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淨泉亭閑日録

平戸淨泉の雑記帳です。不定期更新します。

P11 相対論的量子力学

2016-04-20 10:47:43 | 物理学メモ

 

図1 光電効果
金属に光を照射すると、電子が金属から叩き出される。この現象は、光が振動数に比例するエネルギーを持つ粒子であることを示す。ある振動数以上の光を当てると電子が飛び出し、同じ振動数の光を強く当てると飛び出す電子の数も増える。振動数の小さい光をどんなに強くしても、電子は飛び出さない。

このメモは、自然界にある4つの力を記述するのが第1目標。その結果、素粒子についても書いている。だが、これまで吹っ飛ばしてしまったことも多い。反粒子、スピン、量子数、保存量、できればアイソスピンなどをメモっておかないと、これからの話はわけが分からなくなりそうだ。そこで、反粒子とスピンの話に入りたいのだが、それには相対論的量子力学という難問が立ちはだかる。

(1) 量子力学

アインシュタインによる光電効果の発見(1905年、図1)によって、光がhν (h はプランク定数、ギリシャ文字の ν [ニュー]、以下ギリシャ文字はで表す。) を1単位とするエネルギーの粒(つまり量子)の集まりであるということが分かった。その後、ド・ブロイの物質波の提案や電子の波動性の発見によって、量子の概念が光だけでなく他の物質にも広く成り立つことが分かった。

量子力学の目的は、量子の波動関数(波の形状)を決定することである。例えば1次元だけで考えると、量子はまず粒子性があるはずなので、その運動エネルギーは p を粒子の運動量、m を質量として、
   E = (1/2) p2/m  + V(x)   ①
と表せる。V(x) は位置エネルギーや電場のエネルギーであり、総称してポテンシャルエネルギーという。
振動数 ν と波長 λ [ラムダ]の波動関数 Ψ[プサイ]は、
   ψ(x, t) = A cos [ 2π (x/λ - νt) ]     ②
と表せる。π[パイ]は円周率。

Erwin Schrödinger (1933).jpg
エルヴィン・シュレーディンガー
シュレーディンガー方程式
図2 シュレーディンガー方程式

量子1つのエネルギーは E = hν であり ド・ブロイの関係式 p = h/λ で、①と②が関連づけられる。①を満たす②を求めることが量子力学のほぼすべてであると言って構わない。結局それは、ある偏微分方程式をとくということに帰着した。シュレーディンガーが、この方程式を編み出したのは、1926年とされる。ポテンシャルエネルギーの項を無視すると、1次元のシュレーディンガー方程式は、図2のようになる。

この図にある h に横線を重ねた記号はエイチ・バー ħ (又はディラック定数)と呼ばれるが、プランク定数 h を 2π で割った値。この解である波動関数 Ψ の絶対値の2乗が、x 地点での粒子の存在確率である。1次元を3次元に拡張するとか、ポテンシャルエネルギーの形をいろいろ変えたりた境界条件に対して、いろいろなシュレーディンガー偏微分方程式ができ、それぞれ違った解(波動関数 Ψ )が求まる。やってみると式が複雑な上に、記号や添字も多くて間違いやすく、最後までたどり着くのは至難のワザである。

しかし、光速近くで飛び回る粒子のことなどは、この方程式では考慮されていない。加速器実験などに量子力学を当てはめることは無理であった。光速近い粒子では、特殊相対論を考慮した方程式が必要なのである。「波動関数はシュレーディンガーの方程式に従うが、これはニュートンの古典力学を量子力学的に翻訳したものだから、特殊相対論の枠の中には入っていない。すなわちシュレーディンガーの方程式は非相対論的な量子力学にとどまっているものである。[1]」 ここでいう相対論とは、アインシュタインの特殊相対性理論である。

(2) 特殊相対性理論

アルベルト・アインシュタイン

この理論の最初の柱は、「光速度不変の原理」である。光速は c = 3.00 x 108 m/s である。(実際には端数があり、真空中か空気中かでも値は異なるが、とりあえずその点は無視する。) 時速1000km/s (106 m/s)で走行できる車があったとして、ヘッドライトを点灯するとその光の速度は、道端に止まっている人から見ると3.01 x 108m/s (光の速度+ヘッドライト自体の移動速度)となる。 仮に車が光速で走れば、 道端に止まっている人から見ると 6.00 x 108ms というのがニュートン力学の常識であった。

しかし、どちらの場合も、光の速度は3.00 x 108ms ポッキリなのである。 つまり光速度は不変である。有名なマイケルソン・モーリーの実験は、(実験者の当初の意図を裏切って)このことを確かめる結果となったのであった。

このことはあまりに常識ハズレなので、簡単には納得できない。納得できずに「アインシュタインは大嘘つき」と結論づける人もいる(最近はすくないか?)。特殊相対性理論の解説本などには、分かりやすいはずの『思考実験』[2]などが載っているが、かなり注意深く読まないと誤解してしまう(書き手の先生もずいぶん気を使うだろうなー)。

特殊相対性理論にもとづき、慣性系が違っても(つまり車や新幹線どころか、亜光速ロケットに乗っていても道端に止まっていても)、光速度が不変なことを以下に説明してみよう。

特殊相対性理論によると、ある一定の相対速度で運動している2つの慣性系AとBがあるとする。A系からB系を見た場合でも、B系からA系を見た場合でも、相手の慣性系の時間の進みは遅く、距離は縮んで見える。A系から見るとB系の距離は極端に縮んでおり、時間の進みも極端に遅れている。B系での距離⊿x は A系から見ると ⊿x/γ に縮む。B系での時間間隔 ⊿t は A系から見ると ⊿t・γ に伸びる。このγ[ガンマ]はA系とB系との間の相対速度 v と光速 c によって、次のように表される【注1】。
     γ = 1/(1 - v2/c2)1/2  (γ>1)     ③

仮に A系からみてB系が v= 2.99 x 108m/s  で遠ざかりながら、さらにB系の前方に光を発したとする。それぞれの系での光の速度はどうなるであろうか?A系、B系それぞれの内部ではもちろん3.00 x 108m/s だが、A系から見たB系の光速度はそうではない。単位速度は(⊿x・γ)/(⊿t/γ) = (⊿x/⊿t)・γ2 だから γ の2乗倍になる。つまり単位速度(例えば 1 km/s)が大きくなるので、速度の値自体は小さくなるのだ。このために、光の速度もノロノロなのだ。A系からB系がある方向に移動し、B系では同じ方向に光を発したとする。このときA系から見たB系の光の速度は、[A系とB系の相対速度 2.99 x 108m/s] + [B系の光速度]となるが、この和がどうやっても 3.00 x 108m/s なのである。つまりA系から見たB系の光速度は 0.01 x 108m/s というノロノロなのである。A系とB系を取り替えても話は同じ。(この部分の説明に関しては必ず【注2】を参照のこと。)

光速度不変の原理とはこのことである。 ついでに言うと、いろいろな本に時間の進みが遅れることを「時計が遅れる」と表現しているが、これは単なる比喩ではない。B系を含めあらゆる慣性系内部では、物理法則は正常に働く(「特殊相対性原理」といい、特殊相対性理論の第2の柱)から時計も正しい。ところがA 系から見たらその時計は遅れているのである。

(3) 相対論的量子力学

クライン・ゴルドン方程式
図3 クライン・ゴルドン方程式
ディラック方程式
図4 ディラック方程式

シュレーディンガー方程式では、特殊相対性理論を考慮していない。「シュレーディンガー方程式では、時間については1階微分、空間座標については2階微分という形になっていて、これでは時間と空間がばらばらなのは最初から明らかだ。すぐにわかることだが、そもそもの原因は、出発点として使った関係式 E=(1/2)p2/m が相対論を考慮していないことにある。[3]

相対論を考慮するとエネルギーと運動量の関係は E=(1/2)p2m でなく、 
          E2=(pc)2 + (mc2)2     ④
となる。この式の説明は①の代わりに④を使って、波動関数を求める偏微分方程式をつくると、図3(クライン・ゴルドン方程式)になり、ここでは 時間も空間も2階微分になる。しかし、時間が2階微分になると、波動関数 Ψ の絶対値の2乗が粒子の存在確率であるということが成り立たないらしく、存在確率がマイナスになる。「ここに粒子が現れる確率がマイナス20パーセント、などというバカな話はありえない[3]

Dirac 4.jpg
ポール・ディラック

そこで、「天才ポール・ディラックのアクロバット[3]」が行われた。彼はE2=(pc)2 + (mc2)2 を無理やり、 
          E=(α1p1+α2p2+α3p3)c + βmc2     ⑤
と書き直してしまい、そして⑤を2乗すれば④になるように3つのアルファ α1α2α3、とベータβ を決めた。①の代わりに④を使って、波動関数を求める偏微分方程式をつくると、図4(ディラック方程式)になり、ここでは時間も空間も1階微分になる。絶対値の2乗で、粒子の存在確率を表すこもできた。ディラックがこの方程式を考案したのは、1928年のことである。シュレディンガー方程式から、たった2年あとである。

南部陽一郎は、このディラックの業績を次のように評価している。


「ディラックの方程式はシュレーディンガーの方程式にはなかった新しい性質をいろいろ含んでいる。・・・電子のスピンはディラックが初めて導き出したのではなく、それ以前に原子のスペクトルを説明するために仮定されていたものであるが、ディラック方程式から自動的に出てきたことは、相対論的量子力学の輝かしい勝利であった[1]

「スピン以外にもう1つディラック方程式のもたらした新しい結果は「反電子」または普通「陽電子」と呼ばれている粒子の存在である。[1]」陽電子は最初に見つかった反粒子であるが、この段階では理論の上での発見であった。


[1] 南部陽一郎 「クォーク 第2版」 1998年 講談社ブルーバックス p. 63-64
[2] 大栗博司 「重力とは何か」 幻冬舎新書 2012年 p.64-73
[3] 橋本省二  「質量はどのようにして生まれるのか」 2010年 講談社ブルーバックス p. 98-100

ヘンドリック・ローレンツ
[上]慣性系 Fは速度 vFx軸方向に動く F
[下]慣性系 F は速度 −vFx軸方向に動く(逆変換)

【注1】この γ[ガンマ] を「ローレンツ因子」という。β[ベータ] = v/c と書いて、γ = (1 - β)1/2 という表記もよく見かける。
ヘンドリック・ローレンツはマイケルソン・モーリーの実験結果(つまり光速度不変)に対応して、電磁気学のマックスウェル方程式がどの慣性系でも成り立つようにするために、それまでの「ガリレイ変換」に代わる「ローレンツ変換」という慣性系の座標変換規則を導出した。
この変換は4次元の静止系 F ( x, y, z, t ) とそれに対して x 軸方向へ速度 v で運動している系 F' ( x', y', z', t' ) の間の関係式を求める。t = 0 の瞬間、両者の原点は一致していたとする。 この同じ t = 0 の瞬間、F 系の原点から光が放たれたとするとこの光は全方向に飛び去って、t 秒後には原点から半径 ct だけ離れた球面上の点に分布するはずである。これを式で表せば、
     x2 + y2 + z2 = (ct)2     (1)
となる(球面の方程式)。
一方、 F' 系の原点にいる観測者にも光が光速c で同心円状に広がる。 
     x'2 + y'2 + z'2 = (ct')2      (2)
F 系から F' 系への変換を求めるというのは、(1) と (2) の条件のもとで、{x' , y', z', t'} = [A]{x, y, z, t} となるような行列[A]を求めることであり、ローレンツ変換はその答である。実際には A の要素はほとんど0なので、行列表現よりも数式で表現されることが多い。彼はこの過程で「ローレンツ収縮 ⊿x/γ」や「時間の遅れ」も発見していた。「収縮」はフィッツジェラルドも独自に仮説化していたので、「フィッツジェラルド・ローレンス収縮」ともいう。これらは1985年~1905 年のことであり、アインシュタインが1905 年に発表した特殊相対性理論は彼1人の功績ではない。(ローレンツは電磁気学の「ローレンツ力(電磁場中で運動する荷電粒子が 受ける力)」にも、その名前を残している。)

【注2】速度の合成に関するこの説明は、私のオリジナルであるが、実は間違っている。この論理では、A系から見たB系の速度は (dlγ)/(dt/γ) = (dl/dt)γ2である。dl/dt = c とすると 見かけ速度は cγ2、 合成速度 V = v + cγ2 = v + c - v2/c である。これは近いけれども c ではない。正しくない答である。特殊相対性理論にもとづく速度の合成側はとっくの昔に定式化されており、 V = (vA + vB)/(1 + vAvB/c2)。それを当てはめると、vA = v、vB= c として、V = (v + c)/(1 + vc/c2) =  (v + c) /(1 + v/c) = (v + c) / ((c + v) /c) = c (v + c)/(v + c) = c となり何の問題もない。もちろん、これが正しいのだ。しかし、私の解釈はどこが間違っているのか分からないので、現時点はこのまま載せておく。間違いの究明は後日の楽しみにする。

【注3】E2=(pc)2 + (mc2)2 という式の意味はなにか?
相対性理論では3次元の空間では、4次元の時空間で考える。いま w = ct として、各慣性系においては w2 - x2 - y2 - z2 は不変量(ローレンツ変換によって値の変わらない量)である。この値の微小変化を、τ[タウ] という文字を導入して、
     (dτ)2 = (dw)2 -(dx)2 - (dy)2 - (dz)2      [A]
と書けば、dτ は微小時間 dt の間に微小距離 dx, dy, dz だけ移動した場合の、4次元空間内での移動距離を表している。この慣性系を dx' = dy' = dz' = 0 という慣性系にローレンツ変換した (つまり3次元空間では静止している)ときでも、(dτ)2 = (dw')2 (不変量)は残る 。このことから dτ は、まさしく3次元的運動とは無関係不変量であり、その慣性系の「固有時」と呼ばれる。
[A] の式を4次元時空間の速度(4元速度)が項に明示できるように書き換えてみる。
     1 = (dw/dτ)2 - (dx/dτ)2 - (dy/dτ)2 - (dz/dτ)2      [B]
これは (dτ)2 で[A]式を割っただけである。[B] 式右辺の各項は 各速度成分の2乗らしく見える。ところがそれは dτ という(dt によく似た)記号と固有時という言葉に騙されているのであって、[A]式を見れば dτ は距離であり各項は無単位の2乗。本当に速度の2乗にするには、[A] の両辺に光速の自乗 c2 を掛ければよい。

E = mc2 の立体アート(ベルリン)

     c2 = (cdw/dτ)2 - (cdx/dτ)2 - (cdy/dτ)2 - (cdz/dτ)2     [C]
今度は、[A]式を (cdt)2 で割ると、
    (dτ/cdt)2 = 1 - 1/c2((dx/dt)2- (dy/dt)2 - (dz/dt)2) = 1 - v2/c2 = 1/(γ2)
となるので、cdt/dτ = γ (ローレンツ因子)である。したがって、
     cdw/dτ = c(cdt/dτ) = cγ
     cdx/dτ = (cdx/cdt)(cdt/dτ) = (dx/dt)γ = vxγ
     cdy/dτ = vyγ
     cdz/dτ = vzγ
以上が4元速度の各成分である。[C] を書き直すと、
     c2 = (cγ)2 - (vxγ)2 - (vyγ)2 - (vzγ)2     [D]
右辺の各項は4元速度の成分の2乗である。[D]の両辺に m2 (m は質量)を掛けると、
     (mc)2 = (mcy)2 - ((mvxγ)2 + (mvyγ)2 + (mvzγ)2)     [E]
右辺の各項は運動量の2乗になる。
     (mc)2 = (pw)2 - (px2 + py2 + pz2) = (pw)2 + p2    [E']
pw を求めると、pw =((mc)2 + p2)1/2 = mc (1+ p2/(mc)2)1/2 = mc + (1/2)p2/mc + …  (マクローリン展開式)
     cpw ≈ mc2 +(1/2)p2/m
第2項目は、本文①式の第1項の運動エネルギーと同じ形になることを見て、アインシュタインはこの cpw は全エネルギー E を表すと解釈したらしい。
     E ≈ mc2 + (1/2)p2/m     [F]
は運動エネルギーを無視すれば有名な E = mc2 (静止エネルギー)の公式となる。特殊相対性理論の最後の柱である。
[F] 式は近似式なので、
     E2=(pc)2 + (mc2)2
が特殊相対性理論でのエネルギーと運動量の関係式を正確に表す(本文ではベクトル表現を省いた)。[E] と[E'] を比較すると、
     p = mvγ
これを使って変形し、
     E = γmc2 = mc2(1 - v2/c2)1/2
という式もよく見かける。 


P10 量子色力学

2016-01-04 18:24:12 | 物理学メモ
Quark structure neutron
図2 中性子
u青d赤d緑
Quark structure proton
図1 陽子
u青u赤d緑

光子を交換する電磁気力の源は「電荷」であるが、グルーオンを交換する強い力の源は「色荷」(カラーチャージ)と言われている。
1965年に色荷のもとになるモデルを発案したのは南部洋一郎博士らであり、その後いろいろな研究者によって発展した理論を「量子色力学」(りょうしいろりきがく)という。(ただし、2008年の南部博士のノーベル賞受賞は、この理論によるものではない。)

陽子、中性子などを構成するには、そのための3つのクオークは、互いに異なるある属性を必要とする。その属性を色(赤、緑、青)と呼んだ。つまり、陽子や中性子には赤、青、緑の3つのクォークが入っている。図1と2はu青u赤d緑の陽子とu青d赤d緑の中性子の図である。

粒子として絵に描くと、3つのクォーク各々は球体に見え、近接していても互いに別々に見える。しかし、実際はこれらは粒子でなく波として重なり合い、しかも量子力学的には粒子の存在確率の波という、人間の想像力にとっては厄介な存在である。平たく言うと、陽子、中性子それぞれの内部は拡がりのない「1つの場所」としてと考えてよい。

なぜクォークの色を考える必要があったのかというと、「パウリの排他律」に違反しないためである。パウリの排他律とは、1925年にヴォルフガング・パウリが提出した「物質を構成する粒子は、同じ種類が1つの場所に同時には存在しえない」という原理である。

Pauli
図3 ヴォルフガング・パウリ
1900~1958年
図4 原子核と電子

よく挙げられる例は原子内の電子である。原子内の電子というと図4のような絵が頭に浮かぶが、K殻上にはs という1本だけの軌道、L殻上にはs、px、py、pz という4本の軌道がある。図では省略したM殻以降はさらに軌道の数が増えていく。パウリの排他律によれば、同じ1つの軌道上には2個の電子しか存在し得ない。この場合は、1つの軌道が「1つの場所」である。なぜ1個ではなく2個か?この2個の電子はスピン(自転)と呼ばれる属性が異なる。つまり、同じ電子でも種類が異なるので1つの場所に存在できるのだ。

電子のようにパウリの排他律に従う粒子は、フェルミ粒子とも呼ばれる。人間の体は1つの場所に同時に2つ以上は存在できない。これは分かりやすい話だが、電子の話から人間の体までスケールアップさせるには、クォークもまたパウリの排他律に従うフェルミ粒子であるはずだ。人間の体は、電子とクォークから成り立つからである。

「パウリの排他律」というのは、パウリという名前が昔の聖人パウロに似ており、戒律の律という字をつかうので、すごく権威がありそうだ。パウリは学者として当時は高名だったが、面白い逸話もある。

世の中の物質を構成する陽子(uud:upクォーク2個とdownクォーク1個)、中性子(udd:upクォーク1個とdownクォーク2個)などでは、同じ種類のクォークが同じ場所で同時に重なり合って1つのハドロンを構成している。このままでは、排他律違反と考えられた。

Quark structure pion
図5 メソン(パイ中間子)
u青d反青

その解決策として、新しい属性を導入して、クォークの種類を区別することが必要になった。かくして異なる色(赤、青、緑)のクォークが登場したのである。例えば陽子はシンプルな uud ではなく、u赤u青d緑、u青u緑d赤、u緑u赤d青と3種類あるのだ。色という属性があれば、ハドロンを構成するのはすべて種類が違うクォークであるから排他律に違反しない。別に色でなくとも3種類を区別する呼び名であればよいのだが、赤、青、緑ということにすると都合がよい。光の3原色に対応しているため、3種のクォークで構成する陽子や中性子などのバリオンはこの3種類がそろって白(無色)になる。またそれぞれの補色であるシアン(反赤)、イエロー(反青)、マゼンタ(反緑)をつかって反クォークの色とすれば、メソンもやはり白と表現できる。赤クォークは反クォーク(反赤クオーク)と合体して、白いメソンになるというわけだ。クォークに色荷があっても、ハドロンやメソンには色荷がないことが自然に表現できている。

クオークにだけでなくグルーオンにも色荷がある。ハドロンの中ではクォークは、お互いにグルーオンを放出・吸収することで強い力で結合している。クォーク同士は、グルーオンを放出・吸収することで、結合するだけでなくお互いの色を変える。グルーオンの放出・吸収はのべつ幕なしであるから、クォークものべつ幕なしに色を変えている。なんとも賑やかなことだ。

グルーオンの色荷はいったい何色なのか?グルーオンの色は3原色とその補色の組み合せであって、(赤,反青)、(赤,反緑)、(青,反赤)、(青,反緑)、(緑,反赤)、(緑,反青)、(赤,反赤)、(青,反青)、(緑,反緑) の9種である。9つの組み合わせをカッコで括っているのは、1つのグルーオンが2つの色を持っているからだ。このうち最後の3つは、実はそのうち任意の2つでもう1つを表せる関係にあるので、グルーオンの色は正確には8種類[1]とされる。

グルーオンの色とそれを放出・吸収する2つのクォークの色とで、クォークの色の変化の仕方が決まってくる。これについては、南部博士の著書『クォーク 第2版』に分かりやすい説明がある。「いまクオークがグルーオンを1個放出する過程を考える。その結果、赤(R)のクォークが青(B)に変わったとすれば、グルーオンはクォークから赤を奪い、青を与えた、あるいは赤(R)と反青(B)の複合色をもっているわけである[2] この RB とは (赤,反青)のことである。この(赤,反青)グルーオンが青いクォークに吸収されると、そのクォークは赤い色に変わる。ちなみに(赤,反赤)、(青,反青)、(緑,反緑)などのグルーオンを放出しても、クォークの色は変わらない。

クォークとグルーオンの色
図6 クォーク第2版 p.203

「グルーオン自身が色を持っているから、グルーオンがまたグルーオンを放出する過程が存在する[2]この様子は同書P203の16.1図(図6)に表わされている。「電磁場の場合の単位電荷eに相当して、クォークのもつ色の強さは1つの単位gで表わされる。これは色の種類によらない量である。2つの電子の間に光子が交換されて生ずる電磁力がe2に比例するように、2つのクォークの間にグルーオン1個が交換されればg2に比例する力が生ずるであろう。しかしグルーオンの種類によってクォークは色を変えたり、交換したり、いろいろな可能性が生ずる。その上グルーオンがまたグルーオンを生んだり、1個以上のグルーオンを交換したりする可能性を考慮すれば、g4、g6、・・・に比例する力も出てくる[2]」 量子色力学は、なんとも華やかである。

[1] 『グルーオンが8種類の理由 - Yahoo!知恵袋』 閲覧 2016/01/08
[2] 『クォーク 第2版』 南部陽一郎著 講談社ブルーバックス 1998年 P203

南部陽一郎
図7 南部陽一郎博士

追記:南部陽一郎博士は咋2015年の夏になくなった。このブログにブルーバックスレベルの参考書を読みながら物理学メモを書きはじめたころに、初めてその業績の偉大なことを知った。ノーベル物理学賞の受賞者は日本にも結構な数がいるようになった。南部さんは知名度では湯川秀樹に及ばないが、業績はピカイチというのが、私の勝手な思い込みである。彼の名著とされる『クォーク 第2版』(講談社ブルーバックス)をなんとか最後まで読み通したいというのが、私のこの間の目標であった。飾り気のない率直な文体で、図表なども過不足がないようで、人柄が偲ばれる本だ。しかし全24章のうち、今のところ7章でわけが分からなくなる。私の生命のあるうちには達成できない可能性が高そうだ。


P09 クォークと「強い力」

2015-03-30 19:14:38 | 物理学メモ

1950年から1960年ごろになると、べバトロンなどの加速器が大活躍し、素粒子とみなしていいのか悪いのかわからないが、ともかく新しい粒子が次々と見つかった。これら新旧の粒子をその性質によってグループに分類すると同時に、素粒子とそうでない粒子を区別し、さらに素粒子はいったい何個あるのかを突き止めるための努力がはじまった。

坂田昌一
1911-1970

ここでは、新旧の粒子の分類とともに、半世紀前には素粒子候補であった電子陽子中性子中間子光子は結局どうなったのかを中心にまとめておく。

(1) レプトン

電子は「レプトン」というグループにに分類され、素粒子とみなされた。レプトンには、相互を結びつける力(今日では「強い力」と呼ばれる)が働かない、そのためにもともと単独で存在する。つまり、レプトンはすべて素粒子()である。電子の存在は19世紀から分かっていた。その後、(湯川博士が予言した中間子と間違えられた)ミュー粒子が同様の性質を持つことが発見され、レプトンと総称された。現在では、ニュートリノ、タウ粒子、その他がレプトンに分類されている。

(2) ハドロン

陽子、中性子、中間子は「強い力」が働く粒子であるとしてハドロンというグループに分類された。ハドロンに分類できる粒子には、多くの種類がある。

このハドロンの正体を突き止めることが必要となった。日本の坂田昌一博士もこの方面ではかなり活躍したが、結局は1964年に発表されたマレー・ゲルマンの分類が一番説得力があった。坂田博士は陽子、中性子、ラムダ粒子の3つが素粒子であり、他のハドロンはそれから構成されるとしたが、ゲルマンは未知の素粒子を導入したのである。

 
ハドロン分類の八道説
マレー・ゲルマン
1929-現在

ゲルマンは、仏教の八正道に引っかけて「八道説(Eightfold Path)」と名付けたハドロンの分類法を考案し、ハドロンが、実はもっと単純な素粒子から成り立っていると仮定すると、自身の八道説と辻褄が合うと考えたのである。この素粒子にクォークという名前をつけたのはゲルマンである。当初はゲルマン自身も、クォークは八道説から要請される仮説でしかないと考えていた。しかし、ライバル学者のファインマンが陽子や中性子に内部構造があることを発見し、クォークの存在は確実視されるようになった。

実際はu(アップ)とd(ダウン)という2つのクォークがあり、陽子はuud、中性子はuddというように3個の素粒子から成り立っているのである。陽子の電荷は+1、中性子の電荷は0なので、u の電荷は(2/3)e、d の電荷は(-1/3)eというように分数になる。
中間子の電荷は、+1 又は-1とされているが、2個のクォークから構成される。これは、実はクォークとその反粒子である反クォークが結びついたものだ。反粒子というのは、とりあえずは電荷だけが正負反対の粒子ということにする。ud【(2/3)e-(-1/3)e = 1e】又はud【(-2/3)e/3+(-1/3)e = -1e】となって電荷がピッタリ合う。

クォーク(quark)とは、電荷が分数になる奇っ怪な(quirk)粒子なのである。(“クォーク【quark】”はquirkのもじりであり、同時にゲルマンの好きな小説に出てくる架空の鳥の鳴き声でもある。)

いずれにせよ、ハドロンはクォークから成り立つ。陽子、中性子など3つのクォークからできているハドロンをバリオン、中間子など2つのクォークからできているハドロンをメソンと呼ぶこともある。結局、陽子、中性子、中間子は素粒子ではなく、その中のクォークが素粒子であった。

現在では、アップとダウン以外の(自然界には存在しない)クォークも、加速器実験で発見されている。

(3) 「強い力」の不思議

レプトンは「強い力」が働かないので単体で存在する素粒子である。ハドロンは複数のクォークが「強い力」で結合したものであり、素粒子ではない。クォークこそが素粒子だ。

グルーオン
 
中間子とグルーオン
グルーオン
 
陽子とグルーオン

クォークがまたしても奇っ怪(quirk)なのは、それがどうしても単体では取り出せないことである。ハドロンの中にあるときのクォークは単体で自由に動き回っているので、確かに素粒子ではある。しかし、これをハドロンの中から取り出しで単体で存在させることはできないのである。だから、1/3や2/3の電荷は、世の中に存在しない。

 
クォークは単体としては取り出せない

ハドロン中のクォークを結びつける「強い力」は、クォーク同士が近く(つまり、ハドロンの内側)にいる場合はクォークを束縛しないが、クォーク同士の距離が増す(つまりハドロンの外側にクオークが出ようとすると)どんどん強くなるという奇っ怪な(quirk)性質をもつ。これを漸近的自由性という。例えば、高エネルギーをもつ電子を中間子にぶつければ内部のクォークを叩き出すことができるが、叩き出されたクォークは真空中のクォークや反クォークを瞬時に拾い上げて、新たなハドロンを作ってしまうのである。

仮想粒子として「強い力」を伝達している粒子を、グルーオンという。グルーオンはゴムひもや糊に喩えられる。日本語では膠着子(こうちゃくし)とか糊粒子ともいうらしい。あまり使われていない言葉だが、感じが出ている。

(1)(2)の記述で、レプトンとハドロンへの分類の基準が「強い力」がはたらくかどうかにあると説明したが、「強い力」の解明なくして「強い力」を手掛かりとした分類が先行できたとは考えにくい。実際には加速器実験で、それなりに壊れる粒子(ハドロン)と壊れない粒子(レプトン)とに大きく分類され、これと同時進行で「強い力」が発見されて行ったと思われる。

(4) ゲージ粒子

光子はそのまま素粒子と認められたが、仮想粒子として電磁気力を伝える。このように仮想粒子として力を伝えるという側面に着目した場合、このような粒子はゲージ粒子といわれる。グルーオンはもちろんゲージ粒子であり、ゲージ粒子は素粒子である。

湯川秀樹の中間子理論にしたがって、核子(陽子や中性子)を結びつける核力を伝える(あたかもゲージ粒子のような)粒子である中間子が発見された。これはいったいどうなっているのか? 中間子は確かにハドロンとして存在する。中間子を交換することによる力とは、実はクォークと反クォーク、グルーオンが複雑にやり取りされることによって生じている。したがって中間子はゲージ粒子でも素粒子でもない

ここでは最後に、私が使っている高校の学習参考書に載っている素粒子の分類をあげておく。

クォーク レプトン ゲージ粒子
2e/3
u(アップ)
-e/3
d(ダウン)
e-
電子
νe
電子ニュートリノ
g
グルーオン
2e/3
c(チャーム)
-e/3
s(ストレンジ)
μ-
ミュー粒子
νμ
ミューニュートリノ
γ
光子
2e/3
t(トップ)
-e/3
b(ボトム)
τ-
タウ粒子
ντ
タウニュートリノ
 W+   W-   Z0
ウィークボゾン

P08 素粒子

2014-11-16 15:04:14 | 物理学メモ

素粒子 (そりゅうし、elementary particle) または基本粒子 (きほんりゅうし、fundamental particle) とは、自然界の他のすべての粒子を構成し、それ自身はそれ以上分割できない粒子である。

ラザフォード 1905年 マギル大学

1911年、ラザフォードは弟子のガイガーとマースデンを指導して、アルファ[α]線の散乱実験を行い原子核を発見した(これは、一般にはラザフォード散乱と呼ばれる)。各元素の原子核と電子が素粒子ということになる。

さらに、1919年、同じラザフォードは原子核にアルファ線をぶつけて破壊することにより、原子核自体が素粒子ではないことを発見した。その反応は、
     14N + α → 17O + [陽子]
であったが、陽子は当時は知られておらず、彼はこれを水素の原子核とみなした。つまり、窒素原子核の中には水素原子核、さらには他の原子核があるということになる。水素はもっとも軽い元素であって、原子核も最も軽い。そこでラザフォードは水素原子核があらゆる原子核の構成要素になっており、新しい素粒子であると結論した、彼はこれを「陽子」と名づけた。 素粒子ということでは、これで電子と陽子の2つが確認されたことになるのだが、さらに彼は、「中性子」の存在も予言している。中性子は、チャドウィックが1932年に発見した。電子、陽子、中性子、それに加えて光子の4つが素粒子であるということになった。

湯川理論がシンプルに成立し、電子、陽子、中性子に加えて中間子が5番目の素粒子であるとなれば話は簡単だった。しかし、そうは問屋が卸さない。ミュー粒子が一足先に見つかっているし、引き続いてV(ブイ)粒子、ニュートリノ(中性微子)が見つかった。しかも、それらが相互にからみあう事態になった。

パイ中間子は、高エネルギーの宇宙線が大気に入射した際、大気中の原子核と相互作用して生成される。このパイ中間子の寿命(0.3マイクロ秒)が尽きるとミュー粒子に変化しているのであった。さらにミュー粒子(寿命2マイクロ秒)はニュートリノを放出して電子に変わる。したがって、寿命が長いミュー粒子が、寿命の短いパイ中間子より先に、しかも地上で発見されたのである。ニュートリノ(中性微子)は、このほかにも原子核がベータ崩壊を起こすときに出てくる。V粒子は電気的に中性な粒子が、プラスとマイナスの電荷を持つ2つのパイ中間子に壊れるときに検出器にV字型の軌跡を残しているらしいが、それ以外にもいろいろ奇妙な振る舞いを示していた。

アメリカのカリフォルニア州バークレイの加速器べバトロンは1950~60年代にたくさんの新粒子の発見に貢献した。

第2次大戦が終わって、アメリカやヨーロッパ、さらに日本でも加速器が開発されて、粒子と粒子をぶつけて壊してみる試みが盛んになった。加速器ののエネルギーが上がるにつれ新しい素粒子候補がどんどん出現した。変化してなくなってしまうようなものが素粒子であるはずがないが、それではそれに含まれる本当の素粒子は何だという話になる。次々と見つかる素粒子もどきの粒子の数は圧倒的であった。

「少なくとも過去の経験によれば、新しい加速器が新しい粒子の発見をもたらさなかったためしはない。物質を構成する基本的な少数のエレメントがあるだろうと予想して出発したのに、自然はわれわれを出し抜いて次から次へと新しい粒子を持ち出してくる。もちろんたまには眼の鋭い理論家が自然現象の中の小さなカギを見抜いて、かくかくの粒子が存在すべきであると予言することがある。そのよい例は湯川博士の中間子やグラショウその他数人の貢献に基づくチャーム粒子(クォークの一種)などをあげることができよう。しかし自然はいつでもはじめの予言以上に豊富かつ複雑であることが判明するといっても言い過ぎではない。湯川博士は中間子は一種類だと思い込んでいたのに、現在では中間子は無数にある。クォークの種類はチャームでおしまいだという理論的予言を裏切って、b(ボトム)クォークが出現した。こういう事情があるからこそ、素粒子物理はいつまでも新鮮で、われわれを刺激するのである[1]

上の文章のように達観できるのはずっと後になってからであり、当時は理論物理学は文字どおりの混乱に見舞われた。

[1] 南部陽一郎『クォーク 第2版』 講談社ブルーバックス 1998年。ちなみに、この本での南部博士は、クォークを「未だに仮想の域を完全には脱していない」と記している。


P07 湯川秀樹の中間子

2014-11-11 21:49:40 | 物理学メモ

電磁気力が電磁場によって伝わり、その電磁場は仮想光子の交換であるということから、同じ図式で他の遠隔力も説明できないかという発想が生まれた。他の遠隔力とは、すぐ思いつくのは重力だが、この力はあまりに弱いので素粒子論での実験研究に向かない。いまでも重力子(グラヴィトン)という粒子が重力の原因であるとされているが、まったく観測されていない。

 
現在の知見による原始モデル

それ以外の遠隔力として知られるようになったのは、原子核の中の「核力」である。

原子は、プラス電荷の原子核とマイナス電荷の電子が、まさしく電磁力によって引きつけあい、地球が太陽のまわりを回るように、原子核のまわりを電子が回っている。このような原子模型は、長岡半太郎ラザフォードが原型をつくり、ニールス・ボーアによって当時としては一応の完成を見た。左図(上)がボーアの原子模型であり、原子核()のまわりを内側と外側の2つの軌道を持つ電子()が回っている。外側の軌道を回っている電子は、1個の光子(~→)を放出してエネルギーを失うと内側の軌道に移る。逆に内側の軌道を回っている電子は、1個の光子を吸収してエネルギーを得ると外側の軌道に移る。

左図(下)は、現在の知見によるモデルである。電子は量子であり、電子「雲(存在確率)」が原子核を取り巻いている。原子の中の陽子と中性子も量子なので「雲」として書かれている。

この図では、原子や原子核の大きさのオーダーも書き込んでいる。fm というのはフェムトメートルという最近使われている単位で、10-15mを表す。原子核の大きさのオーダーに相当する。ちなみに fm はエンリコ・フェルミにちなんでフェルミと呼ばれたこともあったし、10-15m をユカワと呼ぶ案もあったが現在はどちらもボツとのこと。またÅ(オングストローム)は私の学生時代にも使った単位で、10-10mを表す。これは原子の大きさのオーダーに相当する。

この原子核は陽子(プラス電荷)と中性子(電気的に中性)が合体してできている。しかし、どうやって合体できるのか?プラス電荷同士の陽子は、反発して原子核が壊れてしまうはずである。

陽子と中性子は、「核子」と総称されるが、これらが合体して原子核になるからには、電磁気力(斥力)よりも強い力(引力)が働くはずである。これを「核力」という。原子核の内部には、陽子や中性子に引力を提供する、いわば「核力場」がある。

 
湯川秀樹
1907–1981年

湯川秀樹は、この核力にもそれを媒介する仮想粒子があると考えた。電磁気力の場合、仮想光子には質量がないので力は無限の彼方まで伝わる。しかし、仮想粒子に質量があるとそれが届く距離は限られてくるはずである。核力は原子核内でしか伝わらないということは、この仮想粒子にはそれに見合った質量があることになる。 湯川秀樹は1934年に、その質量は電子の200倍程度、陽子の1/10程度と計算した(ハテナ?どうやって計算するのだろう)。この計算が正しいとすると、この先は私でも計算できる。ネットで調べると、電子の質量は 9.1 x 10-31kg、陽子の質量は 1.7 x 10-27kg だから、この仮想粒子の質量は 1.7~1.8 x 10-28kg 程度となる。

電子と陽子の中間の質量なので「中間子」と呼ぶことになった。当時の実験技術では原子核からは取り出せないにしても、宇宙線の中にこの仮想粒子の「実」粒子が発見されるはずと、湯川や他の物理学者たちは期待した。

1937年、宇宙線から質量が電子と陽子の中間の粒子が見つかったが、その挙動から原子核内部の仮想粒子とはなりえないと判明。(これは、ミュー[μ]中間子と命名された。今日ではミュー粒子と呼ばれている。)これで湯川理論は破産かと思われたが、坂田昌一はもう1つ別の中間子があっていいと唱え、湯川理論を擁護した。戦後の1947年、イギリスのパウエルが気球に乗せた検出器によって、湯川理論を満足する中間子を発見した。これはパイ[π]中間子と呼ばれる。湯川秀樹は1949年、パウエルは1950年にノーベル物理学賞を受賞した。

Wikipediaで調べてみるとのパイ中間子の質量は135 MeV/c2で、ミュー粒子の質量は106 MeV/c2である。
 ① 1[eV] = 1.60217733×10-19 [J] 
 ② 1[J] = 1[N・m] = 1[kg・m²/s²] 
 ③  c = 299792458 [m/s]
 以上3式を使うと、
 ④  1[MeV/c²] = 1.60217733×10-13 [kg・m²/s²]/(299792458 [m/s])² = 1.782662696×10-30[kg]
つまり、実際のパイ中間子の質量は135Mev/c² = 2.40 x 10-28kg、 ミュー粒子の質量は105.6 Mev/c² = 1.89 x 10-28kg である。

かくて、核力場では仮想パイ中間子のキャッチボールにより核力(引力)が働くということで、一件落着したかのように見えた。私も、学生時代はそう教わった。なんでキャッチボールで引力が伝わるんだ!とは思っていたけれど、最近ネットで見かけた説明では、「中性子が飛び出そうとすると,中間子がそれを邪魔するといったらいいかな。正しい表現ではないが,あえてわかりやすく言えば,ヒモようなものと考えればいいよ。中間子という名前のヒモが中性子に巻きついて,中性子同士をお互いに結びつけるということですね。」キャッチボールでなくヒモはよさそうな例えだが、ハテナ?どうして中性子だけで陽子はでてこないのか?


P06 物質波と仮想粒子

2014-10-06 19:48:01 | 物理学メモ
Broglie Big
ルイ・ド・ブロイ

光子(電磁波)は、波であると同時に粒子であることはアインシュタインの光電効果理論で明確になった。
 
しかし、フランスの名門貴族ブロイ家の息子であったルイ・ド・ブロイは、若干32才のときのソルボンヌ大学の博士論文において、さらに驚くべき主張を展開した。以下、青字はWikipedia日本語版を引用。

彼は博士論文において、後にド・ブロイ波(物質波)と呼ばれることになる仮説を提起している。(中略)すでにアルベルト・アインシュタインは1906年の論文において、光電効果について電磁波を粒子として解釈することで説明していた。また博士論文提出前年の1923年にはアーサー・コンプトンが電子によるX線の散乱においてコンプトン効果を発見し、光量子説は有力な証拠を得た。ド・ブロイはこれらに影響を受け、逆に粒子もまた波動のように振舞えるのではないかと自身の博士論文で提案したのである。

すなわち、この仮説は光子だけではなく全ての物質が波動性を持つとするもので波長λと運動量pが次の式で関係付けられた。

    λ = h / p   (hはプランクの定数 6.63 x 10-34 J・s)

これは、ド・ブロイの方程式と呼ばれる。光子の運動量pを p = E/c = hν/c、光子の波長λを λ= c/f とした、アインシュタインの式の一般化である
    λ = c / f = c /( c・p / h) = h / p     (f は振動数)

ヘリウム原子核
ヘリウム原子
テニスボールの波長の計算
波長の計算

しかし、大学にこの論文を提出した際、教授陣はその内容を完全に理解できなかった。そのため、教授の一人がアインシュタインにセカンドオピニオンを求めたところ、「この青年は博士号よりノーベル賞を受けるに値する」との返答を得たという。

 ド・ブロイの式は、1927年に粒子である電子の回折現象(波に特有の現象)が実験で観測されたことで確認された。電子は極小の粒子(~10-31m)だが、陽子も中性子(~10-15m)も、それが集まった原子核も、原子(~10-10m)も、分子も、さらにそれからできているテニスのボールも人間の体も、地球や太陽さえも実は波動性を持つはずということになった。まさしく「物質波 (matter wave) 」である。ただし、極小粒子以外では粒子自体の大きさに比較して λ (=h/p) の値があまりにも小さく、観測不能なのである。

光子(電磁波)の波長は、極超長波で105~108m、可視光線で~10-7m、いちばん短いγ(ガンマ)線で~10-11mである。ちなみに光子は物質ではないので、大きさも質量もない。

これに対して電子の波長は、僅かとはいえ質量があるぶん短くなる。例えばヘリウム原子の直径はは1.2x10-10m、電子軌道の円周の長さはそれに円周率を掛けて、大きめに見て~10-9m。ヘリウムの電子軌道は1周期の電子の定常波になっているので、波長λも~10-9mである。電子の大きさは10-31mなので、大きさよりも波長のほうが1022倍も長い。

今度は電子の質量とされる9.11 x 10-31kgから、それがv=1.0 x 106m/sの速さで運動しているときの波長を求めてみよう。

λ = h/(m・v) =6.63 x 10-34/(9.11 x 10-31 x 1.0 x 10-6) = 7.28 x 10-10 m

やはり同じような結果である。

ではテニスボールはどうかというと、左の図。やはり重い分だけ波長は短くなる。テニスボールの大きさ(約6.5 x 10-2m)に比べて、あまりに波長が短くこれでは波にならない。粒子が感知できなくてアタリマエぐらい極めて僅かに振動している、ほぼ完璧に近く静止している。ただし、この計算は速さ30m/sでテニスボールが飛んでいる場合である。

速さ0だとλは無限大なのでこれも波ではない。では逆にはっきり波として見えるように波長を1.0mにするには、どのくらいの速度でテニスボールを飛ばせばよいのか?逆算してみよう。 p = h/λ なので、速さ v = h/(λ・m)である。

      v = 6.63 x 10-34/(1.0 x 0.057) = 1.16 x 10-32 m/s

たぶんかすかな振動を感じられるであろう波長1mmでも、

      v = 6.63 x 10-34/(0.001 x 0.057) = 1.16 x 10-29 m/s

である。こんな超スロースピードであるのは、ボールがラケットにあったホンの一瞬だけなので、テニスボールは波として振舞うことができない。

今度はテニスボールの速さを30m/sにして、波長を1.0mにするには、テニスボールの質量はどのくらいになるのかを計算する。

   m = 6.63 x 10-34/(1.0 x 30) = 2.21 x 10-34 kg

こんな軽いボールではテニスのしようがない。

こうやっていろいろと計算してみると、プランクの定数というのは実にうまく、量子の世界とそれ以外のモノの世界を切り分けてくれる値なのだということに気がつく。ザックリ言うと、小さく軽く速い粒子が量子である。

これで極小粒子である電子、陽子、中性子も粒子性と波動性を併せ持っており、まぎれもなく「量子」だということになった。すると、不確定性原理によって極小時間ならばエネルギー保存則を破って、仮想電子、仮想陽子、仮想中性子が存在しうることになる。(仮想光子も含めて、エネルギー保存則に違反する粒子をひとまとめに「仮想粒子」と呼ぶ。)ただし、電子はマイナス、陽子はプラスの電荷があるので、これが仮想粒子として現れるときは電子-陽電子、陽子-反陽子のペアとして現れなければならない。なぜなら、不確定性原理はエネルギー保存則は破れるが、電荷保存則は破れないのである。

しかし、電子は間違いなく素粒子であるが、陽子、中性子は素粒子ではない。その中には、実は本物の素粒子が隠れているらしい。また宇宙空間には地球上には存在しない素粒子もあり、宇宙線を観測すると検出できるときもある。また、宇宙創成の時点には存在したが、今日では高性能な巨大加速器を使ってやっとのことで発見できる、または発見できそうな素粒子もある。そうすると、素粒子とそれらが構成する粒子まで考えに入れると、いろいろな仮想粒子が存在するはずである。

ところで仮想光子は電磁場を構成して、電荷や磁荷にたいする引力や斥力など、遠隔力を生み出すはたらきをした。同じように遠隔力を生み出している仮想粒子はないのだろうか?

「電磁場=電磁力」以外の遠隔力ですぐ思いつくのは、「万有引力=重力場」である。この場合の場の担い手として、重力子(グラヴィトン)の仮想粒子(仮想重力子)が考えられるが、重力子はまだ仮説であり観測されていない。

では他に何かないのか?ここで湯川秀樹博士が中間子理論が登場する。

 


P05 電場と磁場、仮想光子のはたらき

2014-08-10 18:40:08 | 物理学メモ

Charles de coulomb.jpg


2つのの電荷q1,q2が距離rだけ離れて存在しているときに,その間には,F=k0(q1q2)/r2 の力が働く(クーロンの法則)。この関係を次のように解釈し直す。つまり、q1はその周囲に,E=k0q1/r2 で表される「」をつくり,電荷q2は,この場から, Fq2Eで表される力を受けているのだ。すなわち,クーロン力はq1q2が直接作用し合う(遠隔作用)のではなく,電場Eを通して作用し合う(近接作用)と考えるのである。となんか騙されたようような気がする「」の概念の導入は昔からあった。

同じことは磁気力についても論じられて、F=km(m1m2)/r2 。(磁気に関するクーロンの法則)を解釈し直して、F=m2H。今度はこのHが磁場。

しかし、仮想光子の存在によって、場とはクーロン力(電磁気力)を伝えるべく、仮想光子がウロチョロしている空間(真空)と考えると、場は本当の実在と考えてよいということになるらしい物理学喫茶室というwebページからガサッと引用します。

電子が真空中に一個ぽつんと存在している、と考える。電子の付近に荷電粒子を持ってきたら、その粒子に力(クーロン力)が働く。そこに荷電粒子を持ってきたから、あわてて電子から電場が出てくるわけではない。つまり...中略...電子が一個あれば、その周囲には光子がある。この場合、この光子は、『エネルギー保存則』を守っていない。従って、この『エネルギー保存則』を守らない光子を、仮想光子」と呼ぶ。ヴァーチャルな(仮想)フォトン(光子)である。

なぜ、『エネルギー保存則』を守らないものを容認できるのか? それは、不確定性原理があるからである。極めて短い時間なら、大きなエネルギーが現れてもよい、逆に言うと、極めて短い時間で、現れて消える光子を考えないと、電場の説明ができない。

そこで、電子は、仮想光子を呼吸している、という表現がとられる。電子は仮想光子を放出して、それを自分でまた吸い込む、という現象が起こってもよい。ただし、その時間は、1秒の10兆分の1のさらに1兆分の1という短い時間だ。あまりに短すぎて、私たちには、電子と光子を別々に認識できない。長いスパンでみれば、あくまで、電子が一個ある、に過ぎない。

電子が呼吸する光子は1個でなくともよい。10個でも100個でも、無限個でもよい。こうして、電子の周りには、仮想光子の雲ができる。さてここまでの結論である。

   電磁場とは仮想光子の雲が存在する空間である。

ということだ。

以上で、空洞放射→不確定性原理→仮想光子→電磁場の一貫した説明の準備が完了した。それでは、自分の言葉でまとめてみよう。

空洞放射の実験を解析すると、真空中にはhν/2のゼロ点エネルギーが存在する。hν/2という単位量子エネルギー以下の値でもでもゼロよりは大きい。したがって、不確定性原理により、極めて短い時間間隔では、それがhν、2hv、10hν、100hνになることがあり、そうすれば1個、2個、10個、100個の光子が生まれる。生まれてすぐ消えるこの光子が仮想光子である。1個の電荷(または磁荷)があれば、これが仮想光子を放出・吸収することで電場ができあがる。2個目の電荷があれば、放出した仮想光子を相手が吸収することが起こり、仮想光子の交換が起こる。これにより、互いの電場を重ね合わせた空間において、斥力や引力(つまり電磁気力)が発生する。

はてな?仮想光子が時間切れで現れたり消えたりするのを「放出」「吸収」と呼ぶのはどうか?自分で放出した仮想光子を自分で吸収するだけでなく、相手が吸収することがあって「交換」となり、キャッチボールみたいな説明ができるのだが、それでは所詮レトリックでしかない。もともと俺の仮想光子とか、あんたの仮想光子とかあるのだろうか?

はてな?なぜ電場の犯人は仮想光子なのか?「かもしれない」とか「であってっもよい」という蓋然性は語れても、必然性は語れていなのではないか?

 


P04 不確定性原理(時間とエネルギー)

2014-07-13 17:10:12 | 物理学メモ

「時間間隔とエネルギー」の不確定性原理は、「位置と運動量」の不確定性原理

Δp・Δx=h  (式1)

から導出できる。以下、我流のかなり怪しい導出である。
光子の質量mは0なので、エネルギーhνで光速で飛んでいても運動量p=mv(これはニューνでなくアルファベットの速度v)はゼロになってしまう(m=0)。 

E=mc²-explication

ところがどっこい、有名なアインシュタインの公式E=mc^2によりm=E/c^2という潜在的な質量(なんじゃソレ?)があることになり、

p=mv=(E/c^2)v=Ev/c^2

光子の速度はv=c(まさに光速)なので、

p=Ev/c^2=Ec/c^2=E/c

と、ちゃんと運動量が求まる。

p=E/c(=hν/c)

さらにc=Δx/Δtであるから、「位置と運動量」の不確定性原理は次のように書き直せる。

Δp・Δx=Δ(E/c)・Δx=ΔE/c・Δx=ΔE・Δx/c=ΔE・Δt

めでたく、「時間間隔とエネルギー」の不確定性原理に到達した。

ΔE・Δt=h (式2)

この第2の不確定性原理の解釈であるが、観察者効果としては、エネルギーをどれだけ正確に測れるかは観察時間の長さによる、とういうこと。しかし、自然の原理としては短い時間間隔であれば、大きな値のエネルギーが突然発生できるとういこと、つまり極めて短時間であれば、エネルギー保存の法則が成り立たないということである。これは驚くべき結論だが正しい結論である。

はてな?「潜在的質量」とは乱暴なのでは?質量0の場合は、運動エネルギー=静止ネルギーであるというのは、質量0ならば常に光速という事実と符合するようにもみえるけど?質量m(>0)のときの導出法は、どうなるの?そのときだけ、運動エネルギー=(1/2)mv^2になるってこと?


P03 不確定性原理(位置と運動量)

2014-07-11 06:13:44 | 物理学メモ

私が大学時代に勉強した「不確定性原理」とは「位置と運動量」についてのものであり、次のような原理であった。以下、青字は日本語版Wikipediaから抜粋。

位置をより正確に観測するためには、より正確に「見る」必要がある。極微の世界でより正確に見るためには、波長の短い光が必要である。波長の短い光はエネルギーが大きいので観測対象へ与える影響が大きくなるため、観測対象の運動量へ影響を与えてしまう。結局、この粒子の位置を正確に測ろうとするほど対象の運動量が正確に測れなくなり、運動量を正確に測ろうとすれば逆に位置があいまいになってしまい、両者の値を同時に完全に正確に測る事は絶対に出来ないのである、というように、一般には観察者効果のようなものとして説明されがちである。
(中略)
粒子の運動量と位置を同時に正確には測ることができない、という、この原理による結果に対し、それは“元々決まっていないからだ”と考えるのが、ボーアなどが提唱したコペンハーゲン解釈である。これに対しアルベルト・アインシュタインは反対し、“決まってはいるが人間にはわからないだけ”という「隠れた変数理論」を唱えた。この際にアインシュタインの言葉として有名な「神はサイコロを振らない」が、1926年12月にマックス・ボルンに送られた手紙の中で使われている。

私は、位置と運動量の不確定性原理とは観察者効果のことだ、と信じていたし、アインシュタインと同じ解釈であった。人生の大部分をそれで過ごしていた。(私ごとき平民の日常生活の上では、とくに問題は生じなかった。)

「位置と運動量に関する不確定性原理」についての、現在時点の私の理解(誤解かな?)を以下にまとめてみる。

(野球のボールでも光子でも)粒子にはもともと粒子性と波動性があるので、量子としてふるまう小さな粒子については正確な位置は決まらない(というより正確な位置がない)し、正確な速度(運動量)は決まらない(というより正確な速度はない)。これは、観察者効果の問題ではない。ある量子の運動量と位置を同時に正確に知ることは、自然界の原理そのものから不可能なのだ。

位置と運動量の不正確さについては、

Δx・Δp=h (hはプランクの定数)

の関係がが成り立つ。これは観察者効果についての思考実験から、ハイゼンベルクによって導き出されたもの。自然界の原理から式を導きだすことはできない。


P02 真空中のエネルギー

2014-07-11 06:08:58 | 物理学メモ

真空には何もないというのは間違いである。

Wiens law黒体放射(といっても完全黒体を限りなく近似した空洞放射)の実験をすると、スペクトルは左図のようになる。このグラフを解析してプランクが量子を発見した。これがキッカケで「量子力学」が生まれた。

空洞壁が熱せられることによる金属電子のエネルギーは、(いろいろ煎じ詰めれば)空洞内の電磁波とのからみでhν/2+N*hνであらわされることになる(注:hはプランクの定数、vはアルファベットの"ヴイ"でなくギリシャ文字の"ニュー"であり電磁波の振動数、Nは量子の数であり自然数)。

振動数は論理的には0~∞【無限大】まで考えられるのだが、vが大きいところではどんなに熱してもN=0。(そうでないと、ν=無限大ではエネルギーが無限大になる。スペクトルのグラフは山型でなく、超右肩上がりになる。)しかし、もともとνが0~∞なので、全部のエネルギーの和をとると、それはやっぱり無限大になる。

N*hv+hv/2の第1項であるN*hνは熱が加わることでの金属電子の励起によるものだから、熱がまったくない絶対零度ではN=0。この状態では空洞箱内には電磁波(つまり光子)も存在しない。真の真空内に、第2項のエネルギーhν/2が存在していることになる。これをゼロ点エネルギーという。νが0~∞という前提から、全部のゼロ点エネルギーの和はやっぱり無限大になる。

時間とエネルギーの不確定性原理から、極小の時間内ではエネルギー保存法則が破れ、hν/2がhvを超える。するとその時間内では光子が発生する。

仮想光子は観測が不能であり、場の量子論が数学的に割り出した「存在」である。かって海王星の存在が数学的に予測され、のちにそれが予測どおりに発見されたが、仮想光子は場の量子論でも「絶対に観測できない」とされている。

はてな?エネルギー保存法則が破れる?


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平戸淨泉のまったく私的なメモです。ボケ防止が主目的。自分では正確に書いたつもりですが、もちろん間違いはあると思いますのでうっかり信じる読者の方がいても、責任はとりません。また、写真・画像の著作権は極力尊重しますが、不行き届きなどがあればご連絡をお願いいたします。