雨の記号(rain symbol)

URAKARA7話(3)





URAKARA7話(3)
URAKARA episode 7 (3)



 スンヨンと与太郎はタクシーでお千代の家に乗りつけた。
 近くにタクシーを止め、お千代の家の様子をうかがおうとしたら、別の車がそこへ来て止まった。
 車からおりた男を見て「あっ、しそ・・・」んとスンヨンが口にしかけると、家の中から若い女が飛び出してきた。
「サキ、待ちなさい。サキ」
「もう、いい加減にして!」
 女は母親を振り切って与太郎の子孫の車に乗って逃げ去った。
「いっちゃうよ。ねえっ!」
 スンヨンの言葉を受けて与太郎は言った。
「お、追うでござる!」
「わかった。あの車、追いかけてください」
「ええ、ああ・・・それはいいんですけど」
 運転手は怪訝そうに訊ねた。
「誰と話しているんですか?」
 横には誰もいない。スンヨンは苦笑いしながら前方を指差した。
「いいから、早く」
 
 対岸に街明かりの見える場所に車を止め、康裕とサキは話し合った。
「もう、だめだよ。お父さんもお母さんも認めてくれない」
「俺も」
「・・・」
「親を説得したけどダメだった」
「先祖同士の仲が悪いだけで、一緒になっちゃダメなんて」
「俺は恨むよ、ご先祖様を・・・」

 車の外から二人の様子をうかがっていた与太郎は歯軋りした。
「何て罰当たりな子孫だ! 拙者に似ても似つかぬ」
 スンヨンは彼を見て、口もとで人差し指を立てた。

 二人の話は続いた。
「俺・・・一緒になれないなら生きてても意味がない」
 康裕は彼女を見つめた。
「サキ」
「・・・」
「一緒に死のう」
 
 スンヨンは与太郎を見て言った。
「すぐ死ぬなんて、そっくり!」
 与太郎は頷いた。
「血は争えんでござる・・・」
 二人は爆笑しかかったが、すぐに血相を変えた。
「えッ! 死ぬーッ!」
 
 康裕は錠剤ビンの口をあけた。手のひらに錠剤をのせた。
「康裕が望むんだったら・・・いいよ」

 二人の様子を見て、スンヨンはあわてた。
「ねえ、与太郎さん、早く、恨み捨てて!」
「捨てる・・・?」
「あの二人、与太郎さんのせいで死ぬんだよ。恋がわかったんでしょう? あの二人の気持ちもわかるでしょう?」

 二人はひしと肩を寄せ合った。そして錠剤を飲もうとしている。

 スンヨンは与太郎の身体を必死に揺さぶった。
「ねえ、与太郎さん! 与太郎さん! 与太郎さん!」
 スンヨンの熱意にほだされた与太郎はついに決意した。
「拙者は・・・拙者は、もう恨んでござらん」

 その瞬間、白い稲妻が走った。与太郎の身体を覆っていた怨念の呪縛は、白い電光とともにちりぢりに切り裂かれた。

 空には何事もなかったように月の光が戻ってきた。
 時は流れ続けていたのか、それとも静止していたのか・・・。
 やがて、若い二人の携帯に電話が鳴った。
 二人は同時に電話の応接を始めるが、それは・・・。
「えっ?」二人は携帯を握ったまま顔を見合わせた。 
 与太郎の子孫は車の外に飛び出した。
「よっしゃアーッ! やったーッ! あっはははは。結婚だーっ! よかったぁーっ!」
 与太郎の子孫は結婚が叶う喜びを全身で表した。

 この様子を見てスンヨンは笑みを浮かべた。
「スンヨン殿」
 与太郎はスンヨンの前に立った。頭を下げた。
「ありがとうでござる。スンヨン殿のおかげでござる」
 スンヨンは照れた。
「いや、別にそんな・・・」
 それから、ハッと我に返った。時計を見た。
「いけない! もう、こんな時間!」
 スンヨンは一目散に走り出した。

 スンヨンはスタジオに戻ってきた。与太郎は後をついてきて訊ねた。
「歌の練習でござるか」
「うん。何か・・・上手に歌えなくて・・・」
「拙者のせいでござろうか」
「違う違う。ただ、自分が上手に歌えないだけ」
「でも、好きなことを出来るのは羨ましいでござる」
「そうだね。ごめん」

 スンヨンは歌の練習を始めた。与太郎は床に座ってスンヨンの練習を眺めた。
 スンヨンは歌の練習を始めたが、もうひとつ調子が出ない。
 ため息が出た。
「どのへんが難しいのでござるか?」
 与太郎は訊ねて立ち上がった。スンヨンのそばにきて譜面台を覗き込んだ。
「この・・・ありがとう、というところ・・・上手に歌えなくて・・・」
 与太郎は譜面を手にした。
「簡単でござる」
「えっ?」
「スンヨン殿は感謝している人はおられますか」
「・・・それは・・・メンバーとか、社長、関西さん・・・家族やファンのみんな・・・うん」
「・・・上手に歌おうとするのではなく、その人たちを思い浮かべて歌うのはどうでござろう」
 スンヨンは目を上げた。彼女の上に光明がさしたようである。
「・・・あっ!」
「笑いたい時に笑う。歌いたいから歌う。それと同じで、感謝している人たちに、ありがとう、という。・・・そう教えてくれたのはスンヨン殿、あなたでござる」
「与太郎さん」
 スンヨンにほんとの笑顔が戻ってきた。
 譜面を与太郎から返してもらい、彼女は歌いだす。 
「心をこめて いま贈りたい ありがとう」
 二人は目を見合わせた。笑みを交わし、与太郎は懐から横笛を取り出した。二人は息を合わせて楽曲をつむぎ出した。

 心をこめて~いま贈りたい~ありがとう~♪
 聞こえていますか~うまく言えない~あなたへ

 この時、与太郎の笛の音が止んだ。
 スンヨンは与太郎を見た。
「与太郎さん!」
 与太郎は霊体を失い始めている。彼はスンヨンを見ながらやさしげに頷いた。感謝と愛情に溢れた表情を残し、みるみる空気の中に溶けていった。



 その時、後ろのドアが鳴った。
 手を振りながら、メンバーたちが姿を見せた。
 メンバー全員で練習を始めた。
 スンヨンにはもう迷いもためらいもない。五人は心をひとつにして歌いだした。

  心をこめて~いま贈りたい~ありがとう~♪






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