チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

ブックハンター「才能の見つけ方天才の育て方」

2017-05-10 10:23:56 | 独学

 136. 才能の見つけ方天才の育て方  (石角友愛(いしかどともえ)著 2016年6月)

 本著は副題として、「アメリカ ギフテッド教育最先端に学ぶ」とあります。著者自身が現在アメリカで子育てしながら、経営活動をしながら、幼児のサイエンス教育、クリエイティビティ教育について研究を続けています。

 私がこの本を紹介しますのは、ギフテッドチルドレンの才能の見つけ方そしてその才能の伸ばし方は、すべての人間(0歳~百才まで、凡人から天才まで)に当てはまると考えて選びました。

 才能はできれば、見つける人とそれを育てる人がいれば一番良いのですが、私(70歳)でも、やって見なければ、自分のどこに小さな才能が眠っているかは、わからないものです。

 とにかく多様な教育方法をトライして、よりクリエイティブな人材を育てていく必要があると思います。日本の老若男女がわずかでもよりクリエイティブな生活目指して、多様な挑戦が必要と考えてこの本を選びました。


 『 アメリカやカナダでは、10代の子どもが大人顔負けの研究や発見をすることはめずらしくありません。彼らは「gifted=ギフテッド」(神に与えられた才能を持つ人=天賦の才のある人という意味)と呼ばれ、特別な教育=ギフテッド教育を受けていることも少なくありません。

 特にアメリカでは、ギフテッド・チルドレンの発掘と育成は、家庭の枠を超え国家レベルでの責務とされ、数々のギフテッド教育のための団体や学校が存在します。

 ギフテッド・チルドレンは、社会経済的な背景に関係なく、どんな階層・地域にも存在すると言われ、アメリカでは約6~10%の子どもがギフテッドという統計があります。

 私は現在、アメリカ・カリフォルニア州のパロアルト市に住み、幼稚園生の娘と乳児の息子を育てていますが、娘の今後の教育方針を研究する中で、「ギフテッド教育」の存在を知りました。

 そして、私自身がもとから発達心理学などを専攻していたことから興味を持ち始め、ギフテッド教育に特化した専門家たちで構成される、アメリカで一番歴史が古く、大きな団体である全米天才児協会に入会し、多岐にわたるアメリカのギフテッド教育の最先端の情報を学ぶ機会を得ました。 』


 『 では、どのような才能を持つ人をギフテッドと定義するのでしょうか?実をいうと、世界的に統一された定義は存在せず、アメリカだけをみても、連邦政府、各州政府、また各学校の多くが、独自の定義と評価方法をもっています。

 米国連邦政府の定義は、「ギフテッドとは、知性、創造性、芸術性、リーダーシップ性、または特定の学問での偉業を成し遂げる能力のある個人を指す。また、その能力を開花させるために特別のサポートを必要とする個人を指す」とされています。

 また、前出の全米天才児協会による定義では、「ギフテッドとは、例外的な論理能力と学習能力の才能を持つ個人を指す。分野は大きく分けて二つあり、一つは言語化・記号化された分野(数学、音楽、言語等)と、二つめは感覚運動能力の分野(絵、ダンス、スポーツ等)がある」となっています。

 ギフテッド教育心理学の研究者として有名な、モントリオール大学のフランソワ・ガニエ教授は、次のように定義してます。

 「ギフテッドとは、未訓練かつ自発的に表に出る自然な能力のことを指し、最低でも一つの分野で同じ年齢の子どもたちと比べ上位10%に入る能力を持つ場合、ギフテッドと定義される」

 このように様々な定義がある中で、私は、ガニエ教授の定義にある、”未訓練(untrained)” かつ ”自発的(spontaneous)” という言葉に注目しました。

 暗記式テストで100点満点がとれる子どもは、努力型の秀才児であって、だれにそうしろと言われなくても、内から自然に、生まれつき湧き出し能力をギフテッドといいます。 』


 『 ある公立小学校の4年生の教室に、ジャイロという少年がある日転入してきました。ジャイロの母国語はスペイン語で、英語はまったくしゃべれません。ジャイロは今まで学校に通ったことがなく、また彼の家族には家がありませんでした。

寝泊りをしているのは、両親が持つ自家用車の中です。そんな彼が転入してきて2日目。ほとんど口をきかない彼が、小さな声で、”I griega”とつぶやきました。

 これはスペイン語で「Y]のことです。先生はその後、ジャイロが黒板に書かれていたアナロジーの答えを言っているのだと気がつきました。 13:25=M:▢

 Mがアルファベットで13番目なので、25番目はY だ、という論理的推理のことをアナロジーと呼ぶのです。全く英語がしゃべれず、アナロジーの手法や教室での授業形態もあまり知らないジャイロが、正解を述べてことに、先生は驚きを隠せませんでした。

 彼がアナロジーを解くということは、黒板に注意を払う観察力や、点と点を結び関係性を発見する能力があるということだからです。

 それから数週間後、ジャイロはNNAT(ナグリエーリ非言語テスト:Naglieri Nonverbal Abilities Test)を受けることになるのですがその結果、彼は全問正解していることが判明しました。

 ジャイロは正真正銘のギフテッドだったのです。ジャイロのような生徒は、普通のIQテストでは真の能力は発揮されません。英語が読めず、喋れないからです。 』


 『 ギフテッドというと、皆さんも「周りより秀でていて」 「周りのロールモデルになっていて」、「モチベーションを高く持ち、成績優秀で」、「家族に評価される能力をもっていて」、「精神的に大人びていて」、「助けがなくても成功できるような才能の持ち主」というような、ドラえもんの出来杉君のような子どものイメージを持っていませんか?

 それとも、ギフテッドと聞くと、ちょっと周りと違う変人タイプを思い浮かべますか? クロス博士によると、前にあげたような形容は、全部よくありがちなギフテッド・チルドレンに関する誤解なのだそうです。

 実際、ギフテッドは本当に多種多様なタイプの子どもがいるため、パターン化するのは難しいのですが、多くの場合、整理整頓能力がなかったり、モチベーションを高く持っていなかったり、恥ずかしがりやで引っ込み思案で目立たない子どもだったりするのです。

 ギフテッド・チルドレンの多くに見られる特徴として、非同期的な成長が挙げられます。

 たとえば、普通の12歳の子どもの場合、知覚面、精神面、学力面、社会面、体力面等における成長過程がどれも平均値の中に入ることが多いのですが、ギフテッドの場合、そのうちどれか一つだけが抜きん出ているけれど、他のものは平均以下、ということが多いのです。

 「ギフテッド・チルドレンは、周りの友達、親、先生にどう思われているかによって大きく影響を受けるという研究成果があります。

 もし周りから精神的におかしい、性格に問題がある、または、クリエイティブ過ぎてエキセントリックだ、というように思われた場合、多くの子は周りに同調することでそのような烙印を回避します。

 多くのギフテッド・チルドレンにとって、成績が悪くても人気があることの方が、成績優秀で社会から孤立するよりも、大事なのです」 』


 『 アメリカで最近話題になったジャック・アンドレイカ君は、15歳の時に、一番発見が難しいと言われている膵臓がんを90%の精度で検査できる新検査法を開発しました。

 彼は、親しくしていた叔父を膵臓がんで亡くしたことをきっかけに、技術革新が進んでいない腫瘍マーカーによる血液学的検査法に疑問を持ち、自分でよりよい検知方法を開発することを決意します。

 その後、カーボンナノチューブと紙片を使い、90%の精度で膵臓がん、卵巣がん、肺がんなどを検知できる方法に成功します。しかも、彼の方法は従来の検査方法より170倍早く、2万6千分の1の費用で済みます。

 ジャック・アンドレイカ君には兄がおり、彼もギフテッドなのです。その二人を育てたお母さんのジェーン・アンドレイカ氏がどのように子育てをしたきたを紹介します。


 ① 結果は褒めるな

 褒めるのは過程のみ。努力したというそのプロセスを褒めるのが大事であり、誰でも結果がだせるようなもので金賞をとったとしても、それは褒めてはいけないと、ジェーン氏は話しています。

 「頭がいいね」などという褒め方をすると、新しいこと、さらに難しいことにチャレンジしたときにそうではなくなったり、間違いをするのを怖がる子どもになってしまいますが、努力した過程を褒めると、努力すること、チャレンジすることが素晴らしいのだというスキームが子どもの中で出来上がり、新しい学習チャンスを逃さないようになるということです。


 ② 答えは絶対に教えない

 例えば、「どうして葉っぱの色は秋になると赤くなるのか?」というように簡単に親が説明できる質問だとしても、自分で答えにたどり着くプロセスを教えることが大事だというのです。


 ③ アイデアブックを活用せよ

 ルークとジャック兄弟は、常にアイデアブックというものを持ち歩いていて、どんなアイデアでのよいのでノートに書き留めるようにしていたそうです。

 例えば、今度やってみたいサイエンスの実験のアイデアや、自分が考えた物語のプロット等。そしてそのノートをしょっちゅう眺める癖をつけるのが大事だということです。

 日本でも、「情報は1冊のノートにまとめなさい」(奥野宣之著)が、1冊のノートにアイデアをまとめることを推奨しています。

 私がこのアイデアブックに関して面白いと思ったのは、右脳の中で張り巡らされている想像力を、ノートに文字という形にすることで左脳も使われて、whole-brain child (右脳も左脳も同じだけ発達している子供のこと)になることです。

 ダニエル・シーゲル医師が書いた「The Whole-Brain Child」という本はアメリカの子育てのベストセラーとなっていますが、この中で、自分の中の感情や想像力を、言葉や文字におとすことが、いかに大事かが書かれています。

 右脳と左脳両方が刺激を受けて発達することにつながり、感情的に浮き沈みのないEQ(感情のコントロールや共感度などを含む、心の知能指数のこと)の高い子に育つということです。


 ④ 簡単な成功などない

 常日頃からジェーン氏はルークとジャックに小さなステップの積み重ねが大きな成功につながると教えていたそうです。ルークがある日、川でカヤックをしていたとき、水がオレンジ色になっているところを見つけ、「なぜ水が明るいオレンジ色をしているの?」と聞いてきたとき、

 ジェーン氏は、「なんでだろうね。どうやったらその理由が解明できると思う?」と促し、それが結果的に、2012年のインテル国際学生科学フェアで優勝するプロジェクトにつながったそうです。(ルークは9万6千ドルを賞金として受賞)

 そのプロジェクトの中で、数々の小さなステップを繰り返し、最終的にはそのオレンジ色が酸性鉱山廃水によるものだということを発見し、化学的、政治的、環境問題的観点から物事を解明していったそうです。


 ⑤ 世の中の問題は、実は最高のチャンスである。

 ジェーン氏は、常に息子たちに、身の回りに起こることや社会の問題に目を向けるように育てたようです。それも、ただ問題意識を養うためではなく、「問題に見えるところに実はチャンスがある」ということを教えるためだったと言います。

 これは、高校1年生にして果敢にも膵臓がんの新しい検知法を発明したいと思い立ち、行動に移したジャックの起業家精神あふれる行動からも垣間見られると思います。

 また、ジャックはこの新しい検知法を発明したときに、研究を続行するための多角的な支援を受けるため、実験プロトコル(取り決め)と論文、予算タイムラインなどを記載した事業計画書なるものをジョンズ・ホプキンス大学と国立衛生研究所に在籍する200人の教授と研究者に送付したのです。

 うち199名から断りの返事が来て、たった一人だけ返事をくれたのが、ジョンズ・ホプキンス大学医学部化学生物工学教授のマイトラ博士だったのです。この何回断られても目的を達成するまで諦めない姿勢は、まさしく起業家的能力ではないでしょうか。


 ⑥ 親の辞書に「面倒くさい」はない

 子どもたちは学業で忙しいもの。色々なコンテストやコンクール、イベント、サマーキャンプ、学校等の調査をし、申し込みをし、関係者や教授たちと親しくなり事前準備を進めるのは全て親の役目であり、「面倒くさい」と親が思ってしまったら、何も始まらない、ということです。

 ジェーン氏の場合も、二人の息子の本当の才能がどこにあるのか発見するまで、多くのトライ&エラーを繰り返したそうです。ピアノ、バイオリン、水泳、演劇、野球、造形など与えられた選択肢は全て試されて、全部だめだったといいます。

 最終的に、息子たちの才能はサイエンスの世界で花開くと気づいたのですから、これはもう、やらせてみるしか方法はないのだと思います。

 ジェーン氏は、「自分の子どもが18歳になってはじめて、「あなたはどんなことに興味があるの?」なんて聞く親はだめだ」と言い放ちます。

 学校というのは、基本的な読み書きや色々な教科を幅広く教えるところではあるけれど、子どもの才能を伸ばす場所を学校にもとめるべきではないのです。

 「子どもの才能を見つけてのばす」という20年近いスパンにわたる壮大なプロジェクトのプロジェクト・リーダーは、他のだれでもない、子どもの親しかいない、ということを忘れてはならないのです。 』

 

 『 アメリカで一番古い教育法は、親が子どもを家で学ばせるように義務づけるものだったと言われているように、アメリカでは1870年代までホームスクーリングは盛んに行われていました。

 その後公教育などの整備がなされホームスクーラーは減りますが、1950年代にその魅力が再認識されるようになりました。1980年代以降急速に増え始めたと言われています。

 ホームスクールで育ったひとの中には、社会で大きな影響を及ぼした人が多くいるのも面白い点です。発明王のトーマス・エジソンも、実はホームスクーラーでした。

 エジソンは学校になじめず、先生から劣等生の扱いを受けていました。そして、わずか3ヶ月で小学校を退学してからは、ずっとホームスクールで育ったということです。

 彼の数々の逸話の中でいかにもギフテッドらしいなと思うのが、算数の授業で、1+1=2というのを素直に受け入れられず、「一つの粘土ともう一つの粘土を合わせたら大きな一つの粘土になるのになぜ1+1は2なのか?」と先生を質問攻めにしたというものです。

 そのような強い好奇心から、先生たちを敵に回してしまったのでしょう。退学後は家で独学で化学などを学び、多くの実験や研究に時間を費やしていきます。

 また、エジソンに似たタイプの、学校になじめなかった天才として、本田宗一郎も挙げられます。彼は学校に全く興味を見出せず、保護者が成績表に押さなければいけない印鑑を偽造し親の代りに自身で印鑑を押していたというエピソードがあるくらい、型にはまらないタイプでした。

 天才発明家タイプ以外でも、ホームスクーリング経験者は多くいます。私が興味を惹かれたのが、アメリカの歴代大統領44人のうち、実に32%にあたる14人がホームスクーラーだったのです。

 1863年に奴隷解放宣言を出し、「人民の、人民による、人民のための政治」とスピーチをしたエイブラハム・リンカーンは、独学で法律を学び弁護士になったことは有名ですが、彼もホームスクーリング経験者の一人です。 』 (第135回)