「1年10か月ぶりです」と言いながら、紅白のワインと2種類のチーズを手土産に義弟が遊びに来た。
確かに去年の1月に飲みに来て以来、顔を合わせていなかったからホントに久しぶりである。
早速、持参の赤ワインの栓を抜き、チーズをかじりながら積もる話をする。
リタイアして間もない彼の1日を聞くと、働いている妻に代わって家事全般を引き受け、食事の用意も自分でしているそうで、「別に苦にもならず板についてきていると思う」と涼しい顔で言う。
いわゆる‶主夫〟ってやつを楽しんでいる風でもある。
そして筋トレ目的で週1回通っているジムでインストラクターについて個人レッスンを受けているそうで、我流でやって来たことのほとんどを否定され、目からウロコが零れ落ちるばかりだと半分はボヤキ、もう半分で「これからが楽しみ」といった顔をする。
ムキムキマンを目指しているらしい。
しかし、そんな努力とは裏腹に筋肉量が減り始め、おかしいなと思っていたら某国営放送の番組で朝きちんとたんぱく質を摂らないと筋肉は増えるどころか減ってしまうのだということを耳にして痛くガッテンしたんだそうな。
義弟はリタイアに伴って朝食を軽めにしたそうで、「まさかだった。以来、『朝たん』が気になって気になって…」。
実はこの番組はボクも見ていて同じようにガッテンしていたので互いに話が良く通じ、かつ盛り上がった。
実は彼はボクの会社の後輩でペンを持つ仕事に就いていたのだが、文学部出身で小説を書くことへの情熱を失わずにいるらしく、これまで書き溜めてきた材料やいくつかのストーリーを洗い出し、整理している最中だとも言っていた。
いずれ何篇かにまとまるのかと聞くと否定はしなかったから、いつになるかは別として楽しみなことではある。
デビューにしてはいささか遅いが、茶川賞とか直林賞が取れるかもしれない。
筋トレが趣味の遅咲き作家がデビューしたら、それはボクの義理の弟の事である。
彼はもともと酒はボクより強く、一升飲んでもケロッとしているような男だが、コロナ禍以来ほとんど飲んでいないと言い、家では飲む気にならないのだという。
それで「今日は飲む」と言いつつ、話に夢中の様子で、杯の方はあまり進まなかった。
元々話し好きで、どちらかと言えばおしゃべりの部類に入ると思うが、この間、飲みながら話す相手もいなかったせいか堰を切ったようによくしゃべった。
人恋しかったのだと思う。
姉であるボクの妻には帰り際、「久しぶりに楽しかった。また来る」と言い残してしっかりした足取りで帰って行った。
彼の感想はボクも同感で、気心の知れた人間と酒を酌み交わしながら取り留めなく近況を語り合うのがここまであのシイというのは新しい発見だった。
こんなことをしみじみ感じる時代に生きているということでもある。
こういう機会は本当に久しぶりで、義弟に感謝だ。
世間で大人気の大吟醸が封を切らないままあるがどうだ? 泊っていってもいいぞと誘ったのだが、「大吟醸はとっておいてほしい。次の機会に飲みたい」と、しっかりした足取りで世田谷まで帰って行った。

散歩道の道端では夏の花のイメージが強いカンナが秋の花の代表格のキクとケンを競い合って咲いている