goo blog サービス終了のお知らせ 

別冊「バビル2世」マガジン

「バビル2世」のコミックス&アニメその他を中心に、オールドファンがあれこれ語ります。

「無限のリヴァイアス」DVD-BOX鑑賞記その5

2009-12-27 21:49:25 | アニメ作品
かつてマンガ・アニメのヒーローといえば、熱い血を滾らせた元気な少年ばかりでした。「俺がやらなきゃ、誰がやる?」ですな。決して逃げることなく、力の限り敵に立ち向かうヒーローたちです。
この図式が崩れたのは、おそらく「新世紀エヴァンゲリオン」(95年)からです。たぶん異論は出ないでしょう。
エヴァの主人公・碇シンジは、「なんで僕が戦わなきゃダメなんですか」と言います。
ですが、目の前には満身創痍の少女が・・・綾波レイが苦痛に顔を歪め、それでもエヴァに搭乗しようとしている姿を見たとき、さすがにシンジは自分が代わりに乗ることを決意します。
とはいえ、もう仕方なく乗るわけですから。マジで死にそうな綾波レイを目の当たりにしながら、それでも「僕はエヴァに乗りません、戦いません」と主張できたなら、それはそれで大した根性なんですが、所詮はヘタレ男子。良心の呵責ってことに耐えられず、流されるようにエヴァのパイロットになっちゃうわけですね。
そして、ヘタレまくりつつ、どうにかこうにか戦い続けるのですな。これぞ元祖草食系男子ヒーロー!

さて、エヴァから4年後の作品であるリヴァイアスですが、主人公たちはエヴァよりも少し年上です。すなわちシンジが14歳、昴治は16歳。中坊と高校生の違いがあります。
たかが2歳とあなどるなかれ、これが大きいのです。
「運命さえまだ知らない いたいけな」中学生のシンジに対して、こっちはもう将来の進路をきっちり決めなきゃならない高校生。
同じ草食系男子でありながら、昴治は今、人生最初の岐路に立っています。


最強の草食系男子
サンライズアニメ史上最弱ヒーローと言われる相葉昴治。
ですが、10年たってこの作品をよくよく味わってみますと、まさに「今はやりの草食系男子」だなあという感じがします。時代を先取りしすぎちゃったね

さて、昴治ですが、成績は中の中、これといって秀でた得意分野なし。幼なじみのあおいちゃんは、「優等生のくせに、成績はそこそこ」などと昴治を評します。するどいね。
対する弟の祐希は、勉強もスポーツもピカイチ。さして努力しなくても、なんでもできちゃう。優秀な弟、凡庸な兄、という構図です。
しかしですね。観客目線で見ていても、昴治はそんなに必死にがんばっている様子がないんですよ。素行は優等生的ですが、「くっそう!弟に負けてたまるか」的な努力はしていないようです。
ここで主題歌の歌詞を思い出してください─傷ついて さらけ出すこともないから。
つまりですね、昴治のホンネは多分こうです。
「頑張って、努力して、でも結果がだめだったら傷つく。だったら、最初から頑張らないで、適当に流していればいいじゃないか」
たとえば、「甲子園大会に出たい。プロ野球選手になりたい」と思ったとします。本気でそれを目指すなら、まず小学生の頃から野球チームに入り、さらに中学ではシニアとかボーイズといった系列のチームに所属、甲子園常連の名門高校から「うちに来ないか」と声をかけられるほどの活躍をする。
高校では、たとえ甲子園には出られなくても、少なくともレギュラーの座は獲得し、プロ球団のスカウトに注目される。で、ドラフト会議で(以下略)
夢の実現のためには、ことほどかように遠大な人生設計と実行力が必要です。しかし、頑張ったからといって、そうそううまく行くとは限りません。
これだけ努力したのに、プロ野球選手になるという夢が実現しなかった・・・大いにありえます。そうなるのが─傷つくのが─怖いから、そもそも最初っから一生懸命やることを放棄する。
主人公、相葉昴治から漂ってくるのは、そんな空気です。
ところが、そうした本心すら他人に悟られるのが怖い。悟られてしまったという事によって、やはり自分は傷つくから。
そのため、昴治は「他人の目に映る自分」を粉飾します。ほんとは大ショックな出来事でも、「なんだ、そうなのか。言ってくれればいいのに」みたいに、へらへらと笑いながら流してしまいます。

弟の祐希は、いつの頃からか、こんな兄の心の中が見えるようになり、たまらない嫌悪感を抱きます。傷つくのがいやだから、何事にも真剣に立ち向かわない兄、最初から全てを投げ出している兄、いざとなると逃げ出す兄・・・。
いっぽうで祐希は、兄をこんな風にさせてしまったのは自分かもしれないと思っています。
昴治と祐希は、両親の離婚により母子家庭となりました。たった1歳違いなのに、昴治はまるで父親のように祐希を「世間の荒波」から守ってきました。いつしか昴治は、とても子供とは思えない「老成した」態度を取り、祐希のやることになにかと口出しをするようになり、3年前、ついに大喧嘩。
運動能力も体力もはるかに兄を凌駕する弟は、昴治に大怪我をさせてしまいます。それでも昴治は、祐希に反撃もしない。否、できない?
このとき、兄と弟に決定的な亀裂が生じました。祐希はつねに兄に反抗し、まともに口をきかないどころか、しょっぱなから口論。
自分の父親代わりをしたために、こんなにも情けない人間になってしまった─たぶん祐希は、兄を見るたびに自分の存在そのものが断罪されているような気分になるのでしょう。
兄弟喧嘩のシーンは、なかなかにいたたまれません

傷つくのがいや、傷つけるのもいや。つねにそんなことを行動原理にしている昴治ですから、リヴァイアスの中で人間関係のいざこざがおこりそうになると、すぐに仲裁役をかって出ます。
しかし、たとえば会社とかの組織を思い描いてください。仲裁役ってのは、いっちばんしんどい役回りですよ。逆に言えば、これができる人─ムードメーカー、などと呼ばれる─は相当に切れ者です。ほかのことがイマイチでも、この才能さえあればきわめて有益です。
実は昴治、こういう意味で「すごいヤツなんじゃないか?」と、だんだんわかってくるんですよ。別にマシンの操縦ができなくたって、軌道計算ができなくたって、組織の向かう方向が狂い始めたときに即座に察知して、「だめだよ」と言える能力。そして、体を張ってでもみんなを納得させる能力。これって、実は稀有の才能なんだよね。
ですが、はんぱなくしんどいことでもあります。「なんだと、このやろう」と攻撃されて、同じように「なにぃ!」とか言ってやり返したら、それはもう戦争になっちゃいます。ようするに、右の頬を打たれたら、左の頬を差し出すくらいの決意と覚悟が必要です。マジで命がけ、です。
で、昴治。ほんとにそれをやっちゃうんだよね!もう、ハンパなくボコボコ、血まみれになりながら、「誰も傷つけない、自分も傷つきたくない」という信念を貫き通しちゃうわけだ(・・・体は傷つきまくり、だけど)。
もう、最弱ヒーローなんていわせない。相葉昴治、じつは最強の草食系男子なんである。


愛の力、かも
ところで、最終盤に大炸裂する草食系男子の昴治ですが、やはり幼なじみのあおいちゃんと結ばれたってことが大きいんじゃないかと
(いや、節度のある描写ですが、つまりリアル異性交遊ですな)
昴治とあおい。そして祐希。じつにビミョーなトライアングルを形成していました。で、祐希はまちがいなくあおいちゃんに惚れてます。だからなおさら(以下略)
ですが、あおいはとある事件がきっかけで、親友のこずえに罵倒されます。「あんたはずるい!相葉兄弟のあいだを行ったり来たりして、どっちにも決めず、どっちも欲しいと思ってる!」
まだ自分の未来を決定したくないと思ってたのは、あおいも同じでした。だから、兄弟の両方に「いい顔」をしていたのでした。
しかし、昴治にストーカー的執着心を見せるファイナの手下(いやもう、新興宗教の教祖様みたいだし)に襲われたあおいは、恐怖心からパニックをおこし、泣きながら昴治にしがみつきます。
で、昴治も、実は日頃からストレスがたまってたんですね・・・いや、わかります。時々、口癖のように「何なんだよ!」って叫んでますから。
そんなこんなで、昴治とあおいは一気に感情を噴出させ、で、成り行き(?)で結ばれちゃうという・・・
ですが、これで二人とも心を決めたんですな。もう子供じゃない。愛する人を、自らの意思で選び取ったのだから。
最終回の1回前、昴治とあおいが決死の行動に出ますが、やはり愛の力なんですよ。
・・・わかったか、まだガキんちょの弟よ。


無抵抗のネーヤ
以前にも書きましたが、6隻あるヴァイア艦のなかで、リヴァイアスだけが異質です。スフィクスのネーヤは、人間の精神を破壊しない、穏やかな「人格」を持っています。
これは、思春期の強烈な思念を多方面から浴びた、ということが原因でしょうが、おそらくネーヤにいちばん影響を与えたのは昴治です。彼の「誰も傷つけない、自分も傷つきたくない」という思いが、ネーヤの魂を形作ったのでしょう。
リヴァイアスの前に立ちはだかった最後の敵ヴァイア艦は、「灰のゲシュペンスト」でした。スフィクスは、少年の姿をしたマーヤ。
マーヤは、ひたすら好戦的です。もう、ガンガンかかってきます。
ですが、ネーヤは無抵抗。マーヤにガッツリやられても、「なぜ、傷つけるの?」と囁きながら、彼を優しく抱きしめます。
マーヤは、はっとして自らの行いを悔い(・・・だよな?)
いや~、この最終盤のクライマックス。まことに日本的というか、憲法9条的あるいは辻真先的といいますか。
よくよく考えますと、日本って国自体が草食系じゃないでしょうか?
リヴァイアスの中の昴治は、まさに国際社会における日本そのものだという感じさえします。例によって深読みですけどね。

さて、なんだかんだで「リヴァイアス事件」は終わりました。なるべくネタバレしたくないので、あらすじ等はスルーしますから、興味のある方はぜひこのお正月休みにレンタル店へgo!
ですが、ちょっとだけ申し添えますね。
最終回の1回前の25話は、さすがに見ごたえがあってすごかったです。
次の最終回は、「後日談」になってまして、これもじつにいいです。ほんとにいいですから。
で、その最終回。ネーヤが堂々と登場し、昴治に「会いたかった」と告げます。やはりネーヤにいちばん影響を与えたのは昴治だったのでしょう。
ラストシーンというか、エンディングもしっかり見てください。感動的です。

おしまいに
草食系を名乗る今どきの男子よ、覚悟はいいかい?
草食系をまっとうするのは、じつは相当にしんどいことなんだぜ

最新の画像もっと見る