古川日出男著『平家物語 犬王の巻』(河出文庫)のオンライン読書会でした。参加者は7人。
室町時代に実在したと言われる能楽師「犬王」と、犬王とともに平家物語の新作を生み出す琵琶法師「友魚(ともな)」の物語。もちろん史実ではなく著者の創作です。
今回話し合ってみて、友情物語のような面もあるけれど、改めて「芸能・エンタメ人の物語」という側面が強い話なのだと感じました。
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皆さんの感想は
「疾走感があり考える暇もなく一気に読ませる、興奮した、とにかくすごく面白かった」
といった声が多かったですね。映画に関しても「なんて言ったらいいかわからないくらい面白かった。映像と音声でしかわからない表現」などと概ね好評価でした。
しかしお一人だけ、古川日出男の「上手さはわかるけど良さがわからない」という方がいました。
語りで構成される、いわゆる口承文学的なものが苦手だそうです。記述されるもののほうが読みやすいのだとか。それだけ、文体を重視する読み方なのだと気付かれてました。
ただ、メジャーになればなるほど権力に近づいていく、「メジャーになるというのは体制におもねることである」といった側面は興味深かったみたいですね。「芸術と権力の関係は切っても切れないものがある」というご指摘はごもっとも。
そこで、「古川日出男(作品)の何が面白いか」という問いかけがあり、答えとして上がったのが「着眼点とかアイディア」ということでした。
「古川日出男がとりあげなかったら、犬王はここまでメジャーにならなかったのでは」と言われて納得です。障がい者の視点など人があまりやらない部分を扱うものは他にもあり、「そういうところを取りあげているのがうまい」とのことでした。
私は、口承文学はむしろ読みやすくて、古川日出男も昔『アラビアの夜の種族』を読んだきりですが面白かったので好きですね。ただ、ちょっと調子に乗りすぎて「ん?」と、筆がすべったのかなと思う言い回しは以前も感じて、今回もありました。
しかしまあ些細なことではあります。最後の部分が好きで声に出して読んでしまいました。アニメとのセリフの違いを指摘されて、ますます興味深くなったりも。
ほかには、犬王が本当に実在したのか疑わしいという意見もありました。あの時代に「犬」は「狗」または「戌」を使ったのではないかと聞くと、無知な私はなるほど確かにな~と思ってしまいました。
なにはともあれ、「『平家物語』は一大コンテンツ」というお言葉もあり、それがいちばん皆さんの感慨として一致するところだったのではないでしょうか。
犬王の時代で百年後?現代にあっては1000年ぐらい経っていても消費され新しい創作の種になり続けている「平家物語」特有の“強さ”を思わずにはいられません。