平方録

雨水の雛飾り

昨日は「雨水」。
降る雪が雨へと変わり、氷が溶けだすころのことを指す二十四節気のひとつである。

中国では雨水の最初に上げられているのが獺祭魚である。
カワウソが捕まえた魚を岸辺に並べてなかなか食べようとしない、それが祭りの供え物のように見えたことから、カワウソが先祖の祭りをしていると見たようである。
人気の日本酒の名前もここから取ったものだろう。
正岡子規には「茶器どもを獺(おそ)の祭りの並べ方」という句がある。

暦通りと云うか、二日間冷たい雨が降り続いた後の昨日は朝からよく晴れ上がり、真っ青な空が広がった暖かい一日だった。

この日はまた、雛人形を飾りつけるのに好適な日とされている。
この日にお雛様を飾ると良縁に恵まれると言い伝えられてきたんだそうである。
妻は朝からいそいそと飾り付けていたが、実は忘れていたようである。
その前の晩あたりに「今年は雛飾りを出さないの?」と聞いたところ、改めて思いだした節がある。
長女のところに若殿が生まれる前のことであり、わがことのようにあれこれ気を使っていたから失念していたのかもしれない。

ま、とにかく偶然にも雨水に間に合ったということである。
わが家ではこれまで雨水に関係なく、2月の声を聞くか聞かないかの早いうちから雛飾りが登場するのが常だった。
長いこと飾っていたいという気持ちもあったのだろう。加えて、春を待つ気持ちの表れだったのかもしれない。
寒さの底の時期から飾られているお雛様を見ると、男の立場でも春を待ち焦がれる明るい気分になったものである。

わが家の雛人形は立った形の立雛で男女一対の内裏雛だけの簡素なものである。
しかも木目込み人形で、見た目はとても素朴である。
妻が誕生した時に両親か祖母が健やかな成長を願って買ったもののようである。敗戦間もない時期の物資の乏しい時代を象徴するかのようなお雛様で、ある意味では貴重なお雛様と言って差し支えないかと思う。
妻は健やかに育ったし、良縁にも恵まれ ? たようである。

小学校の1年生か2年生のころ、同じクラスの近所の女の子ばかりの家の雛祭りに招かれたことがある。
そこの家の雛飾りは立派なもので、段々になっていたようなおぼろげな記憶があるから、五段飾りとか七段飾りの豪華なものだったようである。
行ってみたら招かれていたのは1人だけで、どうしてよいか分からず、緊張してもじもじしていたように思う。
たぶんお菓子やら何やらが出されたんだろうが、まったく覚えていない。
同級生の女の子がどういう風に接してくれたのかも覚えていない。
父親は検事だったからどこかに転校していったかもしれない。
髪の毛の長い、きれいな子だったんである。

社会人になるくらいの年齢に達するまで、雛祭りと聞くと何か妙に切ない気持になったのも、この思い出を引きづっていたことと無縁でないかも知れない。



妻が持参してきた素朴な雛人形
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