【光と影】
【表と裏】
【生と死】
【この世界には、“対”で存在するものがある。】
【光が強くなれば、闇は深くなる。】
【かつて、神も“対”で存在していた。】
「ルーちゃん」の事はずっと気がかりだった。
ずっと隠れていたのか。探していたが気付けなかった。やはり、死ねなかったのだな。
おそらく、あれから転生と憑依を繰り返したのだろう。別の何かに変わることで、ルーちゃんは、自分の名前も本当の自分も、分からなくなってしまっているようだ。
外も内も、あの頃とは全く違う。(かつて彼は最も美しく、最も聡明な存在であった。)
しかし、不思議と面影は残っている。
まだ、死を渇望しているのか。
しょうがない。もう生きていたくはないだろう。
もう、わたくしはルーちゃんを追ったりはしない。
わたくしから隠れる必要はない。自分自身から逃げる必要もない。
もはや、我々の対の均衡は崩れている。もう、我々はそれぞれだ。
そうか。ルーちゃんも「猫ちゃん」のことを調べていたのか。
当たり前だが、やはり、我々は似ているな。
あのルーちゃんに友達(ねこのじかん博士)がいる。
驚きだ。随分変わったな。
「猫橋皇二郎」それが今の名前。
「そっとしておこう。」そう思った。
いずれまた機が来るだろう。
博士は、老紳士の様子を見ていた。そのわずかな表情の揺らぎを見逃さなかった。
「何かを掴んだのか。」
しかし、その表情の揺らぎが何なのか、分からない。それが博士に簡単に踏み込めない領域である事だけは、理解できた。
この老紳士からは、先生と似た匂いがする。もしかしたら、先生と何らかの関りがあるのかもしれない。そう感じた。直感だ。
「ここにある本を、少し読ませていただいて良いですか?」老紳士は一冊の本を手に取り、博士に聞いた。
「ええ、もちろん」博士は、なぜかこの老紳士にここにある本を読んでもらえるのを、うれしいと感じた。
博士が所蔵している本は無数にあるが、どれも「先生の影響」を多大に受けている。
老紳士は、手に取った本をまじまじと眺めた。
老紳士は、丁寧に本を読み進めた。老紳士を見ていると、目の前の対象に対する深い愛情を感じた。子を見守る父のような、母のような、慈悲深い表情をしていた。
そこには、本を隅々まで顕微鏡で見るような細やかさと、全体をそのまま包み込むようなおおらかさがあった。
その姿を見て、「やはり、この人は先生に似ている。」と博士は思った。