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雨の記号(rain symbol)

リアルタイム

English Version

 某駅の構内で友人と待ち合わせた。約束の時間が近づいた頃、携帯が鳴って30分ほど遅れるとの連絡が入った。
 了解して携帯を切った。僕はどうしようか迷った。ただ待つには30分は長い。かといって何かしに出るには時間が少ない。
 ここにやってきたのは十数分前だ。窓の外の線路を眺めたり、壁にもたれたり、動き回ったりして時間をつぶしたが、友人から電話が入った頃は駅の乗降客の動きばかりが気になるようになっていた。
 さて、どうしたものか、と思案していたら、女子高生風の三人組がぺちゃくちゃやりながらやってきた。僕の左手に並んで腰をおろした。手で床をはらう仕草も見せず、制服のスカートでどっかと胡坐すわりである。
 見ると下着が覗いているが、彼女らは周囲を気にするでもなく、小さな声でやりとりしながら携帯を扱いだした。
 僕は彼女らを時々ちらと見やった。ホームから上がってくる者や改札口を通ってくる者らを観察するには便利な場所だ。待ち合わせがなった者らはそこからどんどん姿を消していく。
 隣の彼女らも時々改札などに目をやっている。
 彼女らがそこに腰をおろしてから、人の流れが微妙に変わってきた。多くの者はほとんどリズムを変えないで行き交うが、彼女らを気にして通っていく男がけっこういるようになった。というのも、僕が彼らを観察していたからである。彼らの反応を観察しながら、僕自身も、ちらっ、ちらっ、と彼女らの姿を気にしていたわけだった。
 もう少し太もものところを隠してはどうか、下着が見えないようにはできないのか、などと眉をひそめているわけではない。若い娘の太ももや下着が気になるからこっちも見ている。そういう刺激を受けるのは自分にとって悪いことじゃない。男にとって女は、永遠に気になる存在なのだ。それをひた隠しにしたりしているといびつな行動に誘惑されたりするものだ。
 しかしある瞬間、彼女を見ている僕を見て通りすぎる男とふと目が合ってしまった。単なるスケベージジイと思われるのも不快なので、僕はそこを離れた。自分の縄張りのようなものだったが、そこにいてはあらぬ誤解を受けたり自身が好奇の対象になったりしかねない。
 見せてくれと言って見ているわけじゃないから別にかまわないのだが、娘らとそれを見る年寄りの取り合わせはどうにも似合いそうにない。構図が貧相なのだ。気持ちは若いのだが、こっちの衰えた肉体はそういうショットに耐えられないと感じる。
 僕は娘らのそばをいったん離れ、ホームにおりた。出発を待つ電車を見ながら反対側の昇降階段めざして歩いた。そこを歩きあがり、別のホームに降りた。
 電車がついたばかりで、アリのように乗客が吐き出されている。こっちの昇降階段を上がってくる者もいるが、多くはメインの昇降階段の方へ流れていく。
 僕は昇降階段を上ってくる人を避けながらホームへおりた。電車を降りた人たちについてホームを歩いていった。
 この時、妙なグループがホームの中央に留まっていた。数人の男女が一人の男を取り囲み、何か問い詰めている感じだった。携帯で電話している者もいる。周りの者たちは何事かというようにそれを見ながら通り過ぎていく。
 そこへ近づいていくと、やがて、駅員らしき二人連れがそこへ駆けつけてきた。難詰されている若い男をかばうように腕を取った。
 
 さっきのホームに戻ると友人が僕のいた場所に立っていて、手を上げた。女子高生らも相変わらずいる。何だか、いっそう淫らになったような姿で携帯に夢中だ。
 僕は彼と改札口に向けて歩き出した。
 友人は言った。
「今の電車で痴漢がつかまったよ。携帯使って何かやったらしい」
 僕は頷き、ちらと女子高生らを振り返って言った。
「電車でも階段でも、どこでだってリアルタイムにしとけばいいものを・・・」
 
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