船着き場に停留した屋形船で二人は密会した
「主水よ 折り入って仕事を頼みたいんだ 」
「旦那 やけに神妙な顔してるじゃないか・・ 今回は相当大物だろ?」
依頼人は世直し狼と名乗る一介の浪人だが 何度か仕事を頼まれており 主水と気脈は通じていた
「そうだ、今の幕府のやり方は腹を据えかねたんだ・・庶民の貧窮をよそに奴らの所業見ろよ 多くを言わなくても わかるだろ」
「旦那、わかったぜ・・で、どいつを殺るんで?」
「そいつはな・・将軍よ」
「おお! 将軍とは これは驚いたぜ・・ちと大物すぎるんじゃねーか、 いくらなんでもよ・・」
さすがの主水も生唾を吞み込んだ
「それだけじゃねえ・・老中と 大目付けの連中も殺る・・それ位、やらないと世直しにならないからな。」
「わかった 頼まれた以上は 仕事人の意地にかけて 万に一つもやり損ねることはないぜ だがな、なにしろ相手はお城に住む上様だ 城に侵入するにはちと無理だぜ・・」
「それなんだが 実は暮れの28日に 本所赤坂の筆頭老中の屋敷で茶会を催すことになっている 一同が集まるからそこを狙うんだ。」
世直し狼は屋敷の絵図面を持参しておりそれを開いて説明した
「そうか!それなら 見込みはあるな・・」
主水はこれは練に練った周到な計画であることは 承知したが 腑に落ちないことを聴いた
「旦那、余計なことだと思うが 幕府要人の数人を殺ったところで 庶民の暮らし向きに何も変わらんと思うがな・・」
「いい質問だ!、その通りよ。 けど それを変える用意は万全だぜ」
世直し狼は 空咳をして外で待機していた、一人の男を招き入れた
眼光の鋭い浪人だった
二本差しを脇に置き、丁重なあいさつの後 口を開いた
「拙者は幕府軍を指揮するものです、あなたたちが 仕事を済ませていただいたら 3万の軍勢を引き連れて
江戸の主な番所を手分けして制圧する手はずは整っています。 制圧後は我々は幕府になりかわり、
とりあえずは軍政の布令を出します」
「おお、そうか 軍勢まで出すとはな、 わかった! これはそれがしの 一世一代の仕事になりそうだぜ」
主水はかってないほどの高揚し仲間内を呼び出した
「おお!いいじゃねーか 相手にとって不足なしだ!やってやろうぜ!」 仲間は口を揃えて気勢を上げた
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果たせるか、
当日深夜、茶会に興じ女たちとの淫行に更けまくった、ロクデナシたちは 侵入した仕事人たちの長鍼で延髄を一刺しされ
声も上げることも 悉く片付いたのである。
ほどなくして 3万の軍勢は江戸を包囲し、要めの武家屋敷等を急襲し完全制圧した
そして翌日を迎えたのであるが 世直し狼たちは 抜かりはなかった。
江戸中の瓦版屋を呼んで 幕府は斃れたことを高らかに宣言したのである
おわり