年をとると誰もが人の名前をすぐに思いだせなくなったり、ものをどこにしまったか忘れたりするものです。
認知症は、そのような加齢によるもの忘れとは違い、新しいことが憶えられない、家事や仕事の要領が悪くなる、そして進行していくと身の回りのことができなくなり日常生活をうまく送れなくなります。
認知症の中にはアルツハイマー型、血管性型、その他(レビー小体型など)があり、アルツハイマー型が約6割をしめます。
アルツハイマー病の症状には、
①記憶の障害
②見当識の障害:年月日や時刻がわからなくなる
③遂行障害:料理ができなくなったり、リモコンなどが使えなくなったりする。
④通常は礼節が保たれ、言い訳が上手。(ちょっと会っただけではアルツハイマー病とわからない)
のような特徴があります。
記憶の障害はよく知られている症状ですが、アルツハイマー病では、海馬が委縮するため、忘れるのでなく、記憶を作れないというのが正しい表現です。ですので、昔のことは覚えています。
正常な人は昔の記憶・現在の記憶・感情をもとに物事の判断、行動することになりますが、アルツハイマー病の方は、現在の記憶が欠落し、昔の記憶と感情だけで判断して行動することになります。ですので、「忘れる」と指摘されても自覚がなく、イライラしたり怒りっぽくなったりするのです。
そんなアルツハイマー病の治療はどうしたらよいのでしょうか。
薬物治療、非薬物治療、介護の3つのバランスがとても重要です。
薬物治療(薬を飲む)を行うと、認知機能の低下が改善、病気なんだという自覚が生まれる、そして介護がやりやすくなります。メマンチンというお薬はアルツハイマー病に良く見られる攻撃的な性格を落ち着かせます。
非薬物治療では、書き取りなどの認知リハビリテーション、昔の出来事を思い出したり、いろいろな人と交流したり、趣味を楽しんだりして脳を活性化することが大切です。家族の接し方も重要で、家族の対応の仕方によって、行動・心理症状(イライラする、すぐ怒る、暴れるなど)が改善することもよくあります。家族に愛されていない患者さんは、病気の進行が速くなると言われています。アルツハイマー病に見られる症状について文句や否定的なことは言わないようにしましょう。
アルツハイマー病は、進行していくと、自立して生活できなくなるため、家族や周囲の人もとても大変です。ですから、家族は無理をせず福祉サービスなどを活用して、余裕を持って介護をあたることが大切です。
アルツハイマー病は、ある意味、人間性を破壊する病気なので、最悪の場合、家族に愛されなくなり、本人も家族も不幸な状態になってしまいます。家族や周囲の人は、「認知症は病気である」ということを理解して、本人の気持ちに寄り添った対応を心がけることで、本人も穏やかに過ごすことができるようになります。
アルツハイマー病になる原因はよくわかっていませんが、生活習慣病との関係が深いと言われています。アルツハイマー病では、アミロイドβ蛋白という神経活動の結果でるゴミが、老化によって蓄積し、その後神経原線維変化が起こると症状がでてきます。正常の人に比べ、糖尿病の人、高脂血症の人、それから運動不足の人はアミロイドβが蓄積しやすいと言われています。
認知症に漢方はどうでしょうか。認知症でよく見られるイライラ、不安、興奮などの症状に、抑肝散が効果があることはよく知られています。
それから漢方では、認知症の予防になるものもあります。漢方では「腎は骨をつかさどり、髄を生じ、脳は髄の海」という言葉があります。脳の委縮を腎の精・髄の不足からくると考え、腎を補うこと、脳血流を改善して脳を活性化する活血化瘀の2つの漢方の組合せが基本になります。
アルツハイマーのモデルマウスの実験で、補腎薬の参茸補血丸と活血化瘀の冠元顆粒を使ったところ、アセチルコリンの減少を防ぎ、記憶障害などの症状を抑えたという報告もあります。
アルツハイマー病のお話を聞くと、悲しい病気だなと思います。できるだけ予防したいですよね。生活習慣病にならないよう、食生活に気を使い、運動を心がけていただければと思います。漢方についても一度ご相談くださいね。