあの時点でそんな感情は皆無だ。だが、なら何なんだ。
 
 
不幸中の幸いーーと片付けていいものでもないが、奴は事が終わると死んだように眠り、そして目を覚ました時には、随分落ち着いた風に見えた。
 
 
ーーそれで、めでたしめでたし・・・なら、良かったんだがな。
 
 
相変わらず構わずにはいられない危なっかしさ。
それでも一応、大の大人の男同士である。だから、こんな風にこちらから出向くのは最初で最後にしようと思った。
 
もちろん、事情を知ってしまった手前、心配するなと言う方が無理な話だ。
だが、してやれる事が何一つ無いのも明らかだった。
 
ならばお節介なババァでもあるまいに、頼まれもせずにこちらから首を突っ込むべきではない。
 
 
 
そんな、俺にしては長めの葛藤の末出した結論だったーーが、程なくあっさりとひっくり返された。
 
 
 
“暇が出来たら、良ければまた、顔を出してくれ。”
 
 
 
しばらく経ったある日、そんなメッセージが、電話に残されていた。
 
 

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