小説『生活小説』

『生活小説』の実戦・実戦版です。半分虚構、半分真実。

(30) インディアン・サマーの前。 1

2004年08月30日 | 小説+日記
 高橋と杉山美加は、ふたりで観覧車に乗っている。下の客室では子供連れの家族が、上では年の離れたカップルが、窓の外を眺めている。ねえ、高橋君、どうしたの、黙り込んじゃって。いや、別に。ほら、ディズニーランドが見えてきた。あれが、スプラッシュマウンテン。ほら、海。すごい、すごい、海、すごいね。ねえ、ほら高橋君、海だよ。高橋君、海好きじゃん。僕は海、好きだよ。ね、ね、好きでしょ、いいよね、海、広くて、青くて。船、船、ほら、昔の船。なんて言うんだっけ?帆船だよ。そうそう帆船。うわあ、よし!くぁ!と高橋は声を出した後、首を振って、両手で頬を叩く。どうしたの、高橋君?!びっくりするじゃん。いや、ごめん、目が覚めた。寝てたの?いや、そういうことじゃなくて。なあ、美加、キスしよう。いいよ。下の窓から子供がのぞいている。美加、あっちが新宿?そうだね、だから、あのあたりが、事務所かな。そうだろうな。じゃあ、あっちが俺の家あたり?それで、その向こうが美加の家かな。うん、そうだね、高橋君の家だね。美加、もう一度、キスしよう。うん。下の客室で、子供がこちらの二人を指差し、窓を叩いてはしゃいでいる。親がそれを止める。高橋君、見世物じゃないんだから。ごめんごめん。ねえ、ほら、あれがスプラッシュマウンテン。そうだね。なんだか、ここ、傾いてない?ほんとね。そろそろもっとも高い位置に到達します、とアナウンスが流れる。水族館があそこで、あっちがスプラッシュマウンテンね。美加、ディズニーランドにこだわるね。だって、いっしょに行きたいじゃない。いいんだよ、別に行ったって。なんか、とげのある言い方するのね。杉山美加の携帯電話が鳴る。杉山美加は、着信の相手の表示を見て、留守番電話に切り替える。いいんだよ、出たって。例のあいつからよ。うちの事務所の羽田君。もう、ほんとにしつこい、しつこい。ふん、いいじゃん、そいつとディズニーランドに行けば。美加とだったら、美男美女で、さぞかし、ミッキーとミニーも嫉妬するんじゃないの?うわ、なんか、いやな感じのこと言うのね。でも、明日、羽田君と仕事で会うのよね。憂鬱、憂鬱、すごい憂鬱。いいんじゃないの?別に。変に意識するからだめなんだよ。ほおっておけよ。そう、出来ればいいけどね。出来ないかもしれないの?そんなんじゃないけど。だから、当分、俺とどこかに行こうって言ってるのにさ。無理よ。わたし、仕事好きだもん。俺より?うーん、ディズニーランドよりは好き。ほら、スプラッシュマウンテン。おい、美加、ごまかすな。ごまかすなよ、しっかり、数えろよ、空手青年。ナカムラはソファに横になりながら、計算機にむかっている空手青年を眺めている。ナカムラさん、どうします?結構な額になりますよ。じゃあ、とりあえず、適当に手続き済ませて、うまく流して、あとは、あっちにお任せ。どうする?お前、リムジンでも乗る?あんまり、そういう無駄使いはいやだなあ、成金みたいじゃないですか。しょうがねえじゃん、成金になっちゃったんだから。税金対策にいろいろ使うよ、悪いけど。ナカムラさん、そういうの嫌いじゃなかったの?いいの、いいの。とりあえず、次の仕事をうまく仕切れれば、なんてことはないよ。ナカムラさんにそういう才能があったとはね。いや、才能は全然無いよ。とりあえず、もうどうなったっていいと思ってるから、変な度胸がついちゃってさ。ふん、そんなもんですかね。そんなもんだよ。

(29) 誰かの存在と、その時間。 3

2004年08月25日 | 小説+日記
 もしもし、羽田ですけど、美加さん? あのお、羽田さん、折角、いつも電話頂いてるんですけど、すみませんが、あの、もう、こちらの電話には掛けていただきたくないんですよね、ちょっと、こちらも事情がいろいろありますし。いや、別に僕は怪しいものじゃないですよ、美加さんも知ってるでしょ? 僕なんて、美加さんに比べれば、吹けば飛ぶようなランクの人間ですから。いや、そういうことじゃないんです。あ、彼氏に気兼ねしてるの? いやあ、美加さんらしくないなあ、いろいろ聞いてますよ、美加さんの噂。あの、ほんとに、やめて頂けますか? 隣でユカリが、電話を切っちゃいなよ、という身振りをしている。すみません、ほんとすみません。そういって、美加は電話を切る。ほんと、困っちゃうのよね、ああいうタイプの人って。美加は言う。ユカリは、でも、美加、まんざらでもないんじゃない? 羽田さんって、先月号に載ってた人でしょ? かっこいいじゃん、いいなあ、美加はいいなあ、華やかだなあ、うらやましいなあ。馬鹿。美加はユカリの頭をコツンと叩く。痛いなあ、もう。痛いなあ、もう。変な切られ方しちゃいましたよ、永田さん。あなたの電話の仕方が悪いのよ、とマネージャーと打ち合わせ中の永田が振り返って言う。参ったなあ。なんとかして、杉山美加を落としたいんだけど。ねえ、永田さん、彼女の住所、知ってるでしょ? 知らないわよ。またまた、そんなこと言っちゃって。まあ、教えるも教えないも条件次第によるけどね、と言い、永田は不敵な笑みを浮かべる。笑みを浮かべて、高橋に金の無心をする、自称親戚を前に、高橋は困惑している。あの、僕も、ひと月ひと月を過ごすので精一杯なんですよ。まあ、そこをなんとか。うちの子も手術を重ねててね、大変なんだよ。高橋君、子供の頃、覚えてるかな? うちの階段からよくジャンプしてたよね、なつかしいなあ。とりあえず、高橋は、杉山美加との旅行に使うはずだった、数万円を「自称親戚」に渡す。両親に問い合わせたら、確かに、高橋家の親類のものだという。でも、なんでまた、僕のところに来たんだろう。保険が下りたことをどこからか聞きつけたのかな? まあ、そんなところじゃないかしら。気をつけなさいよ。ああ、大丈夫だよ。高橋は再び頭痛に襲われて、洗面所で嘔吐したあと、薬を飲む。急に心細くなり、杉山美加に電話をする。電話の向こうから、すこし怒気を含んだ杉山美加の声が聞こえたので、どうしたのか、と聞くと、ああ、高橋君かあ。あのね、さっきから、変な電話が来てね、大変だったんだから。なあ、美加。お互い、仕事休んで、半年くらい、のんびりしないか? それくらいの蓄えは何とかあるし。どうしたの? 急にそんなこと言い出して。いや、あのさあ、もう、うんざりなんだ、こんなことには、うんざりなんだ。高橋君、どうしたの? 大丈夫? とにかく、今日の高橋君はおかしいと思うんだけど。いや、おかしくないよ。当然のことを言ってるんだよ。おかしいのは周りのほうだよ。こんなことっておかしくないか? この頃、全部がおかしいよ、全部。なんなんだよ、まったく。高橋君、落ち着いて。ねえ、落ち着いてってば、大丈夫だってば、わたしがついてるってば。ごめん、ぼく、疲れてるみたいだ。多分、明日には元に戻ってると思う。ごめん。電話が切れる。ユカリは、どうしたの? と、聞くが杉山美加は、ひとことも答えない。高橋君のこと、わたしはどれくらい分かってて、高橋君はわたしのこと、どれくらい分かっててくれてるのかな? わたしが甘えちゃってるのかな? 高橋君がわたしに甘えてるのかな? と、眠りに付く前に、杉山美加はベッドの中で思う。

(28) 誰かの存在と、その時間。 2

2004年08月23日 | 小説+日記
 特に問題はありませんよ、たぶん、精神的なものが影響してらっしゃるんでしょうね、とりあえず、頓服のお薬を出しておきますから、ゆっくり、休んでください、いえいえ、こういうことはよくあることですから、まあ、仕方ないでしょうね、とにかく、休むのが一番です。そう医者は言う。高橋は受付で薬をもらう。付き添っていた、永田に説明する。ごめんね、ありがとう、でも、大丈夫だからさ、いいよ、一人で帰るから。永田は心配そうに、高橋の目の奥をのぞきこむ。高橋は永田の肩を、ぽん、と叩く。永田は、うなづいて、去っていく。後ろ姿を見送りながら、高橋は、自責の念にかられそうになりながらも、電話でタクシーを呼んで、仕事場へ向かう。流れていく景色を見ながら、少しめまいを起こしそうになる。信号待ちをしている間に近寄ってくる人間がいたので、誰かと思うと、仕事仲間だった、栗山で、コツコツと窓をノックするので、ドアを開けてもらう。やあやあ、高橋、久しぶりじゃん、なにやってたの? あ、新橋までお願いします。逆方向だよ。高橋は財布の中のタクシークーポンを確認する。すまんすまん。なあ、高橋、このあいだの建築うんぬんの話、知ってる? ああ、聞いたけど。あれ、決まったよ。名古屋での仕事だけど、なんだか、いい話だよ。へえ。だから、週に二日は俺、名古屋なの。はあ。でも、一人で名古屋はつらいよな。お前のとこの、杉山美加とか永田ちゃんみたいな、彼女を連れて行ければな。へえ。そしたら、人生、楽しいだろうな。優しそうだし。そうかな。そりゃそうだよ。あの子たちの顔見れば分るよ。へえ。なあ、高橋、お前どうなんだよ、最近。いい女とかいるの? いや、別に。お前もさあ、もう若くはないんだから。大きなお世話だよ、栗山は女の話かプロレスの話しか出来ないの? そんなことないって。あのさあ、なんだか、頭痛がしてきた。高橋君、また、そんなこと言っちゃって。いや、本当に。ごめん。降りるよ。おいおい、大丈夫か? 高橋はタクシーから降りると、道端で嘔吐する。あらあら、高橋、酔ってたの? いや、薬飲めば大丈夫だから。大丈夫だから。高橋君はそんなに簡単な人間じゃないから。杉山美加は、ユカリを相手に、コーヒーを飲んでいる。ダメだよ、ダメ。ちゃんと、美加が、縛り付けておかないと、高橋君、すぐどこかに行っちゃうよ。そういう問題じゃないって。あのさあ、ユカリは恋愛の話か、ファッションの話しか出来ないの? そんなことないって。私だって、結構、真面目にいろいろ考えてるんだから。美加にそんなこと言われるなんて思わなかったなあ。最近、なんだか、美加、真面目だもんね。そんなことないけどさ。携帯電話の着信音が鳴る。あ、羽田君かな? 美加、また新しい男? ちがうの。仕事先で一緒になったひとなんだけど、どこからか電話番号知ったらしくて、しつこく電話掛かってくるのよね。美加、そんなの無視しときなよ。でも、なんだか、悪いし。はい、杉山ですけど、ああ、どうも。

(27) 誰かの存在と、その時間。 1

2004年08月23日 | 小説+日記
 こうして、二人きりで、喋るのって久しぶりじゃない? と永田が言う。そういえば、そうだね、と高橋。二人のそばを、五十歳を超えていると思われるウェイトレスが、せかせかと動き回っている。まあ、特に、急用があるという訳ではないんだけど。永田は、窓から、曇り始めた空を見る。ただ、なんとなく、高橋さんと会っておかなきゃいけないんだろうなあ、と思ったのね。別に合う必要はなかったと思うんだけど、と高橋が言う。近くまで来たし、会っておくのが筋だとは思うし。悪いことではないと思うけど。それから、会話は、仕事の話になり、事務所の話になり、高橋が今、取り組んでいる企画の話になった。永田ちゃんはどうなの? これから、どうしていくの? いままで、通りにやっていくわよ。だけど、たまに辞めたくなるときがあるけど。全部、なにもかも、やめて、どこかへ行きたい。遠い、とおい、どこか。別に、距離が遠いところじゃなくて、なんか、こう、精神的に遠いところ。そこで、どうするの? まあ、少しのんびりしようかな、と永田は微笑む。高橋さんにも捨てられちゃったしね。おいおい、捨てたのは君でしょ。わたし、そんなに器用な人間じゃないし。頭もよくないし。おまけにずるいしね。うつむき加減に、時折、髪に手をやりながら、永田は言う。そんな永田を高橋は見つめている。多分、いいことあるんじゃない? なんの根拠もないけどさ。ウェイトレスがやってきて、空いたお皿、お下げしてよろしいでしょうか、と言う。あ、どうぞ。ついでに、私自身も片付けてもらおうかしら。意味分らないよ。わたしも、自分で言っていて、意味がわからなかった。二人は笑う。少し、混乱してるみたい。ぼくだって、混乱してるよ。どうも、最近、混乱してる。でも、仕様がないよ。全部、自分が積み上げて来た結果だもの。別に後悔してるわけじゃないし。あ、ごめん、ぼく、ちょっと、トイレに言ってくる。うん。高橋は立ち上がるが、どうも、歩き方がふらついているなあ、と永田が思った瞬間、高橋は倒れる。永田はすぐに駆け寄る。いやいや、大丈夫だから、と高橋は言うものの、まっすぐに立てない。とりあえず、タクシーで病院に行きましょうよ。いつもの病院でいいんでしょ? すまないね、ほんとに。高橋と永田を載せたタクシーは、総合病院へ向かう。もっと、急げませんか?任せておいて下さい。任せておいてください、と杉山美加は山崎に返事をする。なんだか、最近、急成長だね、美加ちゃん。評判いいよ。ありがとうございます。なんだか、このごろ、調子も良くて。それは何より。なんだか、業界でも君のファンは多いんだぜ。あの、なんていったかな、企業用のVTRの件でうちにきた、そう、ナカムラさん。彼なんて君のかなりのファンなんだぜ。ああ、ナカムラさんですか。そうですか。ええ。そういうのは大事にしておくと、あとあと助かるよ。ええ。そうですね。杉山美加はトイレの鏡に自分の顔を映す。笑みを浮かべたり、不機嫌な顔をしてみたり、怒った顔をしてみせる。高橋くんは、今、何をやってるのかな? 明日は何をするのかな? 明後日は? その次の日は? わたしも高橋君もどんどん、進んでいくけれど、どこか、方向が違う気がする。でも、それは悪いことじゃないし。わたしが高橋君のことを大事にして、高橋君がわたしのことを大事にしていれば、二人の距離はなんとでもなるし。甘いかな? わたしの考え、甘いかな? だけど、絶対、どうにかしてみせるよ。絶対に。

(26) 彼あるいは彼女は、それを何と呼ぶのか。 5

2004年08月18日 | 小説+日記
 高橋は杉山美加の運転する車に揺られている。窓の外には、家路を急ぐ中学生達が白いヘルメットをかぶって、自転車をこいでいる。ずいぶん遠くに来たね、と杉山美加が言う。高橋は黙って、窓の外を見ている。ファーストフード店で食事を済ます。二人はわずかな言葉をかわすだけ。ほら、あの山並み、きれいだね。杉山美加は返事を期待しないで、この土地について説明する。高橋はたまに形式的な返事をする。高橋から、久しぶりに届いた長いながいメールを杉山美加は大事に保存して、たまに読み返す。そして、いま、隣に高橋がいることを、当然に思う。わたしはとても強くなった。何事にも負けないと思う。自分の中に、しっかりとした柱が出来ている。もう、ふらふらもしない。どんなことが起きても堂々と、乗り越えて行けるのだ。なんだか、わたし、かっこいいなあ、てへっ。杉山美加は、信号待ちの間に、高橋の頭の手術跡を見つめる。そして、指でなぞってみる。痛かった?そりゃもちろん。大変だったね。うん。二人はそれから、再び黙り込む。杉山美加は、目標へ向かう道を何回か間違える。高橋に地図を見てもらい、正確な方角を確かめる。なんだか、人生みたいじゃん、と杉山美加は思うが、高橋には言わない。夕焼けがきれいだね、と高橋が言う。ほんとだ、きれいだね、と杉山美加は答えて、夕焼けがよく見えそうな場所を探してみると、近くにちょっとした高台を見つける。二人は降りて、そこのベンチに腰掛ける。遠くでは、今まさに、太陽が沈もうとしている。二人はオレンジ色に染まっている。少しむこうで、太った女性が犬を連れて散歩している。たまにその犬が、頼りない響きの鳴き声をあげるので、それがなんだかおかしくて、杉山美加がくすくす笑うと、高橋も微笑む。ああ、今日、はじめて高橋君が笑ったなあ、と思う。あのさあ、いままで、一度も言ったことがなかったけど、と杉山美加。高橋は何かを察したのか、身体をびくんと震わせたのがわかる。あのさあ、わたし、いままで、意地を張って一度も言わなかったけど。また、びくん。高橋君のこと、好きだよ。本当に、好きだよ。いままでごめんね。だからさあ、高橋君も。そこまで言いかけた時には、いつの間にか、高橋は、杉山美加のひざに顔を突っ伏して、嗚咽を上げて泣き出していた。よしよし。杉山美加は高橋の頭をなでる。なおも高橋は泣き続ける。高橋君は傷つけられたかもしれないけど、誰も高橋君に傷つけられた人なんていないよ。みんな味方じゃん。みんな、高橋君のこと、好きだよ。そして、わたしも。杉山美加は高橋の頭を撫で続ける。よしよし。高橋の頭の無数の手術跡を見ながら、杉山美加も、自分の目に涙が浮かんでくるのを押さえられない。大変だったんだね。なおも顔をあげられない高橋を抱きしめる。遠くで、救急車のサイレンが途中で止まる。犬が情けない鳴き声をあげる、うるるうぉーひん、わふわふ。杉山美加は泣き続ける高橋の背中をぽんぽんと叩いたが、そのリズムと全くいっしょに街灯が点っていくさまが、ちょっと楽しくて、自分が笑顔になったのがわかる。さて、と杉山美加は思う。これから、いいことがどんどん起きていったらうれしいし、なにも起きなかったら、それはそれで、いいことだし、悪くなっていったとしても、まあ、高橋君がいれば、なんとかなるだろう、と思う。どうしようもなくなったら、ごめんなさいと、ぺこりと頭を下げて、この車で二人で逃げてしまえばいいのだ。ほらほら、泣くな、高橋。あんまり泣きすぎると頭痛がするぞ。杉山美加は高橋の頭をこつんと叩いてみた。そこはまだ治ってないんだ、と高橋がしゃくりあげながら鼻声で言った。

閑話休題。まとめ。

2004年08月17日 | Weblog
ユカリさんにインタビュー。

一郎 「こんにちは。きょうは素敵なお洋服で。毎度毎度、ドキっとさせてくれますね。ちょっとアホっぽいけど」
ユカリ「あ、そうか、今日は喧嘩腰で来た訳ね。あのですね、言わせていただきたいんですけど、これ、読みにくいったらありゃしない。段落ぐらい入れなさいよ」
一郎 「それぐらい、がんばって読め。段落入れないのは、わざとじゃ」
ユカリ「うちの妹も、失敗すると、『いまのわざとだから』っていいますぅ」
一郎 「おたくの妹と一緒にしないでください。ちなみに妹さんのほうが、かわいいですから。素直だし」
ユカリ「きついこといいますね。ついでに言わせてもらうと、私、最近、登場する機会減ってるんじゃないですか? なんとかしなさいよ」
一郎 「だから、コメント欄で無理やり頑張ってもらってるんじゃないですか。感謝されるのはこっちのほうですよ」
ユカリ「そういう意味じゃないんですぅ。それより、そのシャツ、サイズ、合ってないし」
一郎 「アホか。わざとじゃ。そっちこそ、たまには、かわいいスカートでも履きやがれ」
ユカリ「また、その話だ。やらしー。やらしー」
一郎 「そういう意味じゃないもんね。そっちのほうこそ、いま、やらしーこと考えてたくせに」
ユカリ「知らないもん。そんなこと」

一郎 「‥‥はい、質問どうぞ」
ユカリ「‥‥空手青年とは何者?」
一郎 「ナカムラが入院していたとき、となりのベッドだった人」
ユカリ「はい、それだけ。あとはどうでもいい」
一郎 「どうでもいいとは失礼な。お前こそ、どうでもいい」
ユカリ「わかりましたー。すみませんー。わたしが悪かったですー。もう、しませんー」
一郎 「あ、すげえ、むかつく」

いままでのあらすじ。

高橋と杉山美加は、お付き合いをしてました。でも、杉山美加にはナカムラという男もいます。だけど、高橋とナカムラは、大親友。ある日、ナカムラは入院しちゃいます。そして見舞いにいった高橋は頭を殴られ危篤。回復するんだけど、杉山美加との仲は微妙。ついでに、仕事先の、永田と浮気。杉山美加、高橋と連絡取れなくなってショック!むりやり退院したナカムラは、なんだか成り上がり気味にいい感じ。それから、高橋は永田に捨てられちゃうし、杉山美加はなんだか元気に立ち直るし、さてさて、どうなるんでしょう。
 byユカリ

(25) 彼あるいは彼女は、それを何と呼ぶのか。 4

2004年08月16日 | 小説+日記
 高橋さん、ただいま。お帰り。晩飯作っておいたよ。ああ、うれしいな、高橋さんの料理、久しぶり。まあ、永田ちゃん、ビールでも飲みながら。あのさあ、高橋さん。なんだよ、急に改まった口調で。あ、いいの、もうちょっと後で話すわ。いいよ、いま話しなよ。あのさあ、高橋さん、どうして、そんなに最近おかしくなっちゃったの?急に偽悪的になっちゃったり、かと思うと、急に優しくしてくれたり、なんだかおかしいよ。別におかしくないさ、普通だよ。それで、私が喜ぶと思うの?高橋さん、ねえ、私がつらいの分かってるでしょ?何言ってるんだよ、永田ちゃんのほうこそ、永田ちゃんらしくないよ、どうしたんだよ、いきなり。おかしいのは、最近の高橋さん。ねえ、ちょっと、やめてよ。また、そうやってごまかそうとするんだから。ねえ、高橋さんのこと、私、すごく、好きなんだよ、美加さんなんかより、ずっと好きなんだよ。ずっとずっと一緒にいたいんだよ。だから、最近の高橋さんには耐えられない。あのさあ、永田ちゃん。ぼく、恐いんだよ。どうしたって言うのよ。永田ちゃん、ぼくのそばにいてくれないかな?ぼくも君と一緒にいたい。いま、高橋さん、なんて言った?一緒にいたい。ダメかな?お断り。お断りです。もう、私が、高橋さんのそばにいる理由が、今、すっかりなくなりました。お断りです。さようなら。高橋は部屋に一人取り残される。テーブルの上の料理はとうにさめていて、ビールの泡も消えていた。永田は少し泣きながら、マンションを出たけれども、同時に、自分の心が軽くなっているのを感じる。高橋さんはあの瞬間、私を必要としていた。確かに必要としていた。それだけで十分だ。永田はそう思う。そして、私は対等に高橋さんに接することができるのだ。次第に永田は、いままで失われていたものを、取り戻した感覚を得る。そして少し微笑む。微笑んだ表情が素敵なんですよ、彼は。杉山美加は言う。高橋君とは、今は全然、喋ってもいないけど、多分、いつもの、あの時のような日がまた、来ると思うんです。へえ、そうだといいね、永田は形式的に相槌を打つ。あ、そろそろ、仕事始まるね。急ごうか。そうですね。永田は杉山美加への優越感を覚えずにはいられない。彼は私に、あんなにぶざまな格好をして、一緒にいて欲しいと言ったのだ。ねえ、美加さん、もうちょっと背筋を伸ばし気味のほうがいいんじゃない?そうですね、ありがとうございます。ありがとうございます、うれしいです。応援、これからもよろしくね、と杉山美加は握手を求めてきた若い女性と手を振って別れる。わたしは今、誰にも負けはしないんだ、と杉山美加は思う。沸々とやる気が起きてきてるし、なんだかとても気持ちがいい。他人のことを心配することが出来ている。そんなことは今まであまりなかったな。自分のことで精一杯だったし。煙草もやめたし。とにかく、今が充実している。今の自分が一番好き。そして、周りの人も大好き。高橋君はきっと、わたしのことを待っててくれてる。もし、待っててくれなくても、高橋君のことをわたしが追いかける。そして、ちょっと、高橋君にお説教してやるのだ。そして、それから、ぎゅっと抱きしめる。でも、高橋君のことが好き、なんて絶対に言ってやらない。でも、高橋君には、わたしのことを好きと言わせてやる。とにかく、今のわたしは自信に満ちあふれているのだ。わたしは絶対に負けない。絶対に。絶対にナカムラの勝ちを確信していたよ、と会長が言う。まあ、分け前は、君が決めて構わないよ、君が賭けに勝ったんだから、君の自由にしなさい。じゃあ、全部、わたしが頂きます、とナカムラは言う。随分、大胆なことを言うね、君は。気に入ったよ。とりあえず、君に任せてみるとするか。ありがとうございます。ナカムラは、自分が着実に、成功への階段を昇っていっていることを当然のことだと思う。車が近寄って来て、運転手が扉を開ける。ナカムラは颯爽と乗り込む。死ぬ気でやれば、なんとかなりますよ。空手青年の声が聞こえる。確かにそうみたいだな。ええ、ナカムラさんなら、大丈夫ですよ。でも、なんとかなることとならないことがあるから難しいよ。また杉山美加のことですか?そういうことは僕はよくわからないな。分からなくていいよ。車は、法定速度を超えて、都心を走る。

(24) 彼あるいは彼女は、それを何と呼ぶのか。 3

2004年08月16日 | 小説+日記
 何度、携帯を見つめても、高橋からの着信も、メールの返信も来ていない。センターに問い合わせをしたり、電話を振ってみたりしても、なんの変化もない。杉山美加は思う。わたしは、わたしをすごく大事にして、支えてくれる人がいないと頑張れないのだ。本当の自分を出せないのだ。だから、一人ぼっちのときのわたしはわたしじゃない。本当のわたしを出せてないし、すぐ疲れるし、すぐ座っちゃうし、煙草も吸っちゃうし、他人にあたるし、とても寂しい。寂しい、寂しい、すごく寂しい。でも、わたしのことを大事にしてくれる人がいる時は、本当の自分。明るいし、何をやっても楽しいし、仕事は、どんどん、がつがつ、頑張れるし、周りの景色がキラキラしている。そっちが本当のわたし。だから、なんで、連絡くれないんだ、高橋のバカ。今すぐ来てくれたら、今まで、高橋君がわたしにくれた優しさの2倍の優しさを高橋君にあげる。すると、高橋君はわたしにその2倍の優しさをくれる。そして、わたしは、またその2倍をあげる。高橋君はさらに2倍をくれる。こうやって、わたしたちは、どんどん、優しくて幸せになっていくはず。幸せがぐるぐるぐるぐる。「わたしたちは幸せスパイラル」スプリング24号98ページ。ああ、優しくされたい。支えて欲しい。早く、連絡よこせ、高橋。でも、わたしは自分が高橋君に嫌われているなんて、少しも思っていない。高橋君は、わたしに連絡をしたくてうずうずしているはず。それには、確信がある。確信って、英語でなんだっけ。なんだっけ。なんだっけ。そうだ、コンフィデンス。オリコンの「コン」はコンフィデンスのコンだったんだ。オリコン。わたしのオリコン。なんだそりゃ。そう、高橋君は絶対、今、つらい思いをしている。わたしに連絡できないんだもん。多分、すごい事情があるはず。山崎さんと永田さんが、高橋君について話してるの聞こえちゃったもん。いつでも待ってるから、早く連絡よこせ、高橋。早く、はやくはやくはやく。自分の頬を幾筋もの涙が伝っているのを拭おうとしないでいた杉山美加は、いよいよ、声をあげて泣き始める。近くにある毛布をかぶる。何度もしゃくりあげて泣き続ける。しゃくりあげるたび、杉山美加を包んだ毛布が揺れる。ごめん、高橋君、ごめん、高橋君。悪いことしちゃってごめん、全部わたしが悪いのは知ってるよ。ごめん、ごめん。毛布の塊が激しく、形を変えて動く。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ごめんごめんごめん。毛布から手が伸びて、たたんで置いてある高橋のシャツを掴んで、毛布の中にひきずり入れる。しばらく静かになったあと、ふたたび周期的に毛布は動く。高橋君、ごめん、ごめん、ごめん。ごめん、高橋さん、遅れちゃって。仕事が長引いちゃったの。永田ちゃん、お帰り。疲れたでしょ、休みなよ、ぼくもちょうど仕事がおわったとこ、ほら、原稿用紙でこんなに。ペンだこできそう。あのさあ、高橋さん、ちょっと聞いていい?ああ、いいけど、何?杉山美加さんのことなんだけど。ああ、どうしたの?あのさあ、どうして、連絡してあげないの?永田は心の中に杉山美加に対する優越感を感じながら、あえて聞いてみる。別に連絡する必要がないから。今日、たまたま山崎さんと高橋さんのことを話してるときに、美加さんが来て、ちょっと最近の高橋さんのことを教えてあげたら、びっくりしたみたいで。あれっ?美加さん、知らなかったの?高橋さんと付き合ってるんでしょ?と言ったんだけど、なんだか、美香さん、顔色変わっちゃって、大変だったんだから。へえ、そうなんだ。高橋さん、杉山美加さんのこと、どう思ってるの?高橋は少し沈黙したあと、あのさあ、そういう質問やめてくれるかな、と永田に後ろから抱きつき、首筋に軽く噛み付く。ほら、すぐそうやってごまかす。ねえ、永田ちゃん、一時間だけ、完全にぼくのものになってくれるかな?意味がわかんない。文字通りだよ。完全に。まだわかんない。なってみればわかるよ。どんなことでも、ぼくの言うことを聞くんだよ。どうしようかな。選択の余地はないよ。じゃあ、一時間だけなってみる。音声を消して、つけっぱなしにしてあるテレビが二人の後ろで、歌番組を放送している。このひと、こんなに売れるとは思ってなかったなあ。こういうのが、今は受けるんだな、どうしたの、杉山ちゃん、そんなに目を腫らしちゃって。うちの大事な商品なんだから困りますよ、と山崎は言って、今日、企業用のビデオへの出演の件で、代理店の人が来てるから、ちょっと顔、出して。そのまえに、その顔なんとかしとけよ。はい。杉山美加は目を氷で冷やす。はいはい、いらっしゃったよ。早く、はやく。すみません、遅れました。わたくし、杉山美加です、この度はお世話になります。はじめまして、ナカムラです。杉山美加の前に、ナカムラが立っている。こちら、ナカムラさん。仕事の話はつつがなく進んでいく。杉山美加は少し気が動転したけれども、気分を持ち直す。会議室の電話が鳴る。すみません、ちょっと席を外しますね、と山崎が出て行く。ナカムラは杉山美加に言う。ひさしぶり。ずっと連絡を待ってたんだけど、こちらから電話をするのもなんだし。そして、今はなぜか、こういう仕事だよ。普通の髪型に、普通の格好をしてるから、誰だかわからなかったわよ。ひげも無いし。ああ、ずいぶん前に剃った。似合うんじゃない?そうかな。でも、どうして連絡くれなかったんだよ。わたし、もう分かったから。何を?いろいろ。ふん、いろいろか。高橋君に悪いもん。そうだよな、高橋に悪いよな。わたし、いままでとは、違うから。そうか、違うのかあ。しっかりしなきゃ、ダメだし。そうだよな。しっかりしなきゃな。もう、ふらふらしたくないし。そうだよな、ふらふらしてちゃだめだよな。だから、今は頑張るんだ、わたし。そうか、頑張れよ。そこへ、山崎が戻ってくる。お待たせしました。話は順調に進む。いや、こちらも不慣れなところがあると思いますけど、どうぞよろしくお願いします。いやいや、こちらこそ杉山をよろしくお願いします。契約のあと、ナカムラは山崎と、杉山美加に握手する。山崎が目を話した隙に、杉山美加の耳元に、「おれは、お前のこと、絶対あきらめないから」とささやく。杉山美加の目に力がこもる。ナカムラは事務所を出る。ああ、ふられちゃったのかな、なあ、空手青年よお。なに言ってるんですか、これからですよ。はじまったばかりですよ。そりゃそうだけどさあ、はじめがこれじゃ、きついよな。高橋のこと言われたら、なにも言えなくなるよ。また、ナカムラさんらしくない。これから、すごいことになって行くんでしょ、ナカムラさん。もちろん、そうだよ。ナカムラは慣れない手つきでネクタイを締めなおす。

(23) 彼あるいは彼女は、それを何と呼ぶのか? 2

2004年08月15日 | 小説+日記
 おはようございます。お疲れ様です。あ、永田さん。美加さん、こんにちは。もうすっかり、風格出ちゃってるわね。そんなあ、まだまだ新人ですもん、冷やかさないで下さいよ。どうなのよ、最近。最近?高橋さんとはどうなのよ。高橋君?なんだか最近、連絡取れないんですよ。(当たり前じゃない、あなたより、ずっと側に私がいるんだから)。嫌われちゃってたりして。でも、高橋君って、すごく甘えん坊なところと、ぶっきらぼうのところがあるから、我慢してなきゃなあ、とも思うんですけどね。(本当に、あなたは高橋さんを大事に思ってるの?)。でも、今は、すごく高橋君って優しかったんだなあって思うときがよくあるんです。(今更思ったって遅すぎるわよ)。そして、高橋君が傍にいないと、わたしって、なんだか、すごく自分が頼りない人間のように思えちゃうんです。そして、今まで、高橋君にしてきたこととか、悲しませたこととか、すごくすごく反省しちゃったり。(それで、どれだけ高橋さんが苦しんだりしたか分かってるの?)。だけど、わかりますよ。(何を?)。やっぱり、高橋君には絶対にわたしが必要だし、わたしも高橋君が必要なんだなあって。どうしたんですか、永田さん。あ、ごめんね、ちょっと、気分が悪くなって。大丈夫ですか?うん、大丈夫だよ。気にしないで。永田は建物の屋上に出て深呼吸する。雲が速く流れていく。どうして、あんなに杉山美加は、高橋さんに対して、自信を持っていられるんだろう。どうしてなんだろう。どうして、あの子みたいに、私は高橋さんの心の中に入って行けないんだろう。なんだか、ずるい。とても、ずるい。次第に空は曇ってくる。スタッフ達が、今日は早めに切り上げようか、と相談しているのが聞こえてくる。とりあえず、急ごう。とりあえず、急がなければ、と、ナカムラは何十枚も名刺を取り出し、使えそうなものに、片っ端から連絡をとる。幾人かから好感触を得る。久しぶりにスーツに着替える。ナカムラさんは、顔も効くし、危ない橋も渡れますからね。いつでも、お待ちしてますよ。こちらは大歓迎です。ナカムラは現金を今なら、いくら集められるだろうか、と考える。通帳には、高橋からの入金が手をつけずに残してある。その他にも、数枚の通帳には、それなりの金額が入っている。身内への借金はあるけれど、それはなんとかなるだろう。ナカムラは、丁寧に髭をそり、髪を整える。あと何年生きられるか、分かったものではない。しかし、その間に、得なければならないものは必ず得る。奪わなければならないものは必ず奪う。ナカムラさん、あまり感情的に動くと損しますから気をつけてくださいね、と空手青年の声が聞こえる。大丈夫だよ。以前、杉山美加に対してしてしまったようなことはもう繰り返さない。ナカムラさんは、意外と長生きしますよ。そうかな?その分、長く苦しむのか、長く楽しめるのかわからないけど。空手青年、随分むずかしいことを言うね。いや、ぼくはいつもナカムラさんの味方ですから。それより早く退院しろ。ナカムラはブリーフケースを持って、マンションを出た。

(22) 彼あるいは彼女は、それを何と呼ぶのか? 1

2004年08月15日 | 小説+日記
 永田ちゃん、もう帰るの?なんだか最近、冷たいんじゃない?と山崎は言う。なんてね、うそうそ、たまには、おじさんたちとも飲んでくださいよ。スケジュールは確認した?まだ、大変そうだけど、うまく乗り切ってくださいね。買い物って、あの西友の辺りで?ええ、あそこら辺ですかね、いつも使うのは。へえ、うちの子で、あそこを使うって子、結構いるよ。いろいろ安いらしいね、あの辺り。あれ、永田ちゃん、同棲でもしてんの?そんなことはないですよ。へえ、そうかな、最近、帰りが早いのは怪しいなあ。忙しくても、まあ、コンディションには気をつけて頂かないと。そこら辺は永田ちゃん、プロ根性あるから大丈夫だと思うけど。あと、下から、いい子がどんどん出てくるけど、永田ちゃんは永田ちゃんらしくやってれば結果は付いてくるし、問題ないよ。ありがとうございます。頑張ります。そうそう、高橋ちゃんから、久々に連絡来だしたよ。あっちもなんだか、いろいろあったみたいだけどなあ。こういう世界は信用が大事だからね。今回の土壇場キャンセル騒動で、いろんなところの評価を下げちゃったけど、多分、高橋ちゃんならね、なんとか汚名返上するでしょ。しかも倍返しくらいで。うん、これからきっと大変だろうけどな。大丈夫、大丈夫。あと、自分への確信も大事だよな。確信、確信。勝新じゃないよ、確信。コンフィデンス、コンフィデンス。練乳じゃないよ。あ、それはコンデンス・ミルクか。あいつ、最近、手書きで原稿書いてるんだよ。見た?ファックス。ちょっと字が下手なんだよなあ。だけど、こちらはぜいたくは申しません。高橋先生の原稿が頂ければそれで満足でございます。そういえば、永田ちゃん、高橋ちゃんから連絡とか来た?いえ、着ませんけど。ああ、そう。じゃあ、そろそろ、お先に失礼しますね。お疲れ様でした。ああ、お疲れ様。お疲れ様、お帰り、ああ、買い物してきてくれたんだ、助かるよ、ごめんね、いろいろ迷惑掛けてて、と高橋は言う。いや、いいのいいの。ほら、高橋さんの好きそうなもの買ってきたつもりなんだけど。クランキーは白が好きなのよね。よく知ってるね、永田ちゃん。ありがとう。一枚は多いから、半分でいいよ。あとは永田ちゃん、食べなよ。ありがとう。でも、太りそうだな。俺、今日、病院行ったんだけど、脳には、やっぱり異常は無いってさ。そうなんだ、一安心ね。よかったよかった。ああ。ただ、なんか、体の自由が、やっぱりまだ利かなくて、それは精神的なものから来てるので、じっくり治して行きましょうってさ。ふーん、大丈夫よ、大丈夫。高橋さんなら大丈夫。そういって、永田は高橋の頭を両手で抱える。首筋や頬に軽く口づける。ごめんね、今日は、グロス塗りすぎちゃってるみたい。なんだかテカテカさせちゃったよ、ほら。そうそう、俺、男性機能もやばいんだよ。へえ、いいじゃない、そんなの。所詮、入れるとか入れないの問題なんだから。面白いこというね。でも、こっちは男ですから、気になりますよ、永田さん。そうですか、高橋さん。あ、もう、また、高橋さん、変なちょっかいだすんだから。そっちが先だろ、そっちが悪いんじゃん。あのさ、永田ちゃん、悪いけど、代わりにメール打ってくれない?液晶画面とか、なんだか見てられないんだよ、頭痛がひどくなって。あ、いいよ。永田は高橋から携帯を受け取って、アドレス帳をいじる。この瞬間、永田は、今、自分は高橋から強くつよく信頼されてるんだ、と思う。心の底から、なにか快感のようなものがこみあげてくる。そして、彼の気持ちへの確信も生まれる。確信、確信、コンフィデンス、コンフィデンス。あのさあ、「身内」ってとこに、実家のアドレスがあるから、そこに、差しさわりの無い、「こっちは元気にやってますよ」みたいなのを打って、それから、それをコピーして、「お得意先関係」のところの上の二つの名前のとこにも送ってくれる?分かる?うん、大丈夫だよ。なんだか、永田はぞくぞくした感覚を憶えた。私は信頼されている。私はとても信頼されている。そして、メールと着信の履歴を盗み見る。杉山美加から、何本も電話とメールが入っている。しかし、送信と、発信の履歴には杉山美加の名前は無い。私がこういうことをするだろう、ということも、高橋さんは知ってて、私に任せているのだ。大丈夫?分かる?送ったよ。オッケーだよ。じゃあ、こっち来なよ。ご飯は、もっと後でもいいじゃん。あ、入れたり出したりは出来ませんけど。あ、別にこちらは構いませんよ、いいですよ、まったくお気になさらずに、どうぞ、ご自由に。二人は笑う。

閑話休題。

2004年08月14日 | Weblog
さてさて、お話もだいぶ進んできてますね。でも、読みにくいったらありゃしませんね。本人は、金井美恵子か保坂和志気取りなんですけどね。無理な話です。でも、書いてるうちに、いろいろ発見がありまして、これは収穫。よかったよかった。

緊急インタビュー ユカリさんに聞く。

一郎 「どうも、ご活躍のようで」
ユカリ「そんなことは、ないです。ふつうです、ふつう。きわめて、ふつう」
一郎 「ところで、ナカムラさんはどこへ行かれたんでしょう」
ユカリ「知らないです」
一郎 「ナカムラさん、人気おありのようで」
ユカリ「わたしも好き。ナカムララブです」
一郎 「はあ。空手青年はいかがですか?」
ユカリ「誰だか知らない」
一郎 「美加さんについては」
ユカリ「美加、コンビニに行ってる」
一郎 「高橋君は?」
ユカリ「高橋君、最近、ひきこもってるんじゃない?ミネラルが足りないよ、多分。ミネラルが」
一郎 「ええと‥‥。ご意見、ご要望は?」
ユカリ「おいしいもの食べたい。猫、欲しい。あとマグロ。マグロ、すごい良いよ」
一郎 「‥‥ありがとうございました」
ユカリ「どういたしまして。汗かいてますよぉ。ほら、こんなに。拭いてあげる」
一郎 「あ、どうも。優しいんですね」
ユカリ「人並みです。ふつうです、ふつう」
一郎 「そうですか‥‥」

猫、マグロ、おいしい物、ミネラル、これらが今後のカギを握りそうです。

7 誰かが泣くとき、誰かが笑う。(21)

2004年08月14日 | 小説+日記
 美加さん、週末は高橋君とデート?と永田。いや、特にそういう訳ではないですよ。永田は、なんだか、最近、私のところに高橋君から連絡なくて、嫌われちゃったかな、多分、美加ちゃんに夢中なんだろうな、と思ってた、でもいいわね、美加ちゃん、今がいちばん楽しい時なのかもね、と言う。そうでもないですよ、てへへ。杉山美加は、高橋が永田とも連絡を取っていたことに、軽く嫉妬する。そして、連絡をくれないのは、わたしのところだけではないのだ、と少し、安心すると同時に不安にもなる。ほら、美加ちゃん、これ、見てみな、と山崎。案外、スペース大きくとって載ってるから、こっちも驚いちゃったよ。わあ、美加ちゃん、キレイに写ってるじゃない、新人さんには見えないわよ。ありがとうございます。いよいよデビューした訳だから、これからもしっかり頼むよ、と山崎。どうする、メシでも、食いに行く?永田は、今回は、きちんとおごってくださいよ、と言う。そりゃ、そうさ。こんなにかわいい子を二人も連れて、金を出さないで済むなんて思ってるほうが、おかしいよ、いや、夢のようだよ、と言って笑う。夢の様じゃない、とユカリは言う。美加、ほんと、すごい、すごい、みんな、びっくりするよ。というか、わたしがびっくりさせますよ。あの、杉山美加がこんな雑誌に出てるのよ!みたいに。いえいえ、わたしはそういうことには、あまり、興味は無いんです。楽しいし、お金ももらえるからやってるけれど、別に、有名になりたい、とか、驚かせたいとか、そういうことで生きていこうなんて思ってないから。ユカリ、そっちにアイスあるよ。わたしは、そんな、世間的な名誉やら、有名人だからとか、財産があるから、とかそんな物差しで人を計ったりしませんから。アイスはねえ、抹茶味がわたし。ユカリはバナナチョコ味ね。へえ、美加、いい事言うわねえ。尊敬しました。美加語録に追加。でも、わたしはお金持ちの有名人と仲良くなりたいなあ、だめでしょうか、美加さん。仲良くなるのはいいけど、仲良くなってどうするの?スタバでわたしはキャラメルマキアートを飲んで、彼は普通のブラックを飲みながら、真面目な会話をするの。すごく真面目な。世界がどう、とか、経済がどう、とか、政治がどう、とか。それで、彼は、そろそろ行かなきゃって、青いスポーツカーで、ブーン。ちっちゃいわねえ。ユカリさん、あなた、小さすぎます。なんですかそれは。なんなんですか、このスケジュールは。いや、杉山君ならこなせるんじゃないかと思って、入れてみたんだけど、と山崎。いやあ、ちょっとこれはさすがに忙し過ぎるんじゃないですか、と杉山美加。今のうちは仕事は選ばず、なんでもこなしていかないと。はあ、そうですか。そうなんですか、すみません。いませんか。こっちにもいませんでしたか。おかしいなあ。空手青年は、受付の女性や、掃除婦や、同室のメンバーに、ナカムラの居所を聞くが、知らないという。今朝、目覚めるとナカムラは姿を消していた。大丈夫かなあ、体も随分悪いのに、どこ行っちゃったのかなあ。空手青年は、ベッドの上で座禅を組み始める。目を閉じて耳をすませる。耳をすませると、金属バットを引きずる音がしたので、ナカムラは煙草の自販機の横に隠れる。相手は一人。近づいてきたところを一撃でしとめる。金属バット男は、声も出せずに足を引きずり逃げていく。ナカムラさん、後ろ!空手青年の声が頭に響く。ナカムラが慌てて後ろを振り向くと、もう一人の屈強な男。ナカムラは、おもいきり自分の頭頂部を、相手の鼻に打ち込み、男をノックダウンする。ありがとう、ナカムラは心の中で、空手青年に感謝する。礼にはおよびません、ナカムラさんが狙われちゃってたのは僕のせいなんですから。空手青年は、病室のベッドの上で足を組み変える。このまま、遠くへ行っちゃうんですか?ああ、多分、長くなると思う。無事を祈りますよ。あと、残してある本、読んじゃいますよ。どうぞどうぞ。どうぞ、はい、横になって。シーツをとりかえた後、再び、高橋は寝かされる。目は天井の一点を見つめたままだ。彼の母は、ベッドの横で、オレンジを剥いている。幸い大事には至らなかったようですね。何よりです。おかげさまで、なんとか息子は一命を取り留めました。本当にご心配おかけしました。退院の目途もそろそろ、つくと思います。でも、奇跡的にこんなに軽く済むなんて。強運ですね。この度は本当にかさねがさね、ご心配をおかけして。母と父は、ながく応対に追われていたが、ようやく静かにベッドの横に二人並んで、息子を眺める。なにか、しゃべったか?いえ。そうか。いいじゃないですか、生きてるだけでも。別にこれから一言も話せなくたって。そうだよな。うれしいな。高橋は、無表情で、その視線は両親を見つめている。ほら、こいつ、こっち見てるぞ。がんばれよ。大丈夫だぞ。父は高橋の手をしっかりと握る。父の目からこぼれた涙が、二人の握った手の上に落ちる。

6 誰かが泣くとき、誰かが笑う。(20)

2004年08月13日 | 小説+日記
 永田と杉山美加は、ロビーで煙草を吸っている。へえ、美加ちゃん、高橋さんと付き合ってるんだあ。高橋君のこと、知ってるんですか?ええ、うちの事務所と付き合いがあって、前からいっしょに食事に行ったり、遊びに行ったりしてたよ。へえ、そうなんだあ。偶然だなあ。永田さんとわたし、昔からの友達みたい。永田は、杉山美加の、大きな瞳が、くりくり動くのをみつめる。なるほどね。こういうのに、高橋さんは、コロリといっちゃうわけか。ふむふむ。永田さんの知ってる、高橋君って、どんな奴ですか?どんな奴と言われてもねえ。そんなに私は高橋さんに何か言えるほど偉くないわよ。へえ、高橋君って、そんなに偉いんだあ、と瞳をくりくり。永田は、杉山美加に対して、優越感が湧くのを禁じえない。高橋さんは、確実にあの時、私を選んでいたのだから。そして確実に杉山美加は、裏切られてしまった存在なのだから。それにしても、と永田は思う。細い手足の杉山美加を見て、どこかの国の人形のようだ、と思う。そして、ふとした拍子に見せる、育ちの良さそうな仕草に、少し嫉妬する。杉山美加は、永田さんは私の知らない高橋君を知ってるけど、高橋君がわたしの前でみせる、どうしようもない姿や、とってもとっても間抜けな姿や、うろたえて、まごまごするかわいい姿を、絶対知らないんだろうなあ、すごく笑えるんだけどな、いつもは、立派な作家先生を演じてるのかな、おかしい、すごく笑える。受ける。めちゃくちゃ笑える。この人、高橋君の本当を知らないんだもん。どうしたの、美加さん、ニコニコしちゃって。いえ、なんだか、楽しいなって思って。仕事を楽しめるようになれたら、もう早いもんよ。さあ、スタジオに入りましょう。早く、出て来てくださいよ、ナカムラさん、どうしたんですか。ナカムラは、ロッカールームに入り込んで出てこない。空手青年は、二、三度、ノックするが反応がない。参っちゃうなあ、ナカムラさんたら。ナカムラは、ロッカーの中で、深く、深く考えている。これまでにないくらい考えている。自分はいま、海中の底、深い深い底で、息を止めてじっとしている、と思ってみる。高橋や杉山美加が現れては消える。俺は本当は何をすればいいのだろう。高橋が微笑む。いいじゃん、ナカムラ、ゆっくり休めよ。そうはいかない。体も頭もなまるだけだ。杉山美加がケラケラ笑って腕を引っ張る。遊びに行こうよ、みんなのことなんて、ほっといて。だめだ、だめだ。ナカムラはさらに深い海底へ沈んでいく。このまま入院して、体を治しても、また、近い将来、また入院、退院してはまた入院の繰り返し。頭上に光が差し込んできてユラユラしている。空手青年が海底に下りて来る。ナカムラさん、なれない人がそんなことやっちゃだめだよ、もどっておいでよ。空手青年はナカムラの腕を掴んで海面を目指す。そこで、ナカムラは、ハッと目を覚ます。ロッカーの扉をコツコツとノックする音。ナカムラさん、分かったでしょ、出てきなよ。慣れてない人が中途半端な瞑想なんてやるもんじゃないよ、と空手青年。ナカムラは冷や汗をかきながらロッカーからでる。まじまじと空手青年を見詰めたあと、ナカムラは言う。俺、病院を出る。で、どうするんですか。知るかよ、そんなこと。そこまでは、分かりません、と担当医が言う。すみません、ちょっと言葉が荒くなっちゃって。いいんです。疲れてるんですよ。先生が疲れていることは、みんな、わかってます。なんとか、彼の意識は戻ります、リハビリをすれば、歩けるようにもなります。多少の機能は失われるかもしれませんけれども。大丈夫ですよ。先生おっしゃることはよく分かります。でも、家の子の将来はどうなるのかを考えると。高橋さんのご両親のご心痛は、よくわかります。とにかく、いまは休養が必要です。外傷もありますが、同時に、精神的にもかなりのダメージを抱えているようですから。とにかく、ご両親には安心して高橋さんが休める環境を作ってあげていただきたい。先生、このたびは、本当にありがとうございます。な、おまえ、命が助かったことだけでも大変なことなんだよ。お父さん、ええ、わかります。とりあえず、あいつのところへ行ってやろう。いいですよね、先生。ええ、それは構いません。高橋さんをゆっくり休ませてあげられれば、それで構いません。

5 誰かが泣くとき、誰かが笑う。(19)

2004年08月13日 | 小説+日記
 高橋と永田はキスを続ける。あ、こんなところに、タトゥーがあるじゃん。高橋は永田の右の肩にある蓮の形のタトゥーを見つける。それ、仕事で付けたんです。シールだから、すぐはがれちゃいますよ。高橋は、その肩に噛み付く。もっとこっちにもあるんですよ、と永田はブラウスのボタンを外していく。ほんとだ。高橋は胸に顔をうずめる。永田はさらにボタンを外し、高橋はベルトを取る。あの‥‥そんなことして‥‥高橋さんの‥‥彼女が泣かなきゃいいんですけど‥‥なに言ってんの、永田ちゃん‥‥もう、いいんだって‥‥私、勘違いしますから‥‥どうぞ、ご勝手に。しばらくして、永田はトイレに行った。その間に、高橋は焼酎を注文して、ぐいぐい飲み、システム手帳から、紙を一枚抜き取り、ボールペンで、ぐるぐる渦巻きを書く。戻ってきた、永田がなにやってんですか、高橋さん、と聞く。これを書くと落ち着くんだよ。ぐるぐるぐるぐる。変な高橋さん。これから、ぼく、ちょっと旅に出ます。原稿とかはファックスで送るって山崎さんに行っておいて。永田ちゃん、君への責任は全部、ぼくのものだから。ぼくはただ単に、君に変な事したわけじゃないから。そんなことは分かってますけど、一応、こちらも、それなりの気持ちはありますしたし、女性なわけですから。うん、まあ、分かってる。少し怒気を含んで、永田は、ほんとですか?と聞く。ああ、もちろん。次に会えるのはいつになるやらわからんけど。ほんとに高橋さんは、私に勘違いさせてくれるのでしょうか。どうぞ、ご自由に勘違いなさってください。では、お先に。私を送って行ってくれてもいいじゃないですか、けち。彼はシステム手帳から、ナカムラの入院先が書かれたページを抜き取り、財布を確認する。休憩場所に置いておいた財布を確認した杉山美加は、ちょっと安心して、ふたたび、撮影現場にもどり、ポーズを2、3取って見る。いいですね、とカメラマンが言い、そうですね、と山崎が言う。山崎は、しばらくしたあと、杉山美加を呼んで、うちの見習いとしてやってもらいます。先輩には永田恵美子とかいますから、しっかり、勉強して、どんどん成長していって下さい。はい、ありがとうございます。なんだって、君は高橋君の知り合いだって?ええそうです。ちょっとした知り合い。やっぱり、そうなんだあ、最近、彼、行方不明といったら大げさなんだけど、なんだか、忙しくて、つかめないんだよね、もし、杉山さんが連絡取れるようだったら、こちらにも連絡くれるように、言ってちょうだい。はい、もちろん、まかせてください。しかし、杉山美加は、自分のメールに高橋から返事がないことを不審に思っている。おーい、永田、新人の杉山美加君。あ、こんにちは。美加さん、かわいらしい瞳なんですね。ぐーっとひきつけられちゃいそう。よく言われるんです。ありがとうございます。永田恵美子です、頼りない先輩だけど、よろしくね。こちらこそよろしくお願いします。すみません、ナカムラさん、やっぱり、金属バットの音聞こえませんか、と空手青年。ああ、聞こえるよ、あれは、一人や二人じゃないな。俺達のこと狙ってんだろ。お前のせいだよ。うわあ、なんだか、恐いなあ。なんだよ、お前が余計なことしたからだろ、と、今はすっかり読みなれた本を手に、ナカムラが言う。まあ、しっかり入院してたら、いつか平和な街がやってくることでしょうな、空手青年くん。そうですかねえ。それともいっそのこと、まとめてやっちまいましょうか。一度には無理でも一人ずつ、連れ込めば、一発でしょう。あいつ、一発でしょう。重たそうなカバンを持ち、よろよろ歩く高橋を見ながら、金属バットを持った少年達が、話す。金持ってるよ、絶対。そうだな。いっせいにまわりを取り囲まれた高橋は、金属バットで数回殴られ、叫び声をあげるが、カバンを奪われ、額から血を流し気を失う。騒ぎに気付いたガードマンが駆けつけ、救急車を呼ぶ。病院はすぐ目の前だが、その病院では手の打ちようがなく、高橋は、少し離れた大学病院へ運ばれていく。なにかあったようですよ、と空手青年。そうみたいだな、誰か殴られたんだろ。物騒だな。と言い、充電の終わった携帯電話の電源を入れると、高橋からのメールが着ており、「もうすぐ、そちらへ見舞いへ行くよ。急ですまん」とあり、しばらくすると、もう一通のメールを受信する。杉山美加からのもので、「いま、わたしは、なぜか、雑誌の読者モデルをやっています。もしよかったら、来月発売なので、ぜひ買って見てください」というメール。ナカムラはふーん、と2、3回うなづき、みんな、頑張ってるんだな、と素直に思う。

今までのまとめ。

2004年08月12日 | Weblog
登場人物のおさらい。

高橋:杉山美加のことが好きなんだけど、肝心なところを押さえていない。とりあえず、物書きをしたりして、頭の回転は早いし、優しいが、人間関係においては、かなり馬鹿。ナカムラとは勘違いされるくらい親しい。アイスコーヒーにはガムシロを二個入れる。わけもなく、フレミングの法則を右手で確認する。耳を動かせる。

杉山美加:高橋とお付き合い中。ナカムラとも、少々。でも、二人のことを、「好き」だとは思っていない。動物並みの嗅覚で、今日もくんくんと街を徘徊。

ナカムラ:高橋とも杉山美加とも親しいので、間に挟まれマイッチング。病気療養中。乱暴物。でも、ランボー者なので、詩情豊かに、ヤクザキック。

山崎:高橋の仕事先のひと。

永田ちゃん:高橋の仕事先とご契約中のモデルさん。

ユカリ:杉山美加のご学友でご親友。

空手青年:ナカムラの隣のベッドの人。空手有段者。

途中から、いきなり文体が変わって、読みづらくなってすみません。なんばしよっとかですたい。あたし、こうしか書けへんねん‥‥。かんべんしてな‥‥。ほんま、ゆるしてな‥‥。