わくわく!バンジージャンプするっ!

好きなものや気になることについていろいろ語ってみようと思います。

『慟哭』 17・・・・はい、ここまで。

2008-02-13 13:52:07 | 創作文『慟哭』
『慟哭』 17


生気のない顔をしてその日ミンウは検事正の執務室に座っていた。

「ミンウ君・・・どうだ・・・身体の調子は」

ソン検事正はミンウの様子を伺いながら尋ねた。

「ご心配おかけしてすいません。身体の調子はわるくありません。」

「良かった」

しばしの沈黙のあとミンウは一通の封筒を差し出し一言。

「検事正、お世話になりました。」

「これは何かな」

検事正は封筒を手に取ることなく淡々と尋ねる。

「辞表です」

「君はユンス君の死についてどう考えているのかな?」

ソン検事正のストレートな物言いにミンウは動揺した。

「動揺するってことは自分の判断に確信がないと理解していいのかな」

ソン検事正はそういうとテーブルに置かれた封筒をミンウの手元に押し返した。

「先日、チョン・ユジンというソウル総合病院の脳神経外科の先生が私を訪ねてきた。
ユンス君のこと聞いたよ。君に会ったことも。

相談に乗ると君に言ったがおそらく君はもう訪ねて来ないだろうからと。

彼女、君が必要以上に自分を責めていると心配していた。

ユンス君の君への思いはこの辞表で報われるのだろうか。」

「・・・・・」

「ユンス君の夢・・知ってるはずだよな。

検事になること。

志半ばで死を宣告された彼女の気持ちもわかっているはずだ。

彼女が命を自ら絶ったのは、君にとって自分が重荷になることが嫌だったんだろう。

実にユンス君らしい効率主義に基づいた発想だ。

その判断が今回正しいかったとは言いがたいが。

彼女が今の君に何を望んでいるか・・・君にわからないはずはないと思う。

・・・・君らしくない。冷静に判断してみたらどうかな。」

答えることなくうつむくミンウ。

そんな彼をじっと見つめたままソン検事正は大きくため息をついた。

「みんな君の復帰を心待ちにしている。

身体の調子に問題がなければ仕事に戻ってほしい。

僕がユンス君にしてやれるのは君の退職を認めないことぐらいだから。

・・・・いい返事待っているよ。」

ソン検事正はそういうとミンウの肩をポンと叩き部屋を後にした。


執務室に残されたミンウは深くため息をついた。

そっと目を閉じる。

「あなたは私の未来だから・・」

夢の中でそう言った彼女の言葉を思い出していた。

ユンスの未来は・・・こんな俺なのか・・・。

自分が情けなくてふがいなくて涙が溢れてくる。

そしてミンウは心を決めた。

部屋を飛び出す。

庁舎の長く複雑な廊下を走りながら彼の思考は整理されていった。

石造りの荘厳とした螺旋階段の下にソン検事正を見つける。

「ソン検事正!」

ミンウは彼を呼び止めた。






ドンスにとってもあの事件は大きな転機になった。

浅はかな判断によって同僚に重症を負わせるという失態を犯した彼に対する庁内の反応はとても冷ややかだった。

彼とチームを組もうとするものはいない。

孤立無援という表現がふさわしかった。

あの日以来、投げやりな仕事をするドンス。

担当事務官ですら同行を拒否するほどだった。

そんなある日ドンスは釜山支庁のキム主席検事に呼び出された。

「また、お説教かよ・・」

不快な態度を露にしてドンスか執務室のドアを開けると

キム主席検事と向かい合って誰かがソファに腰掛けていた。

「遅かったじゃないか・・。」

キム主席検事が声をかけると背中を向けていた男が振り返った。

「カン検事・・・」ドンスは言葉を失った。






「どうして・・・釜山へ・・・」

庁舎の屋上で二人はタバコをふかしながら海を眺めていた。

「・・・・贖罪かな。」

ミンウはつぶやく。

「贖罪?」

「ああ・・・君には関係がないことだ。」

それ以上尋ねることを許さないようなミンウの殺気に

ドンスは何も言い返せなかった。

沈黙の中、港の汽笛が響く。

「・・・すいませんでした。」

ドンスが小声でささやいた。

「もう、終わったことだ。

反省しているならもう二度と繰り返さなければいい。

俺たちの判断ミスは多くの人を危険に巻き込む可能性があることを忘れるな。」

ミンウは静かに言った。

「当分お前とコンビを組むことになった。」

「え?」

ドンスは驚く。

俺のせいで生死をさまよった上、

怪我で自由が利かない間に奥さんまで亡くなったのだと聞いた気がする。

この人は何を考えているのか・・・。

ただドンスにわかったのは

目の前のカン・ミンウが以前の彼ではないことだけだった。



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22 Comments

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ううう・・・ (kumichi)
2008-02-13 14:05:32
こんちは!
一気に読んじゃった!
でも時間切れ~お迎えバスがやってきます。

もう、やっぱりharuさんの文章が大好き!とだけ
叫ばせて~!!
返信する
haruさんって酷いーー(号泣!!) (ur)
2008-02-13 15:56:42
連休終えるのをお待ちしておりました。

一気に5話
もう、息ができないほど泣いたよ。

これがユンスの愛?
>彼には病気のことを言えない。
>彼が悲しむのをみたくない。
>死ぬまで完璧な女性でいたい。
それってエゴだよね!?
あとで知ったミンウの気持ちわからない筈はないと思うのだけど・・・

弱ってきた自分を知られたくないのと
彼に縋りつく自分てのは想像できなかったのかなぁ。
自分の育ってきた環境において、やはり男性に甘えることができなかったのね。
完璧な人である不幸。
それを求める(実際はそうじゃない)人の罪

どうすることもできない『死』

ごめんね~
あ~何が言いたいのかわからなくなってきちゃた。

13話で釜山まで彼を助けるためには
 彼女の死が必要だったの?

こんな不幸を与えるharuさん
ひどい!!

ご子息の受験の大変な最中
連日のupありがとうございました。

「教育ママゴンでなくて気楽でしょう?」
なんて言って
私もミーハー誤魔化していましたっけ。
だいぶ前の ことですが・・・

返信する
Unknown (bumom)
2008-02-13 16:54:36
ハルさん、こんにちは~。

大きなため息と共に涙を拭いて・・胸が痛みます。

先日終わったところでは、続きは読まない!!と決めていたのですが・・多分(笑)
あがっているのを見て、我慢の嫌いな私は一気に躊躇もせずに読んでしまったわ。
根は素直なんです・・。(⌒-⌒)ニコニコ...

今日読み終わってハルさんの言いたいこと、
心に思ったことが少し理解できたように思います。

読み終わって思ったことは、少し違うけど・・
我が子に不幸になってほしいと思う親はいないし、
我が子に苦労をさせても、悲しませたい親はいないな・・。
これ漠然と思ったのだけれど、女としての最強の物だと思ったの。

ユンスはミンウを愛していた、深~い愛をミンウに持っていた。
この愛し方は母が子に思う思い方と似ているのかな・・。

母の愛が真っ直ぐだと、なりふり構わず突っ走る形。
時として他人に降りかかる迷惑も顧みず・・
子供が知ったときに一番傷つく結末で、大人になって愛する人が出来、子供を持たないとハッキリ見えてこない程の母の愛。←くどいですね・・

読む私達に恐怖さえ感じさせ、正直ハルさんに狂気を感じましたよ。(⌒~⌒)ニンマリ
でも読み進めるうちに、女として分かる・・と思いました。
分かるのですが・・辛かったです・・。

やっぱりハルさんにギャプを感じるな・・(⌒-⌒)ニコニコ...
ロングランのお話ドキドキハラハラしながら読ませて頂きました。
ありがとうございます。
返信する
ダメだ~... (ko)
2008-02-13 19:22:23
まだ、仕事場だというのに、我慢できずに、読んでしまい・・・涙があふれてきます。
haruさん、これからがまた、新たな二人の第一歩ですよね。そう、思いたい・・・
帰ってから、夜中にまたゆっくりと読ませていただきます。
お忙しい中、ありがとうございます。
返信する
一筋の明かりが (hirohiro)
2008-02-13 22:25:01
haruさん、こんばんは

一気に読みましたよ~
ユンスが結論を出すまでの思いはとてもつらかったけど、最後まで読むと、そこかしに救われるような描写があって、涙しながらも少しほっとしました。

たとえば、ミンウはユンスが自殺した理由をきっと後から知るだろうとは予想してましたが、とても人の心がわかるお医者様から事実を知らされたこと、
ユンスが母に当てて書いていた手紙と、母がユナに語るミンウの性格、
それにみんなユンスのしたことは正しいとは思ってないけど、ユンスがどんなにミンウを愛していたかは
よ~く分かっていたし、ユンス自身がとても周りの人から愛されていたように感じたこと、などです。

>ユンスの未来は・・・こんな俺なのか・・・。
>自分が情けなくてふがいなくて涙が溢れてくる

>・・・・贖罪かな

このあたり、ビョンホンssiに演じてもらいたいなぁ、どんな表情を見せてくれるかしら・・・と
久々にみた彼の写真を見ながら思いました。

釜山の庁舎の屋上でタバコをふかす2人から、HEROでの影を感じたミンウへと見事につながっていきました。
それにしてもあのわずかな出番しかなかった映画からここまで彼を描き出すharuさんってすご~い!!

ここから先の彼は、屈託と折り合いをつけながら幸せになっていくのを読みたいなぁ。


返信する
何といったらいい・・・? (さちこ)
2008-02-13 23:10:26
haruさん、このところ忙しくてご無沙汰しました。
ええ、ずっとリアルタイムで『慟哭』、読んでおりましたよ。
何てコメしたものか・・・

みめ麗しい二人、そして傍目には
理想というべきものをすべて備えて一緒になったはずなのに・・・

ああ、haruさん、あなたって人は・・・
ユンスの一途な思い、
そんなユンスに寄りかかり安心していたミンウの思い
残された者の辛さ・・・

一挙に5話upというのもharuさんらしいけれど、
読み手の心も一挙に絡め取ってしまって・・・
あな、にくらしや・・・(笑)

でも、思うんですよ。
「愛するということは同じ方向を見つめること」
(サン=テクジュペリ)というけど
ときどき見つめあって、互いに甘えることも大切だと。

ユンスの思いは十分理解できるけれど
影を背負ったミンウに、
新たな人生を与えてあげてくださいね。

Fly me ~ に続く力作をありがとうございます!!
返信する
だめだ~・・・・・。 (月夜)
2008-02-14 01:55:35
haruさん、今晩は。

今夜はなぜかPC重く、このページに辿りつくのに......

読みました。
"揺さん" の時は一気に感情が.........
今回は、毎回その人毎に鼻の奥が........
場面毎、しみじみと...........
みんな、それぞれの想いと愛のかたちが.......

ユンスを思った時、ヨンスを.........
そして、プッチーニの "ボエーム" が浮かびました....
さまざまな想いと愛のかたち......
"うるうる" だけどあったかいです.....

"ここまで" ってことは.......
"楽しみに......." ってことですよね?
返信する
また泣かされました。 (sora)
2008-02-14 02:15:38
haruさん、こんばんわ!
ここで、一区切り・・・お疲れ様でした。
で、息子さん、ちょいと残念でした。
けれど、叶わないことも有るのだと、良い勉強になったんですよ。まだ、先もあるようですしね!まだ力は残っていますって・・・アジャアジャ
さて・・・
真摯に頑張る二人の周りには良い人がたくさんいてくれてますね。
ユジン先生、ソン検事正、愛するお母さん、家族・・・
ユンスの行いは正しいとは言えないけれど、思いが判るだけに残された者はみなミンウには前を向いて生きてもらいたいと、それぞれがユンスの望みを叶えるべく力を貸してくれているようです・・・人は人に救われるのですね!
といっても、肝心なのはミンウの心・・・ユンスも一番大切な人に思いが伝わらないことには・・・
昏睡状態の中で会ったユンス、溢れる血、手のぬくもり・・・文字にも声にも残せなかった言葉を魂となって伝えに行った彼女。
ようやく・・・でしょうか?
ドンスが感じた今までと違ったミンウとは?
ユンスを背負って生きる彼の未来・・・ユナちゃんを抱くことは出来るのか?
haruさんやっぱりプロっぽいし・・・
さっぱり、想像できません
長編大歓迎!楽しみに待っています
あ、でも早くしないとドンポもチャンイも迫ってくるよ~~
返信する
うんうん… (pink)
2008-02-14 15:19:50
haruさん

本当に、さんざん、こっちが慟哭させられたけど、ラスト、なんとなくジワーっと明るいモノが見えてきたよ。
そういう方向に書いたな~?
ずるいぞ!(爆)
やっぱり、鬼に徹しきれなかったわね。
ちがう?

やがて、ユンスの愛を本当に理解したユナとミンウが幸せに暮らしそうな気がする。
でもね、やっぱり、ユンスの選択は、ユナとミンウに陰を落とすことになるわけで。
そうじゃないと、納得できないわ。
辛口、ごめんね。

長編、たいへんだったね。
乙でした~
自分の描きたい方向にいった?
私も、ずいぶんいろんな疑問をぶつけちゃったけど、反響があるってことは、おもしろいってことだからね。
読者が、ええ~!そりゃ、ねぇべっ!って叫ぶような話、私も書きたいと思ったわ。
あ、エロじゃなくてね。(爆)

私の方は、トニーも見たことだし、この先は、まず、ルンルン上り坂のミンウを書くことになりそう。

haruさん、楽しませていただきました。
ありがと~
返信する
泣きました。 (purio)
2008-02-14 17:30:35
haru様こんにちは。
お忙しい中、いっきにありがとうございます。
やっぱりお話の中の登場人物の皆さんも言っているように、ユンスさんの選択は間違ってると思います。
でもでも、haru様が言われるようにユンスさんは今まで甘えてこなかったから、病気の事をミンウさんに伝えられなかった。って事が分かった気がします…。
ミンウさんがユジン先生に「ユンスのことを悪く言わないで」って言う所がせつないです

ユンスさんがいいお医者さんに出会えて、自分の気持ちを少しでも話すことが出来たんだと思う事が出来てほっとしました。
ユンスのお母さんは、ユンスさんの事もミンウさんの事も良く分かってくれてますね。
ユナちゃんを愛してるから、迎えにいけないなんて本当に悲しいですね。
いつかユナちゃんを抱きしめられる日がくるといいな
なんだか上手く書けなくてすみません
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