はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 34

2012-05-31 04:40:53 | 【Gravity Blue】
船着場の横に置いてある自転車に荷物を載せる。

わたしのステイ先となる彼の家。
3つ先のバス停がある隣町まで、少しデコボコした道を、
南国の自然を満喫しながらふたりで歩く。
ようやく夕暮れになろうかという空の下、到着したその家。
さすがはオーストラリア、という物件。

彼は、当然のように、わたしの荷物を家の中へ運び入れると、
「日本人なので、土足厳禁ということで。」
と微笑みながらスリッパを差し出してくれた。
そして、「おじゃまいたします」の声を皮切りに、控え目な説明での案内が始まった。

確かに、ひとりで暮らすには、持て余してしまうくらいの空間だった。
1階には、軽く20畳はあるリビング。
巨大な冷蔵庫が平然と置かれているダイニングキッチン。
日本の子供部屋ほどの大きさはあるバスルーム。
2階に上がれば、ダブルとツインの2つのベッドルーム。

なんて、贅沢な間取りだろう。
なのに、なんて、ものの少ない家だろう。
道すがら、勝手に想像していた通りのシェイプアップされた空間。
なんだかとても嬉しかった。

一通りの説明が済み1階へ戻ると、
「コーヒー入れるから、適当に座ってて。」
と言ってリビングを指差すと、無駄のない動きでキッチンに入っていった。
改めて見る。
西陽が差し込む、その静かなリビング。
本当に無駄なものが何一つないところだった。
辛うじて電話は引いてある。
けれど、広大な板の間の上には、座ったら最後そのまま沈んでいってしまいそうなソファと、
自然科学系を中心に、彼を培ってきたことを窺わせる本が、
オブジェのように幾重にも積み上げられているだけだった。