村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

『グレート・ギャツビー』翻訳比較(30)

2016-10-09 15:07:54 | 村上春樹を英語で読む
論文等で引用する場合には、原典に当たってください。


(191)‘Madame expects you in the salon!’ he cried, needlessly indicating the direction. In this heat every extra gesture was an affront to the common store of life.
「奥様は客間でお待ちです!」と彼は声をはりあげ、必要もないのにそちらを指さした。酷暑の中では、そういうなくもがなの動作のひとつひとつが、尋常の人間の神経を逆撫ですることになる。(村上)

「奥様は客間でお待ちでございます」声高にそう言いながら、彼は、その必要もないのにわざわざ客間のほうを指し示した。この暑熱では、よけいな身ぶりなど、人並みの生命をうちにたたえた者にとっては、腹立たしいくらいのものだった。(野崎)

「奥様は客間でお待ちです」と、大きな声で言いながら、そっちの方角へ手を向ける。よけいなことだ。こう暑くては、ちょっとでも無駄なことをされると、それだけ寿命が縮みそうだ。(小川)
(参考)
In this heat every extra gesture was an affront to the common store of life.
What does "red part" mean??
Hi,
I don't really know, but the general idea seems to be that you should not waste any of your store of energy in such hot weather.
clive

(192)Daisy and Jordan lay upon an enormous couch, like silver idols, weighing down their own white dresses against the singing breeze of the fans.
デイジーとジョーダンは広々としたカウチに、銀でできた偶像みたいに横になっていた。扇風機の歌うがごときそよ風を受けて、白いドレスの裾を身体で押さえている。(村上)

日よけが深く影を落したその部屋は、暗く涼しかった。デイズィとジョーダンが、巨大な寝椅子に身を横たえて、銀製の偶像というか、扇風機のまき起す颯々たる風に舞う白衣を静かにおさえていた。(野崎)

デイジーとジョーダンが大きなソファに倒れ込んでいる。銀の神像が二体ならんでいるようだ。ぶーんと音を立てる扇風機の風に逆らい、それぞれの体重によって白いドレスを飛ばされまいとする。(小川)

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(193)With a reluctant backward glance the well-disciplined child held to her nurse’s hand and was pulled out the door, just as Tom came back, preceding four gin rickeys that clicked full of ice.

心惜しそうに後ろをちらりと振り返りながらも、しつけのいい子供らしく、乳母に手を引かれて部屋を退出した。それとちょうど入れ違いに、トムがジン・リッキーのグラスを四つ持って戻ってきた。グラスの中には氷がたっぷり入って、からからという気持ちの良い音を立てていた。(村上)

躾のよいその子は、心残りそうにあとを振りかえりながら、保母の手にしがみついたまま、引きずられるようにして戸口から出て行った。それと入れちがいに、トムが、氷のかけらのかちかち鳴る四杯のジン・リッキーをあとに従えながら、もどってきた。(野崎)

よく躾られている子供で、うしろを振り返りはしたものの、しっかりと乳母の手につかまって連れ出されていった。ちょうど入れ替わりにトムが来る。あとから四人分のジンリッキーも来て、あふれそうな氷が音を立てていた。(小川)

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(194)Slowly the white wings of the boat moved against the blue cool limit of the sky.

ヨットの白い翼が、涼しげな青い空の終わりを背景に、ゆっくりと移動していた。(村上)

涼やかな青空が水に連なるあたりを、白い帆が動いて行く。(野崎)

ヨットは白い翼を広げて、青く涼しげな大空を背景に、ゆっくりと動いている。(小川)

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(195)‘I can’t say anything in his house, old sport.’

「彼の家の中じゃとても言い出せないよ、オールドスポート」(村上)

「親友、わたしは、あの人の家の中では何も言えませんよ」(野崎)

「どうも、この家にいると、ものが言えなくなる」(小川)

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(196)
Her voice is full of money,’ he said suddenly.

「彼女の声にはぎっしり金がつまっている」とギャツビーはあっさりと言った。(村上)

「あの声はお金にあふれているんです」と、いきなり彼はそう言った。(野崎)

すると不意にギャッツビーが、「金にまみれた声ですよ」(小川)

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(197)The suggestion was distasteful to Gatsby.
その提案にギャツビーは浮かぬ顔をした。(村上)

 これはギャツビーにとって愉快な提案ではなかった。(野崎)

こういうことはギャッツビーの趣味ではない。(小川)

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(198) ‘Plenty of gas,’ said Tom boisterously.
「ガソリンならたっぷり入っているぜ」とトムは挑むように言った。(村上)

「ガソリンはたくさんですよ」乱暴にそう言いすててトムは計器を見た。(野崎)

「いや大丈夫だ」トムは言い放ったが一応はメーターを見て、(小川)

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(199)‘I’ll take you in this circus wagon.’
「このサーカス馬車で君を街まで連れて行こう」(村上)

「おまえをこの巡回サーカスの車で連れてってやろう」(野崎)

「この移動サーカスみたいな車に乗って行こう」(小川)

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(200)‘And you found he was an Oxford man,’ said Jordan helpfully.

「じゃあ、あの人がほんとにオックスフォードを出たことがわかったでしょう」とジョーダンがとりなすように言った。(村上)

「そしたら、あの人がオックスフォードの卒業生だということがわかった、というんでしょう」と、ジョーダンはいたわるように言った。(野崎)

「オックスフォードの出だってわかったでしょ」ジョーダンが話をつないでやる。(小川)