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雨の記号(rain symbol)

年の始めの女王談義(5)

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 ひと息はいり、飲み物はキジの持参したワインにかわった。外へ食事に出ようかという話も出たが、みんな酔っていて車が出せない。タクシーを呼んで走らせるのもメンド臭いとなった。
 トビはぼやきながら即席ラーメンをつくった。しかし、食べ物を作って誰かに食べさせるのをいやがる人間ではない。漬物やかまぼこなどもおかずで出してきた。
 ラーメンをすすりながらさっきの話の続きになった。キジが浅田真央の謎について説明を求めたからだ。
「謎のその一、彼女にはフィギュアスケートを知らないお年寄りから子供にまでファンが発生している。お年寄りは彼女を、孫みたいだ、娘みたいだ、と言って応援し、年下の子らは彼女を、かわいい、と黄色い声で応援する。まるで学芸会や何かのコンサートのノリだ。同じようなことは韓国のキムヨナサイドにも言える。浅田真央を追いかけて出てきた彼女の背をおし国をあげてのフィーバ現象がそれだ。彼女の国際舞台は浅田真央の背中を追いかけることから始まったから、ファンの姿も類似するってわけだ。これもある意味必然、フィギュアスケートが真の大衆性を獲得するに至るシナリオの序破急の序といったところかな。聖が俗にまみれ、たくましさを身につけていく行程だ。こういったところを通過しないとフィギュアスケート人気は本物とならない」
「聖が俗にまみれ、人気が本物になる、とはごたいそうな注釈だ。しかし、フィギュアスケートの流行り廃りなど俺にはどうでもいいよ。物事を流行らせたり廃らせたりするのはいつだってミーハーな人間だというのは全世界共通だろうが」にべもない調子でキジは言った。「日本は今、フィギュアスケートブームだ。ざっとの計算じゃたまねぎの皮を剥き出して二枚目か三枚目あたりだろう。だから芯までたどり着くのはまだしばらくはかかるかもしれん。だが全部剥き終ったその後のことなど誰が知るもんか。信じられるのはいつだって今だけだ。このブームの立役者である浅田真央が国民の大多数から支持され愛されるのは自然のことじゃないか。それのどこが悪い」
「悪いとは言わない。こういった面が見受けられるという報告だ」
「出来の悪い特派員のくだらない報告ならいらないよ」
「はい、次いこう。その二、フィギュアスケートで彼女を破った選手の演技を認めないファンがなぜか多い。あんな演技のどこがよかったの、という具合にだ。彼女が転ばないで演技し終えれば誰にも負けないというのを頭から信じているせいだろう。先導的ファンが作り出した無敵の3A神話というのが彼らには刷り込まれているかのようだ。すなわち、3Aが飛べない選手はジャンプがダメな選手、回転をたくさん出して飛んで勝つのがフィギュアスケートの競技だと思っている。だから、スピンもスパイラルもステップもみんなジャンプのための付録で、ジャンプのよしあしで勝負が決まるのだと思っている。まるで彼女の3A一発の演技みたいにだ。現に俺の知り合いにそういう奴がいる。3A飛べない選手が浅田真央に勝とうなんて十年はやい、おとといきやがれ、って調子だ。ジャンプへの配点が高いので一概に間違っているとも言えないが、彼らは彼女のジャンプ演技だけ見て喜んだり悲しんだりしているのだろうか。たぶん多くはそうなのだろうな。だとすれば、浅田真央にとってちょっと寂しく悲しい話ではないか。彼女はファンに自分の他の部分ももっと見てくれと思っているだろうから」
「それも浅田真央の謎ではないだろうが? 浅田真央選手が3Aを得意としているのはむろん俺も知っているが、俺は彼女のジャンプだけ見ているわけじゃない。ちゃんと演技の全部を見てるよ。他の演技も見ながらやはり浅田真央は世界のトップを争う選手だというのも自覚していっている。タカがキムヨナに演技の明瞭さを見ているように、俺も彼女に演技の明瞭さを見ているよ」
「じゃあ聞くが、彼女の演技の明瞭さって何だ? 何でもいい。たとえばキムヨナの顔芸とか、そういうのに類する彼女の演技って何だ。何がある? ひとつでいいから答えてくれ」
 キジはしばし考え、答えた。
「ひとつあげろと言われればやっぱり3Aかな」
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