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蠍火のダラダラ日々の語について

小説つづき

2007年04月15日 | 連載系小説
 「一握りの声」      作・連堂 蠍火

 初めは沢山の声が聞こえていた。
 耳を澄ませる事なく、多くの声が聞こえていたんだ。だけど、一つ一つ歳をかさね、大人っていう年齢に近づいていくうち、その声たちの数が減っていった。
 別に誰かが悪い事をした訳じゃないんだ。あっ、でも、中にはそういう悪い事で消えていった声もあった。きっと、わたしが耳を傾けなくなったのだと思う。だって、自分にだって好き嫌いはある。それが結構激しいタイプかもしれない。それに、嫌いな声をずっと聞いていたいだなんて、そんな風変わりな人間には、わたしはなれない。絶対になれない。
 もう自分には、わずかな声しか残っていないんだ。あとの声は全て、物理的には聞こえても、心の中――わたしには聞こえない。響かない。伝わらない。
 あと五つ。わたしに残された声――

――つづき――

 朝。こんがり狐色のトーストに薄っすらとバターを塗り、勢いよくかぶりつく。そして少し苦めのコーヒーと共に一気に飲み干す。これがわたしの1日が始まり。別に急いでいる訳じゃない。ただ、わたしの髪はクセ毛だから、パテを当てて、毛先を延ばすのに時間が掛かってしまう。だから、どうしても他の部分を短縮していかないと、本当に遅刻してしまう。
 何故なら、わたしは家から自転車で三十分ほどの場所にある、公立高校に通っているから。地元にはこの一校しかない。とても辺鄙な土地だ。バスも通ってはいるのだけど、これが一時間に二台。という事は、三十分に一台。自転車で行くのと全く変わらないんだ。じゃあ、無駄なお金を使うよりも、自転車でちょっと疲れるけど行っちゃえ的なノリである。そして、その浮いたお金で、購買でパンなどの昼食を買いあさる。わたしの住むこの田舎では、雨の日以外はこれが普通。老若男女問わずみんな自転車だ。さすがに会社勤めの大人たちはバスを使っている。それに、この町からは旅行以外出た事のないわたしは、他の街や県の人たちがどういった暮らしをしているのかなんて知らないし、普段そんなこと、まったく考えない。たぶんみんなそうだと思う。でも、ふと一人でいる時、何だか悲しげな空を見ている時、などなど、数えられるほどの瞬間でしかないけど、ある一瞬パッと思ってしまう。
 ――この町以外の生活ってどんな感じなんだろう?
 ――他の土地に引っ越せば、今よりもお父さんやお母さんも、ゆっくりと出勤できるのではないかな?
 ――どうしてわたしは、こんな海や山に囲まれた小さな田舎町に暮しているのだろう?
 ――町と街ってどんな風な違いがあるのだろう?
 ……。
 次々とあげていけば、本当にキリがないくらいに疑問が浮かび上がってくる。そして最後の想い。
 ――別の場所に行けば、以前のように沢山の声が聞けるかな?
 結局は自分に対しての問いかけに過ぎない。誰も答えてくれないし、誰にも言う気がしない。だって、変に思われるから……。
 わたしは残り五つの声を大切にしたいのだ。
 そんな事を考えながら、身支度を済ませ、、玄関の鍵をしっかりとかけ、二度ほどガシャガシャと戸締りを確認する。
 これをする度に、去年の出来事を思い出しちゃうんだよね~。と思いながら、駐車場で自転車に跨り、そのまま学校へ向かってペダルを漕ぐ。その最中、わたしは暇つぶしに思考していた去年の出来事について、思い出す事にした。どうせ学校まで三十分かかるし……。

‐つづく‐


えっと、続きます。
良かったらまた読んでやってください。

ではっ

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