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読書日記と日々の出来事

キッドナップ・ツアー 角田光代

2008-04-24 18:21:58 | 作者か行 郡ようこ/角田光代/北村薫
キッドナップ・ツアー (新潮文庫)
角田 光代
新潮社

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親はなくとも子は育つ

そんな言葉に近年は反論を言いたくなるご時世。
この言葉が生まれた頃は、人生50年で、
みんなが生きる為に地域で助け合い生活していたんだろうな~。

最近、特に都会は近所付き合いも希薄。
学制服で煙草を飲んでいても大人は見ぬ振り。
醤油の貸し借りも、もらい湯も、雷親父も今は昔。

しかし、この物語は現代の設定でありながら、
親はなくとも。。。の解釈を改めて考えさせられる内容だった。

女の子の一人称で語られる
小学5年生の夏休みの出来事。
なんの理由か不明だが、別居している「お父さん」が
「お母さん」にある要求の交渉の手段として、
主人公である我が娘を「ユウカイ」する。

「ユウカイ」されて二人の旅は始まるが、
同居していた時でも「お父さん」の仕事ですれ違いの生活。
お互い接し方がぎこちない。
始めは、旅行用の服や水着、お菓子を買い、
二流処の旅館や民宿を泊まり歩くが、
軍資金も乏しくなり、幽霊騒ぎで閉じた宿坊や
野宿に近いキャンプ。
果ては、蚊にさされまくりの公園のベンチで夜を過ごす

そんな逃亡生活の珍道中をいつしか親子は寄り添い、
心を通わせていく。そこには、父と娘の微妙でいてしっかりとした絆がみえてくる。

終盤は、なぜ「お父さん」は娘を誘拐し、「お母さん」と秘密の交渉をしているのか?
いつ明らかになるのか?と期待して、それも読者はハートウォーミングな結果を期待して
ずんずん読み進める。。。もう、後数ページしか残ってない。。。

「お父さん」と「お母さん」の交渉はついに成立し、
「ユウカイ」の旅は終わりになる。

この旅で逞しく変化した娘「ハル」は、
この旅を終わらせたくない。
「逃げよう」小さい頃から貯めているお年玉を使ってもいいから
逃げよう。。。
「もう逃げる必要はなくなったんだよ」
。。。。。
大人の都合で「ユウカイ」され、
非日常を体験し、「ハル」の知らなかった部分の父と母の話を聞き
「ハル」は子どもなりに、父との連帯感を感じているのに、
日常よりも、父との逃亡旅行を望んでいるのに
終わりを告げられ、大人の理不尽さに憤る。

「私はきっとろくでもない大人になる」
「自分たちの都合で勝手に連れ回して、お父さんのせいだからね」
おもいっきり痛烈に親を批判してだだをこねる。
と、ダメ親父は娘に諭すのだ。
「おれはろくでもない大人だ。だけどそれは誰のせいでもない。だからあんたが
ろくでもない大人になったとしても、それは自分自身のせいだ」
「これから先思い通りにならない事があるたんびに何かのせいにしてたら、
全部の事が思い通りにいかなくてもしょうがなくなるんだ」
その言葉を受け止めれたのは、二人で逃亡の旅をしたからこそである。

一番小さなコミュニティで、拠点である家族という集合体が、
この時代だからこそ、寄りかかるのではなく、
個々の人間としての自覚を持ち、一人で立たなければならない。
子どもであっても、一人の人間として尊重し、
尊重する事でアイデンティティを確立し、
また、両親の事も尊重出来る様になる。
離れていても、目が行き届いていなくても。。。






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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ち~)
2008-04-25 06:13:00
今回の自分のブログ内容のゲームと子供にも通じると
思うんですが、いろいろ便利になったはずなのに、
今は時間がなさすぎる。
なんでだろう?
洗濯も掃除も買い物も、昔より合理化されて便利になっているのに、
子供とココロを合わせる時間が足りない。。。
さて、、、角田さんの本には、実はあまり興味を持っていなかったけど、この本は読んでみたくなりました!(^^)
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Unknown (シロち)
2008-04-25 08:59:31
最近読む本といったら漫画か猫関係の本。
昔はよく読んだものでした(SFやファンタジィ)

田舎でも醤油や砂糖の貸し借りはなくなりました。車でさっと買いに行けば間に合いますし、私も貸し借りはすきではありません。わかいお嫁さんなら尚更でしょう。

最近の子供は外で遊びませんね、まぁ子供少ないですし。
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昔はね~・・ (meme)
2008-04-25 09:58:39
お母さんとの交渉の為に娘が連れて行かれた
のではなく、父親が娘と一緒に居たかったから
連れて歩き旅をしてたのでは。。
と違う視点から考えてみた。
最後には、父親ともっと旅をしたい。と
思うようになった娘。
旅の最初にはなかった父親との絆が
強く繋がったのかな。って思った。

本当、”昔 ”と言われる時代は今より
もっと住みやすかったし危険にさらされる
ような事も滅多になかったから日中玄関の
戸締りなんてしてなかったよ。
今そんな事してたら大変な事になり兼ねない。
怖い世の中になったものです・・。
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初コメです♪ (Boo)
2008-04-25 10:28:04
人はうまくいかない事が起こると何かのせいに
したくなるよね・・・
私のせいじゃない!!ってね。
親も謝るんだよね・・・
こんな親でごめん、苦労させてごめんって!
でも違うよね。
だから父親の言葉は感動したなぁ!
その通りだと思うもん!

『気づく事』ができると人間は成長するね!
私はまだまだだなぁ~


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ちょっと長いコメント (Doragon)
2008-04-25 11:05:33
3人の子供が成人した今。時々思い出す言葉がある。
それは、【子供を育てることは、指導することではなく、共に生きること。一緒に泣き、一緒に笑い、一緒に怒ること。そして、何があっても、お前らが困ったら絶対に助けてあげる。たとえ人を殺しても、私はお前らを受け入れる、というメッセージを常に発信すること。最も大切なことは、子供を管理したり操作してはいけないことを真に理解すること】
長男が生まれた時、私の尊敬する高校の恩師(神父)が言った言葉だ。
この言葉を実践できたという自信は全くない。ただ、子供が悪いことをしても罰を与えることはしなかった。子供が納得して反省するまで説いた。かなりの労力だったが、その労力だけは惜しまなかった。それが、子供を管理・操作しない術だと信じたから。
私の気持ちが、どこまで伝わったかは、皆目分からない。知りたいとも思わない。でも、成人した息子や娘と、再び旅に出てみたいと思う年齢に、なってきたようだ。
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的を得ている言葉 (モコ)
2008-04-25 12:05:13
「おれはろくでもない大人だ。だけどそれは誰のせいでもない。だからあんたが
ろくでもない大人になったとしても、それは自分自身のせいだ」

的を得ている言葉です。
分かっていても
人は弱い部分が絶対あるよね
それを上手に弱い部分を隠していける人と
上手くやれない人がいるよね
その上手くやれない(皆とは言わない)
誰かのせいにしないと壊れて行く人も実際いるって言う事
難しい人間って
感情がある分やっかいですね・・
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Unknown (かりんこ)
2008-04-25 16:19:06
最近、よく思いますが
昔に比べ、暮らしにくくなったよね……
残念な事件も多いしね……

この本、私も是非読んでみたいです!
早速、探してみますね♪
返信する
気に入った! (GLマウンテン)
2008-04-25 17:08:41
この物語是非読みたいです。
何かあれば必ずと言っていいほど
何かや誰かのせいにする人供達がいる。

子供の頃の環境や親の事せいであっても
そのせいでこうなったと言ったとして何も
変わりはしない。
だったらそんな事言ってる暇に頑張れよ~
なんて言いたくなったりもしますが....

私は子供の頃母子家庭で育ちましたが
親戚に預けられていた事を思えば母の
そばにいられるだけで幸せでした。

そして学校の先生や大人達は私や兄を
可哀想にと同情してる言葉をよく言って
いましたが私達は全然普通にハッピーでした。



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コメントありがとうございます (ぱんだねこ)
2008-04-25 18:32:12
ち~さん
今角田光代さんにはまってます。。。
きっと連続してブログに投稿すると思います。
A君のことですが、臨床心理士の手法で、
自分自身で考えさせ、答えを出していく、
その誘い水が相談を受ける心理士の役目。
A君も悪いことしてる自覚があるし、
A君自身苦しんでるんじゃないかな?

マー母さん(シロちさん)
以前住んでた広島の20世帯のマンションは
時代錯誤な住民が多く、卵を借りにこられたり、赤ちゃんを預けにきたり、夕飯やお昼をよばれたり、週刊誌やマンガが回覧されたり、よその洗濯物を雨が掛からない所に取り込んであげたり。。。良い事もあるけど、私としてはついていけない部分が多かったです。今は懐かしい思い出。

memeさん
そうでしょ。。。なにか、ハートウィミングな結果を期待するよね~
でも、ちょっと違うんだな~
最後の静かな盛り上がりは思いがけず心にズキン!と来ました。目から鱗な感じ。。。
疑問は疑問のまま終わるので、それがまた
尾を引く余韻となって角田ワールドにはまってしまうのです。。。

Booさん
初コメ♪ありがとう!
私も「お父さん」の言葉に感動して泣きそうになったんだよ~
だからBooさんのコメントを読んだとき
わー気が合う~って勝手に感動しました。

Doragonさん
結婚して、父になっても、尊敬する恩師の先生との関係を大事にされているDoragonさんってステキです。(軽い表現でごめんなさい)
私は、人との繋がりの大切さを最近になってようやく気づき始め、実践しようと心懸けています。
成人されたお子さんとの旅行楽しみですね。
是非実現してください。

モコさん
モコさんの言われる通り、
誰かのせいにしないと壊れる人いるんですね。。。
でも、誰かの(何かの)せいにしても苦しさからは逃れられないよ
そして出口のない堂々巡りになってしまう。。。
本人がそのことを気づいてくれるのが一番だと思うんですがね。。。

かりんこさん
角田光代さんの本は数ヶ月前に「対岸の彼女」を友人からお借りしたのがきっかけです。
この間BOOKOFFで100円コーナーの角田光代さんの文庫本を5冊まとめ買いしました。
100円で買うとき、作家さんに悪いな~と思いながら買いますが、しがない主婦としては節約が第一条件なので許してもらいます。。。

GLマウンテンさん
世間も、事件がおきると家庭環境のこと理由にしたがりますよね~。
この間の、光市母子殺人事件の被告も母の死がうんぬんと。。。
パーセントとか数字が出てたとしても、
人はパーセントでは括れない。
だから、環境云々も一概に語れない。
GLマウンテンさんが仰る様に、
周りの人がその人の環境をみて可哀想と決めつける事こそが、問題なのだと感じました。
いらぬ同情は人を傷つけます。
私もそういう世間の風潮に流されないように気を付けなければと改めて思いました。
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このお父さん (クレママ)
2008-04-25 20:44:54
身勝手な様だけど子供を私物化してない所が良いね。。ちゃんと一人の人間としてあつかったこそ。。最後の言葉が出るのだと思います。。
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