花日和 Hana-biyori

ネイティブアメリカンの不遇と貧困への怒り

『はみだしインディアンのホントにホントの物語』
シャーマン・アレクシー/絵:エレン・フォーニー/訳:さくまゆみこ


なんでこんなとこに図書館の管理シール貼ったのっていう…

自伝的ヤングアダルト小説。とても読みやすく話も面白いので一気に読めた。

北米先住民の居留地に暮らす14歳の少年が、自身の体験を通して現在まで続くインディアンの不遇と怒りを、ユーモアを交えて語る。貧困の連鎖、負の連鎖は自分の意思の力で断ち切れると若者に訴えかける話でもある。

主人公の”ジュニア”は、とても頭がいい。両親も姉も頭がいいが、代々インディアン保留地に暮らし、貧困に喘いでいる。コミュニティの閉塞感が凄まじく、大人は飲酒や自動車事故などの問題を常に抱えていて夢がない環境だ。つまり「貧困の連鎖」状態で、インディアンだからしょうがないと皆諦めてしまっているのが哀しい。そういう風に白人に仕向けられてきた面が大きく、自分たちのせいではないのに、先祖は騙されたのにという怒りが度々垣間見える。この辺り、日本の貧困問題にも通じるところがあり、インディアンでなくとも普遍的な問題だと思う。

差別と不遇の中、これまでインディアンの学校で教えてきた白人のP先生の助言がきっかけとなり、ジュニアは保留地のハイスクールを辞めて白人の学校に行く決意をする。白人の学校ではインディアンは異端だ。一方で、これまでのコミュニティからは「裏切者」扱いにされる。人種差別の複雑さを感じて胸がかきむしられる思いがする。

ジュニアは生まれたときから親友だったラウディーに敵意を向けられ、バスケの試合では集団を巻き込む対立がこじれていく。試合が終わっても、ふつうの青春ドラマのように勝ち負けやスポーツの醍醐味だけでは終わらない、複雑な思いに主人公が行き当たるのがまた痛切だった。


著者はこれを78%はホント、と言っている。確かに主人公にとって少年漫画のエッセンスを感じる都合のいい展開があるのだけど、それを凌駕する不遇がすごいので、これくらいしないと内容的にしんどい気がする。まあ、フィクションで背景を、真実を伝えるのが作家の仕事というものだ。

 * * *

心に留まった所が沢山あるので箇条書きでメモしておく
・お父さんとお母さんの夢に注意を向けてくれる人がいたらこうなった(貧困の連鎖、無関心は罪)
・信じられないほどのおばあちゃんの寛容 。インデイアンの、てんかん持ちやLGBTへの理解というより尊敬。
・インディアンの掟(名誉を傷つけられたら闘う)
・P先生の懺悔(かつてインデイアンの文化を殺す教育をしてきたことへ)
・ラウディーの敵意(親友が敵である白人社会に行ってしまった。つまり敵になってしまった) ・インディアンの飲酒問題(インディアンを潰すために白人が飲酒させたという)
・ロシアの文豪トルストイの言葉を引き合いに出してインディアンの家庭の不幸を語る。
・ジュニアは白人社会になじみ、親友のラウディーは留まった。
貧しくとも飲んだくれでも、両親は愛情を示して育てた 。ジュニアの父さんは「体罰を信じていない」が、ラウディの父親は違う。2人の運命を分けたのはその違いではないか。
・ゴーディー(白人の頭のいい友達)推奨の読書法 3回読む


抜き出し
<貧乏はむかつく。自分が貧乏なのは当然だとなぜか感じてしまうことにも、むかつく。自分がバカでみっともないから貧乏なんだと信じるようになってしまう。次は、インディアンだから馬鹿でみっともないんだと信じるようになる。そして、インディアンだから貧乏なんだと信じるようになる。この悪循環は、自分ではどうしようもないのだ。
 貧乏は、人をたくましくしたり、忍耐力を養ったりはしない。貧乏は、貧乏であることを教えるだけだ。>

p228
<他の多くの文化と同様、インディアンの文化でも男は戦士であり、女は世話をする存在だ。でもゲイの人たちは、男性でも女性でもあることから、戦士であると同時に世話をする存在でもあるのだ。
 ゲイの人たちは、何でもできると考えられていた。スイス製のアーミーナイフみたいに!
 オレのばあちゃんは、世界中でゲイの人が攻撃されたり、同性愛が非難されたりすることを快く思っていなかった。特にほかのインディアンがそういう態度をとるのは気に入らなかった。
「おやおや、男が男と結婚したって いいじゃないか。あたしが知りたいのは、誰が汚れた靴下を拾うかってことだけだね」
白人がやってきてキリスト教と一緒に風変わりな人達への恐怖心を持ち込んで以来、当然のことながらインディアンも次第に寛容さを失っていった。>
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