平成29年6月15日、莉莉が出廷する当日の午前7時46分に、
共謀罪の構成要件を改めて『テロ等準備罪』を新設する改正組織犯罪処罰法は、参議院本会議で強行採決された。
朝起きると、いち早くテレビをつけ、この法案の行方を追った。
一般人が対象となる問題を巡り、疑問が残る中、与党は幕引きを急いだ。
果たして、莉莉の運命はどうなるのか。
今回SPの任務を無事に果たせるかどうかは、僕さえ分からない。
昨夜、莉莉は自分の身が危険にさらされることを察知したようで、いろんなシチュエーションを想像し、対策を取ってみた。
「ね、もし、私が共謀罪の成立で、法廷から連行されそうな場合、逮捕されないように、私達二人で抱き合おう」
「それは、すぐに引き離されるよ」
「そうか。ならば省吾が傍聴席のど真ん中に坐って、怖い目つきで裁判官を睨みつけて」
僕が不意に笑ってしまった。
「それなら出来るかもしれない」、
「でも、本当にそのまま連れて行かれたら、自分の弁護士を使わないとヤバイよね。言いなりにされちゃうな」
莉莉がハンドバッグの中から一枚の名刺を取り出した。
「最悪の場合、この早川弁護士に私を助けてもらうようお願いしてください」
「泉崎という地名はどの辺にあるの」
「警察本部の斜め向かいにあるよ。大きな白いマンションの一階にその法律事務所があるから」
「莉莉のことを知っているの」
「第三債務者に対する取立訴訟の時に、依頼した」
「何故今の裁判は頼まないの」
「今回だけじゃなくて、離婚訴訟等の裁判のことも、この弁護士にお願いしようとしたら、誰かに圧力を掛けられたみたいで、きっぱりと断られた」
「じゃ、今度も無理じゃないの」
「今回は、私の身の安全に関わった重大な人権侵害だから、きっと助けてくれるよ」
「そうか」
テロ等準備罪は、二人以上で犯罪を計画し、うち一人以上が計画に基づく『実行準備の行為』を行った場合、計画した全員が処罰される可能性がある。
2020年に東京オリンピックが開催される。テロを差し迫った脅威と認識し、万全な対策を講じなければならないが、
今までの事例から見ると、犯罪とは無縁の国民でも、警察のさじ加減一つで、プライバシーが侵害され、
人間の尊厳を踏み躙るような秘密調査や破壊活動が平気に行われ、その本人や家族の人生を大きく狂わせてしまう。
あのセメント大臣も、インタビューの中で、よく『国益、国益』ということを強調するけど、果たして公安警察が国益に有害な影響を及ぼす
敵の陰謀を見破り、スパイを摘発することができるのか。
警察は、一般市民の財産と命を守る重い責任がある。なのに、警察の中で『公安警察』という種目が設置されているのは、一般の善良な市民が
被害者になる可能性が非常に大きい。
国の安全を脅かされるような場合に備え、『警察』ではなく、防衛省や公安調査庁の中で何か特別な組織や職名を考案し、危機管理の改善に当たればいいのではないかと思う。そうでなければ、仕返しを目的に公安警察を濫用し、莉莉と同じように悲惨な運命に遭遇させられてしまうケースが、後が絶たないだろう。
共謀罪のことは一段落して、昼食を取った後、莉莉と一緒に法廷に向かう予定だ。
ホテルのチェックアウトの準備をしていた時、朝早い時間に、上司から携帯メールに連絡が入ったのが分かった。
人事異動通知
所属職名 警備部警備課
異動種目 部外派遣 外国出張
異動内容 平成二十九年六月十六日から
平成三十年三月三十一日までの間
警察庁へ派遣を命ずる
今回SPの任務を終え、すぐに辞令の交付式が行われ、莉莉と別れることとなる。
予想よりも早い異動となり、これからの仕事にどんなことがあるのか分からないが、莉莉の将来が心配だ。
でも、これまで一人の刑事として、犯罪被疑者に眉一つ動かさずに接するという僕のやり方は、基本的に変わることはないだろう。
それはプロの警察として、僕のプライドであり、ポリシーだからだ。
共謀罪の構成要件を改めて『テロ等準備罪』を新設する改正組織犯罪処罰法は、参議院本会議で強行採決された。
朝起きると、いち早くテレビをつけ、この法案の行方を追った。
一般人が対象となる問題を巡り、疑問が残る中、与党は幕引きを急いだ。
果たして、莉莉の運命はどうなるのか。
今回SPの任務を無事に果たせるかどうかは、僕さえ分からない。
昨夜、莉莉は自分の身が危険にさらされることを察知したようで、いろんなシチュエーションを想像し、対策を取ってみた。
「ね、もし、私が共謀罪の成立で、法廷から連行されそうな場合、逮捕されないように、私達二人で抱き合おう」
「それは、すぐに引き離されるよ」
「そうか。ならば省吾が傍聴席のど真ん中に坐って、怖い目つきで裁判官を睨みつけて」
僕が不意に笑ってしまった。
「それなら出来るかもしれない」、
「でも、本当にそのまま連れて行かれたら、自分の弁護士を使わないとヤバイよね。言いなりにされちゃうな」
莉莉がハンドバッグの中から一枚の名刺を取り出した。
「最悪の場合、この早川弁護士に私を助けてもらうようお願いしてください」
「泉崎という地名はどの辺にあるの」
「警察本部の斜め向かいにあるよ。大きな白いマンションの一階にその法律事務所があるから」
「莉莉のことを知っているの」
「第三債務者に対する取立訴訟の時に、依頼した」
「何故今の裁判は頼まないの」
「今回だけじゃなくて、離婚訴訟等の裁判のことも、この弁護士にお願いしようとしたら、誰かに圧力を掛けられたみたいで、きっぱりと断られた」
「じゃ、今度も無理じゃないの」
「今回は、私の身の安全に関わった重大な人権侵害だから、きっと助けてくれるよ」
「そうか」
テロ等準備罪は、二人以上で犯罪を計画し、うち一人以上が計画に基づく『実行準備の行為』を行った場合、計画した全員が処罰される可能性がある。
2020年に東京オリンピックが開催される。テロを差し迫った脅威と認識し、万全な対策を講じなければならないが、
今までの事例から見ると、犯罪とは無縁の国民でも、警察のさじ加減一つで、プライバシーが侵害され、
人間の尊厳を踏み躙るような秘密調査や破壊活動が平気に行われ、その本人や家族の人生を大きく狂わせてしまう。
あのセメント大臣も、インタビューの中で、よく『国益、国益』ということを強調するけど、果たして公安警察が国益に有害な影響を及ぼす
敵の陰謀を見破り、スパイを摘発することができるのか。
警察は、一般市民の財産と命を守る重い責任がある。なのに、警察の中で『公安警察』という種目が設置されているのは、一般の善良な市民が
被害者になる可能性が非常に大きい。
国の安全を脅かされるような場合に備え、『警察』ではなく、防衛省や公安調査庁の中で何か特別な組織や職名を考案し、危機管理の改善に当たればいいのではないかと思う。そうでなければ、仕返しを目的に公安警察を濫用し、莉莉と同じように悲惨な運命に遭遇させられてしまうケースが、後が絶たないだろう。
共謀罪のことは一段落して、昼食を取った後、莉莉と一緒に法廷に向かう予定だ。
ホテルのチェックアウトの準備をしていた時、朝早い時間に、上司から携帯メールに連絡が入ったのが分かった。
人事異動通知
所属職名 警備部警備課
異動種目 部外派遣 外国出張
異動内容 平成二十九年六月十六日から
平成三十年三月三十一日までの間
警察庁へ派遣を命ずる
今回SPの任務を終え、すぐに辞令の交付式が行われ、莉莉と別れることとなる。
予想よりも早い異動となり、これからの仕事にどんなことがあるのか分からないが、莉莉の将来が心配だ。
でも、これまで一人の刑事として、犯罪被疑者に眉一つ動かさずに接するという僕のやり方は、基本的に変わることはないだろう。
それはプロの警察として、僕のプライドであり、ポリシーだからだ。