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山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

Love Situation 6

2018-03-13 18:55:40 | love situa...







少し(だいぶ?)寄り道をしていましたがLove Situation完結編です。






Love Situation 6







高校時代はいつもイライラしていた。


授業にも


学校行事にも


課外活動にも


休み時間にも


ワイワイはしゃぐ声にも


盛り上がってキャッキャと騒いでいる声にも




何もかもがイライラして


ムカついて仕方がなかった。















ここのオフィスは高層階にあって
そこからは大きな空と、緑と、都会の街並みが見渡せる。
そしてオフィスの南側にある大きな窓の外には、広いテラスがあって
そこには小さいながらも様々な木々や花が植えられていて
季節ごとにその時その時の顔を見せる。


そしてそこに植えられている木々や草花は、こんな都会にありながらも
そしてこんなこんな高い場所にありながらも、
地面に植えられている木々と同じように紅葉したり花を咲かせていた。


とはいっても別に自然とか植物が好きだった訳ではない。
ただ就職してようやく仕事にも人間関係にもなれ、周りが見えるようになって
自然と外の風景まで感じられる余裕ができただけの事だ。


それをぼんやりとながめながら、高校の中庭にも
同じような草木や花々があったことをふと思い出す。








高校は第一希望の高校ではなかった。
だから入学してからずっと、不本意な結果をとなってしまった事に
ぶつけようのない苛立ちがあった。
そして、何より切り替えができず
いつまでもウジウジしている自分に一番ムカついていた。


だから大学ではこんな思いは二度としたくはないと
死ぬほど勉強をし希望の大学へと入り
そして必死に就職活動をし希望の会社へと入社した。


そして今。


ようやく仕事にも慣れてきて周りが見えるようになった時、
なぜか思い出すのはなぜかあの高校時代の事だった。










あの頃。





やることみることすべてがくだらないと思っていた。
今となっては高校生なのだしバカバカしいと笑えることが
あの時の自分にはそう思えなかった。
そう思える心の余裕がなかった。


周りのみんなが楽しく騒いでいる声にも
キャッキャいってふざけあっている事にも
無性にムカついていた。


そんな時、松潤と大野が付き合っているという噂が流れた。
本人たちにはそのつもりはないのかも知れないけど
二人がくっついていると周りがキャーキャー言う。


それなのに顔をわざと近くに寄せたり肩を抱きよせたりして
ますます女の子たちがキャーキャー言った。
それが無性にイライラして仕方がなかった。
そしてその怒りの矛先は自然と同じクラスの大野に向かった。
その顔を見るだけでもイライラして目が合えば睨み付ける。


気にしなければいいのだろうけどどうしても気になってしまうその存在。
今となっては逆恨みのようなものだけど
あの時は自分をイライラさせる大野の存在が許せなかった。
だから大野に拾ってもらったパスケースも
お礼もちゃんと言わず引ったくるようにして受け取った。









でも。


その日から。


大野と俺の間には見えない壁ができた。


もともと仲がいいというわけではなかったけど
それでも大野の態度が明らかに変わったのがわかった。
それまで何となく感じていた大野の視線はなくなり
自分の存在は空気のようになにもないものとしてあつかわれた。


そして。


そのまま一度も口をきくこともなく卒業した。












「何渋い顔してんの~」

「え?」


そんな時に受け取った同窓会のお知らせ。


「あ~私もあった。大学卒業して丁度落ち着いたころに来るんだよね~」

「そんなもんですか?」


遅くなってしまった社食を一人で食べていたら
丁度食べ終わってお盆を片付けていた青山さんが話しかけてきたので
同窓会のお知らせが来たことを話す。


「そうよ~中学とかだと成人式であったりするけど、高校はバラバラだから」

「あ~確かにそうですね」

「でも櫻井くんならモテて大変だったんじゃない?
いろいろ甘酸っぱい恋の思い出がたくさんあるでしょ?」


そういって懐かしそうに笑って言ってるけど、甘酸っぱいって…


「そんなのないですよ」

「そうお? でも高校時代って体育祭とか文化祭とか色々楽しい思い出が盛り沢山でしょ」

「あ~まあそうですね」


そう言って、青山さんに合わせるように答えたけど
本当は文化祭にも体育祭にも楽しい思い出なんて一つもなかった。


「あの頃ってくだらない事でもバカみたいに夢中になっちゃうんだよね。
手間暇惜しまず夜も寝ないで凄い労力つかったりして~」

「そうですよね」


確かに周りは文化祭ともなると連日大盛りあがりだった。
毎日どこからともなく段ボールを運んできては大作を作りあげ
ペンキを使っては他のクラスや部活には負けじと
趣向を凝らしたものを演出したりしていた。


でも内申が上がるわけでも成績が良くなるわけでもない。
そんな風にみんなが盛り上がっているのを
ただ冷めた目で見ていただけだった。


そんな思い入れも思い出もない文化祭だったけど
ただ一つだけ、大野のダンスが凄いと学校中で噂になった事をなぜか覚えていた。


それはもともと目立つのが嫌いなタイプで出る事を嫌がっていた大野の
そのダンスパフォーマンスが、凄いレベルの高さだったため
しばらくその話題でもちきりだったからだ。


見た人たちはみな天才だ神だと盛り上がっていたが
実際は教室で一人遅くまで練習しているのを知っていた。
確かに生まれ持ったダンスの才能はあっただろう。
でもそれ以上に練習をしているのを、
同じようにいつも一人、残って図書室で勉強していたから知っていた。


でもあの時はなんでただの高校の文化祭にこんなにも一生懸命に
なれるのだろうと不思議で仕方なかった。


「悩んでいるなら行ってみたら? 意外と思わぬ収穫があるかもよ」


そんな事をふと思い出していたら
青山さんはそう言ってふふっと笑った。










思わぬ収穫がある。


そんな言葉を信じた訳ではないけど
なぜか俺は何の思い入れも思い出もない高校の同窓会へと足を運んでいた。
色々な人から話かけられながらもずんずんと会場に入っていくと
一際目立つ集団が目に入った。


そのなかでも特に目立つその存在。
松潤だ。
松潤はその容姿からスカウトの話が来て
モデルとなったらしいという噂をきいたことがあった。
そのせいかその場所だけ何だかキラキラしていて空気が違って見える。


そして。


その松潤の隣にはあの時と同じように大野がいた。
そしてあの時と同じように松潤に肩を抱かれていた。


その姿を見て、また、ムカついた。


ずっと忘れていたこの感情。


もう何年もたってるというのに、なぜかまたその二人の姿を見て、ムカつく。


そしてその事に自分自身が一番驚く。


視線を感じたのか大野こちらを見る。


視線が合った。


でも。


その視線は一瞬にして外された。


あのときと同じ。


そしてあの時と同じように胸がちくっと傷んだ。
あの時自分自身でそう仕向け、そしてお互い空気のような存在となり
そしてその状態に清々していたはずなのに。


それなのに。


なぜだか泣きそうだった。
もう何年もたっていて忘れていたはずなのに
あの時と同じように
やっぱり泣きそうな気分だった。















そして今。









俺は大野が働いているというバーの扉の前に立っている。
自分でもなぜここにいるのかわからない。
高校時代全く話もせずお互い空気のような存在で
そして同窓会で話さえ、いや視線さえも合わない状態だったのに。
それなのに今、大野が働いているという場所を聞きつけここにいる。


心臓はばくばく言っている。
緊張して顔はこわばり手は震えている。
その震えている手を見ながら一体何をしているのだろうと自分自身に笑う。
そして一体自分は何をしたいのだろうとも思った。


そんな事を考えながらその扉をあけると、扉についている鐘がカランコロンとなって
カウンターの中にいた大野がそれに気づいてこちらをみた。
そしてすぐに俺だと気付くと驚いて目を大きく開く。


でもすぐに何もなかったようにバーテンダーとしての顔になり振る舞う。
だから俺もただの客としてその中に入っていく。
そしてカウンターの一番奥の席に座った。


店の中には数人の客がいて
落ち付いた店内には静かな音楽が流れている。
雰囲気がいい店だなと思った。










「何にいたしますか」


大野が何事もなかったかのように。
そして俺という存在をまるで意識してないかのように聞く。
だから俺もただの客として振る舞う。


そして注文をするとその手から自分の為に作られるカクテルの出来上がる様子を見ていた。


「どうぞ」


そういってその差し出された綺麗な手。
その差し出された手にあの時、ひったくる様にして
受け取ったパスケースの記憶が蘇る。








そしてそれからもずっと自分たちの間には何もなかった。
ただのバーテンダーと客でそれ以上でもそれ以下でもなく
事務的な会話以外、何も話さない。


高校時代もそうだった。
そう、自分がしむけた。


それなのに俺はなぜかここにくる。
そして大野の作ってくれたカクテルを見つめながら
自分は何をしているのだろうと思う。




事務的な会話だけで何もない。


ただの同級生でそれ以上でもそれ以下でもない。



それでも、



仕事が終わるとここに通った。











この日は土砂降りのせいか店内には珍しく自分以外に客はいなかった。
静かに音楽だけが流れている。
そしていつもと同じように自分の頼んだものを大野が作ってくれるのを見つめる。
そして出来上がると綺麗な手が伸びてきて


そして


どうぞ、とカクテルが差し出される。


はずだった。


「もうこれでここに来るのは最後にしてください」

「え…」


でも、違った。


大野が静かにそう言った。
確かに自分がここに来るたびに大野が微妙な表情になるのを知っていた。
そして二人の間には何とも言えない空気が流れていることも知っていた。


でも。


「…他にもたくさんあるでしょう? なぜわざわざここにくるの?」


確かに同じようなバーは数え切れないほどある。
それでも。
自分でもわからない。


「ごめん、迷惑だったら来る頻度を減らすから…」


高校時代はムカついてずっと睨んでいて
そしてお互い空気のような存在となって清々していた。


でも。


ずっと気になっていた。


気になる存在だったから


だから松潤と二人でいる姿にムカついた。
だから二人がくっついているのを見て周りがキャーキャー言う事にいらついた。
だから松潤とキスをしている姿に衝撃を受けた。
だからいつも気になってその場所を通るたびに見ていた。
だからいつも見ていた木々や草花を覚えていた。
だから何の思いれもない高校の同窓会に出席した。
だから必死にこの場所を突き止め


そして、ここに通った。






でもその言葉に、大野は真っ直ぐな眼差しを向け



そして静かに首を横に振った。



それは、明らかな拒絶だった。











おまけ。


すごーくすごーく前に書いたVSの話が下書きに残っていたのでそれをアップです。
が、いつのVSだったかよくわかりません。それでもよければ↓ すみません💦



VS嵐




『大野さんの事を凄いお褒めになっていた』


その言葉にその人は意外そうな表情を浮かべた。


『カッコいいでしょ天才でしょあの人って』


そして。


凄く嬉しそうに見つめたかと思うと


そのまま、抱きついた。








「あ、落ち込んでる人がいる」

「……」


楽屋で一人でいたら、ニノがそう言って入ってきた。


「ふふっまあ大野さんの事だとは思いますけどね」

「……」


そして嬉しそうにそう言った。


「だったら気にする事はありませんよ」

「……え?」


だから何も言えず見つめていたら
なぜか気にすることはないと言う。


「あれはね、意外な条件が重なったせいです」

「意外な 条件?」

「そ」

「どういう事?」


そう言ってニノは笑ってるけど意味わかんない。


「まずね、意外な人からの情報であったという事」

「まあ」


確かに意外な人からの情報ではあったけど…


「そしてその話の内容が意外な内容であったという事」


そしてまさかあの状況から、そんな話が出るとは思わなかったけど。


「そして、その話が3年も前の話であったという事」

「……」

「そしてそれを言ったのが松本さんであったという事」

「何だよーやっぱ、それが大きいんじゃん。俺だっていつも言ってるのに~」


でもそれなのにあんな嬉しそうな顔して、抱きついて。


「何でかなあの人ってあんなにかっこよくて天才なのに
昔から自己評価が低くて自信がないんですよね。
だから俺らがもっとたくさん褒めてあげればいいんだろうけどしないでしょ?」

「わかってるなら、もっとほめてあげればいいでしょ~」

「嫌です」

「何でぇ?」

「調子に乗りそうだからです」

「ひでええ」

「でもだからこそ翔さんの存在は貴重なんです」


そう言ってニノはおかしそうに笑っているけど
やっぱりあんな顔をさせる松潤が羨ましくてちょっとだけ妬ましく感じた。








「でもあれってハグなのかな?」


そんな事を思っていたらニノがぼそっと小さくつぶやいた。


「いやどう見てもハグでしょ?」

「ま、いいや」

「え~何だよ?どういう意味よ?」


意味わかんない。あれがハグじゃなかったら何なわけ?


「まぁ、オンエアで見たら翔さんの気持ちも変わるかもよ?」


オンエアで見たら変わる?
やっぱり意味わかんない。







そう思いながらもオンエア後、気になって録画してあるものを見ると
そこにはやっぱり嬉しそうな顔をしている智くんの姿が映し出されていた。
で、このまま大野さんが抱きつきに行って…


あれ?


確かに何か違う?


そう思いながら巻き戻しもう一度同じ場面を見る。
何というか身体と顔の向きがあっていないというか。
身体だけは寄せていってるけど顔は別の方向に行ってて
何だか不思議な体勢というか。


「……」


そんな事を思いながら繰り返し見ていたら
お風呂に入っていた智くんが頭をふきながら出てきた。
だから確かめるように立ち上がって智くんに向かっておいでという風に手を広げる。
智くんは不思議そうな顔をしながらも
素直に手の中に納まるようにすっぽりと入ってきた。


目の前には大野さんの洗ったばかりの髪の毛があって
いつものシャンプーのにおいがする。
その頭に手をのせ、やっぱ俺の時はこうだよね?と、思いながら
口元が自然と緩む。


智くんは何だろうと不思議そうに顔を上げる。
だから何でもないよと言ってその身体をぎゅっと抱きしめて
そしてその唇にちゅっとキスをした。








ありふれた日常 part37

2018-02-16 18:10:00 | 山コンビ ありふれた日常





すみません。
すっかり神出鬼没状態になってます…







「中村監督って本当に智くんの事好きだよね~」

「へ?」

「いや、前から思ってはいたけど特典映像見て確信した」

「特典映像って、見たの?」


もうすぐオリンピックが始まるせいか
智くんは驚いたようにそう言って目を丸くした。


「見るよ」


当たり前でしょ?
忍びの国だよ?
無門だよ?
見ないなんて選択肢ないでしょ?
そう思いながら当たり前のように答えると、ますます智くんはびっくりした顔をする。


「見るよって、もう現地入りしなきゃでしょ? 資料だってこんな山積みだし…」

「ふふっ散らかってるって言いたいんでしょ~」

「でも準備だってあるだろうし…」

「それとこれとは、別」

「別って…」


この時期忙しいのが分かりきっているせいだろう。
途端に戸惑いの表情を浮かべる。


「凄く良かったよ? 未公開映像とか見どころ満載だったし、
監督の深意とか意図とか舞台の裏側とかも知れて凄く面白かった」

「まあ俺も、知らないこといっぱいあって面白かったけど…」

「細部の細部まで考えられた監督のこだわりの作品だもんね」

「うん、もう、監督凄すぎちゃって頭の中どうなってるのかわかんない」


そう言って、んふふっと可愛らしく笑う。


「ふふっでもその中村監督は智くんに絶対的な信頼をおいているよね?」

「そっかなぁ?」

「そうだよ」


それまでにも散々監督の口から語られてきたことだけど、あれを見たら一目瞭然だ。


演技を指導する立場である監督が、智くんには
何を考えてのあの表情だったの?って嬉しそうに聞いていたし
それに智くんが場面場面でどんな表情を魅せてくれるのかと
監督自身がワクワクしているようにしか見えなかった。


でも考えてみるとあれって、
智くんがあの時どう考えてああいう表情になったかというよりか
無門としての智くんがどういう事を考えていたか知りたくて聞いていたんだよね。
完全に役を掴んでいるからこそのその言葉。


普通はこういう表情でとか演技指導するのが監督なのに
その監督がこの表情がいいんだよねえとか嬉しそうに語っていたのは
やっぱり凄いことだと思った。


しかも本人が全くその時の心情を覚えていないっていうね。
それがまた役に入っている智くんらしい答えというかなんというか。
そのやり取りを見ながらやっぱり智くんは凄い人だなと思う。








「何度見ても見ごたえあるし、見るたびに新しい発見があるから
何度だって見れる不思議な映画だよね」

「んふふっ」


監督も18回見たという人がいるという話をしていたけど
でもその人だけが特別というわけではなく回数に差こそあれ
他にもそういう人が多くいたという話をよく聞いていた。


「だから俺、現地にも持っていくんだ~」

「マジで⁉」

「だって気分転換によさそうでしょ」

「気分 転換?」


智くんが意味わかんないって顔で見る。


「そ。頭がパンクしそうになった時に、智くんの凄いアクションや殺陣を見たり
ゆったりしたトークを見たりして気分転換するんだ~」

「変なの」


そう言って説明するとおかしそうにクスクス笑った。


「だって色々面白いんだもん。あの亮平くんのやり取りで
圧をかけるためにわざと殺陣の練習をしてたっていうのもうけたし」

「あれねぇ、亮平くんホント酷いよねぇ」

「あん時の唖然とした智くんの顔面白かった~」

「もう信じらんないよ」


そう口をとがらせ文句を言いながらも笑っている姿が可愛いなと思う。









そんな事を思っていたら、ふと智くんが何か言いたげにじっと見つめてきた。


「ん? どした?」

「……」


そしてそのままゆっくりと右手を伸ばしてきて、優しく俺の前髪をかきあげた。


「……!」


突然の事に驚いて何も言えないでいると、智くんはその額をじっと見つめた。




それは。




ずっと髪の毛で隠し続けていた場所。







あの日。


心配そうな眼差しを向けられていた事を知っていた。
でも心配をかけたくない一心で気付かないふりをして
何でもない事の様にふるまっていた。


でもけがとか病気とかに特に敏感な智くんの事だ。
ずっと心配し続けていたのだろう。


そのかきあげた智くんの手を包み込むように握る。
そしてその手を掴んだまま静かにおろした。
智くんは右手を握られたままの状態で静かに見つめている。
その瞳は不安げにゆらゆらと揺れていた。


「もう、大丈夫だから。綺麗になっていたでしょ?」

「…うん」


そう言うと、小さな声でうんと答える。



あの日。


あの後。


そのまま正月休みに突入してしまい連絡は取りあっていたけど
お互い家族に会ったりなんだりで暫く会えない日々が続いた。





だから。


今日、来たのだと思った。



無理してでもここに来て、俺に会っておきたかったのだろうと思った。
いつもは忙しいとわかっていたら絶対に遠慮してこない智くんが。
自分としては嬉しかったけど、けがや病気を誰よりも心配する人だから
どうしても出国する前に会っておきたかったのだろう。
智くんだって忙しいのにその気持ちが痛いほどわかって申し訳ない気持ちになる。


「ホントは俺もついていきたいくらいなんだよね~」


でもその俺の気持ち瞬時に察したのか、
負担をかけたくないと思ったのかおどけるようにそう言って誤魔化す。


「おっいいじゃん。選手の取材とかしちゃう?」


だから気付かなかったふりをしてそれにのっかる。


「それは、絶対無理」

「ふふっ智くんが取材したら面白そうなんだけどなあ」

「面白くねえよ」

「そうかな~」


そんな話をしながらゆっくりとその身体を自分の方へ引き寄せ抱きしめた。


「テレビの前で応援してるから」

「うん、たくさん選手の応援してね」


そしてお互い抱き合ったまま話をする。


「ううん」

「え?」

「俺は翔くんを応援をするの」

「え?俺? 選手の皆さんを、じゃなくて?」

「うん、テレビの前で応援してる」

「ふふっありがと。じゃ俺は毎日無門見て元気貰うわ」

「んふふっ」








そしてその華奢な身体を抱きしめながら
心配しているのは実は自分の方なのだ、と思った。


忍びの国は本当に素晴らしい作品だった。
殺陣は言わずもがなすごい迫力と演技だったし
そして無門の心情の移り変わり、そしてその表情。
どれをとっても素晴らしかった。





でも。





智くんの凄いアクションや殺陣を見るたびに。
ため息の出るような芝居を魅せられるたびに
そして圧倒的なダンスを魅せられるたり歌を聞くたびに
心の底では不安を感じている自分がいる。


凄い事を次々にやり遂げてしまう智くん。
でもその時に智くんがやりきったと満足してしまって
何の躊躇も迷いもなくこの世界から去ってしまうのではないかと無性に心配になる時がある。


今の立場にも、芸能界にも、何の未練もないあなたの事だから。
昔ダンスを極めたからと言ってあれだけの才能がありながらも
あっさりとジャニーズを辞めようとしていた時のように
何の躊躇いなくこの世界から去ってしまいそうな気がして、時々無性に不安になる時がある。


丁度今回の映画を見た時の様に、凄いものを魅せ付けられるたびに
この手からふっといなくなってしまうような気がして、怖くなる時がある。









「待っててね?」

「うん、待ってる」


そんな事を思いながら待っててねと言うと
何も知らないあなたはにっこりと笑って待ってると答えてくれる。
その言葉に嬉しくなって身体をきつく抱きしめると
背中に手が回ってきてぎゅっと抱きしめ返してくれる。


「智くん」

「ん?」

「まだまだ嵐でいてね?」

「うん」


そう言うとやっぱり何も知らないあなたは不思議そうな顔をしてうんと答えてくれる。
きっと本人は全然わかってはいないだろうけど、その言葉にほっと安心する。


「よかった」

「当たり前でしょ?」


そして、いたずらっ子みたいな顔をしてくすくすと笑う。






「好きだよ」

「知ってる」


そして好きだというと、
あなたはいつものように少し照れくさそうに笑って
知ってると答える。


まだまだここにいてと、この腕の中にずっといてと
そう願いながら、その身体をきつく抱きしめると
背中に回った腕に力が込められる。


そして。


今日来てくれてありがとうと言うと真っ直ぐな目で見てうんとうなずく。
そしてもう一度好きだとつぶやくと嬉しそうに笑って俺もだよと答えてくれる。


そして。


ゆっくりと智くんの腕が頬に伸びてきて優しく頬が包み込まれると


智くんの優しいキスがおりてきた。





1126誕生日(2017)

2017-12-29 07:53:40 | 山 誕生日






今更感が半端ないですが…





その穏やかで優しい性格。


透き通っていて全てを包み込むような綺麗な歌声。


誰にも真似できないような美しくもキレのあるダンス。


指先一つ一つにも神経が行き届いていて、様々な表情を魅せてくれるその美しい手。


ダンスや演技、そして歌で魅せる圧倒的な表現力とそのしなやかな身体。


可愛らしい顔。


包容力。


芯の強さ。





そして…


あれも…


これも…





その人の好きなところは数え切れないほどある。







でも。







『完璧主義者だとよく言われる。


自分で決めたこのレベルまでは到達したいっていう、ハードルみたいのを揚げる。


それを超えるまでは、ほかが見えなくなる。


踊りでもアクションでも、自分が納得できるものにするには、たくさんの集中力やひとりの時間が必要。


だから、ときどき才能があるねって言われたりすると、すごく違和感がある。


絵だって、最初からうまくできたためしなんてなくて。


ほかは何も手につかなくなるほど集中して練習して、少しずつできるようになっただけ』(MORE8月号)







でも。



時々。



何とも言えない気持ちになる事がある。







そう。


その人が努力の人だって知っていた。


表には出さないけど、裏では信じられない位の集中力と、考えられない位の時間を割き


努力を重ねていることを、ずっと前から知っていた。






誰よりも多くの時間を一緒に過ごし、誰よりも近くでその人の事を見てきたから。


だから、誰よりも知っていた。


知っていたはずなのに、こうして今まで出さなかった、出してこなかった内面を


その人の口から少しずつ語られるのを見聞きし知るたびに


何とも言えない気持ちになる。










その時間になると一斉に届くお祝いの言葉。


「ニノ、すげえぇ~ぴったり~」

「ほんとピッタリだね」


そう言ってスマホ片手に無邪気に笑ってるけど、
その一瞬にどれだけ準備に余念がなかったかがわかる。
そして次々と届くその一秒と違わないそのメッセージに
どれだけの気合と、思いが込められているのかがわかる。


メンバー事務所の仲間先輩後輩スタッフ共演者。
これまでどれだけそういう人を見てきたことか。
そして一体、どれだけのたくさんの人の気持ちがこの一瞬に入り込まれていることか。
何も知らないその人はみんなの時も同じでしょ?って
無邪気な顔をして笑うけど、違う。


この人には自分がどれだけ思っているかを伝えたくなる。
どれだけ思っているかを知ってもらいたくなる。
だからこそ、その思いを一番伝えられるこの瞬間。


誰よりもその人の事を深く考えているという事を知ってもらうために
メッセージを送り続ける。












「あれ、翔くんもいつの間に?」

「ふふっ。それよりすげえ送られてきてんね?」

「んふふっでも翔くんの時も同じでしょ?」


そう言って無邪気な顔で笑ってるけど、
きっとあなたはみんなの熱意や真意を知らない。


「まあ、ね。それより日付変わったんだね、誕生日おめでと」

「この年になるとあんまりめでたくもないけどね」


だからこれだけたくさんの思いのこもったお祝いが送られてくる中
一緒にいるからと参戦しない訳にはいかないでしょ。


「ふふっそんな事言わずにケーキふってして」

「え~」


何も知らないその人は、のほほんとそんな事を言って笑ってるけど
裏では今か今かと壮絶な戦いが繰り広げられているというのに。


「ほらほらえ~なんて言ってないで」

「だってローソクの数が可愛くない」

「ローソクの数に可愛いとかかわいくないとかないでしょ、ほらほらオメデト」

「え~」


そう言えばマルは毎年誕生日になると
たくさんのプレゼントを智くんにあげていると言っていたっけ。


当の本人は面倒くさがって本気で嫌がっていたけど
きっとやめる事は決してしないだろうとその顔を見ながら思っていた。


これだけのたくさんの人が思っている中で
お返しにと選んでいるその時だけは自分の事を考えてくれるのだ。
たくさんの人に思われているその人に、その時だけはその人の想いを独り占めできるのだ。


そんな特別で大切な時間を嫌がられても面倒くさがられても
自ら手離すことなんてしないだろうなと思っていた。


そんな事を考えていたら智くんがおいでという風に両手を広げてくる。


「ケーキありがとね」

「うん」


だからその身体に収まるようにその身体に近づくと
背中に腕をまわしてきてぎゅっと包み込むように抱きしめられ
そして嬉しそうにそう言った。
その嬉しそうな口調にどうしようかと迷ったけど買っておいてよかったなと思う。











智くんが天才と言われたり才能がある言われたりすると微妙な表情になる事を知っていた。
凄い凄いと褒められてもいつも微妙な顔をしながら受け止めていることを知っていた。
普通だったら天狗になってもおかしくない状況なのに
いつもひとり努力を惜しまず重ねていたことを知っていた。


みんなこの人に惹きつけられていく。
共演した人はみな心底この人に惚れこんでいく。


決して言葉にはしないけど陰では努力を重ね完璧にこなし結果を見せてくれる。
だるいだの眠いだの口では言っていてもこちらが思っている以上の事を魅せてくれる。


それは才能があるからでも天才でもなく
いや、才能もあるし天才でもあるけどそれ以上に
その人の努力の積み重ねであるという事を知っているから
みんな好きになっていくのだろう。




いつもその考えに、その姿勢に圧倒されている。
ずっと近くで見てきて知っていたはずなのにこうして活字で改めて読んでみると
何とも言えない気持ちになって胸が苦しくなる。


たまらない気持ちになって胸がぎゅっと痛くなる。
その思いを知るたびに触れるたびに何とも言えない気持ちになる。


そんな事を思っていたらゆっくりと背中から手を離し
優しく微笑んできたかと思うとその手で頬を包み込んでくる。










やっぱりたまらない。


その顔も。
そしてその姿勢も。
その存在も。


そして誰よりもストイックなところも
完璧主義者なところも。
それでいてその穏やかな性格なところも。
全てを受け入れてくれる包容力も。


こんな人いない。


こんな人、他に出会ったことがない。


そう思いながら見つめると優しく頬を包み込んだまま優しいキスがおりてくる。






その唇の柔らかさを感じながら


きっとこの先これ以上好きになれる人はいない、と思う。


あなただけ。


もう、あなたしか見えない。


今も、昔も、これからも。


あなただけしかいない、と思う。






あなたの本質に触れるたびに胸が苦しくなる。


あなたの笑顔が見られるだけでいい。
あなたが、ただ幸せであればいいい。


そう思いながらも


あなたの深意を知るたびに、たまらない気持ちになる。
その華奢な身体でどれだけの努力を重ねてきたかと思うと、何とも言えない気持ちになる。






そんな事を思いながら


好きだ、と呟くと


すべてを優しく受け止めてくれるあなたは
背中に手を回し包み込むように優しく抱きしめてくれる。


誕生日おめでとう、と言うと


その柔らかな顔でありがとうと嬉しそうに笑って
チュッと触れるだけのキスをくれる。


生まれてきてくれてありがとう、と
そしてあなたがこれからもずっと幸せでありますようにと
そう願いながら、その華奢な身体をきつく抱きしめると
背中に回っていたその腕に力が込められる。


愛していると、そう掠れた声で囁くと


その美しい顔でにっこりと笑って唇に唇を重ねてきて
そして小さく口を開くと深いキスをしてくれる。


誕生日おめでとう。


あなたがずっと幸せでありますように。








山 短編12

2017-11-21 20:42:30 | 短編





そこは、過去と現在が交錯する街。




江戸時代に城下町として栄えたその場所は
神社や寺院、そして歴史的建造物と言われる建物が多くあり
週末にはたくさんの観光客が訪れる。


その場所に。


この高校では校外学習として毎年2年生になると
この場所を訪れ学ぶことになっていた。


生徒たちは自分たちでたてた事前学習と当日のスケジュールをもとに
それぞれグループに分かれ地図を片手に目的の場所へと散らばっていく。
それを俺たち教師は各地区に別れ見回る事になっていた。


ここは近年観光化が激しく平日でも観光客はそれなりにいて
自分の生徒たちを気遣いながら持ち場所である寺院やら街を
ぶらぶらしながら見回る。


そして道に迷った生徒がいると案内をしたり
全然関係のない観光客から道を聞かれては案内をしたりして
あっという間に時間は過ぎていく。


そうこうしているうちに昼ごはんの時間になっていた。
昼も生徒たちは自分たちで食べる場所を決め
それぞれを食事をとることになっている。
ここをグルっと一回り周ったら昼でもとろうと思いながら
歩いていると一人の生徒の姿が目に入った。


あれは 大野?


大野はそんなに目立つタイプではないけど
どこかクールで大人びていて人目を惹く。
そんな生徒だった。


その大野が一人建物の前で佇んでいた。


どうしたんだろうと思いながら近づいて行く。


そこは住宅街の片隅にひっそりと佇む一件の古い建物だった。
城下町として栄えたこの場所にもまた、裏の歴史というものが存在していて
そして大きな寺院のある裏の住宅地にひっそりと佇むその建物も
雰囲気で一目でそれとわかる外観を持つ建物だった。


そしてその街の都市景観重要建物に指定されたその建物は
当時の風情そのままの佇まいを残していた。



そこに大野は立って見つめていた。









「どうしたの?」

「……」


その横顔が綺麗だなと思いながら近づいて行って声をかけると
大野が少し驚いたような顔をして振り返る。


「道に迷っちゃった? みんなは?」

「ごはんを食べに…」

「大野は?」

「俺はもう一度ここに来たくて…それで…」

「ここに?」


その言葉にちょっと戸惑ったような表情を浮かべる。


「何だか見てると懐かしいような気がするのに、苦しくて。
気になって戻って来てみたんですけど、
でもそれが自分自身でも何だかわからないんです…」

「そう、か」


そして大野は戸惑いながらもポツリポツリと話しだす。
確かに異彩を放っているその建物はどこかノスタルジックで
そこで何があったかわからなくても何か思うところはあるのかも知れない。


そんな事を思いながら大野に歴史の背景や、ここがどういう場所であったかを
簡単に説明すると突然、大野の目から涙が一筋こぼれた。


ええぇ?


その思いがけない反応にうろたえていると当の本人は、
俺何で泣いてんだろ? と言いながら、慌てて手で涙をぬぐっている。








まさか。


「大野~」


遠くで大野を呼ぶ声がする。


「あ、みんなだ」

「ご飯終わって迎えにきてくれたみたいだな」


まさか、うちの生徒がこの場所で一人佇んでいるなんて思わなかった。
そしてその生徒にこに場所の説明をする事になるなんて思わなかった。
その事でまさかクールで大人っぽいと思っていた大野が
涙を流すなんて思わなかった。


確かに。


その時代やその裏にある背景の事を思えば何か思うところはあるだろう。
でもその反応にあまりにびっくりして
その一言を返すだけで精いっぱいだった。


「うんそうみたい。じゃあ先生またね」


そんなこちらの気持ちとは裏腹に
大野はそう無邪気に笑ってみんながいる方へと走って行ってしまった。
その姿を呆然と見つめる。











そして。


その日からなぜか大野はその時の話がよっぽど印象深かったのか
何か思う事があったのか
俺が社会科準備室で準備をしていると顔を出すようになった。
そして資料を見たり話を聞いてきたりする。


だから。


言ってしまった。


あまりにも真剣だったから、


言ってしまった。


「今度また一緒に行ってみる?」と。


その言葉に大野は少し驚いたような顔をしたけど、こくりと頷いた。


自分でも何でそんな事を言ってしまったのかわからない。
教師として一人の生徒だけになんてダメな事わかりきっている。
今までだって生徒と出かけた事なんてない。
ましてや二人きりでなんてあり得ないことだ。


ただ。


歴史に興味を持った生徒に応えたいだけだ。
勉強の一環で足りなかった分を補うための言わば補習みたいなものだ。
色々もっともらしい理由を並べてみたけど、
やっぱりそれは言い訳でしかない事は自分自身わかっていた。








その場所にたどり着くと
背景を知ったせいか
歴史を学んだせいなのか
神妙な顔でまだ数件残っていると言われているその建物を一緒に巡る。


「やっぱ、苦しい」


建物を眺める横顔がやっぱり綺麗だなと思いながら見てたら
俺の顔を見てそう言って苦笑いを浮かべる。


「そっか」

「でももっと歴史の事知りたくなった」


一人の生徒だけ特別扱いしているなんて重々承知の上だ。
問題がある事なんて十分わかっている。
もし知られたら大問題になるだろう。


「もっと見ていく?」

「大丈夫なの?」


でもそもしそうなったとしても後悔はしないだろうと
その顔を見ながら不思議とそう思う。


「その為の帽子と眼鏡です」

「そうだよね~やばいよね~」


そう言って大野はにこっと笑う。
その顔がやけに可愛いなと思うと同時に、当たり前だけど
やっぱり大野もやばい事だってわかっているんだなと思う。


「先生?」

「ん?」

「ごめんね、俺のせいでデートの約束潰しちゃって」

「そんなのねーよ」

「そうなの?」


大野はそう言って意外そうな表情を浮かべた。
実際今はデートする相手もデートの約束もないけど、
もしあったとしても、やばい事だってわかっていても
大野を優先していただろうとも思う。










授業中は一人で何だかやけにドキドキしていた。
大野の真っ直ぐに向けられる視線。
そんなつもりはなくただ授業を聞いているだけなんだろうが
その視線になぜか胸の鼓動が高まる。


そして大野はというと相変わらず準備室に来ては
真剣に資料を見ていたり話を聞いてきたりする。


「今度…」

「……?」

「他の場所も行ってみる?」


やっぱり、止められない。
自分でもわからない。
何で大野にはそんな事を言ってしまうのか。


今まで生徒に好意を持たれたことなんて山ほどある。
それでも学校外で会うなんてことしたことないし考えた事もない。
それなのに、なぜだか大野が相手だと調子が狂う。
他の人には決して言わない言葉を大野には投げかける。









「何でだろう? 俺、前世で何か関係あったのかな?」


切ないような顔で見ていたと思ったら
こちらを見てそう言っておどけたように笑う。
その姿が可愛いなと思うと同時に
その儚さと美しさは何だか大野だったらあり得なくもないかもと
そんなバカな事を考える。


「苦しい?」

「うん、苦しい。でも、何だかわからないけど気になる」

「そっか」


苦しいけど、気になる。
大野の言うその意味がよく分からないけど
その気持ちに寄り添いたいと思う。


「先生連れてきてくれてありがと」

「うん」


そして、知りたいと思った。








「先生?」

「ん?」


帰り道。


車を出そうとエンジンをかけようとするとそう言ったまま
何か言いたげに大野がじっと見つめてくる。


その瞳から目を離す事ができない。


そして。


そのまま、その小さな唇に吸い寄せられるように


軽く触れるだけのキスをした。


「ごめん」


けど、慌てて自分のしてしまった事に気付き謝る。






「何で謝るの?」

「何でって…」


大野は不思議そうな顔でそう聞いてくる。
その顔に、思わずとか、つい、とかそんな言葉はどれも違う気がして
何も言えなくなる。


「何か問題なの?」


そして真っ直ぐに見つめたままそう聞いてくる。


「俺は教師なのに…」

「そんなのとっくに知ってるけど」


そう言って大野はやっぱり何でもない顔をして笑う。
度胸が座っているというかなんというか。
してしまった自分の方が心臓がバクバクして
今にも破裂してしまいそうなのに。


「こんな事をしておきながら、心の中では体裁ばかりを気にしてる」

「それは先生だから仕方ないよ」


そんな事を思いながらも何を今さらと、
自分自身に苦笑いをしながらそう言うと
大野は当たり前のような顔をしてそう言って笑った。


その言葉に、完全に完敗だと思った。


なぜだか生徒と先生なのに、大野が相手だと調子が狂う。
自分自身考えられない言葉を発してしまう。
今までしたことがないような行動をしてしまう。










「お城とかは好き?」

「んふふっ好き。俺ね、実は前世は殿様だったんじゃないかなって思ってるんだよね~」

「と、殿様」

「そう」


何だか恥ずかしくなって話を変えようとそう言うと
さっきまで儚げな感じで裏の歴史と関係があったのかな
なんて言ってたのに、殿様とか言ってくる。


「何?」

「いや可愛いなって」


その思いがけない言葉におかしくなってつい笑っていると
可愛らしく頬を膨らませる。


「先生だからってバカにしてる」

「イヤそうじゃなくて、そういうところが可愛くて好きだなって」


クールで大人ぽいと思っていた大野が
こんなに可愛らしい人だったなんてね。


「好き?」

「ああ」


そう言うと何の躊躇いもなく嬉しそうに横からギュッと抱き着いてくる。


「俺ね、前から先生の事好きだったんだよ」

「え?」

「イケメンだし」

「はは」


その無邪気な行動に何もできずされるがままでいると
大野が抱きついたまま顔を見上げ、そう言った。


「だから話しかけてくれた時嬉しかった。
それに俺が変な事を言い出してもちゃんと聞いてくれたし、教えてもくれた」

「まあ、一応社会科の教師だしね」

「でも自分自身でも訳がわからない感情だったのに笑わないで真剣に聞いてくれでしょ。
だからもっと先生の事が好きになった」

「そう、か」


そう言って真っ直ぐな言葉を伝えてくる。


やっぱり完敗だと思った。


そしてじっと見つめてくるその眼差しに、目を離す事ができない。










「先生は? 先生は俺の事好き?」


そして何の躊躇いもなくそう聞いてくる。


「……うん」


その真っ直ぐな言葉に正直に答えてしまう。
先生と生徒なのに。
してはいけないことをしてしまう。
言ってはいけないことを言ってしまう。





「って、俺は教師失格だな」

「え?」

「先生なのに一人の生徒をこんなに特別扱いして」

「……」


そして、そう思いながらも。


可愛らしく抱きついてくる大野の頬を両手で包み込む。


「……そして こんな事までしてしまう」


そして。


そう言いながらも。


そのままゆっくりと顔を近づけていって


その唇に唇を重ねる。







「完全に教師失格だ」

「俺にとっては最高の先生だけど」


そしてゆっくりと唇が離れ自嘲気味にそう言うと
大野が俺の顔を見てニコッと笑う。


その大野の言葉に


その表情に


やっぱり完敗だと思う。







日本各地でそういう歴史があったことは当たり前だが知っていた。
でも今までそういう事実があったとしかとらえておらず
そこで生きてきた人たちの状況や思いまで深く考えた事はなかった。


その歴史の裏側には当たり前だけど様々な事情があって
そこでは自分の意思とは無関係に生きてきた人たちがいて
そこで生かざるを得なかった人たちがいて
その歴史が時を変え名を変え姿を変え現在に生き残っている。


そして。


それを見て大野の様に何かを感じる人がいる。


考えさせられる人がいる。


今の自分の様に。


だからこそ重要文化財として守られているのかも知れないが


今なら大野が苦しいと言った意味がわかる気がする。


苦しいけど気になると言った意味が分かる気がする。



そんな事を思いながら





あの日大野に出会った日の事を思い出していた。










多分。


あの場所で


あの建物の前で大野に出会った時から。


あの美しい横顔を見てから。


あの場所であったできごとの話をした時から。


そしてその時に流した大野の涙を見た時から。


自分にとって特別な存在だったのだと思う。







生徒だとわかっていても、


その気持ちを止めることはできなかった。


どうしようもなく惹かれて


そして教師としてしてはあるまじきことをし


言ってはならないことを言ってしまった。






そして、今もまた。






目の前にいるこの美しい人に


好きだ、とそう言って。


その身体を包み込むように抱きしめて。


そして。


そのままその可愛らしい顔を優しく上げ人差し指でその唇をなぞる。


そして、じっと見つめるその視線を感じながら


ゆっくりと唇に唇を重ねて、そしてそのまま深いキスをする。






そして唇が離れると何も知らないその人は


いや知っているのだろうが気づかないふりをしているその人は


先生大好き、とそう無邪気に言って嬉しそうに抱きついてくる。


だから、俺もだよとそう言ってその身体を強く抱きしめ返した。





画像集

2017-11-10 21:04:20 | 画像集




お話ではなく画像集です。
問題があれば消すかもしれませんが。
 

話のイメージがこんな感じというのが伝わればいいなと。



another world


東京から数時間。
車を走らせていると、だんだんと山が近づいてきて。




そして左側には大海原が見えてくる。




この街のどこかで二人は暮らしている。