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好きなものや気になることについていろいろ語ってみようと思います。

『慟哭』 16

2008-02-13 13:44:59 | 創作文『慟哭』
『慟哭』 16



あれだけ几帳面で何事にも抜かりのないユンスが遺書を残さなかった。

衝動的?

・・・いやミヨンにユナを託したことから考えて

ユンスはあの日自ら命を絶つことを決めていたはずだ。

そしてあの夜が俺と過ごす最後の夜であることも。

愛している・・・最高に幸せだとこの胸で笑顔を浮かべていた彼女。

最後まで俺のすべてを満たしてくれたユンス。

タクシーの中、車窓を眺める。

ミンウは携帯電話を取り出し留守番メッセージを再生した。

「ミンウssi・・・・・愛してる・・・・ごめんなさい」

あの日のメッセージ。何度聞いたことだろう。

嗚咽をこらえて振り絞るような彼女の声。

これが遺言なのか・・・。

このとき電話に出ていたら・・・今でもユンスはここにいたかもしれない。

結局俺は親父と変わらない。

家族を放り出し・・・仕事に明け暮れ・・すべてを失った。

結婚したのが誤りだったのか・・。

いや。

ユンスとユナと幸せに過ごした短い日々がミンウの脳裏に浮かぶ。

ユンスは不幸だったのか・・・。

いや。

最高に幸せだと嬉しそうに言った彼女の顔をはっきりと覚えていた。

どこで何を間違えたのか・・・。

すべてに完璧だった彼女を愛していたが

彼女が完璧だから愛したわけじゃない。

引き戸を押して赤くなる彼女を

動揺して信号が赤に変わる直前の交差点でアクセルを踏んでしまう彼女を

初めての夜・・震えながら・・怯えながらも俺を必死に受け入れてくれた彼女を

愛おしいと思っていたのに・・。

俺のそんな思いは彼女に全く伝わっていなかった・・・。

完璧でない自分を受け入れられない彼女にしてしまったのは俺なんだ・・。

ユンス・・すまない。俺は最低な夫で最低な父親だ・・・。

ミンウはいらだたしそうに携帯を閉じた。







「お母さん、お元気ですか?

みんなも元気にしてる?

何からどう書いたらいいのかしら。

あまりに書きたいことが多すぎてうまく書けそうにありません。

自慢の娘がこれでは仕方ないわね。

お母さん、私、今まで親孝行してきたよね。

だからこれからする親不孝を許してほしい。

私・・・もう長く生きることができないの。

脳腫瘍という病気で三ヶ月前にあと三ヶ月しか生きられないって言われたから・・・

もう私に残された時間はほんのわずか。

本当なら釜山に帰ってお母さんに抱きしめてもらいたかったけど。

ユナを連れての長旅に耐えられる自信がないし、

お母さんの顔を見る自信もない。

だからユナをミヨンに託します。

ユナのことよろしくお願いします。

お母さんなら安心だから。

これからの仕送りの分とユナの養育費は

私の生命保険と信託財産から届くように弁護士さんに手配してあるから心配しないでください。


それから病気のことミンウさんには言ってないの。

悲しむ彼の顔を見たくなくて、言えなかった。

彼の邪魔をしたくなくて言えなかったわ。

だから何があっても彼を責めないでね。

彼は私の最愛の人だから。

私の性格を知り尽くしたお母さんならわかってくれるわよね。

私の気持ち。

彼が望んだらそのときはユナを彼に託してください。


この手紙が届く頃には私はもう旅立っていると思います。

ごめんね。お母さん。

家族みんなの幸せを祈っているから。


                        ユンス」


釜山の灯台の下。

チョンエは前掛けのポケットに読んでいた手紙を丁寧に畳んでしまった。


「全く・・・お前の母さんは勉強はできたけど

人の心ってものが全然わかっていない大バカものだわよ」

チョンエはユナをおんぶ紐で背中にくくりつけあやしながらそうつぶやいていた。

「あんたのお父さん可哀想に全部背負って・・・

今頃きっと苦しんでるわ。

電話したってでやしない。

早くパパに会えるといいけど・・あんたのパパ頑固で一本気なところあるから

あんたが可愛いければ可愛いほど迎えに来られないわね・・・。

ユナちゃん、それが人の情ってものよ。

おばあちゃん忙しかったからママに教えてあげなかったかね・・

本当に親不孝のバカ娘だわ。

さ、そろそろミルクの時間だ・・・おうちに帰ろうね」

明るく鼻歌を歌うチョンエの目から涙がこぼれた。


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