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はな to つき

花鳥風月

世界旅行の世界(24)

2019-08-07 20:37:19 | 【世界旅行の世界】
 オープンのバギーが風を切っています。
 エーゲ海に囲まれたサントリーニ島。
 いくつかの街が段々に点在している島を、女の子を乗せたバギーを先生が走らせています。

「あ、ロバだ」
「ほんとうだ。あれがタクシーなんだね?」
「そうだね。ロバのタクシーなんだね」
「これだけ急な坂だから、ロバも大変だろうね?」
「うん、ロバ、しんどそうだよ」
「心なしか、下を向いている気がしないかい?」
「たしかに、下向いてる」
「でもあれは、観光客用だろうから、ここに住んでいる人たちの足は何なのだろうね?」
「何だろう。自転車はないね?」
「ああ、それは疲れるね」
「うん、私だったら、一つの坂でもう降りちゃうと思う」
「わたしは、ずっと自転車を押さないとダメそうだ」
「先生、それじゃあ、自転車と一緒にいる意味がないじゃない」
「あはは、それもそうだ」

 白い街並みが夕日に照らされるイアという街から、フィラという街までのドライブです。
 夕食をイアで日の沈むエーゲ海を見ながら過ごすことを決めて、それまでの間レンタルバギーで潮風を満喫しています。

「ねえ、先生?」
「ん?なあに?」
「先生は、どうしてこんな女の子の話を、どんな話でもいつも真剣に聞いてくれるの?」
「え?どうしたの突然」
「あはは、突然だったね。でも、私にとっては突然ではないの。先生が私の家庭教師になってくれた初めての日から、ずっと思っていたことなの」
「そうか。そんなことを思っていたんだ?」
「うん。ずうっとね。それで今、ロバのタクシーを見ていて、何だかそれが言葉になったの」
「ロバ?それって、ロバとわたしが重なったってこと?」
「そう。ロバが先生に見えたの」
「えーー、それはすごい重なりだな。というか、ひどいな」
「えへへ、ひどいね」
「えへへ、じゃない」
「あはは」
「あはは、じゃない」

 トラムに乗っていても、海辺を歩いていても、バルで食事をしていても、キャンドルの夜にいても、いつでもどこでも、仲良しのふたりです。
 穏やかで、仲良しのお話です。

「るみちゃんは、どうして、ロバを見てそれを思いついたのかな?」
「うん。あのロバさんたちは、とっても静かでしょう?静かな目をして、人のいうことを聞いている感じがするでしょう?」
「そうだね。動きも、目の光り方も静かな感じだね」
「そう、その静かに言葉を聞いている感じで、先生のことを思い出したの。いつも、私の話を聞いているときの先生は、こういう感じだって」
「なるほど」
「だって、そうでしょう?先生は大学生で成人をしていて、もうすっかり大人。でも私は中三の子ども。大人からすれば、中三の女の子の話なんて、まだまだ未熟な子どもの話でしょう?それなのに先生は、絶対に私を子ども扱いしない。絶対に。まるで自分のことのように、同じ目線で聞いてくれる」
「そうか。るみちゃんは、そんなことを感じながら話をしていたんだ」
「うん。いつもそう。だって、もしも今の私が、小学校の低学年の子の話を、同じ目線になって聞けるかって想像したら、きっとできないと思うから」
「なるほど、そういう置き換えをしたのか」
「そう。置き換えて考えてみたの」

 どこかで教わった、置き換え。
 女の子は、いともたやすく、自分のものにしています。

(つづく)