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年甲斐もなく

2010年12月19日 | 日本語
                  



                 85歳のお客様


                見目さんのエッセイ・・・

年甲斐もなく

        妹から突然、温泉ゆきの誘いの電話があった。


        全く珍しいことなので。私は少々驚いたが、何となく嬉しく、


        「いいわよ、行きましょう」と気持ち良く返事をした。



         妹の話によると、それは、杉並区の保養所なのだが


        こんど改築して綺麗になり設備も良くなったと、


        人づてに聞いたそうである。


         妹とは三歳違いで、面立も背格好もよく似ていて



        双子と言われてもおかしくないほどの姉妹である。



        だが性格はまるっきり正反対で、私は総領の甚六そのものであるが、



        妹はしっかり者のお利口さんなのである。



        私の言わせれば、それは意地悪につながるような気がしている。



        何かと言えば人の痛いところをつく。



        例えば、「お姉ちゃんは箸の持ち方とペンの持ち方が変よ、それは醜いものよ」



        わかっているが、そう何回も言われると悲しくなる、



        などなど細かい事はいくらでも。



         だが、お互いに子供を育てる時期は、仲良く遊園地や海に一緒に出かけたものである。



        その妹は、数年前夫に逝かれ今は一人で暮らしている。



        寂しさもあるだろうが最近はぎすぎすとして、時には他愛もないことで、



        電話口で喧嘩をするようになった。



        大方私が不本意ながら折れて事を納めていた。




         約束の日、2人は新宿からロマンスカーに乗り目的地に向かった。



        小田原で東海道線に乗り換え湯河原に。



        なるほど、見晴らしはあまり良くないが、小奇麗な部屋に通された。



        2人はコートを脱ぎ宿の浴衣に着替え始めた。



        妹はちらりちらりと私の方を見ている。



        私は何か言うな、と予感がした。



        案の定、「お姉ちゃんは、年甲斐もなくナウな服を薄着しているが寒いでしょう」



        ほらきた、と思った。「年甲斐もなく」は余計である。



        胸にずしりと来た。  家を出る時、息子に「喧嘩するなよ」と



        言われたことを思い出し私はぐっと耐えた。




        いつもこんなことから始まって傷つけ合ってしまうのである。




        「れいちゃん 誘ってくれてありがとう」



        食事の時、ビールのコップをカチリと合わせて、妹に礼を言った。



         無事に帰ってきたものの、私は自分の心の狭さを嘆いた。



        妹の言われた「年甲斐もなく」が消えないのである。



        一週間ほどして、私は朝の新聞を見ている時、ある記事に目が走った。



        渡辺淳一著の『頭脳クリニック』の広告にも大きく



         「年甲斐のない人になりたい」と書いてあった。



         ありがたいことである。



         それを見て、胸につかえていたかたまりが、




         すらすらと溶けて私の心は晴れ晴れとしたのである。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (あくび)
2010-12-20 16:29:17
『年甲斐もなく・・・』私は、この言葉、好きです
連発したり、されるような年の重ね方をしたいと思ってます
見目さんのエッセイ、素敵ですね
また紹介して下さい
Unknown (hirorin)
2010-12-20 22:20:10
見目さんのエッセイに暖かな柔らかさを感じます 

まだ いっぱい紹介したい作品がありますお楽しみに
Unknown (ステッチ)
2010-12-21 22:37:46
「さあ・・見目ワールドへどうぞ」と言うような上手い書き出し、どんどん中へ引き込まれちゃう文章ですよね。
アップルハウスの服を着こなしてこんなに素敵なエッセイを書かれる見目さん  「年甲斐もなく・・」ではなく、私たちのお手本として尊敬しちゃいます。
Unknown (ひろりん)
2010-12-22 18:51:45
見目さんは、白髪染めをやめて自然体で益々 お元気になりましたよ

 新作エッセイ楽しみに私もしてます

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