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サラバ!(下) / 西 加奈子

2024年06月01日 | 読んだ小説
                    

☆☆
20年近く特に何も努力する事なく何をやっても上手くいき、人生なんてちょろいものと仕事も女も
順風満帆に謳歌してきた歩だが、30歳になって髪が抜け始めてからすべてが狂い出し、モテない若ハゲ
の無職という底辺にまで転がり落ちてしまう。 そんな歩のどうしようもなく惨めな気持ちが痛い。
歩のみすぼらしい年上の彼女の澄江の悲しみが痛い。 父に裏切られた元婚約者のKさんの悲しみが痛い。

下巻では読んでいて登場人物らの心の痛みが刺さるようで苦しかったが、一番辛かったのが、歩が澄江と
別れるシーンと、歩の高校時代の親友と大学時代の女友達と歩の3人でいつもつるんでいたのに、歩が
1ヶ月ほど実家に帰っている間に、親友と女友達が付き合い始めているという事を歩に告げるファミレス
でのシーン。 この2つの歩が打ちのめされて傷つくシーンが、この作品の私の中での最大のハイライト
だが、その友人2人は、その場で、そしてその後でも、歩が大きなショックを受けて傷ついている事に
本当に気が付いていないのなら、いったいどれほど浮かれて能天気で鈍感な神経をしているのだろうか。

それらの一方で、何かを必死に信じようとしてもがき苦しんで生きてきた姉を立派な人だとは到底思えな
いし、優し過ぎる故に自身の罪悪感を受け止めるために家族から逃げた父親を卑怯な人だとも思った。

この作品の根底にある作者の言いたかった事、「あなたの信じるものを誰かに決めさせてはいけない」と
いうのを、私は特にそうは思わなかった。 自分の信じるもの、自分の生きる道を自分自身でちゃんと
決められればそれはそれでいいだろうけど、自分は何もしようとしないで、周りを窺って流されるように
生きたって別にいいんだと思う。 歩は10代、20代にイケメンで幸運だったのを別にすれば、流され
て生きる事なかれ主義なのは平均的日本人の姿だと思うし、何かを信じて自分自身で掴もうが、人(天)
から与えられて流されようが、その人なりの人生を生きればいいんだ。 そんな事を周りに多大な迷惑を
かけまくってきた姉に偉そうに言われる筋合いではない。 歩が姉に激しい怒りをぶつけたシーンは、
まったくその通りで当然の事だと云える。

最後は再びエジプトへ行き歩はヤコブと再会するのだが、それで歩の人生が確実に好転したわけでも、
再び成功が約束されたわけでもなく、サラバの思いを再確認しただけで、上でも書いたが、別に芯の
ない優柔不断な人間でもいいし、そんな人は世の中に大勢いると思うけど、この作品のタイトルにも
なっている歩のサラバという思いに対する説得力は、これまでの歩の人生を思えば少し弱い気がする。 
それから、285ページの一文は別にいらないんじゃないかな。 


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