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わくわく!バンジージャンプするっ!

好きなものや気になることについていろいろ語ってみようと思います。

誰が私に書かせるのか。

2009-10-10 22:57:04 | 創作文『チャンイ』
正直。

最初、チャンイに過去や背景が必要だとは思っていなくて。
あのキャラをそのまま受け入れて
そのまま楽しめればいいかなぁ~くらいに思っていました。

彼がああいう人物であるという理由を求めることに意味があるのか。
あの映画を楽しむという点ではちょっと野暮というか・・。
最高に拘り続けた愚かな男で充分かなぁ・・と。
でも、スクリーンで彼を眺め。

ドンポとリリーが孤児院で育ち
幼いストームシャドーがスネークアイズと台所で死闘を繰り広げたというのに、
チャンイに過去がないなんて。

やっぱり寂しいわけで。

そんなとき読ませていただいたのが

こちら『邂逅』@じゅえるさん創作

これ、面白くって。
あ~こんなことあったんだろうなぁ・・って。
私の中ではチャンイはこんな過去を背負ってああなったと
繋がっておりました。


そして。
つい最近。
ふと気になりだした。

『サンカル』は何であんなに彼に忠実なんだろう・・・。

チャンイシリーズをコツコツ書き続けてくれているじゅえるさんのような
発想もなるほどなのですが。

(まだの方はブックマークから是非。

私がサンカルだったらどんなチャンイだったらあそこまで尽くすだろうか・・
と考えだしたら悶もんとしちゃって。(^_^;)

チャンイの過去。
私にとってはじゅえるさんの『邂逅』がスタートなので
『邂逅』に続きがあると知りつつも
勝手に設定を同じにして書き始めました。

でも、結局、年齢とか設定とかに矛盾が出てきてしまい、
全く違う展開になってしまったのですが。

・・・というわけで、『邂逅』の続きはじゅえるさんの作品を待つことにして。

今回、似たような設定スタートのチャンイの過去
こんなのはいかが?

ということで書いてみました。
正味2日くらいで書き熟成ひと月(笑)


エンディングは極めてノムに忠実に。

面白いかどうかはわかりませんが・・。

私は書いて落ち着いたので良しとしております。

きっとチャンイはチャンイなりに幸せな人生だったのかもしれないと
思いましたから。

ではたいして長くないのでお楽しみいただけると嬉しいです。


最後になりましたが、

この創作の発表を快諾してくださったじゅえるさんに感謝




『斜陽』




ヒョンが酒に浸り、狂気に身を任せ、
残忍な殺戮を繰り返してもそれは仕方ないことだ…。

僕はヒョンの背中を見ながらずっとそう思ってきた。

あれから25年も経ち、ヒョンをボスと呼ぶようになっても
彼の背中はあの頃とあまり変わらない気がするのは何故だろう。


             


僕がヒョンに出会ったのはまだ僕が年端もいかない頃。

ヒョンは僕の母が奉公していたお屋敷の跡取り息子。

当時、由緒正しい家柄のその館では毎晩のように宴が催されていた。

毎夜、酒宴に興じる大人たち。

その準備に追われる奉公人。

彼らにとって僕ら子供は邪魔もの以外の何者でもなかった。

もし、いなくなろうとも気にとめる者は誰もいない…。

そんな満月の夜に僕らは初めて言葉を交わした。

「サンカル。お願いだからあっちでお利口にしてておくれ。母さんは今とっても忙しいから」

もう日付が変わろうとする時間。

夕飯にありつけず 空腹に耐えきれず、
母屋の炊事場に顔を出した僕に
母は握り飯を2つ握らせると困ったようにそう口にした。

そんな時間だというのに、炊事場は未だ慌ただしい。

「うん、ごめんよ。母さん」

まだ9才だった僕だったが、父の病死後、
母が女手ひとつで苦労しながら自分を育ててくれていることはわかっていた。

迷惑はかけたくない。

僕は握り飯を両手に持って炊事場を後にした。

煌々とした月明かりの中、庭の片隅を横切る。

ふと見ると ヒョンが窓の下に座っていた。

遠目で何度か見かけたことがあったこの家のお坊ちゃん。

いつも三揃えの礼服をキチンと着て、黒い革の短靴を履いていた。

別世界の人。

何故だかその晩は同じ世界にいるような気がして僕はそっと近づいてみた。

「こんばんは」

僕は気の利いた言葉を思いつかず、そう口にした。

「やぁ…今夜の月は綺麗だね」

彼は月を見つめたまま、まるで大人ように挨拶をした。

そして視線を僕に落とすと穏やかそうに微笑みかけた。

でもその微笑みは驚くほど冷たい。

僕はいたたまれず、とっさに片方の握り飯を差し出した。

彼がこんなものを口にするとは思えなかったが、
他に何も思いつかなかったから仕方ない。

意外にも彼は僕が差し出した握り飯を躊躇なく受け取り、パクリと口にした。

「美味しい…」

彼は呟いた。

僕はそれが妙に嬉しくて、彼の隣に座り込むともうひとつの握り飯にパクついた。

彼はそんな僕を見て今度は本当に優しい笑みを浮かべたように思えた。

「何でここにいるんですか?」

ちょっと怯えてそう口にした僕に向かって

「パンマルでいい」

彼はため口で話すよう促した。

戸惑いながら僕は続けた。

「…お屋敷に戻らないの?」

「ああ…ここの方が落ち着くんだ」

そう答える彼の表情はどこか寂しげに思えた。

彼がいたのは病気がちな奥様がいつも庭を覗いている窓の下。

この夜はしっかりと鎧戸が閉ざされていた。

奥様も宴に駆り出されているのだろうか…。

奥様の具合が悪くなると母はいつもよりさらに忙しくなるだろう。

僕は小さなため息をついた。

「何故ため息をつく」

「…すいません」

「謝らなくていい。何故ため息をついたのか聞いただけだ。それに答えればいい」

「…奥様が忙しくて…具合が悪くなると心配だと思って…」

ためらいがちに答える僕。

彼は鼻で笑った。

「僕の母の心配?お前が心配しているのはお前の母さんが忙しくなることだろ」

心の中を覗かれたようで僕は驚いて彼の顔を見つめた。

「これからは僕の前で嘘はつくな…どんな理由があっても」

僕はその言葉に強く頷いた。




            




その夜以来

僕らはいつも一緒だった。

彼が僕のどこを気に入ったのか…僕には全くわからなかったが、
彼の瞳を見ると僕を必要としていることだけは確かな気がした。

何をしても最高で神童と有名だった彼はほとんど学校に行かない。

「行く必要がないからだ」・・彼はそう言った。

以前は奥様の枕元で本を読みふける姿を窓越しによく見かけたが、
ここ最近はこうして僕と庭にいることが多い。

学校に通ったことがない僕に読み書きを教え、算術を教え、
世の中の仕組みを教えてくれたのも彼だった。

僕より5つ年上の彼は驚くほど何でも知っていた。

花の名前を教え、虫の名前を教えてくれた。

不思議なことに野山で駆け回って遊んでいる僕よりも彼は虫取りが巧かった。

いつも驚くほど繊細な指先で虫を捕まえて遊んでは最後に逃がしてやる。

奥様に贈る花以外、花を摘むこともない。

当時としてはなかなか手に入らない絵の具を持ち出しては
僕に花をモチーフにしてデッサンを教え、その絵に色をつけ遊んだ。

彼は僕を知らない世界に導いてくれる…。

彼は僕にとって
師であり兄であり友であり…かけがえのない存在となった。

そんな穏やかな彼が僕はとても好きだった。

時折見せる冷ややかな表情をさして気にとめることもく。

そしてこの頃の僕らはおそらく人生で一番幸せだったに違いない。

今でもそう思う。

いや今だからそう思うのかも知れない。


               


その日

僕は朝から急な母の使いで隣町に出かけていた。

お屋敷に戻ったのは昼過ぎ。

慌ただしく出かけてしまい、彼に何も告げていなかったことが気になった。

急いでいつもの庭に行くと彼の姿はなかった。

どこにいるのだろう…。

使用人の息子に過ぎない僕がお屋敷に上がることは無論許されていなかった。

彼の部屋のある二階の窓を見上げるとレースのカーテンが風にひらめいていた。

「昼寝でもしているのかな」

諦めて庭を立ち去ろうとした僕の背後でテラスの扉が勢いよく開く音がした。

驚いて振り向くとテラスから彼が飛び出してきた。

近づいてきた彼は真っ青な顔をしていた。

「どうしたの?」

驚いて呼び止める僕。

「なんでもない」

そう答え俯く彼の目に光るものを見た僕は反射的に彼の腕から手を離した。

見てはいけないものを見たそんな感覚だった。

彼は僕を一瞥するとあっという間にどこかに走り去った。

その絶望感に溢れた表情に僕は怯んだ。

何故あの時彼の後を追い、彼の苦しみに耳を傾けなかったのだろう。

そうすれば何かが変わったのかもしれない…。

その後、僕は何度もそう後悔することになった。





その日から。

彼に変化がおこったことに気づいたのは僕だけだったのだろうか。

夜毎、宴が催される日常の中
彼は花を踏みにじり、虫をいとも容易く殺す毎日を過ごした。

あれほど穏やかだった彼に何が起きたのか僕には見当がつかなかったが、
虫を捕まえ、足をもぎるその姿はどこか悲しげに見えて
僕はそんな彼の傍らにいつも黙ったまま寄り添っていた。

彼が僕に問うたのはいつだったか…。

池の蛙の腹にナイフを刺したときだっただろうか。

いつも黙って彼を見ていた僕もさすがにそのときは声をあげた。

「うっ…」

彼は僕を見て一言

「僕が怖いか」

そう尋ねた。

その目はいつに増して寂しげに揺れていた。

僕は黙って俯きゆっくりと首を横に振った。

彼は黙ったまま蛙の腹からナイフを抜いた。

そして
「埋めておけ」
そう一言言い残し屋敷の中に戻っていった。

怖くないと言えば嘘になる。

彼に嘘はつけない。

それは彼との約束だったから。

僕は八つ裂きになった蛙を土に返しながら、彼に僕の気持ちが届いたのだと思った。

それからしばらく彼は庭に現れず、
僕は僕で母の手伝いや雑用係の手伝いに駆り出され慌ただしい毎日を過ごした。

そんな中
犬や猫の死体が庭で見つかるたびに僕の胸は痛んだ。

ヒョンは大丈夫だろうか。

彼の部屋の窓は鎧戸が閉ざされたまま。

僕にできることは殺められた犬や猫を供養することだけだった。



いつしか屋敷では
夜、宴が開かれることもめったになくなり、来客もほとんどなくなっていた。

使用人のほとんどが暇を出され、
屋敷の中は閑散としていた。

出て行った使用人の話では、何でも旦那さんの事業が傾いたらしい。

この屋敷も近々接収されると言っていた。

「新しい仕事を探さないとね」
母はそう言って僕の頭を優しく撫でた。

ここを出て行く…
ヒョンとももうすぐ別れるのか…そう思うと酷く辛くて悲しくなった。

彼はどうしているのだろう。





その夜、皆が寝静まった頃
母屋から母に呼び出しの電話がかかってきた。

こんなことはそうめったにない。

「奥様の具合がお悪いみたい…」

母は慌てて母屋に向かった。

「休んでいなさい」

そう言われたけれどその夜は何故だか落ち着かなかった。

別れの挨拶もしていない…ヒョンに会うのもこれが最後かもしれない。

そんな予感があった。

僕は夜具を抜け出して母屋に向かった。

母屋の中は静まり返っていた。

立派な洋館は長い廊下とたくさんの扉があった。

どこが誰の部屋であるのかは
長年庭から見上げた景色を頼りに判断する以外術がなかった。

ヒョンの部屋はすぐにわかった。

静かにノックをしてドアノブを回す。

鍵がかかっているかと思っていたがドアは容易く内側に僕を招きいれた。

枕元にスタンドがひとつ、小さな灯りを灯していた。

整然とした室内。

ベッドは乱れることがなく誰かが眠っていた形跡はない。

どこに行ったんだろう・・・
戸惑う僕の耳に母の叫び声が聞こえた。

慌てて部屋を後にした僕は声が聞こえたであろう方向に向かって
長い廊下を駆け出した。

ドアが少し開き、灯りが漏れている部屋を見つけると
僕は躊躇なく飛び込んだ。

そこに繰り広げられていた光景を僕は一生忘れることは出来ない。

服を引きちぎられ、胸を露にし、髪を振り乱した母は
部屋の片隅で震えていた。

ベッドには血まみれになった旦那様が突っ伏していた。

そして。

ベッドの脇にはヒョンが立っていた。

力なく、だらんと下がった手には血染めのナイフが光っていた。

いつも美しい三つ揃えの礼服は返り血にまみれ
真っ青な顔には真っ赤な血が飛び散っていた。

その光景を見て幼かった僕が何故驚かなかったのか
僕にも良くわからなかった。

おそらく生き物の死骸を片付ける中で
「死」と言うものに対して既に鈍感になり始めていたのかもしれない。

泣き喚くこともなく僕は冷静だった。

子供とは思えないほど手際よくその場を片付け始めた。

怯える母を離れに戻し旦那様の状態を確認する。

肩をそっと持ち上げただけで
首を横真一文字に切り裂かれ完全に事切れていることが確認できた。

血まみれのヒョンの手からナイフを引き離す。

彼の手は極度の緊張のためか硬直していた。

一本一本の指を引き離そうにもなかなか思うように出来ない。

「ヒョン!お願いだから手を開いて」

僕が声をかけると彼の指がゆっくりと開いた。

僕はそのナイフを事切れた旦那様に握らせ、そしてヒョンを浴室に連れて行った。

呆然と立ちすくんだままのヒョンの血まみれの服を脱がせ
身体の隅から隅まで石鹸で何度も何度も良く洗った。

血の匂いを、死臭をすべて拭い去るように・・。

記憶まで洗い流せることを祈りながら
僕は泣きながら必死にヒョンの身体を洗い続けた。




翌朝
警察がやってきた。

全くやる気のない彼らは特に調べることもなく、
事業の失敗を苦にした旦那様の自殺としてこの事件を処理した。



数日後
僕ら親子を含めたほんの数人の簡素な葬儀を済ませた。

奥様は失意のためにより一層寝込む日が増え、
ヒョンはあの夜からろくに食事をとらず一日中本を読んでいた。

旦那様の書斎に籠もり、じっと本を読み続ける…
今考えれば彼は喪に服していたのかもしれない。

そんな奥様とヒョンを残したまま去ることも出来ず、
僕たち親子はお屋敷に留まっていた。

あの忌まわしい夜の記憶を消し去ろうと母も僕も努めて明るく振る舞ったが、
その記憶は消えるはずもない。

砂を噛むような毎日だった。

そんな中、
没落間近のこの家に近寄るものはほとんどいなかったが、
唯一旦那様の弟であったあの男だけは未だに顔を出していた。




                


あの暑い夏の日はそれからまもなく訪れた。

あの男がやって来るといつもヒョンは不機嫌で、
いつにも増して残虐だということに気づいたのはいつだっただろう。

この日。
あの男がやってきた時、ヒョンはいつものように旦那様の書斎に籠もっていた。


二人を会わせない方がいい。

僕は直感的にそう思った。

ダイニングに用意するはずの昼食だったが、
この日は母に頼んで二人分の握り飯を作ってもらい書斎に運んだ。

「ヒョン、たまにはこういうのも悪くないだろ」

僕は初めて言葉を交わしたあの日と同じように握り飯をヒョンに差し出した。

床に座っていたヒョンはじっと僕を見上げた。

そして握り飯を受け取ると口に運んだ。

「美味しいな…やっぱり」

僕は嬉しくなってヒョンの横に座り込んだ。

「何読んでるの?難しそうだね…」

握り飯を頬張りながらいつになく多弁な僕をヒョンは黙ってじっと見つめていた。

「…なに?ヒョン、どうかした?」

「いや…何でもない…」

彼は静かにそう答えるとまたゆっくりと握り飯を頬張った。

ヒョンが何か気づいているに違いないことがわかったが
僕はそれ以上尋ねなかった。

ヒョンに嘘はつけないから。

このままこうして2人静かに本を読んでいるのが幸せだった。

・・・ヒョンがまた狂ったように暴れないことを祈りながら…。

食後、しばらく僕たちは静かに本を読んでいた。

あまりに穏やかな夏の昼下がり。

分厚く立派な本に囲まれた書斎は驚くほど涼しい。

本の難解さも手伝っていつの間にか僕はすっかり夢の中へ入り込んでしまった。





お屋敷の外はすでに夕暮れだった。

僕はトボトボと庭を歩いている。

ずっとヒョンを探しているのに見つからないので、僕はとても寂しかった。

さっきまでひまわりが咲き乱れ緑で被われていた庭には、
いつの間にか荒れ果てた砂漠のような風景が広がっていた。

ここはどこなんだろう…僕は恐ろしくなって必死で駆け出した。

走っていると目の前にあの夜のドアがあった。

隙間から灯りが零れるドア。

僕がそのドアを開けると血だらけのヒョンがベッドに馬乗りになり、狂ったようにナイフを振り下ろしていた。

「ヒョン!」

そう叫んだところで目が覚めた。

ぐっしょりと寝汗をかいていた。

窓の外では蝉がうるさいほどに鳴いていた。

日は傾きかけている。

僕はふと我に帰った。

隣にいるはずのヒョンはそこにはおらず、読みかけの本が置かれていた。

「ヒョン…」

妙な胸騒ぎがした僕は崩れ落ちるように書斎から飛び出した。

廊下をひたすら走る。

ヒョンの部屋を覗き、彼がいないことを確認し食堂に向かった。

炊事場にも誰もいない。

母はどこに行ったのだろう。


離れだろうか…
買い物だろうか…

その時母の悲鳴が聞こえた。

僕は慌てては母の声を頼りに奥様の寝室に向かった。

僕がドアを開けた時…
母は血まみれでドアのそばに倒れ込んでいた。

真っ白なベッドの真っ白なシーツは深紅に染まり、
その上には奥様とあの男が重なりあったまま串刺しにされている光景が広がっていた。

しばらく前にみたあの血の海の記憶が蘇る。

そしてあの日と同じようにヒョンは目を見開き、
恐ろしい表情をし、息を弾ませ血まみれでそこに立っていた。

僕は足元に横たわった母を抱き起こした。

「母さん、母さん…」

からだを揺り動かす僕の耳元で虫の息の母は囁いた。

「お坊ちゃまは悪くないの…お坊ちゃまを助けてあげて…」
そして静かに目を閉じた。

自分を庇って実の父を殺めてしまったヒョンのことを心配していた母。

あの男の所業に逆上し、我を失い、彼らに襲いかかったヒョンを
母はきっと止めに入ったのだろう。

この男が来るとき、ヒョンが不機嫌だったことを思い出す。

年端もいかない子供にそんな大人の関係がわかるはずもないが、
この時の僕には何故だか彼らが当然の罰を受けたのだと感じられた。

「ヒョン…逃げよう」

その日の夜、僕らは3人を庭の花壇に埋めた。

そして、屋敷に残っていたわずかな金品を鞄に詰めて街を後にした・・・・・。



               




あの日から25年。

ヒョンと僕はあれからたくさんの地獄を見た。

すでに壊れかけていたヒョンの魂。

一緒に地獄に落ちたまだ幼かった僕を守るために物を盗み、
何人もの人を殺め、いつしかヒョンの魂はバラバラになってしまった。



馬賊の頭目となり、満州一の賞金首となった今でも、
毎晩悪夢にうなされ、穏やかに眠れる夜などないということを。

酒の力を借りなければ眠りにつけないということを・・・僕は知っている。

今夜はどんな地獄の夢にうなされているのか…。

思い当たることが多すぎて想像するだけで身の毛がよだつ。


ヒョンをボスと呼ぶようになっても、部下に示しがつかないからと敬語を使うようになっても
ヒョンはあの日と変わらない。

僕にとって唯一無二のかけがえのない存在。


地獄に落ち、地獄で最高の賞金首になった頃、
とても嬉しそうなヒョンの様子を見て僕は尋ねたことがあった。

「ボスは何故そこまで最高に拘るのですか?」

「母さんは…僕の最高の姿が大好きだったから」

酒を浴びるほど飲んでいたヒョンは自分でそう口にしたことを覚えているだろうか。


ヒョンがテグをここまで必死に探すのは何故なのか…。

それが最高であることに関係があるということを僕は先日初めて知った。

炊事番のあの男の言葉を聞いていたヒョンの顔色があからさまに変わり、
あいつを即座に殺したことはそれを意味していた。

僕がヒョンから離れざるを得なかった数年の間に
ヒョンはひとりでどんな地獄を見たのだろう…。

いやテグにどんな地獄を見せられたのか。

「ヒョン…ヒョンは最高だよ…」

いつも肝心な時にヒョンのそばにいなかったわが身を呪う。

僕はヒョンのバラバラになった遺骸を集めながらそうつぶやいた。


ヒョンを荒野の墓に葬った後、
僕はユン・テグとトウォンに復讐をすることしか思いつかず、
荒野をひたすらさまよい歩いた。



そうして今。

僕は何故この女に殺されることになったのか…。

薄れゆく意識の中、ヒョンの顔が浮かんだ。

ヒョンを助けることも、仇を討つことも出来なかった…
こんな情けない僕をヒョンは許してくれるだろうか。

遠い記憶の中でヒョンが微笑んだ。

そして僕は静かに目を閉じた。










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8 Comments(10/1 コメント投稿終了予定)

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お久しぶりです (Fandango)
2009-10-12 00:04:27
こんばんは、お元気ですか?

サンカル目線の「斜陽」、面白く読ませて頂きました。良いですね~好きです。

チャンイが「最高」にあれだけ執着するのには、きっと訳があるはず・・・
だから考えたく探りたくなるんですよね。
そしてサンカルの忠誠っぷりも気になる。
それが、一気に解決した感じです。

明日は徒歩圏内の映画館へ、チャンイの見納めをしてきます。
まだやってるというか、10/10から公開なんです。そして明日はレディースデイ。
なので、このお話はグットタイミングでした。
また新たな気持ちで見れそうです。

今は、サンカルがどんな女に何故殺されたのか・・・なんて事を考えています。

では。
返信する
こんばんは (こはな携帯)
2009-10-12 00:10:46
はるさんこんばんは。
なんかあっというまに読み終えました。
私もやっぱりサンカルがとても好き。

彼がチャンイに何故あんなに忠誠心があるのか…興味がわいてしまって、考えていました。
はるさんのお話しは私の中にスッと入ってきて、自分でびっくりしたくらい。
どうもありがとうございました
サンカル…って本当にいい男。
かわいそうな男。

返信する
おお! (Jewel)
2009-10-12 09:49:15
haruさん おはよう!

チャンイシリーズをコツコツ書き続けているJewelです。(爆)

ほんとコツコツだよね~
当初5回くらいのつもりだったんだけど、話が広がっちゃって、終わらない。
しかも、こちらのお話の設定のお役に立っているお話『邂逅』を書き始めちゃったので、ますます、チャンイから逃れられないの…

さて、こちらのお話『斜陽』。
太宰治生誕百年を記念して?いえ、冗談です。

チャンイの家が没落し、彼自身も堕ちていく様子が、まさに斜陽なんでしょうね。
素敵なタイトル!!!

このお話でのサンカルは、親友&弟のような存在から忠実な下僕となっていくわけですが、彼がチャンイをほっとけなかったのはなぜなんでしょうね。

死に際に自分の母親に頼まれたから?
大事な時に、彼を守ってやれなかったから?
彼がどんなに壊れようとも、自分は、そばにいようと思ったから?

>記憶まで洗い流せることを祈りながら
>僕は泣きながら必死にヒョンの身体を洗い続けた。

ここ、胸が締め付けられます。
一番好きなシーンだわ。
サンカルのこれからを決定づけるシーンのような気がします。

彼を思うサンカルの気持ち…

それが、人間的であればあるほど、切なく、哀れに感じます。

サンカルの気持ちなんか、チャンイは気にとめていないだろうに。
それほどまでに、チャンイは狂気に身を任せてしまっているから。

>「母さんは…僕の最高の姿が大好きだったから」
チャンイは、きっとそうだったのでしょう。
美しく理想的な母親に愛されたいと一生懸命な幼年期、少年期のチャンイ。
そして、一番多感な時に、母親との凄惨な決別があったというのが、私の想像です。

さて、私なりにサンカルとの出会いは、『邂逅』の続きで創作していくとして…いちおう三部作の予定。(笑)

ハルさんのお話、とっても映画っぽくて、楽しませていただきました。
ありがとう!

このラストは、韓国版に合わせてるのね?

私もそうしようかな…とちょっとヒントをいただきました。

最後になりましたが、『邂逅』はじめ、迷宮@チャンイを紹介していただいてうれしいです。
ありがとうね!
返信する
やっぱり、愛おしい。 (sora)
2009-10-12 13:38:22
haruさん、こんにちわ!
書いてくださってありがとう。
ジウン監督が描かなかったチャンイとサンカルに激しく納得、満足です。
劇中チャンイは幾度となく幼稚な姿を見せましたよね。
そんな彼を見てきっと幼い頃に亡くなっているだろう彼の母の姿がちらついていました。
金庫で宝石を見つけたチャンイの顔は母に贈るとっておきの花を見つけた少年のようで・・・
チャンイが最高になりたかった理由、それを聞いたサンカルは嬉しかったでしょうね。
自分も母を愛してたから。
母を庇ってくれたチャンイ、母から託されたチャンイ・・・25年経った今もボスに寄り添う理由なんですね。
荒れたチャンイが殺めた死骸を葬ってきたサンカル、凄惨な殺人現場でも同じように仕事をこなすサンカルに胸が痛みます。
劇中KYな食事係も砂漠に墓を作ってもらってましたね。
チャンイは酒を手向けていました。
それにしてもサンカルはトウォンに近づいてあの娘に殺られた?
全く関係の無い女かな?そんなものかもしれませんね。
今まで死ななかったのが不思議なくらいだもの。
サンカル君、大丈夫!チャンイはちゃんと分かってくれるよ。
あの世でまた二人で美味しいおにぎり食べてね・・・合掌。

ところで、大阪まだチャンイに会えるんですよ。
昨日も行ったけど、明後日も行ってこようと思います。
きっとラストチャンイ・・・あぁ~まだ沢山確かめたい事有るのになぁ
チャンイ、やっぱり愛おしい奴です。
返信する
ラストチャンイは堪能できましたか? (Fandangoさんへ)
2009-10-17 17:03:43
Fandangoさん、コメありがとうです。
お返事遅くなりました。
ラストチャンイはいかがだったでしょうか。
聞くまでもなく満喫されたことと。
そうなんです・・。
何だかつじつまを合わせたくなってしまう性分で。
お付き合いありがとうです。
楽しんでいただけて良かった。
下界はヒョンジュン、ドンポの2色にすっかり染まっておりますが、チャンイの死に水も取ってあげないと。
サンカルはあのトウォンを好きな女の子に頭に包丁突きたてられてコメディ映画のような最期を遂げるシナリオをジウンちゃんたら書いたんですよ。
なんでそうなるのか・・あまりに謎すぎて創作上はぼかしてみました。(笑)
是非、DVD発売後カットシーンをチェックしてみてくださいませ。

返信する
サンカルファン多し (こはなさんへ)
2009-10-17 17:12:22
こはなさん、コメありがとうです。
お返事遅くなってミヤネ~。
そうなんです。
サンカル賢そうだし、人望ありそうだし、穏やかそうだし。
何であんな子供より子供みたいなチャンイに尽くしているのか考え出したら止まらなくて。
やっぱり壊れる前の彼を知っている・・と考えるのが自然だったんですよね。
おそらく今のチャンイは昔のこととか覚えていなくって、ある意味破綻した性格で、
サンカルのことは便利に自分の手足のように使っているだけかもしれない。
でも、きっと信頼しているんだろうな・・って思った。
本当に優しい奴です。
お付き合いありがとうです。
返信する
チャンイの妻 マンゴーと薔薇 (笑) (jewelさんへ)
2009-10-17 17:27:12
jewelさん、コメありがとうです。
お返事遅くなりました。
このたびはお世話になりました。
『邂逅』読んだ時にあの設定がとてもしっくりきたんですよね。
漆黒の王子は貧乏人じゃだめなわけで
没落した貴族じゃなきゃ。
まさに生誕百年太宰の世界(爆)
(この際なのでコメタイトルも韻を踏んでみました。
サンカルがチャンイをほおっておけなかったのは唯一無二のかけがえのない存在だったから。

彼が壊れてしまってもサンカルの中にはずっと出会った頃のチャンイが生き続けていたのだと思いながらこれを書いてみました。
サンカルにはチャンイが特別だけどチャンイにとってサンカルは特別な存在ではない・・
こういう状況が必要だったように思います。
私の妄想ではチャンイの欲は名誉欲しかない
(性欲は残念ながらない・笑)
性欲もあるjewelチャンイ楽しみにしています。
お付き合いありがとう。


返信する
いとおしんでますかぁ~ (soraさんへ)
2009-10-17 17:39:31
soraさん、コメありがとうです。
お返事遅くなりました。
ちゃんとチャンイ愛おしんでますか?
まさか・・別な諜報部員に入れあげているんじゃ・・
チャンイに射殺されないように。
さて。
創作お付き合いありがとうです。
うんうん。
チャンイ幼稚なんですよね。
退化しているようにさえ見える。
そうそう。
ダイヤのシーンも、金目のものというよりも
美しいから欲しかったみたいな
そういう子どもの目だったような印象でした。
そしてサンカルは大人で
どこか保護者っぽく。
彼の脱ぎ散らかしたものをすべて後ろから片づけて拾って歩いているような
几帳面で繊細で穏やかな感じ。
きっとずっとそんな存在だったのかな・・と
思って書いてみました。
うん。彼らにとって「母」ってきっと特別なものなんだろうな・・。

美味しそうにおにぎりを頬張る笑顔のチャンイを観てみたいです・・・。
サンカルの最期映ってないもんねぇ~。
どうしてあの女と決闘することになったんだろう・・・実に気になります。
日本版コメンタリーに期待っ!


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