消費税引き上げと軽減税率 客員論説委員・岩崎慶市
消費税引き上げに伴う低所得者対策の方向性が決まった。
2013年度税制改正大綱で給付付き税額控除が消え、
15年10月に税率10%にする段階で軽減税率の導入を目指すことが明記されたからだ。
しかし、これにも税収減や適用品目の線引き、
企業の事務負担など乗り越えねばならない課題があまりに多い。
◆線引きで大混乱か
低所得者ほど負担感が重いとされる消費税の逆進性対策についての3党協議では、
民主、自民が来年4月の8%段階では定額の現金を支給する簡素な給付措置で一致していたが、
10%段階では民主が給付付き税額控除、自民が軽減税率を主張していた。
公明は8%段階での軽減税率導入を求めていた。
今回の大綱は政権交代により自民党案に落ち着いた形だ。
控除される税額が納付すべき税額を上回る人や課税最低限以下の低所得者に
現金を支給する給付付き税額控除は欧米で広く導入されているが、
消費税の逆進性対策で実施している国はない。
しかし、軽減税率にしても一筋縄ではいかない。
まず、適用品目の線引きだが、よく引き合いに出されるのは食料品の混乱ぶりだ。
例えばフランスではマーガリンやキャビアが標準税率でバターやフォアグラが軽減税率だ。
ファストフードでは多くの国が店内飲食は標準税率で持ち帰りは軽減税率という。
要するに明確で合理的な説明がついていない。
かつての日本の物品税も課税対象としたぜいたく品が時代とともに大衆商品化し、
また技術革新によって生まれた複合電気製品の線引きも困難になって課税根拠が失われ、
消費税導入に至った経緯がある。
下手をすると、こうした混乱が再現しかねないわけだ。
企業の事務負担も無視できない。
単一税率ならば10%でも現行の請求書等保存方式で対応可能だろうが、
税率が複数になった場合は欧州などで広く実施されている取引ごとに
消費税額を記載した請求書を添付するインボイス方式が不可欠といわれる。
その事務コストに中小企業などでは今から戦々恐々としている。
◆税率1%上乗せも
そして税収減少問題だ。特に食料品などがゼロ税率の英国では、
標準税率で得られるべき税収の5割が失われ、
標準税率をその分高くしているとの民間研究グルーブの分析・提言が注目されている。
同提言は15%の単一税率で所得減税による
中低所得者対策を行っているニュージーランドを高く評価している。
日本で仮に標準税率10%段階で食料品を5%の軽減税率にした場合、
ほぼ消費税1%分に当たる2・5兆円から3兆円超の税収が失われる。
これを社会保障と税の一体改革に照らしてみると、大きな問題が出てくる。
15年度の基礎的財政収支の赤字半減という財政健全化目標に狂いが生じることもさることながら、
問題は社会保障面だ。税率5%引き上げの使途は4%が社会保障制度の安定化に、
残り1%が社会保障の充実に充てられる。
軽減税率を導入した場合、社会保障の充実をあきらめるか、
それとも税率をさらに1%上乗せをするかの選択を国民が迫られる事態になりかねない。
◆10%超でも遅くない
大綱は今年12月の14年度税制改正決定時までに
軽減税率導入に向けての結論を得るとしているが、
こんな短期間で難問が解決可能だろうか。
欧州連合諸国の食料品適用税率は平均11・2%、標準税率は平均20・9%である。
消費税が10%を超していく段階で導入を検討しても遅くはあるまい。
それまでは8%段階で導入する簡素な給付措置の拡充で対応できるだろうし、
15年度には今国会で法案が成立する見通しの税と社会保障の
共通番号「マイナンバー」が創設される。そうすればより正確な所得把握が可能になるから、
給付付き税額控除ではなく所得によって現金給付額を変える
カナダ方式の簡易な逆進性対策も選択肢に入ってこよう。
いや、給付付き税額控除も欧米のような特定の政策目的なら活用できるし、
逆進性対策との並立も可能だ。
特に就労促進と雇用対策予算削減を目指した英国の制度は、
一定就労時間以上を適用条件とするインセンティブを持たせるなど若年層就労対策として参考になる。
日本では軽減税率も給付付き税額控除も未消化である。
将来を見据えて多角的に掘り下げた議論が求められる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます