私の読書記録

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過ぎ去りし王国の城 / 宮部みゆき

2024年10月16日 | 読んだ小説
                    

☆☆
これと言って何の取柄もない学校でも目立たない中三男子が、成り行きで西洋の古城を描いたスケッチ画
を手に入れたが、その絵にアバターを書き込むと絵の中に自分が入れる事に気が付く。 そして、隣の
クラスの絵が上手いハブられ中三女子に協力してもらい単身絵の中に入るのだが、ちょっと待ってくれ、
絵の中に入っても元の世界に戻れるのかどうかも分からないし、絵の世界にどんな恐ろしい敵がいるのか
も分からないのに、普通そんな所へ行こうなんて思うわけがない。

しかし、何故か平然と少年は絵の中に入って、城に囚われている(住んでいる?)少女を見つける。
そして、後日に今度はハブられ女子と2人で絵の中に入るが、そこで同じく絵の中に入って探検している
人の良さそうな小太りの中年男性に出会う。 更に絵の中に入ると非常に激しく体力を消耗し内臓にまで
ダメージを負う事が分かったのに、益々そんなの絶対行こうなんて思うはずがない。
この2人の危機意識の著しい欠如はいったい何なんだろう?

城に囚われているのかもしれない少女を救い出すとか、10年前の少女失踪事件とか、2人には関係のない
事で、絵の秘密や絵を描いた者の正体が明らかになり、少女を救い出せば、もしかしたら現実世界の自分
の状況が変わるかもしれないというあまりに不確定な予想だけで、いろいろ辛い境遇のハブられ女子の、
そこまでの動機には成り得ないと思うし、現在に不満のない少年にとっては別にどうでもいい事だろう。 
まずは命を懸けてでも絵の中に入ろうとする2人を突き動かす動機を明確にしてもらわないと物語に感情
移入できない。 そして、最初の少年のキャラが途中でブレて別人になってしまっているのも何だこれっ
て感じだし。

結局、ひとつの時間軸の10年前の少女は救う事ができたのかもしれないが、もうひとつの時間軸を生き
た、あれから10年が経って19歳になっていたあの時の少女は、まったく何も救われる事なく辛く悲しい
だけの人生を自ら終えたままで、本当は一番この女性こそ救われてほしかった。 そして、ハブられ女子
の辛い境遇も何も変わる事はなくハッピーエンドとは言い難いし、主人公の2人も特に何の魅力もなく、
話に納得できる一貫したスジが通ってなくてファンタジー擬きの荒唐無稽な作品と云えるかもしれない。

宝くじが当たったら / 安藤祐介

2024年10月10日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
中堅食品会社の経理課に勤める32歳で年収400万の真面目で気弱な独身男性が宝くじで2億円を当てる。
この「宝くじが当たったら」というタイトルだけで庶民の心を擽られ思わず本を手に取ってしまった。

しかし、この主人公は頭が悪くて、当たった翌日に宝くじを買った売り場に確認に行き、売り場の周りに
いた人達に高額当選者だという事が知れてしまう。 更にすぐに当選金の換金のために、会社の仕事で、
しょっちゅう訪れている顔馴染の銀行へ行ってしまい、更に更に当選を伝えた母親が、嬉しくて親戚一同
や隣近所にも話してしまい顔も名前も知らない遠い親戚が現れ出す。 
そうこうしている内に、慈善団体から寄付を求める電話が頻繁に掛かってくるようになり、ネットで2億
円当選者として顔も名前も勤め先も身バレしてしまい、主人公は、会社の名前がネットに出た事で自ら会
社にも当選を報告しなければならなくなり社長からも叱責される。

開き直った主人公は、2億円当選した事をフェイスブックで公表し、慈善団体に3千万円寄付し、両親や
親戚の海外旅行代と実家の大規模リフォーム代と妹の結婚費用を出し、会社の同僚や学生時代からの友人
それぞれ100人程に飲食代数百万円奢り、それほど親しくない会社の同僚の結婚式にも呼ばれるようにな
り、それぞれ30万円ほど包み、学生時代からの友人や会社の同僚らが自由に集うセミナー兼イベントを
何度も行い、その費用を全額負担し、更に投資で騙され4000万円を持ち逃げされ、トドメは親友に2度も
裏切られ負債を背負い、結局これらすべてで2億円を使い切ってしまい会社もクビになる。

別に自分や実家のためにお金を散財するのならいいけど、主人公ではなく主人公の持つお金に敬意を示す
だけの連中に何度もタダで飲み食いさせるのはまったく信じられない。 オマケにリフォーム中の家も放
火されてしまう。 結局、いろいろあって家族にも会社にも友人にも迷惑をかけただけで誰からも本気で
感謝などされていない。

よく宝くじで億の金が当たったら、親兄弟にも場合によっては配偶者にも知らせてはいけないと云われて
いるのに、この主人公は、本当にお人好しでバカの極みなんだろうと思う。 
最後は、お金での結びつきではない本当の愛を手に入れる事ができてめでたしで終わるのはいいけど、
私は読んでいて無駄で無意味な金ばかりを使った主人公に只々不快、不愉快でしかなかったし、内容は
人の不幸話で面白いのだけど、こんなに胸クソ悪い小説も久しぶりかもしれない。

人体工場 / 仙川 環

2024年10月05日 | 読んだ小説
                    

☆☆
主人公の男子大学生が、報酬の良い治験のアルバイトをした後に大学の健診の尿検査で異常が発見され
る。 驚いて治験のアルバイト先のクリニックに連絡を取ってもクリニックは忽然と消えていた。
男子大学生は、同じ日にいっしょに治験のアルバイトをした女性を捜し出し、女性にも尿検査で同じ
異常がある事が分かり、大学病院の女医の協力を得ながら2人で怪しげなクリニックの調査を始める。 
そんな中で男性は何者かに狙われ、女性の方は連絡が取れなくなり行方が分からなくなる。

主人公らに協力する言葉遣いが乱暴な女医も何となく隠している事がありそうで、前半にチラっとだけ
登場した大学病院の院長が事件の黒幕なのではないかと多くの読者が想像できたかもしれない。

更に話が進み、あの怪しげなクリニックの医師が不審な謎の死を遂げる一方、行方不明の女性は、父親の
末期癌を何とか治療したいが故に、自らの意思で不審死する前のクリニックの医師の所へ行き敵方に洗脳
され、再び治験と同じ事をやっていた。 男子大学生は、女性を救い出すために敵の本拠地へ乗り込む
が、何で危険を冒してまで乗り込むのかよく分からなかった。 別に女性の彼氏でもないし、女性は自らの
意思で行ったんだし、自分の身体には何の問題もないんだし、もう済んだ話で自分には関係のない事と
放っておけばいいのに。

そして、事件の真相は、画期的な治療薬を作るために人体を工場にするというもので、上手くいけば多く
の人を救えるかもしれないが倫理的にアウトな行為だという事だが、被験者に特殊な薬剤を注射し、その
後10日ほど排出される尿を提供するだけで人体に別状なしで、人体工場になる者に害がないのなら同意が
あれば別に倫理的にアウトだとは私は思わなかった。

他に気になった所は、2人を検査する大学病院で若い男女を2人きりで同じ病室に入院させるだろうか。
もし、性的な傷害などのトラブルが起こった場合に病院の責任問題になってしまう。
あと私も腎生検を2回した事があるが、腎生検した患者を、その日の内に退院させるなんてあるのだろう
か。 私の病院では、起きてトイレに行くのも禁止で、次の日の朝9時までベッドで絶対安静だった。
それから、尿道にカテーテルを入れた者が大便をするためにトイレに行く時、いちいちカテーテルを抜い
て、トイレから戻ったらまたカテーテルを入れ直すのが意味不明だった。 尿は携帯パックに溜めればよ
くて、そのままトイレに行けばいいのに、これらの事から作者は臨床には疎いのだろうかと思った。

本作は、特に物語の序盤の薄っぺらさが気になったが、同じ内容を他の人気作家が書いたとしたら、序盤
をもっと膨らませて、もっと謎めいて、もっと読者の気を引いて、もっと面白く書くだろうと思った。
中盤から終盤にかけてのスリリングな展開が良かっただけに残念な所だったし、ラストの話の着地も少し
期待外れでイマイチだった。

マスカレード・ナイト / 東野圭吾

2024年09月30日 | 読んだ小説
                    


刑事と今回はホテルのコンシェルジュに昇格した女性スタッフのお馴染みコンビが、再びホテル内で起こ
る事件を解決するマスカレード・シリーズの第三弾。

マンションの一室で若い女性の他殺死体が発見され、警察に何者かから、犯人はホテル・コルテシア東京
の年末カウントダウン・パーティーに現れると密告状が届く。 主人公の刑事は、ホテルのフロントク
ラークに扮して潜入捜査に入り、もう1人の主人公のホテルの女性コンシェルジュは、年末の宿泊客の
対応に追われていた。 果たして密告状を書いた人物とは、そして、事件の犯人は、更には密告者と犯人
との関係は・・・。

前作か前々作でも思ったが、主人公の女性コンシェルジュは、一見非常に優秀な凄腕ホテルウーマンだと
思えるが、お客様に非常に無礼だったり、リスクマネージメント的にもヤバそうな行動を取ったりする
危険人物でもある。 今回も宿泊客の男性が、他の宿泊客の女性との仲を取り持ってほしいと頼んできた
時に、女性の方にはご主人が一緒に宿泊している事になっていたのだから、頼んできた男性に、その事を
ちゃんと告げるのが、男性に対しても相手の女性に対しても、まともな誠意のある対応だと思うが。
この件は、男性客も女性客もフェイクだったから良かったが、普通に考えたらお客様が怒って大問題に
発展しかねない事案だった。

後は、私が再三このブログでも書いてきている、ミステリーに於いての登場人物らの思考や行動に納得で
きるかという点だが、
①本当か嘘か分からないあの密告状で、警察があそこまで大規模な捜査体制を取るだろうか。
②相手は凶悪な殺人犯なのに、一般女性の密告者が犯人を強請るなんて事をするだろうか。
③主人公のコンシェルジュは、仕事柄お客様の対応には時間に正確でなければならないはずで、すぐに狂
 いやすい腕時計なんか身に着けているだろうか。
④主人公の刑事が最後に犯人に接触したのに、その犯人を放って犯人が直前にいた場所に向かうなんて、
 そんな行動を絶対にするはずがない。 あの場では何よりも犯人確保が第一優先であるはずで、犯人が
 その前にいた場所で何をしていたかなんて、何も分からないあの時点では、後で他の捜査員に見に行っ
 てもらえばいいだけだったはず。
など、いろいろツッコミ所や作者のトランスジェンダーに対する認識不足もあったりするが、
今回もホテルの裏側を、いろいろ知る事ができて面白い作品だった。

雪のアルバム / 三浦綾子

2024年09月23日 | 読んだ小説
                    


主人公の女性は、生まれてからずっと母子家庭で育ち、母親が家で男の客を取っている間は、雨が降ろう
が雪が降ろうが、ずっと外に出され、ある時は、お金を盗んでなんかいないのに母親から信じてもらえず
激しく叱られ、近所の子達からは、泥棒とずっとイジメ続けられ、人と接する事を避ける暗い無口な少女
になっていた。 更に小学4年生の時に母親の愛人に弄ばれ、大人に対する不信感を思っていたが、そん
な彼女が、信仰心の篤い優しい叔母の深い愛情や、一人の心正しい少年との出会いによって暗く沈んだ心
が光に照らされていく。

しかし、それにしても叔母の死は早過ぎる。 よく神仏のような清らかで尊い心根の人は、この世での修
行を早く終える事ができて神様の身下に呼び戻されるとか聞いた事があるが、もっと叔母の、その深い愛
情で主人公の少女を包み守って導いてあげてほしかった。 そして、少年の方は、主人公の中の嫌な醜い
部分を知ってショックを受けて一時期主人公から離れてしまったが、主人公には決して人には言えない暗
く悲しい事情があったのだし、自分のご立派な正義感だけを振りかざしてもなぁと思う。 自分を傷つけ
た人、自分に酷い事をした人の事を憎む気持ちを無理に抑え込まなくていい。 自分をイジメ続けた近所
の子や、自分の体を弄んだ母親の愛人を憎み許せないのは当然で何ら後悔する事も恥じる事もない。

やがて主人公も信仰に目覚め、本作は23歳の時に洗礼を受けるために教会の牧師に示した信仰告白の文章
を辿りながら描かれた物語だが、ずっと自分の辛かった人生を思うばかりで、母を蔑み、母の辛かったで
あろう人生を思いやる事などできなかった自分に洗礼を受ける資格なんかあるのだろうかと悩むくらいの
真面目な人物で、不遇な生い立ちから来る人に対する妬みや恨みを持ってしまうのはしょうがない事で、
それが人間だと思うし、それでも自分自身を見つめ正しく生きようとする姿には感動を覚える。

私がこの物語を読んで思ったのは、自分を(人を)傷つけるのは、誰かの悪意であり自分自身でもあり、
自分を(人を)救うのも、誰かの愛情であり自分自身でもあるという事か。