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雨の記号(rain symbol)

ミッドナイトライン26Ⅸ(ヨナ姉ちゃんの帽子)その⑥

ミッドナイトライン26Ⅸ(ヨナ姉ちゃんの帽子)その⑥

 ピコの声が耳元でした。かすかな声だが、しっかり耳の奥まで届いた。山中の清流の音みたいだった。
 僕のあきらめ気分をよそに彼女は僕の発する声を待ちわびていたらしい。
 嬉しさはどんどん膨らんできた。自分の笑顔が急激な発達や成長を始めた星雲の中から浮かびあがって見えた気がした。そして少年のような若い心がどんどん膨らみだすのを覚えた。希望の星に向かって、自由気ままなひとり旅が始まりでもしたみたいに・・・。
「あのね、おじちゃん」
 ピコがふたたび言った。脳内のどこかから立ち上がっている声のようにも思える。僕は自分たちの存在がお互いの片割れとして溶け合っているのを感じた。
 見えなくとも彼女はすぐそばにいる。自分たちで共有した世界を感じながら、ピコの声に懐かしいラジオ放送でも聴くように耳をすました。
「なかなかもどってこないので、ちゅごくあちぇったよ。わたちぃのからだもどんどんとけてきちゃうし、わたちぃじぃちぃんのめからもちゅがたがきえちゃった。ちぇいこんもちゅきかけているのに、ちっともよびかけてもくれなかったものだから、ほんとあちぇったよ。ああ、だめだ、これでおじちゃんともおわかれになるんだってあきらめかかったんだ。よかった。これでおじちゃんとのやくちょくをはたちぇるから、ちゅごくうれちぃ。このままやくちょくをはたちぇなかったら、あちょこからおちゃらばちぃて、ちぇきねんのゆめをかなえるためのどりょくをいちからはじぃめるところでちぃた」
「積年の夢?」
「うん。わたちぃたちにもちょれがあるのね。わたちぃたちも、だれかのきもちにふれるきかいにめぐりあえなければ、いちゅまでも、このうちゅちゅよにとどまりちゅじゅけなければならないでちゅから」
「現世ねえ・・・姿を見られたりしたらそこにいられなくなるってのは聞いているけど、誰かの気持ちに触れる、っていうのは初めて聞くよ。何か違った意味でもあるのかい?」
「もちろんちょうでちゅ。ちゅがたをみられていなくなるのは、わかりやちゅくいうと、ひっこちぃのようなもの。ひっこちぃはわたちぃたちのきまりやおきてのようなものなのでちゅ。わたちぃたちはただ、ちょんなことをやりちゅぢゅけるためにこうちぃてちゅうとはんぱにいきているわけじゃありまちぇん。ちょれじゃあ、ちゃいのかわらでいちぃをつんでいくのとかわらないでちょう? わたちぃたちもきちんとゆめやきぼうをもっていきているんでちゅ。それをもたないものは、じぶんのちゅがたをうちゅしだちゅねんりきさえうちぃなって、このうちゅちゅよをくうきのようにちゃまよっているだけでちゅ。わたちぃたちもおおくのものが、このよのだれかのこころにふれたいとねがい、そのひとのよろこびをちゅうもんしょうにして、あこがれのらくえんにたびだつひにゆめをかきたてながらいきているのでちゅ」
「・・・」
「だから、おじちゃんにちゅがたをみつけられ、うとまれることもなくたのみごとをいただけたたのはうれちぃかった。こっちからちょれをいいだちゅことははんちょくでできないから、わたちぃたちにとってとてもラッキーなできごとだったのでちゅー」
「すると、僕のこのロマン飛行は・・・」
「ええ。おじぃちゃんだけでなく、わたちぃとあのこのゆめものちぇているのでちゅ。おじちゃんのゆめがまえにちゅちゅみだちゅことができたら・・・いいえ、ちぇいかくにはかなうのをみとどけることができたら、わたちぃたちも、ちゅべてのこころがかいほうちゃれて、くるちぃみやなやみのないらくえんへたびだってゆけるのでちゅ」
 ピコがそうして話し続けるうちにも宇宙の星雲は雨雲のように前方からやってきては背後へ遠ざかった。景色は次々と移り変わり、その動きは新幹線の車窓のスピードなど比ではなかった。
「だけど、こんなはなちぃばかりちぃていられまちぇん」ピコは言った。「いいでちゅか。ちぇいうんのながれのようにじたいはきゅうをちゅげていまちゅ。じかんはあまりありまちぇん。わたちぃのこれからはなちゅことをようくあたまにたたきこんでくだちゃい」
 ピコの言葉に僕はただただ頷く思いだ。
「おじちゃんがねむりからちゃめてからだがうごきだちぇるようになったとき、おんなのこがかぶるようなあかいはちまきのついたぼうちぃをかぶっていまちゅ。あたまにてをやって、まじゅ、ちょれをたちぃかめたら、これをじぇったいからだからてばなちゃないでくだちゃい。じぇったいでちゅよ。だれかにくちゅくちゅわらわれたとちぃても、あたまからぬいだりちゅるのはいいでちゅけど、じぇったい、からだからはなちゃないでくだちゃい。もちぃ、かじぇがふいたりちぃてぼうちぃをとばちぃたとちぃたら、おいかけていってひろってくだちゃい。ぼうちぃをみうちぃなって、もうちゃがちぇないとおじちゃんのこころにあきらめがうまれたら、ちょれはげーむちぇっとでちゅ。じかんはとまり、くらやみのちぇかいにひきこまれていってちぃまうでちょう。もとのちぇかいにもどれるかどうかもわたちぃはほちょうちぃまちぇん。なにかをはじぃめるときは、ちょれにみあったかくごがひつようでちゅ。ちょのぼうちぃがおじちゃんのかくごとけついをちぃめちぃているのでちゅから。これにはみっちゅのねがいがかかっていまちゅ。ねがいはおじちゃんのちぃたいことちゃちぇたいことがかなうけど、みっちゅかけたらもうかかりまちぇん。ぼうちぃはきえてなくなり、どこのちぇかいのどこのじかんにもでいりできるおじちゃんも、そのじぃてんでどこにもいけなくなりまちゅ。わたちぃとであったちゃいちょのへやにもどりたいとおもったら、ちゃいごのねがいはかけまちぇんとぼうちぃにむかってとなえておいてから、こうどうをはじぃめてくだちゃい。ちょれから、たいざいじかんも、ぜんぶでみっかかんでちゅ。みっかかんがちゅぎてしまったら、じどうてきにまえのねがいのばちょにもどってちぃまいまちゅ。ちょちぃて、ちょこがかりのちぇかいで、なくなってちぃまいまちゅ。だからみっつめのねがいはちゃいちょにかけておいたほうがいいでちゅ」
「わかった、そうする。それで、お腹がすいたりして何か食べたいなと思った時、どうすればいいの?」
「ジュボンのポケットからひつようなぶんだけでてきまちゅ」
 その後もピコはいろいろと話し続けていた。しかし、身体を包みだした雲で視野がきかなくなるにつれ、彼女の声はしだいに明快さを失っていった。ボリュームの上がり過ぎたスピーカーのように内容が聞き取りづらくなり、ついには耳鳴りの連続となって僕の鼓膜は機能を失った。
「ちゃあ、ちょちぃたら、おじちゃんのじかんはもどりだちぃまちゅ」
 ピコのその言葉を最後に、僕の意識は自分のもっとも古い写真の記憶の場所へと戻りだしていた。その映像を脳裏に焼き付け、無意識の彼方へ沈んでいった。
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